『けーし風』第51号、新沖縄フォーラム刊行会議、2006年6月。
このところ関西の報道は「同和行政」たたきに熱心である。同和対策事業特別措置法の後継法が二〇〇二年に失効したにもかかわらず、被差別部落にたいする行政の特別扱いが続けられ、癒着と乱脈浪費が放置されてきたというのである。
槍玉にあがっているのは芦原病院という医療生協と、飛鳥会という財団法人である。ただし、このふたつ、かなり質がちがう。芦原病院は民事再生法の適用を申請しているが、大阪市からの無担保融資一三〇億円が返済できず債権放棄が必要なことと、さらに補助金を名目外の使途に流用していたことが問題にされている。そもそも芦原病院は「大阪府市同和地区医療センター」、つまり市民病院に準ずる公的医療機関という位置づけで、被差別部落の地域医療を担ってきた。本来なら補助金として承認・執行されるべき事業資金が、特別措置法体制のなかで、市議会を通さない「貸付金」として支出されてきた。これが今「闇融資」だとされている。
飛鳥会は大阪市の外郭団体から駐車場の管理を委託されていたが、部落解放同盟飛鳥支部長を兼ねていた小西邦彦理事長がその収益を横領していたとして、逮捕された。いまだ全容はわからないが、二〇億円を超える銀行預金もあるという。また山口組との深い関係も報じられており、バブル期には三和銀行(当時)が彼を介して暴力団の関係する企業に地上げ資金を融資し、そのうち約三〇億円が不良債権化している。大阪市も解放運動も彼の首には鈴をつけられなかった。どうしてこうなってしまったのか、切開作業は必要である。
しかし、なぜ、こうした部落差別にお金のからむ問題ばかりが集中砲火をあびているのだろうか。大阪市の市債残高は、二〇〇四年度末には普通会計で二兆八六八八億円、特別会計を含めた全会計では五兆五一九六億円にのぼっている。第三セクター方式の大規模開発事業でふくれあがった借金である。それらは文字通り桁がちがう。
難波のOCATビル、大阪南港のATC、WTCビルの運営会社三社はあわせて約五八五億円の債務超過のうえ、再建計画では大阪市からの補助金や家賃などが外郭団体分も含めて総額二一八五億円支出される。大阪ドームはオリックスが買収するが、大阪市は一〇八億円の債権放棄をする。新今宮のフェスティバルゲートでは、土地信託事業の破綻で二〇〇億円を投入している。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンやクリスタ長堀への出資や支援も何百億円単位で未回収だ。
このでたらめぶりに比べたら、じつは同和行政などたかが知れている。ひと頃騒がれた市職員厚遇問題もそうなのだが、財政破綻の本質から市民の目をそらすために、大阪市は市会と結託してマッチポンプで問題化しているのではないだろうか。
それにつけても報道の気色わるさ。解放運動が黒幕で、諸悪の根源だといわんばかりだ。新たな部落地名総鑑の発見回収、戸籍の不正取得は問題ではないのか。たしかに不正は不正として裁きを受けるべきだ。解放運動の自己変革も求められる。けれどこのたがの外れた悪意の噴出には、何ともやりきれない。