6月27日、所用で午前中に家を出たのだが、途中、ヒトゲノム解析完了のニュースを集めるために、キオスクで各紙を買った。
朝日、読売、毎日、日経を読んでみたが、最も興味深かったのは読売新聞であった。ヒトゲノム解析といっても、いったい誰の細胞を使って解析したのかという素朴な疑問を抱いて
いる人は多い。ヒトゲノム解析研究は、日米欧の国の研究機関からなる国際チームと、アメ
リカのベンチャー企業セレラ・ジェノミクス社とのあいだで「官民の競争」が続いてきたのだが、27日付『読売』によると、国際チーム側が使ったのは「匿名を条件に了解を得た複数
の人間から採取した染色体だ。その数は二百人ともいわれる」。恥ずかしながら、200人分とは知らなかった。「フランス人の研究者一人分」と誰かが言っていたが、僕はそれ以上確認していなかった。一方、セレラ・ジェノミクス社側が使ったのは「匿名の一人分だが、最終的には、人種と性別が違う米国民六人の遺伝情報をまとめるという」。
今後、一塩基多型(SNPs)という個人間の遺伝子の差を調べるための研究が活発になり、 そのために多くの人から血液などが採取されるだろう(別のコラムにも関連記述あり)。 日本のミレニアム・プロジェクトもそれを目標としている。
また、国際チームとセレラ社とのあいだでの「官民の競争」だが、昨年12月、今年3月には、「セレラ社の顧問でもあるノーベル賞学者リチャード・ロバーツ博士」や政府関係者、 学会関係者が両者のあいだに立ち、話し合いの場がもたれたという。途中物別れにもなった が、最終的には「手打ち」となり、今回、官民仲良く同時発表となったという(日付不明の『ニューヨーク・タイムズ』がそう伝えていると27日付『読売』が伝えている)。
また、27日付『読売』の平山定夫・科学部長の解説によると、セレラ社がヒトゲノム解析 に参入したことによって、「ヒトゲノムのビジネス的側面が注目されることになった」とい うが、この書き方は誤解を招くおそれがある。セレラ社はともかくとして国際チーム側がや っていることにはビジネス的側面がないと読まれかねないからだ。もちろんそんなことはな い。今回終了したのは、ゲノムの塩基配列の解読、つまり構造解析である。今後は、どこに どんな遺伝子があるかを探る機能解析や、個々人の遺伝子の違い(一塩基多型、SNPs)の探 索が課題となる。国際チームが解明した構造解析のデータを利用して、民間企業が機能解析 に成功すれば、その情報で特許を取得し、ビジネスが可能である。また日本のミレニアム・ プロジェクトは、産業側の要請でスタートしたことも見逃せない(これについては、僕も某 誌に掲載予定の記事で書いたのでご参照を)。
なおゲノム解析は、ヒトゲノムだけでなくイネゲノムでも「国際チーム vs セレラ・ジェノ ミクス社」という同じ構図の競争が続いているが、こちらも手打ちになるだろうか? 遺伝 子組み換え作物で悪名高いモンサント社は自社のデータを国際チーム側に無料で提供した。 同じくノバルティス社は、ヒトゲノムでは、セレラ社と契約を結んでいる。さてどうなるか。 (2000年6月27日記)
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