禁断の極秘文書・日本放送労働組合 放送系列
『原点からの告発 ~番組制作白書'66~』11

メルマガ Vol.11 (2008.02.28)

第2章 制作条件をめぐって

2 現場の実態

B 番組単価

 人員と並んで制作条件のもう一つの重要な柱は番組予算である。

――製作本数の多さによって、1人当りの番組数の多さについては既にふれたが、それに伴って極端な経費の節減が要求されテレビ50000円弱、ラジオ7500円弱という平均になっている。(教2)――

 例えばこの部の「看板番組」である語学講座においても

――(TV)で平均58500円、(R)8700円では外人ゲストの出演者も限られてくる。また、寸劇を入れるために、フィルムで現地(もちろん国内で)撮影を行えば効果的であることがわかっていても不可能である場合が多く、またスタジオでも2本撮りの制約もあって、2週とも同一セットを使い、話の内容だけを変えることが最近では多い。

 さらに外人の出演者については、10年間その格付けを変えず、NHKに対する貢献度によって評価することがないため、外人の当然の要求と協会との間に立って担当者は非常に苦しい立場に立たされる。また、スキット等を書くことに対する評価もなく、外人タレントとの業務はますます難しくなってきている。(当然契約制を考えるべき)現在の予算ではともかく、テキストに従って最小限を放送するのが精一杯であるのが現状。(教2)――

 前には人員不足からくるリサーチ不在、企画からの疎外という面から放送制作者としての条件の空洞化ということが言われた。ここでは「番組予算」の不足という面から同じことが起っている。「このためスタジオのセットもフィルムロケも中継も……多くの必要なものが切り捨てられている」、「PDの制作意欲を阻害し質的な低下をもたらす要因となっている」、「資料はほとんど出演者におんぶする」、「多角化する技術をわかり易く示す材料を揃えることはできない。外部団体に依存する現状では主体的な制作は望めない」のである。

 これはもはや「簡素化」でも「工夫」でもない。放送そのものを歪め、制作者としての主体性をおびやかしているのである。

――『都民の時間』の予算は1本1万円だといわれている。しかし、どういう根拠にもとづいてこの値段が割り出されたのかは、全く理解できない。

 実際に、制作過程で経費としてかかるものは、車代(ハイヤー)、謝物、謝金、雑費、その他ということであるが、まず車代は、かりに2日間都内を取材してまわることにして、1日最低5000円はかかるから、5000円×2=10000ということで、車代だけで1本分の予算が消えてしまう勘定になる。ところが車代はこれ以上かかっているのが現状である。したがって車代以外のニコニコ、タクシー代、雑費(出演者のとの打合わせ用の前渡し金―これは“都民”1本の予算は1万円だといわれると、とても請求するための伝票を書く気が起こらないというのが担当者たちのいつわらない気持である―)はもちろん、謝物、謝金までも全部予算をオーバーしているわけである。1本1万円の予算内でできるのは、ただ一つ記者座談会を企画したときぐらいのものである。

 それ故、上からはたえず「車はハイヤーでなくてタクシーにせよ」という声がかかる。しかし都庁とか日本住宅公団といったような、既に相手の位置を十分に承知していて、まっすぐそこに向かえるところならいざ知らず、例えば住宅のこみいった下町の一般庶民の家を訪ねながら取材するような場合などは、とてもタクシーは使えないのが現実である。それでも担当者たちは少ない予算のことを思って、できるだけタクシーを利用するように心がけ、またどうしてもハイヤーが必要な時は往路だけハイヤーを使い、そこに着いたらただちに車を返し、帰りにはタクシーをひろって帰ってくるといったやり方をしている状態である。時には電車や都電、あるいはバスなども利用しているのである。

 こんな状態だから、車代以外はできるだけ経費がかからぬようにし、取材しても、相手にお礼のあいさつをするだけで帰ってきたり(タダで仕上げる)、打合わせにはできるだけ金をかけないようにしたりしているわけである。果たして、これで十分な取材ができるであろうか。(報7)――

――テレビ社会科番組の場合。

 「この番組は政治、経済、社会への理解を深め、よりよい民主国家形成のための意欲を高めようとしている。社会の機構や社会の動きをより具体的に見せるため、最近のNHKニュースや現地取材によるフィルム、ドラマなどによって教室では得がたい教材を提供する。また、この放送教材を基礎とした視聴後の指導や話し合いを通じて、現場での社会科授業が生き生きと展開されることを期待したい」(学校放送テキストのねらいより)

 この番組は、月曜日に放送されているが、火曜日に再放送、水曜日に再々放送が行われている。(これらの番組は、現場での利用を考えて再放送、再々放送を増やしている)。

 テキストのねらいにも明記してあるように、テレビの社会科教材としては、テレビの即時性を生かして最新の社会の動きを現地に取材し(太字傍点)、教科書を中心にした教室の授業では得難い教材を提供することが大きなねらいになっている。そして、果たして今の予算がこのテレビ教材の特性を十分に生かした番組制作の条件を満たしているかどうか?という点が大きな問題なのである。

1 せめて、1本当りの制作単価として140、000円ほしい。

 今年度この番組に与えられた1本当りの番組単価は、113、804円である。この額は、昨年度の1本当り単価157000円に比較すると大幅な予算削減である。なぜこんなに予算をけずられたのであろうか?

 昨年度、この番組は、年度の途中で担当者が日本賞の応援に行くなどで、予算的には恵まれていたが、番組制作に十分手をかけるだけの時間的余裕がなかった。そのために、番組の方もフォーマットを対談に、抜焼フィルムをインサートするという最も手間のかからない方法で制作せざるを得ない状態となり、実績としては年間を通じて1本当りおよそ90、000円程度で番組が作られたのである。この実績が大きく影響して、今年度は始めから1本当りの単価が40、000円以上も削減されて、113、804円という数字となって現れたのである。

 担当者としてみれば、昨年度の番組制作こそ不本意なものであり、今年こそは十分手をかけてと思っていたのに、その昨年の実績がそのまま予算に反映してしまったのでは、再び昨年度と同じ気力のない番組作りをくり返さざるを得なくなってしまうのである。

2 せめて、担当者が納得できる番組作りがしたい。

 今年度の予算、113、804円では、とても“最近の社会の動きを取材した”番組制作はのぞめない。もちろん、年間40のテーマが全て毎回取材を必要とするわけでもなく、またドラマにした方が良いような素材もあるわけである。担当者が希望するフォーマットの内訳は次の通りである。

ドラマ形式        8本   @200,000
新撮によるフィルム構成  15本   @177,000
対談と抜焼フィルム    17本   @75,000

 200,000×8+177,000×15+75,000×17
―――――――――――――――――――― =138,250
          40

 138、250円即ち約140、000円がせめて納得できる番組制作の為の最低経費である。細かい数字が出てきてうるさくなるが、このドラマ形式と新撮によるフィルム構成については、ぜひその予算の内訳とこの形式でとりあげたいテーマを具体的に明らかにしておかなければならない。

3 ドラマについて

 ドラマ形式にしたいというテーマ8本は次の通りである。

「わたしたちと政治」
「人間の尊重」
「明治憲法の時代」
「憲法のめざすもの」
「生活の権利」
「政治への参加」
「生活と法律」
「模擬裁判」

 番組経費の内訳

文芸委嘱  11,000
音楽委嘱   9,000
出演料   69,000
      楽団  @2,000×8名
      劇団  @6,000×8名
      解説者 @5,000×1名 
美術    100,000
台本印刷   5,000
車代 6,000(+
――――――――――――
      200,000

 この計算は、一般の番組単価計算から見れば非常にラフなものであり、しかもドラマとしては最低の計算であると思う。しかしこれでもおよそ200、000円の経費が必要である。

 さて、この8本の内訳であるが、どのテーマをとりあげてみても、『模擬裁判』をのぞいては、絶対ドラマでなければならないという必然性は持っていない。予算がなくなれば、1人の講師をスタジオに招いてストレートの話をしてもかならずしも看板にいつわりありとはいかないかもしれない。しかし、テレビ教材として、教育現場では得がたい教材を提供することをねらいとする番組担当者としては、それでは満足できない。大きなNHKという組織の必要上、人手が不足している、予算が足りない、合理化しなければならないという組織上の必要性が大きくのしかかって、担当者のこの番組に対する良心をふみにじってはならない。しかし、実際問題として、このような場合は往々にして、安易な方法がとられやすいのが今の学校放送の現状である。

4 新撮によるフィルム構成について

 この形式で制作したいというテーマは15本である。

「行政とそのはたらき」
「地方自治のすがた」
「ある織物工場の歴史」
「物の値段」
「大企業と中小企業」
「産業の成長と公害」
「福祉国家への道」
「道路と地域開発」
「輸出産業」
「平和への努力」
「村の生活、都市の生活」
「ふくれあがる都市」
「伝統を受けつぐもの」
「社会への目」
「変わりゆく農村」

 番組経費の内訳

文芸委嘱   11,000
音楽委嘱    9,000
出演料    26,000
          楽団 @2,000×8
          ロケ協力礼  10,000
ロケ旅費   40,000
          PD・カメラマン2名  5泊6日
雑費     20,000
フィルム経費 60,000 (2,500Feet)
台本印刷    5,000
車代      6,000  (+
――――――――――――
       177,000

 この予算の算出の中に、既にいくつかの大きな問題が含まれている。

イ 文芸委嘱料の中にライターの取材費が含まれていないことである。現在、2泊3日で委嘱料11、000円のライターを大阪に派遣したとすると、日当、宿泊、旅費に多少の雑費を含めて30、000ほどの経費が必要である。そうなると、ライターに取材に出ていただける機会2回に1回とか3回に1回というようにどうしても減らざるを得ない。そうなると、ライターとしても昨年、一昨年のくり返しの台本を書かざるを得なくなる。

ロ またこの予算の中には、担当者の下見(ロケハン)の経費が含まれていない。現在、この番組は2人の担当者が制作に当っているが、この2人にはラジオの番組が毎週1本入っている。この労働量では、とうてい下見に出る時間的ゆとりがない。

 イ、ロの制作条件のもとで、たびたび予算のチェックが行われれば、担当者としても抜焼とスタジオの対談という昨年度のくり返し、予算的にも労力的にもゆとりのある方向へむかわざるを得ない。

 ここにあげられた15本の新撮希望のテーマにしても、ドラマと同じで、絶対に新撮しなければならないということではない。しかし、“最新の社会の動きを現地に取材し、教室の授業では得難い教材を提供する”ことを最大のねらいとする番組が、年間40本のうち半数近くの番組を、既に撮影ずみのもので間にあわしていくという考え自体に矛盾があるのではないか。少なくともささやかな15本の新撮希望などは、担当者の最低の希望といわねばならない。くり返すが。学校放送にはもちろん2年~3年と同じフィルムで使用できるものもある。しかし、こと社会科(傍点)という教科に関しては常に社会の動きを反映した、新鮮な素材をとりあげるべきではないか……。

 対談と抜焼を中心にした番組の制作費75、000についての内訳は省略する。ただ4000フィート程度のフィルムを焼いたとすると、そのフィルム代だけで30、000円、この予算の半分に達してしまうことだけをしるしておけば、この予算がどの程度のものであるか解っていただけると思う。そして担当者のせめて希望する14、000円の予算が配布されたとしてもまだ年間40本の希望のうち17本はこの予算で制作しなければならないのである。

 番組の内容については、テレビの視聴している現場の先生や、番組委員会の先生の意見が大きく影響して決められる。この番組の委員会の意見としては、先生が画面に出て解説する番組よりも、やはり教室では得がたい写真資料やフィルムを中心にした番組を期待する声が強い。しかし、予算はこのような番組の内容からくるフォーマットを支えるために組まれるというよりも、昨年度の実績とか、合理化の要請とか、それ以外の条件のもとに決められてくる。そのギャップの間で苦しんでいるのが社会科グループの実情であるといえよう。

 ここまでテーマをしぼって考えた時、この問題は、単にこの番組の固有の問題でなく、赤字に悩む社会科グループ皆の共通の問題になる。

 ここで、社会科グループの8月末現在の番組実績単価と残予算単価、計理率を比較してみるとよくわかる。

対象番組名予算単価8月末日
までの
実績単価
残った
予算の
1本当り
単価

計理率
小学校
うちのひと
がっこうのひと
165,818 230,430 148,13242.0
良太の村191,500306,673 144,60150.5
わたしたちのくらし157,804181,048150,64138.3
テレビの旅116,696105,987125,29622.7
くらしの歴史196,500296,253 160,69247.0
中学1日本の地理・世界の地理208,260269,101 139,230
わたしたちの社会113,804165,12692,08248.1
高 校世界の地理104,414114,62798,52240.1

(注)計理率が35%位ならば、予算のペースで進んでいることになる。

 これは我々が、どんな制作条件のもとでどんな番組を作りたいか、という白書運動に対する直接の答えではないかもしれない。ただ日常の通常番組の制作に当っても、こんな苦しみがあるのだという一端を、皆の話しあいで出た抽象論をもとに調べた結果が、このようになったのである。しかしこの番組制作の基本的な条件である予算の問題が解決されなければ、良い番組の制作も何もあったものではない。(教1)――

 我々は何も無限の番組予算を要求しているのではない。予算節減の努力を無視しているのではない。ただ現状では番組の成立基盤そのものである「さまざまの事象の中からできるだけ新しく身近な話題をえらび出し、その社会的ひろがりをさぐり、その矛盾や問題点を明らかにする(都民の時間)」「テレビの即時性を生かして最新の社会の動きを現地に取材し教科書を中心とした教室の授業では得難い教材を提供する」ためのという最低の条件すら保証できないことになる。