自衛隊を米英軍占領下のイラクに派遣するイラク特措法案(以下、法案)が今国会で成立する見通しと報じられています。この法案には次に示すように多くの重大な疑義があるにもかかわらず、国会での審議はこの疑義にきちんと応えるものにはなっていません。
私たちは「はじめに派兵ありき」として、自衛隊の派兵実績作りを急ぎ、やみくもにこの法案を成立させようとしている政府・与党、そしてこの法案がはらむ重大な問題性について公正で批判的な報道を行っていないマスメディアの姿勢に憂慮し、市民の皆さんがこの法案のもつ問題性に注意をむけると共に、法案の廃案を求め共に力を合わせて立ち上がることを呼びかけます。
私たちは次の理由からこの法案に反対し、その廃案を求めます。
1.法案は現在の米英軍によるイラク占領の前提となっているイラク攻撃を、国連安保理決議678、687、1441号によって正当化しているが、これらの決議はいずれもイラク攻撃を正当化する根拠となるものではない。米英のイラク攻撃は国際法違反の先制攻撃であり、国連の安全保障体制そのものに対する重大な侵害であって、これを正当化しようとする法案は、日本を米国政府による一極的世界支配のもくろみに全面的に加担させるよう方向付ける危険なものといわなければならない。
2.また、法案は自衛隊の派遣を「安保理決議1483に従ってイラクにおいて施政を行う」米英暫定行政当局(CPA)の同意によるものとしているが、同決議はCPAに国際法上正当な統治主体としての地位を認めたものではなく、CPAが占領当局として国際人道法についての責任を果たすことを求めたものである。従って、自衛隊の派遣はイラクの正統な主権者であるイラク国民の同意にもとづくものではなく、国際法上の合法性のない米英の軍事占領に参画し、イラク国民に敵対するものと言わねばならない。軍事占領への参画はこれまで政府も認めてきた交戦権の行使に当たるものであって、自衛隊の活動内容の如何に拘わらずそれ自体が日本国憲法9条2項にまっこうから違反する。
3.更に、この法案における「安全確保支援活動」とは、具体的には米英軍によるイラク敵対勢力に対する軍事作戦を支援するものであり、それは武器・弾薬ではなく水や食料を輸送するものであっても、また自衛隊自身の武力行使を伴わないものであったとしても、米英軍の軍事作戦と地理的にも時間的にも一体不可分の武力行使にあたる。
また、米英軍に対する武力抵抗がイラク全土で続く中では、「現に戦闘行為が行われていない」という自衛隊の活動地域についての制限は不可能であり、武器使用の規制基準を設けていても攻撃され武器を使用した場合には事実上武力の行使に発展する可能性がきわめて高い。
このように自衛隊のイラク派遣は、日本が海外において武力を行使する、すなわち戦闘に参加するという憲法違反をあからさまに具体化するきわめて危険なものである。
4.そもそも自衛隊は、政府の見解によれば「自衛のための最小限度の実力」であるから違憲ではないとされてきたものである。その自衛隊が日本の自衛と関係のない占領下のイラクに派遣されることは、これまで政府がとってきた政策が根本から転換され、自衛隊が外征軍となることを意味する。また小泉政権は、この法案を足がかりに自衛隊の海外派兵の恒久立法制定を公言している。これは二度と戦争をしないと憲法に掲げて世界に誓った恒久平和主義の立場を投げすてることにつながり断じて許すことができない。
5.現在、イラクの人々は、旧政権に反対していた勢力も一致団結して、イラク国民の政権の成立、米英占領軍の早期撤退を要求している。このような状況下で日本が自衛隊を派遣し、軍事占領体制に加わることはあやまりである。
現在も米英軍に対する武力抵抗は続いているが、占領が長引き、イラク国民の手に政権を返すのが遅れれば、抵抗はさらに広範なイラク国民の間に広がっていく可能性がある。このような状況下で自衛隊が派遣され、米英占領軍の作戦の「安全確保」支援をおこなうことになれば、占領軍によるイラクの人々への弾圧と殺戮に手を貸すことになりかねない。
6.欧米諸国による植民地支配に苦しんだ過去を持つ中東において、これまで日本は、軍事的野心を持たぬ平和主義国家として歓迎されてきた。自衛隊をイラクに派遣し、米英軍占領に加担すれば、日本の民衆と中東諸国の人々との友情に深い傷を残すことになる。それは長期的には、日本の中東における経済的・政治的利益を損なうことにもつながるだろう。イラクの人々が求めている支援は、軍事占領への加担ではなく、医療など国民生活の復興のための支援である。
皆さん、
私たちのこの共同アピールに賛同して下さい。
そして、法案の徹底審議を求めて議員やマスメディアに共に働きかけましょう。
自衛隊の派兵を何としても阻止するため、今後とも互いに連絡を取り合い協力しましょう。
また、私たちの手でこの法案の問題点を明らかにするための「市民公聴会」を開きましょう。
国際法
阿部浩己(神奈川大学)、五十嵐正博(金沢大学)、板倉美奈子(富山国際大学)、岡田 泉(南山大学)、岡田順子(神戸商船大学)、小畑 郁(名古屋大学)、桐山孝信(大阪市立大学)、窪 誠(大阪産業大学)、申 惠手(青山学院大学)、城山正幸(高岡法科大学)、高村ゆかり(静岡大学)、田中則夫(龍谷大学)、柘山尭司(青山学院大学)、西村智朗(三重大学)、福田 菊(龍谷大学)、松井芳郎(名古屋大学)、松田竹男(大阪市立大学)、山形英郎(立命館大学)憲法
愛敬浩二(信州大学)、足立英郎(大阪電気通信大学)、稲 正樹(亜細亜大学)、植松健一(島根大学)、浦田賢治(早稲田大学)、大久保史郎(立命館大学)、大田 肇(津山工業高等専門学校)、岡本篤尚(神戸学院大学)、小栗 実(鹿児島大学)、小澤隆一(静岡大学)、上脇博之(北九州市立大学)、北川善英(横浜国立大学教授)、北野弘久(日本大学)、木下智史(関西大学法学部教授)、君島東彦(北海学園大学)、清田雄治(愛知教育大学)、小林 武(南山大学)、小松 浩(三重短期大学)、笹川紀勝(国際基督教大学)、笹沼弘志(静岡大学)、清水雅彦(和光大学)、高橋利安(広島修道大学)、武永 淳(滋賀大学)、武川眞固(高田短期大学)、塚田哲之(福井大学)、内藤光博(専修大学)、長岡 徹(関西学院大学)、中島茂樹(立命館大学)、永田秀樹(立命館大学)、中富公一(岡山大学)、長峯信彦(愛知大学)、永山茂樹(東亜大学)、成澤孝人(宇都宮大学)、丹羽 徹(大阪経済法科大学)、根森 健(新潟大学)、藤田達朗(山口大学)、前原清隆(長崎総合科学大学)、松井幸夫(島根大学)、丸山重威(関東学院大学)、宮井清暢(愛知学院大学)、三輪 隆(埼玉大学)、村田尚紀(関西大学)、本 秀紀(名古屋大学)、元山 健(龍谷大学)、森 英樹(名古屋大学)、柳井健一(山口大学)、山内敏弘(龍谷大学)、山口和秀(岡山大学)、山崎英壽(淑徳大学)、和田 進(神戸大学)、渡辺 治(一橋大学)中東研究
岡野内正(法政大学)、栗田禎子(千葉大学)、黒木英充(東京外国語大学)、奈良本英佑(法政大学)、藤田 進(東京外国語大学)、山岸智子(明治大学)その他の分野
青島明生(弁護士)、上杉富之(成城大学、社会人類学・東南アジア研究)、生方 卓(明治大学)、小畑精和(明治大学)、加藤瑛子(大東文化大学・日本近代経済史)、福田邦夫(明治大学)、平川景子(明治大学)、山本公徳(一橋大学社会学研究科・日本近現代史専攻)、他一名
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