2001.2.14.(水)(2019.6.20分離)
敗戦直後の占領軍総司令官マッカーサーの実質的な後継者、ヘイルストン中将の問題のEメールに関しては、原文の「罵り」部分のみしか入手できていませんが、以下のように、『沖縄タイムス』(2001.2.7)に、全体の「訳文(要旨)」と、それへの「釈明文の訳文(要旨)」が発表されており、その翌日に、ダグラス・ラミスの寄稿が掲載されています。この3つの読み比べ、私の短い注によって、「真意」が御理解頂けるかと存じます。
『沖縄タイムス』(2001.2.7)
ヘイルストン調整官のEメール訳文(要旨)
われわれ一万五千人(在沖海兵隊員)は責任を果たすためにこの島に駐留している。海兵隊は三十四年以上にわたり、私の人生であり家族だ。一般的に海兵隊が人々を困らせているということは事実ではない。しかし、われわれは一連の事実(事件・事故)を無視することはできない。個人に責任を押し付けることもできない。われわれ指導者も同じ罪を犯しているのだ。
なぜ、下品な行為に及ぶ不健全な隊員が海兵隊にいるのか。なぜならわれわれは海兵隊と隊員について何も知らないからだ。バーや警察でトラブルになる隊員に対し、われわれはその兆侯に注意を払ってこなかった。これはお願いではない。命令だ。問題を起こす前に隊員を鍛えろ。法律やルールを破るものは抑えつけろ。
私は最近、海兵隊の規律が欠如しているとの指摘をいや応なく聞かされている。それに対し、われわれはどのように説明すればいいのか。
最近、金武町で起きた分別をわきまえない事件について言及しよう。(事件は)反基地主義者たちに攻撃する自由を与えた。知事や副知事、吉田町長、国会議員らは先週、私に対し「私たちはあなたの努力を理解し評価します」と言いながら、扇動的で(米軍が)損害を受ける県議会決議を可決するとき、彼らは何もしなかった。彼らは頭がおかしく、腰抜けだ。
しかし、ダメージ(海兵隊の)は残ったままだ。リーダーシップがこの状況を救うことができる。われわれ海兵隊へのとどまらない不信の洪水を止めろ。司令官はそれができる。努を続けていこう。
調整官の釈明文
在沖米海兵隊外交政策部(G5)から県に送られた釈明文の訳文(要旨)◇
私が指揮官に送った私的(プライベート)な電子メールが不適当に公表されたことは知っている。これに関する私の考えを明らかにしたい。それは私の指揮官や代理指揮宮への私的な内部通信だった。指揮官らの注意を促すためのメッセージだった。
私が知事や両副知事、吉田(勝広)町長および議会のメンバーを敬服し、尊敬していることを明らかにし。もしも私の電子メールでの意見が誤解を招いたなら、非常に残念であり、それは私の真の意図ではなかった。私のメッセーシはこれらの事件は受け入れ難く、それを防ぐためのスタンスを続ける必要があるということである。
私はこれらの事件を可能な限り最小に抑えることに専念する。同じく沖縄のリーダーたちとの協力関係を継続することに専念する。この二年にわたり、共に事件・事故を滅少させるために協力した。われわれの真の努力が数人のはね返り者のために水の泡になることは、われわれを深く落胆させている。私の指揮官にも私の挫折感を知ってもらいたかった。そして海兵隊の多くの隊員にも。
そこでの会話は非常に激しいものだが、それは私の(事件防止への)思いが強かったからだ。最後に私は沖縄の人々や選ばれた県議会の人たちに深い尊敬の念を持っていることを明らかにしたい。私の私的な電子メールに起因したあらゆる不快感に謝罪したい。
『沖縄タイムス』(2001.2.8)
軍事思想で綱紀正せぬ
■力での抑圧/■女性蔑視
寄稿:ダグラス・ラミス
在沖米四軍調整官アール・ヘイルストン中将は、その電子メール発言問題に対して、それは「プライベートな時に出した言葉であって、本当の気持ちではない」と弁解した。プライベート上の「本音」と公の「建前」との区別が常識になっている日本語に直すと、全くナンセンスになる。このことに、彼は気づいていないようだ。しかし日本語で言っても英語で言っても、彼の弁解は信じられない。
電子メール中の問題発言の段落は「I tell you」(君たちに言います)から始まる。この言葉が「今から本当の気持ちを話します」という合図になっている。和訳すると、「本当のことを言うと」とか「本音を言うと」になるだろう。この段落には「the locals who falsely claim to be our friends」(われわれの友だと不誠実にも主張する地元の人々)という一言葉がある。これは非常に強い発言だ。「false claim」というのはつまり、嘘(うそ)のことだ。一般的に最もひどいのは「私はあなたの友達だ」と嘘をつくことだろう。こういう「不信の友」は自分を裏切る人であり、実は最も危険な敵だ。 [Re:false 最下段の木村愛二の注を見よ]
同じ段落で、ヘイルストンはこの「不信の友」を「all nuts and a bunch of wimps」と呼んでいる。「nuts」という言葉はとても曖昧(あいまい)で、日本語で同じぐらい曖昧な「ばか」が適訳だろう。
「wimp」の方は興味深い。「腰抜け」や「弱虫」という訳は当たっているのだが、イギリスの俗語で「女」という意味の語源を持つ言葉だそうだ。つまり、この言葉の暗黙の前提は女性蔑視(べっし)である。腰抜けの弱虫は「女のようなヤツ」という言い方だ。おそらく「女々しい」が適訳だろう。調整官がこの言葉を選んだことが興味深い。米軍の暗黙の男性中心・女性蔑視の価値観が変わっていないsということが読み取れる。
ヘイルストンは「海兵隊の規律が欠如しているとの指摘」を「BS(Bullshit)」(牛のふん)、つまりナンセンスといっているのだが、同じ電子メールには司令部には手かおえない基地の中の規律の乱れた状況が描かれている。「なぜ、下品な行為に及ぶ不健全な(sick)隊員が海兵隊にいるのか」「なぜ、上級下士官や将校まで酔っぱらい運転で逮捕されているのか」という繰り返される質間から、ヘイルストンのいら立ちが伝わってくる。
しかし解決策としては「教育」には触れず、上からの力による抑圧の強化しか言っていない。「get tough」(容赦しないでおけ)「squash them」(つぶせ)「kick but」(ケツをけれ)。 「われわれが侮兵隊組織に従事しているのは24x7(一日に二十四時間、週に七日間)」とも書いてある。このような全体的な力による抑圧の強化は逆効果を起こさないかという疑問がある。そもそも、問題の基本的な原因となる「女性蔑視」「力による抑圧の発想」が司令部にある以上、その司令部か実施しようとする綱紀粛正がその問題の解決になるとは信じがたい。
◇ ◇
ダグラス・ラミス:ー九六〇年、海兵隊員としてキャンプ瑞慶覧に一年間駐留。軍隊という組織に疑問を抱き、除隊。昨年まで津田塾大学教授(政治学)。政治学者。二〇〇〇年から那覇市在住。
木村愛二の注 Re: false・「不信の友」
私が最近、何度か各所で紹介している以下のように表裏の言い換えのある英語の諺は、日本の諺で言えば「人を見たら泥棒と思え」と同程度に、英語圏では人口に膾炙しており、七つの海を王室特許の海賊(海兵隊の祖先)を先頭にして荒らし回り、近代の植民地世界帝国を築いた英語使用者の世間対応、特に植民地で現地人の手先を使う際の常識的な判断指針になっている。
A false friend is worse than an open enemy(偽の友は公然の敵より悪い)
An open enemy is better than a false friend(公然の敵の方が偽の友より良い)