第2章 制作条件をめぐって
2 現場の実態
A 業務量に追いつけない定員(後半)
現在週3本の「自動車整備講座」を制作しつつ、同時に「テレビジョン
技術講座」の企画、人さがしやテキストづくりをしていなくてはならない
……「隠れたベストセラー番組」の実態がこれである。
現行の人員配置が如何に不備なものであるか。これでは如何に番組に支
障を来たすかを分析したレポートの1、2例を以下に示そう。
―― 英語番組制作のための業務
1週間にテレビ番組1本を担当するとして、1週間実働38時間の内訳はどうなっているだろうか。
1 実働38時間のワクで
○企画、出演交渉 2時間
○台本作成 10時間
(現在英語の台本を高校番組を除き、担当者がskit部分、drill部門も執筆)
○デザイン打合わせ 3時間
○テロップ・パタン発注 4時間
○諸伝票類発注 2時間
(録画、放送、出演料、接待、撮影、写真パタン、配車等)
○VTR収録準備 5時間
(台本検討、出演者連絡、カット割り、パタン・テロップ類整
備等)
○VTR収録 7時間
(本番PD、技術打合わせ→VTR資材管理納入まで)
○FD・SD業務 5時間
(現在、英語グループでは毎週、PD、FD、SD業務に、最低各1回は従事せざるを得ない。
FDは技術打合わせ後の出演者打合わせの段階から、SDの場合はCR段階からと考えてもそれぞれ3時間、2時間は従事せざるを得ない。)
合計 38時間
1週間実働38時間のワク内で英語番組制作の業務を考えると、以上のようになる。しかし、これらの数字を検討してみると、かなり無理にワクの内にあてはめていることが分ると思う。さらに、ここには、フィルム撮影や編集の業務を、故意に省いている。従って、実際には英語グループでは、毎月、時間外労働を行わざるを得ない状態にある。
さらに、上記以外の各種業務が相当量になる。それらを考えてみよう。
2 時間外労働でどういう業務をしているか
「番組年間計画、学期計画作成のための委員会開催」(委員の委嘱、召集業務を含む)
学校放送番組の特殊性から、利用者の要求に応えて、年間計画の大綱及び楽器ごとに番組内容を予め定める必要がある。その際、学校向け番組(教材番組)として、とくに教育関係の専門家の意見を聞くために、この種の委員会が必ず開催される。
「番組用テキストの原稿作成、校正」
上記委員会の結果等に基づいて、番組を利用する教師、生徒のためのテキストが毎学期発行されているが、その原稿作成(出演者、ライター等にskeletonを委嘱することもある)及び校正等の業務がある。
この二つの業務は年間常時ではなく、各学期ごとに、従って1年に3回あることになる。
「番組利用現場との接触」(高校、中学校の教師、生徒との接触)
学校放送番組はその性質からいっても、教育の現場でどのように利用されているかを、常に考慮して制作しなければならない。
そのために放送教育会全国連盟(いわゆる全放連)の組織を通じての放送教育大会に出席し、研究授業を参観し、各教科ごとの都合で利用者の報告を聞くことが欠かせない。さらに全放連の大会の他にも各校ごとの研究会(例えば、各県ごとにある放送研究委嘱校の研究会)への出席は、現場からも求められるし、制作者としても是非必要である。
「番組利用者の局内見学案内」
全くの雑用ということになると、地方等で番組を利用している立場から、番組制作の現状を見学したいという希望が来ることがある。現在、本館では案内業務を廃止しているので、担当者が案内せざるを得ない。
「番組制作のための資料蒐集」
英語番組を制作していく上に不可欠な資材がまだ十分な段階にない(風物詩的ものの資料、フィルム、写真、その他、歌曲、楽譜、レコード等)。そのために各大学、図書館、大使館等を回って蒐集する必要がある。
「出演者のリサーチ」
番組にふさわしい出演者を、あらゆる方面からスカウトしなければならない。各大学、大使館、その他個人的な関係等も通じて常時リサーチしておく。(外国人は滞日期間が短い者が多いこと、身元をはっきり確かめる手段が難しいこと等で、通常日本人出演者の場合よりも、リサーチに時間を要する。)場合によっては、出演者の滞日期間延長のための申請書類の作成をする必要もある。
「日本賞、世界学校放送会議の雑用」
単に、英語が若干できるというだけで、翻訳、タイプ、外国へのフィルム送付業務、その他の雑用が命じられる。緊急に、来日外国人の案内を命じられることもある。
「フィルム撮影、同編集」
中継下見等の業務及びこれに伴う諸伝票発注業務。
このうち伝票発注業務の複雑さ、繁雑さについては、度々指摘されている通りである。
所定実働時間内労働及び時間外労働によって実施している業務は大略こうしたもので、これらは「職務権限事項」等には含まれているが、実際に1週間に1本の割当で制作を担当している現状では、ただ単に番組を制作しているに過ぎないということが理解されよう。
英語グループとしてはこの現在の番組担当状態を、人員を増加することにより解決する必要があると考える。
かりに、2週間に1本の番組制作を担当することになれば、かなりの余裕を持って番組制作業務に従事することができよう。さらに我々が、現状ではとてもできないが、(あるいは、時間外労働、家庭等でなし崩しにしてはいるが)こうした仕事も是非しなければならないと考えている業務に次の如きものがある。
3 もっとやりたい(やらなければならない)業務
「英語教育一般についての学習」
英語そのものについての学習、英語教授法の研究、英語会話、英文タイプ等のskillの習熟、英米文化全般についての研究。
このためには資料蒐集、研究会、講習会等への出席が必要である。研究会としては全放連の他に、例えば全英連大会、都高・中英研大会、高視協研修会、Chomsky講演会等)これらは英語番組の年間計画、各学期ごとの内容、ねらいを設定する際にどうしても必要な学習である。
「出演者の養成、発掘」
既成出演者に頼らず、また各大学、大公使館、個人関係の紹介だけでなく、積極的に在日外国人を調査し、auditionを行い、学校放送番組に適当な出演者に育成する。
「トピックハンティング」
英語番組としてふさわしいtopicを探すために、十分調査をする。(現状では、例えばアメリカン・スクールの取材も、地域的、時間的な制約で限られてしまい、より広い範囲の取材ができない。)
「英語番組制作(演出)技術の研修」
日本賞、世界学校放送会議等を契機として、諸外国の英語番組も多く集まるので、これらを十分研究するための試写会、合評会、勉強会等の開催。
日本の民放各局(学校放送としてはNETのみだが)の英語番組の研究ももちろんである。
「番組内容の直接的向上のために」
特撮(ハイ・スピード撮影、アニメーション撮影)シルエット、cartoon作成の考証、指導、書直し。現在までの蒐集資料の整備。
以上、英語番組についての業務を中心に三つに分けて考えてみた。
ここでは、人員不足していることが番組制作にそのように影響しているかがテーマであったが、その他にも、番組経費、制作パタン等で、制作条件についての不満は多かったことはもちろんである。(教1)――
――だいたい『現代の映像』が6週間、『新日本紀行』が5週間に1回登板の順番がまわってくることになっている。『現代の映像』の場合、「42日に1本作ればよいのだから楽なものだ」と考える人も多い。しかし、プロデューサーの仕事の項で述べたように制作、演出、進行などの役割を1人でこなす我々の場合はかなり肉体的、精神的に苦しい時間である。42日の平均的時間割をちょっと書いてみると、ネタ探しに10日、ロケに2週間、編集開始から放送まで2週間ということになる。合計38日、6週間のなかには日曜が6回あるし、国民祝祭日、有給休暇の合計を6週間に平均すると約4日の休みがある。42日中フルに使えるのは32日、標準労働日数より6日も少ないことになる。ロケ2週間というのは今までの経験でこれ以上縮めるのは無理だし、編集、原稿、ダビング(作成)に2週間かけるのも、編集員の労働、現像能力、作曲家への時間などでこれ以上短縮できない。とすれば、マイナス6日は企画、テーマ探しの時間にくい込んでくるか休みを犠牲にしなくてはならない。素材のよしあしが良い番組を作る上で70%の比重があると言われるドキュメンタリー番組では、企画の貧困はそのまま自分の番組の項に反映する事になり、番組可愛さに休みを犠牲にする仲間が多い。
また、我々の仕事のように一種の請負仕事的な職種では、1人が休めばそのまま、他の仲間が1週ずつ担当番組がくり上り、5週に1本という強行スケジュールになる。病気になると他の人への迷惑を第一に考えるというのが実情だ。我々にとってはこの時間的に余裕のない事がもっとも苦痛である。
こうした労働条件の下で職制側から我々に要求されるのは新しいドキュメンタリーの創造という課題だ。『素顔』から『記録』、『映像』と発展して来た歴史の中で新分野の開拓、新しいフォーマットの発見ということが常に言われる。しかし、6週間という決まったローテーションの下で冒険する余裕はない。失敗作は不満足のまま聴視者の前にさらけ出されてしまう。冒険をするためには勉強する時間が欲しい。映画を見、ドラマを見、シナリオを読み、人と会う時間が欲しい。そしてNHKの看板番組である現代の映像担当者の責任を果たしたいと思う。(報7)――
『英語教室』にせよ、『現代の映像』にせよ、これは決して特殊な悪条
件の例をさがし出してきたものではない、いやむしろ『映像』などは恵ま
れた例ですらあるだろう。
会長の訓辞をまつまでもなく、少しの時間でも捻出したいのだ。しかし
教養よりも、修養よりも明日の準備がまだできていないのだ。
ここに『都民の時間』制作日記を掲げておく。
――『都民の時間』制作日記
8月9日のカメラリポートを出してから、都民の時間に移った。
8/11昼すぎ横浜のライフル持ち逃げ事件に関連して、都の銃砲類の管理問題を12日に出すことに決まり、Aさんと取材に出かけた。作成時間を21~22時に繰り下げてパッケージを終わる。Aさんは12日放送のものを中止してこの仕事に掛ったわけだ。
8/12(金)、昨日までライフル事件の応援で横浜に行っていたFさんが8/15担当だが15日が月曜日なので今日を入れて2日しかない。私が手伝うことになり、2人で田無にでかけた。警察や団地などを回り夜遅く帰局。
8/13(土)、昨日収録したテープの編集、作成に立会う。次の担当の日は17日と決まった。リサーチの電話を入れる。
8/15(月)、17日用収録のため鎌倉へ。市役所北区鎌倉学園等をまわり、夜遅く帰局。
8/16(火)、17日用収録のため北区役所へ行く。14時に帰局すると、明日分は課程保育の問題にさしかえが決定していた。Dさんが出先から電話してきて、都庁に収録に行くように頼まれた。すぐ都庁に出掛けた。帰局後、私の分とAさんDさん収録分の編集とコメント書き。作成を19~20時にすませた。
8/18(木)、局内でリサーチ。8/12用の収録をたのまれ午後出掛けた。
8/19(金)、8/7の日曜出勤の代休を取る。
8/22(月)、昨日の集中豪雨で被害を出した中小河川を明日扱うことになった。Dさんが都庁と中野区へ、私は板橋区へと飛んだ。作成を21~22時にのばした。
8/23(火)、26日放送用の資料調べ等。
8/24(水)、26日用収録に世田谷の国立小児病院へ行く。
8/25(木)、家から国立小児病院、開業医をまわり出局。テープ編集、コメント書き作成。
8/26(金)、31日用ネタ捜し。
8/27(土)、31日用電話取材。
参考までに8月の担当を表にすると次のようになる。(略)(報7)――