不戦へのネットワーク 有事法制反対ピースアクション

【不戦ネット会報46号/2007年4月26日発行】
シンポジウム「爆弾を落とし続けるアメリカ  平和を装い続ける日本 でも只今再編中」の
一参加者としての感想

 4月14日に、有事法制反対ピースアクション、名古屋YWCA、自衛隊イラク派兵差止訴訟の会共催で「爆弾を落とし続けるアメリカ 平和を装い続ける日本 でも、只今 再編中」と題したシンポジウムがおこなわれました。パネリストは板垣雄三さん(東京大学名誉教授)、田村順玄さん(岩国市会議員)、中谷雄二さん(弁護士)です。時間の制約上、三人の講師の方の主張が直接交わることはなかったのですが、私の中では、三人の主張がしっかりとかみ合って、「今」という時代が明確につかみとれたような気がしました。私たち不戦ネットの企画ではありませんが、有意義なシンポジウムと感じましたので、以下簡単に感想を述べます。

 まず始めは「イラク・中東情勢から」という板垣雄三さんの報告。板垣さんは、イスラムや中東について考える際に、もっとも頼りにできる人です。私たちには一見複雑に見える中東の状況を、板垣さんは、大きな歴史的な視点で分析して明確にし、私たちに自覚をうながす。この講演で語られていたことで言えば、歴史的に欧米諸国は中東(東方世界)に対して、「宗教が違えば対立するものだ」という考えのもと、「宗教紛争の扇動・仲裁・管理」という仕方での関わりを続けたし、現在もそうであるということ。イスラエル、パレスチナ問題がそうであるし、現在のイラクの状況がまさにそうである。それは「9・11」から「テロとの戦争」として続いてきたことです。そして板垣さんが強調されていたのは、イラク戦争、アフガンの混迷という状況のなか、現在が「テロとの戦争の第2段階」=イラン戦争の現実化という状況にあるということ。アメリカが「テロとの戦争」をやめることはない。一言で言うと世界戦争の危機が高まっているということです。日本の平和運動にはどうもその危機感がない。そして、板垣さんは、「反テロ戦争」の克服は、国家的には戦争責任の追及であるが、「個人および民族・集団として自らの責任について倫理的に問いなおすこと」が基本課題となる、と結ばれた。いいかえれば「今の時代にいるお前の責任を自覚せよ」ということになるのだろうか。この「自覚」、あるいは「覚悟」ということが今回のシンポジウム全体のキーワードであったような気がします。

 次に報告されたのは岩国市議の田村順玄さん。岩国といえば、昨年3月12日、米軍再編にともなう厚木の空母艦載機部隊の移駐に対して反対の意思を示した住民投票の大成功が思いだされます。田村さんによれば、住民投票以後も伊原市長が再選されるなど、「移駐反対」の民意はしめされ続けてきたとのことです。しかしながら、国、県、市議会による市長イジメが続いていて、一般会計予算が否決されるなどきびしい状況にあるということです。国は「地域振興策」(愛宕山開発事業の300億の赤字を国がひきうけ、米軍住宅を建てる)という「アメ」をてこにするだけでなく、すでに決定して進行している市庁舎の工事の財源となる補助金35億円を国がカットするなどの嫌がらせを続けており、そのカットされた財源として計上した合併特例債を使った予算案を市議会が否決したとのことです。4月13日に米軍再編促進法案が改憲手続き法案とともに衆議院を通過しました。この法案は米軍再編に伴う法案で、グアムの基地建設費を日本がまかなう、再編受け入れを表明する自治体へは受け入れプロセスにおうじて補助金をだすというものです。岩国での国の態度はまさにこの法案の先取りでした。問題なのは、補助金を出さないだけでなく、すでに決定していた補助金もカットしてしまったということです。これは国の言うことに逆らうことは許さないとの表明であり、報復といえるようなものです。多くの地方自治体が赤字を抱え、財政破綻が懸念されています。現に夕張市の事態が知れ渡っているなか、補助金の削減は大問題であり、住民にとっては恐怖に近い不安だと思います。

 田村さんは財政のことはなんとかなるし、そのうちブッシュもやめるんじゃないかと、冗談まじりに発言されていましたが、それまでして基地に反対していくことは大きな覚悟が必要だと思います。実は、補助金か基地受け入れかというような選択は、沖縄ではずっと続いてきている問題で、沖縄の平和運動は常にそのことがつきつけられてきました。それでも、人殺しのための基地は造らせないと沖縄の人たちは発言してきているのです。どういう暮らしをもとめていくのか、どういう生き方をするのかということが基本課題なのかもしれません。お金の問題ではなく命の問題だということです。「きれいごと」をいかにして政治課題として実現できるのかということでしょう。田村さんは翌日にも予算問題を考える市民の集会に参加する予定とのこと。おだやかでしたが、現場で闘う信念の人という印象でした。

 最後はイラク差し止め訴訟を担当されている弁護士の中谷雄二さんでした。高熱をおしての参加で、まさに気迫の報告でした。テーマは「すすむ改憲の流れを 止めるために」。冒頭、中谷さんはこんなテーマがわずかの時間で語れるならば、とっくに改憲の流れは止まっていると笑いをさそっていましたが、まさにその通りです。しかし、この報告全体を通して、中谷さんの、この集会が無力感を転化する場になって欲しいという想いはつたわってきました。そして、その視点としては、社会運動として、意義申し立ての道具として憲法を使おう、武器にしようということでした。名古屋地裁第7次イラク訴訟判決の判決文のなかで、田近正則裁判長は「9条に違反する国の行為があり、ことが国民の平和的生存権に及んだ場合、国民は訴えることがあるし、違憲審査がありうると明示した」、との報告がなされました。裁判そのものは「敗訴」でしたが、この判決文を判例として生かすため、あえて控訴を断念したとのことでした。この判決文の意味することは、9条が存在するかぎり、違憲判決が出る可能性があり、人格権侵害を認める可能性がある、ということなのです。中谷さんは、これは国にとっては大きな恐怖であると指摘されていました。9条にかかわらず、労働基本権や地方自治などはもう実質上崩壊していて、改憲の必要さえなくなっている現状。この現状に怒り、憲法を武器とした闘いを!というのが中谷さんの提起でした。

 弁護士の中谷さんの提起はここで終わりませんでした。法律の専門家としての話しに引き続き、次に、なにが運動の課題なのか、どのようにつくるのか、というようなことが提起されました。そこでいわれたことの骨子のなかの骨子は「一人でも反対なのか」ということにつきるような気がしました。実力による闘争などの刺激的な言葉も使いつつ言っておられたのはやはり、「覚悟」ということだったと思います。

 その意味でこの集会は、まさにこの4月14日と言う日がどういう日なのかということ、つまり、アメリカはイラン戦争の「準備」を基本的に終わっており、日本においては、改憲手続法と米軍再編促進法が衆院を通過したその翌日であるということを、集会参加者一人ひとりに問い詰めるような集会というような印象でした。それはもちろん結果としてということなので、きびしい雰囲気があったということではありません。むしろ三者三様の話し方によって、気づかされたというようなことです。先にも言いましたが、シンポジウム全体を通して語られていたことを、私なりの感じた印象で表現すると、「覚悟せよ」ということだと思いました。

 最初に述べたように、この催し物報告は、主催者としての報告ではなく、一参加者としての個人的な感想なので、内容や事実関係に誤りがある場合も、3人のパネラーや主催者とは一切関係ありません。実のある集会でした。

(八木)


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