日本政府は、有事法制に関連して検討している「民間防衛活動」に、自主防災組織を使うことを考えていることが2002年7月17日明らかにされました。世界的な規模で、自警団・スパイの活用を検討し進める政府が増えているようです。
米国大統領ジョージ・W・ブッシュとコロンビア大統領に選出されたアレヴァロ・ウリベは、同時に、国内の「対テロ」戦略の一環として市民スパイの活用を提案した。これは、ブッシュとウリベの抑圧的傾向をはっきりと示している。ブッシュが提案し、まもなく適用される予定となっている、テロリズム情報・防止体制(TIPS作戦)と、ウリベの市民民兵創設構想は、ともに、少なくとも100万人の市民に、隣人や同僚について情報提供することを求めるものである。両プランは、キューバの市民活動についての情報を収集するためにカストロ政権が用いている隣人監視組織「革命防衛委員会(CDR)」と非常によく似ている。CDRは米国国務省の年次人権報告で繰り返し批判の対象となってきたものであるが、それにもかかわらず、ブッシュとウリベは、キューバの国内スパイ・プログラムの自国版を適用するのに熱中している。
40年以上にわたり、フィデル・カストロ政権は、ワシントンによる、秘密(プラヤ・ピロン侵略など)の、あるいはさほど秘密ではない(現在も続いている経済封鎖など)、カストロ政権破壊と転覆の試みからキューバを防衛しようと、一般市民を隣人監視のためにリクルートしてきた。隣人監視グループを統括するキューバ政府官僚ウンベルト・カリージョは、「CDRは、各地区に誰が住み、それがどのような人で、何をしており、仕事についているかいないかなどを正確に把握しており・・・内務省との協力のもとで登録リストを維持している」と述べる。市民委員会は、また、怪しいふるまいや、キューバ人と外国人との接触などについて政府に報告する。
最近では今年3月にも、米国国務省は、その報告書で、キューバ政府は「隣人に基づく革命防衛委員会を・・・通して、包括的監視体制を維持している。政府はこれまで、CDRを、反対派に対して、あるいは教条的従順を強いるために、また、「反革命的」ふるまいを根絶するために、利用してきた」と述べている。
けれども、キューバのCDRプログラムが抑圧的であると長年にわたり批判しておきながら、米国政府は今や、テロリズムから米国を防衛するという名目で、似たような作戦を適用しようと計画している。TIPSプログラムについて司法省が行った説明は、カリージョによるキューバのCDRの記述と極めて似通っている。すなわち、100万人以上の郵便配達夫、配管工、電気工、公共サービス労働者をはじめとする市民労働層を雇用することによって、「仕事柄、日常的でない出来事を察知するのに適切な立場にあるこうした労働者が、疑わしい行動を報告することができるような全国的報告体制」を造ることができるというのである。この国内スパイ・システムは、7月17日、米国郵便サービスが、その職員をTIPS作戦に従事させることは許容しないと発表したことで、最初の打撃を受けた。
ワシントンを拠点とするカト研究所のボブ・レヴィは最近、TIPS計画がもたらすだろう事態について次のように述べている。「我々はまもなく、単に色々な場所にいくだけでなく、私有地に入りやすいという特別な立場にいる、検針作業者などが、我々がこうした人々に期待する仕事をするという名目で家に入って来て、色々探し回り、それについて司法省に報告することになろう。これにより、米国はのぞきややおせっかいの国となるだろう。」
1960年代と1980年代、米国政府諜報部門は、情報屋や他の手段を使って、何千もの合法的な個人や団体に侵入しスパイ活動を行っていた。こうした個人や団体の唯一の「犯罪」は、ベトナムや中米での米国政府の外交政策に反対していたということだけなのである。TIPS作戦が、テロリズムと闘うことを口実に米国市民の私的生活に侵入しようとする意図を持つ中で、過去の政府による権力乱用からは、収集された情報が、ブッシュ政権の国内的・国際的諸政策に反対しているだけの、何ら罪のない市民に対して悪用される可能性が高いことがわかる。
一方、コロンビアでも、大統領に選出されたアレヴァロ・ウリベが、市民による情報収集プログラムを適用すると約束している。100万人の構成員を予定されているこの民兵団は、ラジオを提供され、コロンビア軍に、「転覆的」と疑われる活動を報告することになる。コロンビアでは、しばしば、労働組合指導者や人権活動家、市民団体のメンバーなどが、「転覆的」な人に含まれる。ウリベの軍事主義的な反ゲリラ・キャンペーンや過去における不法右翼準軍組織死の部隊とのつながりを考えると、新たに予定されている市民情報提供者ネットワークが、左派と疑われる人々を標的することはほぼ確実で、それによりさらに人権が崩壊するであろう。
キューバのCDRプログラムや米国のTIPS計画と同様、ウリベ提案もまた、コロンビア市民に、隣人たちや友人たちをスパイするよう呼びかけている。ただし、CDRやTIPSプログラムと異なり、ウリベの計画により、100万人の非武装コロンビア人情報提供者が、武装グループの目に標的と映るようになるため、情報提供者の生命自体が危険にさらされることになる。コロンビア軍、右派準軍組織、2つの左派ゲリラとの間で何十年にもわたって続く内戦を考慮し、アムネスティ・インターナショナルは、「100万人からなる情報提供者民兵を創設しようとするウリベの計画は、政治暴力の悪循環を増大させ、一般市民をさらに深く対立の巻き添えにする」と憂慮している。
ブッシュ政権は既に、次期大統領ウリベと密接な関係を育む意図を公にしている。そして、コロンビア軍に対する9800万ドルの対テロ援助パッケージを認めるよう、また、米国が訓練した反麻薬部隊と米国が提供したヘリコプターを米国国務省海外テロリスト組織に記載されているコロンビア左派ゲリラに対する対ゲリラ作戦に用いることを許容するよう、米国議会に求めている。
コロンビア内戦に対する米国の軍事介入をエスカレートする口実として対テロ戦争を熱心に使うブッシュ政権は、アムネスティ・インターナショナルやヒューマンライツ・ウォッチの報告だけでなく、米国国務省自身すら述べている、コロンビア軍と右派準軍組織との密接な関係を無視している。この準軍組織もまた、米国国務省のテロリスト・グループにリストされており、コロンビアにおける人権侵害の7割を犯しているのはこの準軍組織なのである。
対テロ戦争と自称するものの開始早々から、ブッシュ政権は、米国の政治・経済・軍事的目的を支援する意思を示したテロリストたちと同盟関係を結んできた。9月11日のテロリスト攻撃後、ブッシュ政権はすぐさまアフガニスタンの北部同盟と関係を確立した。北部同盟によるアフガンの人々に対する残虐な人権侵害は、抑圧的なタリバン政権に勝るとも劣らないのである。同時に、米国政府は、インドの非軍事標的に対してたくさんの爆弾をしかけてきたカシミールのテロリスト・グループを支援するパキスタン軍事独裁政権と同盟関係を結んできた。
そして、対テロ戦争の次の標的としてサダム・フセインを視野に入れたワシントンのブッシュ政権は、ここ数十年の中で、最悪の国家テロリズムをクルド人に対して加えてきたトルコを、イラクに対する軍事侵略に参加させるべく説得しようとしている。
7月18日、米国上院予算委員会は、米国に育てられたもう一つの巨大な国家テロリスト集団であるインドネシア軍に対しての支援再開を認めました。なお、トルコとクルド人については、『クルド人とクルディスタン』(中川喜与志、南方新社)、チョムスキー『アメリカの人道的軍事主義』をご覧下さい。
2001年9月11日以降のブッシュ政権の軌跡に照らして考えると、米国政府が右派テロリスト準軍組織と密接な同盟関係にあるコロンビア軍への支援を増大させる口実に対テロ戦争を使っても全く驚くことではない。また、ウリベ次期大統領が提案する「テロリズム」と闘うための100万人の民兵に対する支援を意図したとしても不思議ではない。何のことはない、ブッシュ政権は、米国そのものの中でも、対テロ戦争を口実に、100万人の市民情報提供者ネットワークを創設しようとしているのだから。一方、ハバナでは、フィデル・カストロが、これらの「民主主義」と称する国々で、国内市民スパイ計画が広まっていくことににんまりしているかも知れない。