ジョン・ピルジャー
真実を巡る戦争(2003年4月7日)
我々は見過ぎ、知り過ぎた(2003年4月5日)
重なりが大きいので、二つ一緒にご紹介致します。ぜひ、「見過ぎ、知り過ぎた」までお読み下さい。また、英国ブレア政権の嘘については、ブレアの誠実さとメディアもご覧下さい。私たちは平和と正義を支持するという宣言があります。アルンダティ・ロイやノーム・チョムスキーなどの発案によるもので、署名を募集しています。まだでしたら、署名することを御検討下さい。英語ページですが、簡単にできます。日本語にての内容紹介なしで、すみません。つい先ほど、アルジャジーラのニュースでバグダッドの病院の報告がありました。とてもひどいものです。アルジャジーラの事務所が爆撃され1名殺されたというニュースも(クロスチェックしていませんが)ありました。米国の組織The March for Justiceというところも、熱心に情報を提供しています。
「すごい一日だった」と、4月5日、米軍海兵隊のエリック・シュラムフ軍曹は言った。「たくさんの人々を殺したんだ」。
さらに彼は続けた。「民間人も何人か殺した。だけど、どうだというんだ」。イラク兵士の側に女性たちがいた、と彼は言った。そのうち一人は、彼と海兵隊の同僚たちが発砲したときに、倒れた、と。「申し訳ない」とシュラムフ軍曹は言う。「だけど、あの女は、邪魔だてしていたんだ」。
この話で驚くのは、36年も前に、ほとんど同じ言葉を聞いたことである。米軍海兵隊の軍曹が、「邪魔だった」ため、妊娠している女性とその子供を殺したときである。
ベトナムでの出来事だった。米軍の戦争マシンが侵略したもう一つの国。200万人の犠牲者を出し、さらに多くの肢体不自由となったり障害を負った犠牲者を出した侵略。米国のレーガン大統領は、これを「神聖な大義」と呼んだ。先日、米国ブッシュ大統領は、同様に何らの挑発もせず単に略奪的なだけの、イラク侵略を、「神聖な大義」と呼んだ。
ベトナム侵略以来今日まで、アメリカ人たちは、多くの国を侵略し、直接あるいは手下を使って、大きな苦痛を引き起こしてきた。けれども、ベトナムで続けられた残虐行為ほど、現在の戦争について参考になるものはない。ベトナムは、最初の「メディア戦争」として知られる。イラク攻撃と同様、ベトナム侵略は、ベトナムの人々に対する人種差別主義的軽蔑を伴っていた。ベトナム人は「汚い東洋人」であり、「ボロ」であり、闘いなどできず、数週間でやっつけることができると言われた。今日のイラクと同様、アメリカが行っている殺害に関する検閲されない生の証拠がテレビで放映されることはなく、隠蔽がなされた。
ブッシュ政権の「リベラル派」国務長官コリン・パウエルが迅速に昇格したのは、悪名高いソンミ村虐殺の隠蔽を行ったからである[1968年3月16日、ベトナム中部のソンミ村で、米軍により504名の住人が数時間のうちに虐殺された。生存者は10名ほどという。米軍は徹底的な証拠隠滅をはかり村を焼き払ったのち、これを民族解放軍勢力との闘いと発表したが、その後、内部告発により事件が明るみに出た]。結局、ベトナムの人々は、ハリウッド風米国シナリオを撃退し、侵略者を追い出したが、そのために大規模な代償を払った。
二国分の西洋の空軍とディズニーランドばりの大量破壊兵器にさらされているイラクの人々は、ベトナムのように侵略者を追い出すことはできそうにない。それでも、イラクの人々は、押しつけられたハリウッド風シナリオに従うことを拒否している。そして巨大な不利に面しながらイラクの人々が続ける大きな抵抗により、ワシントンとロンドンは、プロパガンダを強化する必要にさらされている。このプロパガンダは、我々に向けられているものである。
ベトナム時代と異なり、このプロパガンダ、あからさまであると同時に狡猾な嘘は、世界中に提供され、新たな商品のようにマーケティングされ統制されている。BBCの「埋め込まれた(軍属)」レポーターであるリチャード・ガイスフォードは、最近、次のように言っている。「ニュースは全部チェックしなくてはならない。そして、メディア・リエゾン・オフィサの大尉が、大佐とともにそれをチェックし、さらに、旅団の本部でそれをチェックする」。
スターリング大学のメディア批評家デビッド・ミラーは、これを「宣伝の大発明」と呼ぶ。それは、こんな風に機能する。まず、クウェートの「同盟国報道情報センター」とカタールの1万ドルの報道センターで、公式の「ライン」が合意され捏造されると、次にそれはホワイトハウスに提出される。その担当は、「グローバル・コミュニケーション・オフィス」というところである。それから、英国向けに、ダウニング街のブレアのプロパガンダ・スタッフにより、洗練される。
結局のところ、真実は冗長で余計である。「よい」ニュースがあるかニュースがないか、というだけになる。たとえば、情けない数百トンの「人道援助」を搭載した英国船サー・ガラハドのイラク到着は、広く報道されるべき「よい」ニュースである。けれども、ブレアの英国政府が、ワシントンによる、54億ドル相当の乳児向けミルクや医療品を服務人道援助の意図的な妨害を支持し続けていることは、報道されない。54億ドル相当のこの「援助」は、イラクが石油収入から支払い、国連安保理が承認したものであるにもかかわらず。
「救援を行う英国」という胸をうつ物語から完全に抜け落ちているのは、ブッシュとブレアの圧力により、国連は、イラクの食料配布体制を引き上げさせられたことである。戦争の前、イラクの人々は、この食料配布体制により、ようやく飢餓から救われていたのである。
イラクが大量破壊兵器を所有しているというブレアの嘘、そしてアルカイーダと関係しているというブレアの嘘は、すでに暴かれ、大多数の英国人はその嘘を受け入れることを拒否している。その後も、ブレアは「確信」カードをもてあそんでいる。恐らく最後のプロパガンダ手段は、「我々の兵士たち」を支持しよう、というものである。
1967年9月3日、サンデー・ミラー紙は、私がベトナムから送った記事を、一面に「こんな戦争を英国がどうして認められるというのか」という見出しで掲載した。今日、ミラー紙は、イラク侵略について同じ疑問を提示している。違うことはといえば、ブレアと異なり、当時のハロルド・ウィルソン首相は、米国大統領は、自分の「同盟」のために英国軍を使うことを拒否したことである。昨日のミラー紙の世論調査によると、「78%の人々が、戦争が終わるまで英軍は帰国すべきでない」と考えているという。世論調査自体、回答をあらかじめ規程するような質問を行うことで、プロパガンダを構成する。もし、次のような質問だったら、結果はどうなっていただろう。「何の『解放』もしていないばかりか、民間人犠牲者を積み上げている英国軍のイラク派遣を支持しますか」。
支持する回答が78%近くになるなどとはとうてい思えない。確かに、伝統的に、「兵士たち」を支援するという流れがある。どんな汚い仕事をしに派遣されていたとしても。ブレアに、これを操作させてはならない。英軍は米軍よりも規律が正しいかも知れない。けれども、そのことは、英軍が、我々にほんのわずかなりとも脅威となっていない国を侵略するという犯罪行為の一部であり、実際には不可欠な一部であるという事実を、いささかも変えるものではない。
メディア操作(PR)の訓練を受けた英軍報道官は、米軍報道官と同じくらい多くの嘘をついている。たとえば、「蜂起」を巡るナンセンスである。バスラの民間人は英国の包囲により窒息させられつつあり、何の罪もない、ただ生まれ育ったところで暮らしているという男女・子供に、巨大な苦痛を与えているというのが、報道官たちが語らない真実である。
同じくらいの大きさの英国都市バーミンガムで、イラク軍が同じことをやっていると想像してみよう。そのときの人々の怒り、抵抗を想像してみよう。英国政府の権力者が誰であるかは関係ないはずである。その想像が出来ないと言うのなら、我々自身が、正と悪を逆さまにする嘘とプロパガンダの犠牲になっているのである。もし我々がイラクの人々に思いを馳せられないのなら、「あの女は邪魔だてしていたんだ」というシュラムフ軍曹の銃弾に倒れた女性の嘆き悲しむ家族に思いを馳せられないのなら、本当に憂慮すべき事態である。
今や我々は、イラク侵略を巡る「禁じられた真実」を知っている。幼い娘の体を抱きしめている父親。二人の服は、その娘が流す血でびしょぬれになっている。手を伸ばして戦車を追いかけている、黒い服を着た女性。家族7人全員が殺されて。ある米軍海兵隊兵士は、軍服を着たイラク人の横に立っていたというだけで、女性を殺害した。「申し訳ない」、「だけどあの女は邪魔だてしていたんだ」。
ジョージ・ブッシュとトニー・ブレアにとって、こうした事実を尊敬できることに見せかけるのは、容易ではないだろう。何百万人という人々が、事実を知り過ぎている。犯罪は、あまりに明らかである。41年にわたり労働党議員をやってきた英国下院議長のタム・ダリェルは、トニー・ブレア首相は戦争犯罪者であり、ハーグに送られなくてはならないと述べた。彼は、真剣だった。ブレアとブッシュに対して暫定的な告発が成立するのは、疑いない。
1946年、ニュルンベルク裁判で、ドイツが主張した、隣国に対する先制攻撃は「必要」だったという主張は却下された。判決は、「侵略戦争を始めることは、ただの国際犯罪ではない。すべての悪をその内部に蓄積しているという点において、他の戦争犯罪とは区別される至高の国際犯罪である」と述べている。
パレスチナ人作家のガダ・カーミは、これに次のような言葉を付け加える。「イラクに対する西洋の政策のあらゆる側面に刷り込まれた根深いそして無意識の人種差別主義」。サダム・フセインが「彼以前の多くの中でも残虐であるとはいえ、小さな田舎の首長から、理不尽なまでに悪魔化された」のも、この人種差別主義によるものであると、彼女は述べる。
植民地大臣だったウィンストン・チャーチルにとって、イラク人は、他のあらゆるアラブ人と同様、「ニガー」であり、毒ガスを使ってもよい相手であった。彼にとってこれらの人々は「非=人」であった。そして、現在も、英米にとって、そのままである。先週木曜日のバグダッド近くでの80名もの村人たちの殺害、子供たちの殺害、「邪魔だてした女」の殺害、こうした殺害は、もしも、ロンドンや他の国々の首都や各地で何百万人もの人々が反対の声をあげ、若い人々が学校で授業を拒否していなかったら、大量生産されていたかも知れない。反対の声をあげた人々は、無数の人々の命を救っているかも知れない。
アメリカのベトナム侵略が、「汚い東洋人」を殺しても別に処罰など受ける必要はない、という人種差別主義に加速されていたように、現在行われているイラクに対する残虐行為も、同じ土壌から生まれている。それを疑う人々は、ユースに目を向けて、ダブル・スタンダードを確認してみると良い。イラクの戦車が英国に侵攻し、イラク軍がバーミンガムを包囲していると想像してみよう。馬鹿げているだろうか。むろん、そんなことは起きていない[これ自体、どちらが侵略者で世界平和の脅威であるかを示している]。けれども、まさに英国軍がバスラに対して行っているのは、それなのだ。バーミンガムより大きな都市バスラ、ここの住民−その40%は子供たちである−に対して、ミサイルを打ち込み、クラスター爆弾を投下しているのは英軍なのである。さらに、「我々の兵士たち」は、1週間にわたって統制しているバスラとウムカスルの人々に水の提供を拒否している。アルジャジーラに対してブレアが激怒するのは不思議ではない。アルジャジーラは、こうした事実を暴き、そして、バスラの人々が、「解放」をきっかけに蜂起しているという嘘を暴いたのだから。
2001年9月11日[米国にハイジャック機がつっこんだ日]以来、「我々の」プロパガンダと語られることのない人種差別主義は、知性と道徳に対する帝国的なねじ曲げを要求してきた。イラクの人々は、自分たちの郷土を守るために勇敢に戦っているのではなく、攻撃しては撤退するという戦略を用いている「臆病な」人間モドキであるとされる。巨大な武力を持った敵に対して、他にどんな選択肢があるというのだろう。イラクの人々の勇気を矮小化し、その人間性を蹂躙するこうした行為は、アフガニスタンの村々で何千人もの人々を爆殺する行為と同様、我々に、道徳的問題を突きつける。日本に爆撃を意図的に投下したという最大のテロ行為に対する西洋の反応と同じくらい深く。原爆投下以来、我々は進歩したのだろうか。2003年に入った今日でもなお、価値があるのは、「我々」の命だけ、というのだろうか。
米英による、弱い防衛力を持たない国に対するこうした侵略は、米国が武力により支配する世界の姿を見せつけている。価値のある犠牲者と価値のない犠牲者の分割を米国が決め、そして、あらゆる主要な化石燃料に対するゲートウェイとして米軍基地を維持しながら。今後のリストも予想できる。イスラエルの要望が通るならば、次はイランということになろう。そして、キューバ、リビア、シリア。中国でさえ、注意したほうがよい。朝鮮民主主義人民共和国は、すぐには米国の標的とはならないだろう。というのも、核戦争の脅威が有効だからである。皮肉なことに、もしイラクが核兵器を維持していたならば、今回の侵略は起きなかっただろう。これは、ブッシュ・ブレア両政権と対立する政府への教訓である。「速やかに、核武装せよ」。
最も隠されている真実は、あからさまに軍事主義的な英国政府と、それが仕える荒れ狂う超大国とが、我々の安全にとって、真の敵であるという事実である。多くの世論調査の中で、最も興味深いのは、米国タイム誌が欧州全域の25万人を対象に行ったもので、質問は「2003年に世界平和に対する最大の脅威である国はどこか」というものである。イラク、北朝鮮、米国からいずれかを選ぶようになっていた。イラクを選んだのは8%、北朝鮮は9%、米国を選んだのは83%に上る。そして、世界の人々の目には、今や、英国は、その米国の、暴力的な付属物と見なされている[日本は金魚のフンといった感じでしょうか]。
このことをはじめとする諸事実を我々が理解できないとすると、それはひとえに、プロパガンダの成功と、腐敗したジャーナリズムのためである。ルパート・マードックは、非常に率直だった。ブッシュとブレアを「英雄」と讃えるマードックは、「イラクでは付随的被害が発生するだろう。そして、野蛮でありたいならば、今だ」。彼が所有する175紙は、何らかのかたちで、すべてこの邪悪なメッセージを掲載した。彼が所有する米国のTVネットワークも。木曜日にロケット弾で殺害された80名の村人は、彼が述べた「緊急性」の証明である。他の諸国のさらなる犠牲者も、同じ運命を待っている。
自らを、真実を告げる名誉ある立場にあると見なしているジャーナリストは、現在、難しい選択に直面している。安保理のメンバーを米国政府関係者が脅迫していることを暴く文書をリークしたとされる、チェルテナムのGCHQスパイ・センターの若い女性が迫られたと同様の、そして、ニュルンベルクの判決に刻まれた、民間人を殺す犯罪戦争に参加することを拒否する権利を行使したために、軍事法廷に直面している2名の英国兵士と同様の。
「軍属」でない、そして我々の言葉自体をも蝕むプロパガンダに深く悩みジャーナリストたち、そして、ジェームズ・キャメロンが述べたように、「歴史の最初の草稿を執筆する」ジャーナリストたちにも、同じような勇気が求められている。「同盟国」により殺された、ITN[英国の独立TVネットワーク]の勇敢なテリー・ロイドは、このことを示している。今や、脅迫は、さらに巧妙である。たとえば、英国の防衛相ジオフ・フーンが述べているように。「ジャーナリストたちを[埋め込む:軍属にする]理由の一つは」、「[テリー・ロイドが]軍組織の一部ではなかったためにITNのスタッフ[ロイド]に起きたような事件をまさに回避するためなのだ。軍組織に所属していない状況で、すべてのジャーナリストの世話をするわけにはいかない・・・それゆえ、ジャーナリストを我々の軍隊の保護下に置くことは、ジャーナリズムにとっても好ましい。そして、ニュースを見る人々にとっても好ましい」。
「保護」商売の利点を説明するマフィアのボスのように、フーンは次のように言っているのである。言われたとおりにしろ、さもないと、悪い結果がやってくる。実際、フーンのワシントンにおけるボス、ドナルド・ラムズフェルドは、しばしば、シカゴ・マフィアのボス、アル・カポネの言葉を引用している。最もお気に入りなのは、次のようなものである。「優しい言葉と拳銃により、優しい言葉だけよりも、もっと得るものは大きい」。
我々すべてに対するこの脅威にどのように向き合うべきだろうか。その答えは、私たち自身の力を理解するところにあると、私は信じている。先日、ニューヨーク・タイムズ紙に、パトリック・テイラーが、聡明な言葉を書いていた。アメリカは、今、「不屈の反対者」たる人々に直面している。我々は、二つのスーパーパワーからなる新たな二極世界に突入している。一つは、ブッシュやブレアからなるギャングたちであり、もう一つは、世界の意見である。ついに動き始め、意識が日毎に高まる、人々の真の力である。詩人のシェリーは、これと似たような時代に、「まどろみのあとで、獅子のように立ち上がれ」と説いていたはずだ。