道楽道：連載その７　だから、イベントはやめられない／イベントプレッシャー」に襲われる

石垣島出身の「島唄」歌手（唄者）に大工哲弘という怪物がいる。かれこれ１０年以上の付き合いになる。大工は沖縄県那覇市の職員でもあり、出会ったときから気脈の通じる男だった。その彼が「西武線沿線で沖縄ものをやるのなら白石がいる」と言ったのが運のつき。
小学校教師を途中で辞し、舞踊研究所をつくってプロになった元気なお姉さまが、ある日突然「白石さん、沖縄のひとり芝居をやりませんか」と電話をかけてきた。去年の１１月頃のことだ。
植竹しげ子さんという方をはじめて知ったのは、１年前の３月、東久留米市で北島角子と植竹しげ子の会に誘われて出かけた時である。北島角子さんは、おん年７０を超えるがなおかつバリバリの現職女優として活躍する沖縄随一のオバア役者である。もっぱらひとり芝居を演じ、沖縄では数十年続く長寿ラジオ番組のパーソナリティとしても有名だ。その北島さんのオバアをその時はじめて観た。植竹さんの琉球古典舞踊も同様だ。とてもいい舞台だった。だが、それは単なるお客さんの域を超えるようなものではなかったのだ。
しかし、一本の電話で気持ちがぐらりと来てしまい、植竹さんと「ドトール」で会い、そして「５・１５沖縄返還」の前後に東京で４ヶ所の公演との話が決まった。私は「荒川と東久留米の２ヶ所で、３００人規模の公演、自分が直接集められるのが１００人ずつ」という条件を付けてだった。
ところが、イベントの「プロ」である私としては大失敗をやらかしていた。それは、ギャラなど経費を詰めていなかったことだ。ある程度話が固まってはじめて経費の話をして、思わず眼が点になる。一公演で８０万円はかかる計算だ。私の直感ではせいぜい５０万円、したがって２，５００円券を２００枚、ということで計算が成り立つはずだった。
しかし、すでに走り始めてからお金で蒸し返すのも悔しいので、採算ラインを３，０００円かける２７０人と置き直した。でも、これは厳しい目標で、この段階から「イベントプレッシャー」に襲われる破目となった。半年間のプレッシャーはなかなかきつかった。
結果は、責任開催した「ムーブ町屋」（荒川区）には２８０人が、「東久留米中央公民館ホール」には３２０人が来場、若干の黒となり、スタッフ打ち上げに多少の補助が出せたのでまずまずだったが、反省しきりのイベント開催だった。
ところで、公演の内容は満点近いものだった。北島さん、開催地元のシロウト二人の計３人で三様の「憲法９条朗読」で幕を開け、植竹教室のお弟子さんによる古典舞踊、それに島袋りりあなどによる島唄、それに「毛遊び」（もうあしび）、そして北島さんのひとり芝居という構成である。
ひとり芝居は、町屋では慶良間列島の集団自決を描く「赤いブクブクー」、東久留米では薩摩、アメリカ、日本統治下で翻弄される沖縄人を描く「日本人？」で、この芸の深さは例えようもない。
感動を呼んだ舞台だった証しがアンケートの多さだ。荒川では８０枚が、東久留米でも６０枚が回収された。通常のイベントでは考えられない数であった。
「島の喜び、悲しみ」というタイトルどおり、沖縄の悲惨さと庶民のたくましさ、生活に根ざした芸能のすばらしさがミックス（ちゃんぷるー）された構成が評判となった。
だから、イベントはやめられない、のですね。（つづく）

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