「敵基地攻撃能力推進論」に関する申し入れ書(2020年9月26日) |
小牧基地司令 佐藤網夫様
自衛隊員の皆様
毎日の任務、ご苦労様です。周辺の自治体や住民から苦情があっても基地に対する大きな反対が起こらないのは、基地の皆さまが静かに任務を遂行されてきたからだと思います。法的には、66年前の6月、自衛隊の創立前に参議院で決議された「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」や、1972年の参議院での法制局長官の戦力に対する答弁「自衛のための必要最小限度の実力以下の保持は、憲法9条によって禁止されていない」などの戦争放棄と戦力の否認という憲法9条に対応した政府の政治決断として「専守防衛」が80年代まで維持され、それが皆さまの任務を規定していました。
しかし、PKO法によるカンボジア派遣以来30年、その制約が一つひとつ破られ、現在に至り、とうとう政府や自民党から公然と「敵基地攻撃能力の推進」が検討課題としてではなく、予算要求課題として出されているのが今です。皆さまの任務もそれに対応をして変わらざるを得ません。
自衛隊総体としての任務と武器の変質に私たちは強く反対をします。「政治が変われば軍事も変わる」という歴史の事実に基づき、21年度防衛省の予算要求が過去最大の5兆5千億円となるなかで申し入れを行います。
第一に、「敵基地攻撃能力」とは、「先制攻撃能力」の別名です。攻撃される前に、攻撃できる能力を持つとは相手も座して待つのではなく、同じように先制攻撃をしてくることが予想されます。「マジかよ!」と言わざるを得ません。海外での武力行使を認める新安保法制の中にこの能力が位置付けられるとき、憲法9条の死文化の完成となります。日米同盟の強化の中でこの能力は、先制攻撃戦略を取る米軍の一翼として、また、先兵としての役割を自衛隊に押し付ける以外何ものでもありません。日本を戦場にしてもかまわないという前提抜きに、この選択はあり得ません。恐ろしいことです。どうか、基地司令も隊員の皆さまも一人の市民として、この事態を考えてください。誰が儲かり、誰が悲惨な目に合うかということを考えてみてください。
第二に、威勢のいい推進論者たちは、相手国や自国がどうなってしまうのかに対する想像力が全くありません。推進発言の一つひとつが、敵対関係の強化につながり、平和的関係への展望など生まれようがありません。朝鮮国も韓国も中国も、日本に対する疑念を深めるばかりで、歓迎するのはアメリカ一国のみでとりわけ軍と軍事企業と政治の軍産政共同体のみというのは歴然としています。推進論者たちは、朝鮮脅威論をテコとして、だれの利益を代弁しているのでしょうか。
第三に、日本はすでに、小松基地のF15戦闘機、小牧基地のKC767空中給油機、浜松基地のAWACS(早期警戒管制機)という空爆3点セットを持っています。更に、来年6月にかけて鳥取県の三保基地に新型のKC46A空中給油機が配備される予定です。政府は、そして基地の人々は相手国の対応を考えているのでしょうか。イージス・アショアに大反対をした秋田や山口の人々は、相手国の攻撃対象になる可能性に対して恐怖を感じる想像力を持っていたからこそ、反対でした。
第四に、歴史認識の再確立の必要性です。〈ノーモア南京〉名古屋の会が申し入れの中で訴え続けているのは、日本の近現代史を直視してくださいということです。「英米撃滅」論に引きずられた結果、内外に悲惨な惨状をもたらし、大日本帝国は崩壊しました。戦後、侵略を繰り返すアメリカに引きずられるまま現在に至り、自衛隊員の命を守っていた憲法9条の死文化一歩手前です。歴史の教訓を忘れた国は同じ失敗を繰り返します。自衛隊員の皆さまこそが、歴史を直視し教訓を生かすということを忘れないでいただきたい。
侵略国家アメリカに同調して作り上げられた現在の日本。更に、その一歩先へ行こうとする政治的意思が「敵基地攻撃論」の公然化です。私たちは、隊員の皆さまにも家族がおり、本気で戦争をしたい人などいない、平和で平穏な日常を望んでおられると考えてきました。だからこそ、繰り返し申し入れを行ってきました。今後も「政治が変われば軍事も変わる」という信念のもと、諦めることなく申し入れを行います。「憲法9条が自衛隊員の命を守ってきた」という紛れもない事実に目を向け、「敵基地攻撃論」の推進をしないよう、意見具申をしてくださるよう、申し入れます。
2020年9月26日
不戦へのネットワーク