本文章の末尾に、私が簡単に作成した緊急要請がありますが、5月29日、日本インドネシアNGOネットワークとアムネスティ・インターナショナル日本が共同作成した緊急行動要請も出ました。是非ご協力下さい。
彼らが言うように、タイミングが全てだ。東チモールがインドネシアの不法占領から解放され、独立を達成して1周年記念の前日である2003年5月19日、ジャカルタのインドネシア政府は、石油とガスを豊富に有するスマトラ島北部のアチェ州に対して全面的な攻撃を開始した。3万から5万のインドネシア軍兵士が、戦艦と戦闘ジェットとともに投入された。これは、1975年の東チモール侵略以来、最大の軍事作戦である。この作戦の指命について、エンドリアルトノ・スタルト将軍は次のように述べている。「GAM[自由アチェ運動]を追跡し一掃しなくてはならない。・・・皆さん軍人たちは殺人の訓練を受けている。だから、奴らを一掃せよ」[1]。
アチェ攻撃は、東チモール独立(主権回復)の記念日と重なっているだけでなく、他の国内的・国際的状況とも関係している。そして、これらの影響は、アチェ侵攻作戦の時期と性格にはっきりと見られる。
「悪党の最後の隠れ家!」
メガワティ・スカルノプトゥリ政権は、現在、国内的な危機に直面しており、反対派や不満を抱いたグループからの大きな圧力を受けている。とりわけ、新自由主義の経済政策を巡ってである。これらの極めて不人気な政策は---それには様々な補助金の廃止なども含まれる---砂糖やタバコ、米といった日用品の市場価格の不安定化と減少を導き、農家や一般のインドネシア人に広範な犠牲を強いている。私営化もまた政府の政策の一つであるが、これにより大規模な失業が、とりわけ製造業で生まれている。今年2003年の1月には、新自由主義政策に対する大規模な反対から政府は一部政策をUターンし、燃料や電気、電話代の補助金を復活させた[2]。
より近いところでは、2003年5月21日、インドネシア中で何千人もの人々が、1998年の元独裁者スハルト専制の崩壊を記念するデモを行なった[3]。デモ参加者たちは、はっきりと現政権を標的とし、メガワティに辞任を求め、スハルト後に約束された政治的改革の実施を要求した。一部の報道によれば、80%近くの人々が、政府と政党に不満を抱いているという。豪の『グリーン・レフト・レビュー』誌で、マックス・レーンは、デモは「1997年から98年以来、最も幅広い政治的な支持を得ている」と書いている[4]。
アチェ攻撃は、当初インドネシアで人々の高い支持を得ていたことが示されており、危機に晒された政府に対する民族主義的な支持を歓喜する可能性が高い。これがうまく行くかどうかはわからないが、アチェ侵攻後の5月21日に起きた大衆の抗議の中、メガワティ政府が「戦争の靄」の中で隠れ場所を見つけようとしたのかも知れない。
「戦争に最適の時」
国際的には、米国によるイラク侵略の影響を容易に見てとることができる。これは、アチェ攻撃に対し、正当性とさらには特定の戦争戦略計画をさえ、提供している。
正当性については、ゲリラや国内反対派や政治的反対派の政府による弾圧は、ブッシュの「対テロ戦争」の後で、世界的にますます盛んになっている。
シンガポールの防衛戦略研究所の地域反乱に関する専門家であるアンドリュー・タン博士が最近、クリスチャン・サイエンス・モニター誌に述べたように、「現在は、戦争に最適の時である。軍事的解決を用いても、ほとんど外交的な被害は被ることがない」[5]。
低強度「対ゲリラ戦争」ではなく全面的な軍事攻撃を行うことについては、米国によるイラク「戦争」ほどその正当性を与えるに貢献したものはない。大規模な国際的な市民的・政治的反対にもかかわらず行われた、不法侵略行為だったからである。米国が、自分より遙かに弱い敵に対して、挑発されもしないのに武力を行使し、政治的・軍事的にほとんど被害を被らなかったという事実は、アジアや世界中の政府から、自らが抱えるゲリラ活動や独立運動を最終解決するための機会を白紙委任的に与えられたものと見なされた。
例えば、グロリア・マカパガル−アロヨのフィリピン政府は、この機会を利用して、ミンダナオ島南部のゲリラに対する攻撃を倍増させた。米国のイラク戦争中・後における、イスラエル政府によるパレスチナ人への暴力の激化については、多くが報じられている。
これらと同様に、インドネシア政府も、この機会を、アチェのゲリラ活動を撲滅する機会ととったようである。最近のメディア報道によると、インドネシアの将軍達は、米国の対イラク「戦争」を、今回の作戦の正当化に引用しているという。さらに、東京で行われた最終段階での和平交渉で、インドネシア政府が提案したのは、独立を拒絶することを譲れない要求とするものであり、これは、自由アチェ運動にとって決して受け入れられないものであるという点で、そもそも交渉を開始できなくするようなものであった。クリスチャン・サイエンス・モニター誌のダン・マーフィーは、これを、「イスラエルがPLOに対して、和平交渉の前提条件として、パレスチナ国家樹立計画を放棄するよう求める」のと同様であると述べている[5]。既に、望ましい方策として「軍事解決」が予定されていたのである。
アチェに「包摂」されて
さらに言うと、インドネシア軍によるアチェでの作戦は、米国のイラク侵略の計画に直接倣って計画されたようなところがある。例えば、ジャカルタ・ポスト紙は、今後起こりうるだろうより広範な作戦に対する実験として、「軍属ジャーナリスト」を用いている。同紙によると、60名のジャーナリストがインドネシア軍(TNI)の訓練を受けており、その後に、軍事作戦の報道のための「ライセンス」を受け取ることができるという。さらに、インドネシア人ジャーナリスト以外は、この訓練を受けることができない。
ジャカルタ・ポスト紙に引用された言葉の中で、TNIの報道官シャフリ・シャムスディン少将[東チモールの虐殺と破壊に関与した一人]は、軍事作戦報道において外国のジャーナリストを認めないことについて、「外務省から何らかの政治的配慮があるかどうかはわからないが、私としては、作戦中に何の邪魔も入らないことを望むというのがはっきりしているところだ」と述べている[6]。
国内的なメディアの「邪魔」から作戦を守ることも考慮されているようである。というのも、攻撃が開始されて既に、アチェでの独立系報道に対するあからさまな弾圧が報じられているからである。2003年の調査で、「国境のないレポーター」は、アジアが、検閲とジャーナリストへの脅しという点で、恐らくは世界最悪ではないか、と述べている。不幸にして、アチェのインドネシア軍司令官であるエンダン・スワリヤ少将の最近の発言はこれが真実であることを示している。彼は、「GAMの報道官」を黙らせる意図を公言しているのである。
「私は、全てのニュースが、民族主義の精神に則ったものであることを望む」と彼は述べる。「インドネシアの統一を第一に置くべきである。GAMの声明に何らかの信頼性を与えてはならない」[7]。
彼の批判の標的には、アチェを拠点とする民間テレビ局や新聞も含まれていた。スラムビ・インドネシアやメトロTVなどである。ジャカルタ・ポスト紙は、最近、メトロTVのレポーターによるTNIとの対立を引用している。同テレビ局が、軍司令部が「転覆的」と判断した番組を報道した後のことである。
このレポーターは、「軍士官は、2時間近くにわたって、我々を詰問し、こうした番組の報道を続けるならば、アチェから追放すると威嚇した」と説明している。
むろん、「邪魔」を防止するのは、情報統制の一面である。軍が望む「メッセージ」を提示するのはもう一つの面である。
アチェの場合において、最初の軍事作戦における望ましいメッセージについては、「国際危機グループ」のシドニー・ジョーンズが解釈している。「『ショックと恐怖』効果を生みだそうとする以外に、この規模の部隊を投入する理由は想像しがたい」[5]。
軍もそれに同意しているようである。「我々は、GAMに対してショック療法を与えたかったのだ。精神的・心理的に、未来がどうなるか恐れるように」とTNIのフィルダウス・コルマノ准将は言う[8]。
大規模な作戦開始の際に、軍属ジャーナリストたちはTNIのもとで仕事を開始し、「ショックと恐怖」のメッセージを伝えた。5月20日、インドネシア及びアジアの多くの新聞が、アチェでインドネシアの落下傘部隊が降下しているシーン、あるいは、船からアチェに上陸しているシーンを伝えた。
アチェで採用された米国によるイラク侵略の教訓としての圧倒的な部隊の投入が、「敵性人口」に対する「ショックと恐怖」をもたらすことであるとすると、もう一つは、その効果を創生するためにジャーナリストを効果的に管理することであった。
「H」はホーク(Hawk)の頭文字
東チモールでインドネシア軍が行っていたジェノサイドの際悪名を馳せた、イラク侵略を行った諸政府とインドネシアとのより直接的な軍事的・政治的リンクは、アチェ攻撃の際にも非常に明らかである。米国・英国・オーストラリアの政府は、人権侵害の可能性に「憂慮」を表明したが、作戦それ自体を直接批判はしなかった。地域の大国である隣のオーストラリアは、「インドネシアの領土的統一」にコミットするとさえ述べ[9]、注意深くではあるが、インドネシア政府による作戦の権利を認めたのである。
西洋の具体的なアチェとのリンクは、投資に現れており、特に、エクソン−モービル社が代表的である。さらに、東チモールに対するインドネシア軍の侵略と不法占領で用いられたアメリカ製のOV−10Fブロンコ爆撃機と英国製のホーク戦闘ジェット機は、先週ふたたび、アチェでの航空作戦で用いられ、アチェへの爆撃も報告されている。英国政府はこの報告を「極めて深刻に」受け止めるとし、駐インドネシア英国大使は、ガーディアン紙に次のように語った。「インドネシア国防省は、ホーク戦闘機は地上戦では用いられないと確言した」[10]。
この「極めて深刻」な憂慮は、ホーク戦闘機は「訓練用ジェット機」であり、攻撃目的には使われないという理解のもとでインドネシアに売られているという、英国政府が維持する公の(そして馬鹿げた)立場に基づいてなされている。英国政府の高官たち自身が、この主張は内実がないと明言しているにもかかわらず、この主張が続けられているのは、奇妙なことである。例えば、ジョン・ピルジャーは、元英国国防省アラン・クラークとの昔のインタビューで、ホーク戦闘機の問題を取り上げている。
ピルジャーは、クラークに対して、当時主張されていたように、本当にホーク戦闘機は「単なる訓練用ジェット機」なのかと訪ねた。クラークは、ホークは「二重使用」に今日されている、と答えた。さらに、インドネシアの保証は何かを意味するのかと問われたクラークは、驚くほど正直に、「私が知る限りでは、どの政府の保証も意味はない」と答えた[11]。
悪夢のシナリオ
インドネシア軍(TNI)は国際社会の監視と、人権に対するリップサービスの重要性を注意深く考慮しており、アチェ攻撃を、綺麗で局所的な作戦と見せかけようとしてきた。ジャカルタ・ポスト紙は、スタルト将軍が兵士たちに次のように語ったことを報じている。「皆がこれから行うことは、世界中に報じられる・・・命令に違反して戦場で人々に苦痛を引き起こす兵士がいたら、頭を撃ってしまえ」。
けれども、ヒューマンライツ・ウォッチは、インドネシアの攻撃は、特に、TNIのアチェにおける人権侵害の歴史を考えると、アチェの人々に対する「人権侵害の舞台を設置することになる」[12]と述べている。最近アジア学生連盟が発表した声明によると、「TNIとGAMの武装衝突は双方に犠牲者を生んでいるが、市民社会の犠牲の方がはるかに多い」[13]。実際、攻撃の初日から、BBCのオーランド・デ・グスマンといったジャーナリストは、TNIの作戦について、民間人を標的とし、略式処刑を行い、一般的な恐怖を生み出していると報じている[14]。活動家やNGOスタッフを一斉に狩りだしていることも報じられている。もう一つの重要な問題は、国内難民すなわち国内で移送された人々である。保健相のアシュマド・スジュディは、その数は30万人になるだろうと見積もっている。アチェやスマトラ北部、メダン周辺にインドネシア政府はキャンプを設置した。攻撃で生み出される10万人規模の難民を収容するためである。
現在の状況は、アチェの人々、そしてインドネシア全体の人々にとって悪夢である。
5月22日、攻撃の4日目には、1999年に東チモールで犯された人道に対する罪を巡って、11人目のインドネシア軍将軍が無罪判決を言い渡された日でもあった。無罪判決を受けたトノ・スラトマン准将は、ジャカルタの人権侵害法廷に対し、「公正な裁判」に感謝すると述べ、首席判事は、この判決後、将軍の「権威と地位・・・は回復されるべきである」と述べた[15]。アチェ侵攻と重なったこの判決のタイミングは、インドネシアにおける軍の権力と不処罰が続いており、他の政府機関や文民機関との間に緊密な関係を維持しているという、恐ろしい図式を示している。
[1] 'Indonesian troops told to "exterminate" Aceh rebels, spare civilians’ AFP. May 20, 2003
[2] 'Dangerous political football’ Bloomberg. January 28, 2003
[3]‘Celebrations of 1998 reform turn violent’ Jakarta Post. May 20, 2003.
[4]‘Protests call for ousting of Megawati’ Green Left Weekly. Jan 22, 2003.
[5] Murphy, Dan. ‘SE Asia tries ‘Shock and Awe’’ Christian Science Monitor.
[6]‘Embedded journalists to cover military operations’ Jakarta Post. May 11, 2003
[7] 'Truth becomes casualty of war as military restricts media’ Jakarta Post
[8]‘Indonesia uses UK jets in Aceh offensive’ The Guardian. May 20, 2003
[9]‘Australia defends use of force in Aceh’ Asia Pacific Programs. May 21, 2003
[10]‘Military chief defends use of Hawk jets’ The Guardian. May 22, 2003
[11] Pilger, John. ‘Death of a Nation: The Timor Conspiracy’ 1994. (View clips at http://pilger.carlton.com/timor)
[12]‘Indonesia: Martial Law, Bombing in Aceh’ Human Rights Watch May 20, 2003
[13]‘The situation in Aceh, Indonesia’ Asian Students Association. May 26, 2003.
[14]‘”They killed them one by one”’ BBC News Online. May 21, 2003
[15]‘Indonesian army chief acquitted’ BBC News Online. May 22, 2003
緊急に出来ること:
ファックスでの抗議表明:
・メガワティ・スカルノプトゥリ大統領:010-62-21-345-2685
010-62-21-526-8726
010-62-21-345-7782
・駐日インドネシア大使:03-3447-1697
・文例
Dear President Megawati Sukarnoputri / Dear Ambassador,
I am gravely concerned with what the Indonesian military is
doing in Aceh. Please stop immediately the military
operation in Aceh, and make every effort to find a peaceful
and negotiated solution to the conflict in the region.
Sincerely yours,
お名前・住所・署名
・日本政府川口順子外務大臣:03-6402-2551
・文例
川口順子外相
インドネシア軍によるアチェでの軍事作戦に憂慮しています。
既に多大な人権侵害がなされたという報告がメディアで報じら
れています。日本政府におかれましてはインドネシアへの最大
援助国として、5月17日の和平仲介において示された努力を
一層強化し、インドネシア政府に対し、軍作戦の即時停止と平
和的交渉による問題解決を強く訴えて下さいますようお願い致
します。
お名前・住所・署名
・Exxon Mobil社:010-1-972-444-1000
Dear Chairman Lee R. Raymond,
I am gravely concerned with the current situation in Aceh,
a region in which your company maintains a large presence,
with your installations guarded by the same Indonesian
military which commits atrocities against the civilian
population in Aceh.
Please urge the Indonesian government to immediately stop
the military operation in Aceh, and contribute fully to the
peaceful and just solution to the conflict there.
I will keep a close eye especially on any human rights
violations committed in the vicinity of Exxon Mobil's
installations in Aceh.
Sincerely yours,
お名前・住所・署名
今後の動向については、
インドネシア民主化支援ネットワーク
日本インドネシアNGOネットワーク
に対応が提示されると思います(多分)。そちらもご覧下さい。
他に、背景としてアチェ:繰り返される侵害の中で及びアチェ:事態が変わったらもご覧下さい。