麻薬問題に対する最良の対処法は、教育と治療、予防であることはよく知られている。従って、麻薬中毒を防止するための論理的ステップは、貧困、滋養、保健、雇用、教育、創造的活動の機会、民主的政治参加、そしておそらくは合法化といったことである。麻薬はコロンビアの問題ではなく、むしろ米国の問題である。コロンビアの問題は、貧困、土地の不公平な配分、富と権力の集中、失業、追放、飢餓、そして何よりも、米国が強制している暴力である。コロンビアでは戦争が続いており、これは麻薬に関係している。けれども、麻薬は、単に対立の背後にある要因というだけではない。麻薬はまた、米国政府が行っている麻薬戦争に関与する米国企業があげている膨大な利益の理屈付けとしても使われているのである。
最近、タバコ製品の世界的広告と貿易に何らかの規制を加えようと試みた国際会議が開催された。タバコは非常に致死率の高い麻薬で、米国だけでも、年間40万人の死者を生み出すことに貢献している。容易に推測できるように、米国は、いかなる規制も米国企業の表現の自由という権利を侵害する可能性があるとして、この試みを妨害したのである。つまり、どのような規制も、人々を毒漬けにし殺すことにより大規模な利益を稼ぐ米国企業の権利といわれるものを侵害するというのである。
同じ原則が、富と土地のグロテスクな偏りを特徴とする社会の合法的経済を多国籍企業と少数の経済エリートとが支配しているコロンビアにも当てはまる。国際通貨基金(IMF)と世界銀行のプログラムのもとでの新自由主義は、農民への補助金は不法で不公平であると述べる。つまり、コロンビア農民に対する補助金は不法で不公平であるというのであるが、一方、先週1000億ドル以上の公共補助金を受け取った米国のアグリビジネスに対しては不法でも不公平でもないというのである。こうした政策により、コロンビアでは「逆土地改革」でも言うべきプロセスが起こった。というのも、コロンビアの貧しい農民たち米国の巨大アグリビジネスと競争できないからである。過去数年間で、14万の農業雇用がコロンビアで失われたことはこれを端的に示している。
米国及びIMF/世銀が強制するプログラムは、コロンビア地方部の人々の86%が絶対的貧困下で暮らしている原因の一つである。そしてまた、これは、人々がコカ栽培を始める理由の一つでもある。というのも、そうしないと生存できないからである。IMFと世銀は、基本的に、地元で消費する食物ではなく、巨大アグリビジネスの利益となるような輸出作物栽培を農民に強要する。
食料の価値が、何人を養うかによってではなく、どれだけの利潤をあげるかによって計られるような世界は逆さまの世界である。ほとんどの土地を所有しているものがさらに土地を手にし、一方、ほとんと土地を持たないカンペシノたちが手にするのは自らの墓だけであるというのは逆さまの世界である。ちなみにここにも逆土地改革の一形態がある。大規模土地所有者とビジネスは、準軍組織を雇い入れ、資源豊富な土地を盗むために小規模農民を追放する。
利潤を挙げ生き延びるためには生産し続け拡張し続けなくてはならないという企業支配経済体制の観点からは、人々を追放する虐殺と毒薬散布は有益である。人々が追放されたあと、土地は搾取のために引き渡される。鉱山開発、石油採掘、輸出農作物などである。さらに、追放の結果、ビジネスに安価な労働を提供する人々のプールが都市に強制的に移送された人々により形成される。
よりよい労働時間、賃金、労働環境を求めるコロンビアの労働組合員を殺害することも経済的な利にかなっている。労働組合の要求はすべて、企業からみると、競争力を低下させるものだからである。1986年来、3800人の労働組合指導者や活動家が殺害された。また、過去10年の間に800人の先住民指導者と1800人のカンペシノ指導者、そして、3000人の愛国同盟党員が暗殺された。愛国同盟は、1980年代にFARCとコロンビア政府の合意で結成された合法的な政党である。
プラン・コロンビアもまた、支配的な経済機構の観点からは、「合理的」である。毒薬の空中散布キャンペーンは、モンサント社のような毒を製造する企業に利益をもたらす。毒薬散布はまた、さらなる毒薬散布の必要性を保障する。というのも、ジャングルのさらに奥深くに行くことを余儀なくされた人々は、製造コストの増加に見合うだけさらに多くのコカ栽培を行わざるを得ず、それは、さらなる土地に毒薬を散布しなくてはならないことを意味するからである。
毒薬散布のためにはまた、それを監督する機関が必要となる。米国納税者から何億ドルもに及ぶ巨額の資金を得ているディンコープ が、この役割を担当している。毒薬を散布する飛行機を護衛するために、ブラックホーク攻撃ヘリコプターが必要となることは当然で、従って、ユナイテッド・テクノロジー社に何億ドルもが転がり込むことになる。さらにまた、麻薬戦争の提唱者によると、毒薬散布地域にはFARCがいるため、迅速な部隊移動が必要であり、そのためにヒューイ・ヘリコプターが必須であると主張する。そこで、ヒューイの株主にも大きなおこぼれが回ってくる。
コロンビアにおける米国軍事作戦司令官は私に、2004年までには、彼らはプツマヨ州全体に毒薬を散布する能力を得るだろうと述べた。彼はこれを誇らしげに言ったのである。彼が指さしていた地図が示すところには、土地だけでなく、そこに住む人々もいるということに全く無頓着に。こうした人々はあまりに当然すぎて、米軍の検討視野には入らないのである。あるいは、こちらが正しいのかもしれないが、米国政策立案者の観点からは、カンペシノの命の値段はとても安く、それゆえ、軍事的・経済的戦略としての関心以外にカンペシノたちの上に毒薬を降り注ぐことについての関心は存在しないのであろう。
生き延びるために、カンペシノたちはグローバル化経済の基本的教訓を学び取る必要があった。輸出市場で最高利益を上げる作物を栽培すること。そして多くのコロンビア農民にとって、それに該当する作物はコカなのである。私たちが、彼ら彼女らにコカ栽培を余儀なくさせる経済状況を強制し、そして次に彼ら彼女らを攻撃するのである。コロンビアの農民にとって収入が保障される唯一の作物を作成するという理由で、私たちはこうした農民たちに毒を降り注ぎ、追放している。
最終的に、私たちはこうした追放された農民たちにたった3つの選択肢だけを残すことになる。都市に出て路上で物乞いをしたり都市の巨大な非公式−しばしば非合法な−経済に関与するか、ジャングルのより奥深くに移動しさらに沢山のコカを栽培するか、あるいは非合法の武装集団に参加するか、である。農民たちがいずれの選択肢を取ろうと、人がいなくなった土地は搾取のために使えることになる。第二・第三の選択肢は、麻薬生産と武力衝突をエスカレートさせるため、それによっても、米国政府の麻薬に対する戦争に関与している米国企業はさらに利益を増大させることができる。