米国政府関係者によるコロンビアで続く紛争についての話は、半分だけ本当の物語である。米国の人々は、ブッシュ政権が望ましいと考える見地から対立を描き出すという意図から選ばれた、事実の一部だけを伝えられている。こうした情報操作戦略は、冷戦期を通して、そしてまた、「麻薬に対する戦争」の間じゅう使われてきたが、2001年9月11日以降、コロンビアを含めようと「対テロ戦争」を拡大することを正当化するためのプロパガンダ作戦の一部として、急激にエスカレートした。こうした情報操作の実行者たちが、コロンビアにおけるテロリズムの本当の性格を巡るすべての事実を米国市民に伝えるという、道徳的責任を放棄したことは明らかである。
2001年9月11日の攻撃のあとで、米国政府筋が発した、時宜を得た政治的な声明により、「対テロ戦争」を装った米国政府によるコロンビアでの軍事関与増大が準備された。ニューヨークが攻撃されてから1月のうちに、米国国務省の対テロ担当官トップであるフランシス・X・タイラーは、コロンビア最大のゲリラであるコロンビア革命軍(FARC)を、「西半球を拠点とする最も危険な国際テロリスト集団」と述べた。
テイラーがこう宣言してからまもなく、フロリダ州出身民主党上院議員ボブ・グラハムは、それを引継、コロンビアは、対テロ戦争の主要な戦場になるだろうと示唆した。グラハムによると、世界中で、米国市民と米国利益に対する500程のテロ行為が2000年に起きており、「その500近い事件のうち、44%は一つの国で起きている。エジプトだろうか?否。イスラエル?否。アフガニスタン?否。44%はコロンビアで起きている。コロンビアこそが、テロリスト戦争が激化している場所なのだ」という。
グラハムは、コロンビアの「テロリストたち」が米国に対する直接の脅威となっていることをほのめかすような言葉を注意深く用いることにより、人々のあいだにある2001年9月11日以降の恐怖心を意図的にかき立てている。彼は、こうした統計を、コロンビア内戦に対する米国の軍事的関与を増大させるための正当化として用いている(Targeting Colombia's Evil-doersを参照)。しかしながら、コロンビア左派ゲリラグループにより、米国の施設に対して何百もの攻撃がなされているのは事実だが、テイラーの声明は、真実の半分しか伝えていない。
グラハムが都合良く言及を避けた事実のうちの一つは、米国自身はコロンビアのゲリラによる攻撃を受けたことはなく、また、そうした攻撃がなされる可能性もないということである。米国の利益施設に対するコロンビア・ゲリラの攻撃は、すべてコロンビア内で行われたものであり、米国市民が犠牲となったことはほとんどない。グラハムは、また、コロンビアのゲリラによる米国への攻撃のほとんどすべては、米国石油企業、特にオクシデンタル石油が使っているパイプラインの爆破であることも指摘していない。
グラハムによる、コロンビアのゲリラが、アルカイーダをはじめとする国際テロリストと同じたぐいの集団であるという、無責任なほのめかしにより、米国政府は、「対テロ戦争」の一部として、コロンビアに対する軍事介入を激化させるための準備をすることができた。この数ヶ月の間に、ブッシュ政権は、米国の軍事援助を対麻薬作戦に限っていた制約を取り除き、米国が訓練した3つのコロンビア軍部隊と何十機ものブラックホークやヒューイー・ヘリコプターを、左派ゲリラに対する対ゲリラ作戦に利用することができるようになった。ブッシュのホワイトハウスはまた、オクシデンタル石油のパイプラインを守るために、コロンビア軍を訓練し、ゲリラに対して用いるための戦闘ヘリを提供することを目的とした、9400万ドル相当の対テロ援助パッケージの一環として、米軍の特殊部隊を、コロンビア北部に派遣した。実際には、この対テロ援助パッケージは、米国企業が行っている、危険を伴う海外へのビジネス投資に対する、米国納税者の補助金に過ぎないのである。
ブッシュ政権は、コロンビアでのテロリズムについて、どのような事実を広めるかについて、非常に選択的であった。ほとんどもっぱら、焦点は、米国国務省の海外テロリスト組織にリストされているコロンビア左派ゲリラグループに当てられてきた。同じように国務省のテロ組織リストに挙げられ、米国が支援するコロンビア軍と密接な関係を持つ、右派準軍組織死の部隊については、ほとんど言及されてこなかった。つまり、ホワイトハウスは、一つのテロ組織を標的とするために、間接的にもう一つのテロ組織を支援してきたという事実をもみ消してきたのである。けれども、これは別に新しいことではない。実際、昨年ブッシュ政権がアフガニスタンを攻撃したときに、ビン・ラーディンのテロ組織を標的とするために、カシミールのテロリストを支援しているパキスタンの軍事独裁政権を見方に引き入れたのと同じやり方である。こうしたやり方が引き起こすだろう結果は、先週、パキスタンの国会議員選挙で、反米親タリバンのイスラム教政党が予想以上に多くの議席を得たことに示されている。
半分だけの真実は、今年の2月にコロンビア和平プロセスが崩壊した責任はFARCにあるとする、ワシントンとボゴタ−そしてメディアも繰り返した−の主張でも用いられている。2001年9月11日のあと、ワシントンとボゴタの政府筋は、FARCの麻薬に対する関与から、FARCが米国国務省の海外テロリストリストに載っているという点に焦点を移行することにより、コロンビア内戦における米軍の役割を急激に増大させることができると気づいた。そして、FARCが解放地帯を軍事力を増強するために用いており、ゲリラが非武装地帯で「テロ」攻撃を行っているという事実は、ゲリラが停戦交渉に真剣ではないことを示している、といった公式見解が、米国の市民に流された。
FARCに対する非難の多くは真実ではあるが、ここでも、真実の半分しか現していない(The Hypocrisy of the Peace Processを参照)。和平プロセスの3年間にFARCは軍事力を強化したが、けれども、コロンビア軍も、米国から13億ドルの支援を受けて軍事力を増強したのである。これにより、コロンビアは、イスラエルとエジプトに次ぐ、米国軍事援助第三の受益国となったのである。けれども、政府関係者の多くが、FARCが和平プロセスの間に軍事力を蓄えたことは、FARCが信頼できないことを示していると喜んで指摘していたにもかかわらず、まったく同じ戦略をプラン・コロンビアのもとで進めていたコロンビア政府に対しては、そうした批判はなされなかった。
ブッシュ政権関係者はまた、FARCが、解放地帯の外で攻撃を続けていることは、ゲリラが停戦交渉に真剣でないことを示していると繰り返し指摘してきた。ここでも、この真実の裏側はほとんど言及されなかった。コロンビア軍とその同盟者である準軍組織もまた、コロンビア中で自らの軍事作戦を続けていたのである。さらに、和平プロセス実施のための合意では、解放地帯以外での軍事作戦停止は求めていなかった。それゆえ、FARCが戦争を続けることは−その軍事戦略でコロンビアの人々の賛同を得ることはできなかったかも知れないが−合意に違反しているわけではなかったのである。
恐らく、コロンビア政府とFARCが停戦に至らなかったことを巡る最もないがしろにされてきた事実は、1980年代半ばに一度ボゴタとゲリラとの間で署名された停戦合意が引き起こした悲劇的な帰結である。1985年に、FARCはベリサリオ・ベタンクール大統領との間で停戦に合意し、政治プロセスに参加するため、愛国同盟という政党を結成することで合意した。それから5年間のあいだに、準軍組織死の部隊が、愛国同盟の党員2000人を殺害した。その中には、3名の大統領候補と4名の議員が含まれていた。
その結果、FARCが、準軍組織が存続している限りは、アンドレス・パストラナ大統領との間で、停戦合意に同意することを躊躇していたのは、驚きではない。FARCが交渉中に繰り返し主張してきた、準軍組織を解散すべしという点は、FARCにとって些細な点ではないのである。準軍組織はパストラナ大統領により解散されなかっただけでなく、パストラナ大統領の任期4年のあいだに、準軍組織の数は記録的な増大を遂げたのである。ワシントンのタカ派が、米国市民に、パストラナはコロンビア・ゲリラを扱うには軟弱すぎると繰り返し信じさせようとしてきたことから考えると、皮肉な事実である。
2001年9月11日の事件が起きて以来、米国政府から流される半分だけの真実の量は大きく増大した。特に、コロンビアにおけるテロリストの脅威なるものを巡っては。主流メディアは、ブッシュ政権の意図と戦略に疑問を呈する点において、いつもよりさらに気骨がないところを示している。ホワイトハウスが、「対テロ戦争」を、2001年9月11日以前には許容されなかったであろう国内・海外政策の適用を正当化するために用いていることは明らかである。そうした政策の多くが今や実施されつつあることは、米国市民に真実の半分だけを提供し続けるブッシュ政権のプロパガンダ・キャンペーンの有効性を示している。