自治労音協通信

 2面  NO38号/00.3.20発行

わがまま音楽紀行(連載第8回) ★インドネシア編・パート2

常夏のインドネシアは楽の国の巻

自治労大阪市職労 宮本雄一郎

ギターを持つ女神像

◆夏の国のお正月から

冬から春へと移り変わる季節になりました。会員の皆さん、お元気でお過ごしでしょうか。私はこの正月休みを利用してインドネシアに出かけ、常夏の国でミレニアムを迎えました。南緯十度のインドネシアは正月も真夏です。頭の上に広がる空は青く透き通り、夏の太陽がじりじりと顔に照りつけます。短パンにTシャツ、帽子とサングラスに足はサンダル履きというのがこの地のスタイルです。暑さのせいで、物事を考えるのがめんどうくさくなってしまいます。「日本には四季というものがあって、冬は雪が降るんだ」と話しながら、四季を当然と思っている自分の存在を少し考えさせられました。
ところで、イドネシアでは米が年に三度とれます。これがいったいどういう情景かお分かりになるでしょうか。つまり季節感というものがないのです。田んぼで米を作っているところを想像してみてください。ある田は水をはってあります。その右隣りの田では田植えの最中です。その左隣りでは稲穂が実っています。その向かいでは稲刈りです。当地の人にとってはそれがありふれた日常なのでしょうが、私の目からみれば四季が並行して存在している異様な光景として目に写ります。
インド洋におちる夕日を眺めながら、この国の自然と人々が生み出した音楽というものに思いを馳せてみました。

◆ガムラン音楽の夜

インドネシアの人々は概して音楽好きです。街を歩くと、通りの片隅でギターを引いている若者によく出会います。仕事が少ないためか、人が多すぎるためかよく分かりませんが、街でぶらぶらしている若い人が多く、そうした若者の集まるところには必ず音楽があるようです。
元旦はバリ島の中央部にあるウブドゥという村に泊まりました。ウブドゥはガムラン音楽とバリ舞踏で有名な村です。私達はジョグジャカルタから移動して、到着したばかりのウブドゥの村で宿を探し、荷物を部屋に放り込んで夕食をかきこみ、バリ舞踏のライブにかけつけました。
ライブといっても人工的なホールなどではなく、舞踏は屋外の庭園で行われます。舞台の庭園はヒンドゥー風の門を背景にしています。観客から見ると、中央に舞踏の行われるスペースがあり、その背後にヒンドゥー門、スペースの左右に学士たち数十人が楽器とともに並ぶという構図になります。舞台の背景となる門の上には蝋燭が灯され、その上空は夜空と星と月です。ヒンドゥー門のあいだから踊り子が登場します。バリの大自然を背景に、鮮やかな衣装をまとった踊り子の舞踏がゆったりと繰り広げられます。音楽もゆったりと始まります。物語は踊り子たちの舞踏と音楽によって進んでいきます。欧米風にいうとオペラかミュージカルというところです。それが土地の自然に溶け込んで、何の違和感もなく存在しているのがインドネシアの特徴というところでしょうか。

インド洋の落日、浜辺を歩く人々

◆ 「辺境」に発するポピュラー音楽

いつもの「わがまま音楽紀行」らしく、ここで話は飛びます。ポピュラー音楽は、市場経済やマスメディアの発達と大衆社会の成立という、この二十世紀に登場し世界的に広まった音楽的傾向です。そして、ポピュラー音楽の流行の元は、常に世界的に見れば「辺境」といわれるような地方から発信されてきました。インドネシアも同様です。
ポルトガルの支配にはじまる西洋文化の影響と、インドネシアの土地の音楽が融合して生まれたのがクロンチョンと呼ばれる独特の音楽でした。クロンチョンはウクレレとギターの中間のような弦楽器で、この楽器の名前がこの音楽の代名詞となったもので、現代インドネシアの音楽になお影響を与えています。クロンチョンに限らず、ブルースやジャズやボサノバやレゲエなど、今世紀のポピュラー音楽と呼ばれる多くの音楽が、「辺境」といわれるような土地から、下層の人々によって作り出され発展してきたことに注目してみたいと思っています。
では、また!


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