送信日時 :2001年 8月 11日 土曜日 6:59 PM
件名 :[pmn 15858] 東条英機の映像記録による歴史認識の危険性
わが電網宝庫読者が届けてくれた『朝日新聞』(2001.877)切り抜きの特集「戦争の死者をどう悼むか」(中)の最後に、「東条英機元首相の孫、NPO法人理事・東条由布子」さんが登場しました。
1939年生まれとあるので、私より2歳ほど若いようですが、この方とは、つい最近、7.18.新宿歌舞伎町情報発信基地ロフトプラスワンにて紹介を受け、名刺を頂き、儀礼的ながらも若干の会話をし、私が舞台に上がった後、降りてから客席で隣に座り、一応は、その人柄を実感しました。彼女も客席発言の予定者として招かれて来場していたのでした。
彼女は、上記の寄稿の最初に「靖国さま」などと記しているように、いわゆる上品な言葉使いと静かな物腰、戦前の上流階級の極度に厳しい礼儀作法を仕込まれた日本女性と理解します。私の年頃の女性の中には非常に多い典型の一つです。
靖国神社の公式参拝問題では、彼女は、中国の主脳が「東条を除けば、靖国神社のことは問題にしない」と「言ったと聞き」、同じくA級戦犯として絞首刑に処せられた板垣元陸相の遺族から「自発的な合祀取り下げの働きかけを受けた」とし、著書の『祖父東条英機「一切語るなかれ」』の無断出版で親族を怒らせたと記し、揺れる心境を告白しています。
これも一つの議論の材料でしょう。しかし、私は、彼女が実の孫だからと言って、「祖父東条英機」を正確に理解しているとは思いません。おそらく表面だけしか知らないでしょう。『プライド』などのデタラメ映画もありますが、実際には、たとえば、当時のニュース映画や東京裁判の記録映画などによって、ほとんどの日本人と同様、虚像を植え付けられていると思います。
私は、東京裁判の法廷で米軍が撮影した16ミリフィルムを編集した長時間の映画を、渋谷の映画館で見た時のことを思い出します。古い16ミリフィルムを焼き直して35ミリにしたものなので、傷が多く、雨が降るという業界用語の典型でした。目が痛くて堪りませんでしたが、重要な記録なので、我慢して全部見通しました。
その時の感想を、ある著名な「左翼」の映画評論家に語ったところ、露骨に嫌な顔をされました。私は、簡単に言うと、高級軍人なんてのは常に人前で演技しているのだから、戦犯として裁かれている状況だけを表面的に編集して見せれば、結構格好良いなと思われてしまう。だから、映画関係者の意図や宣伝とは逆の効果を発揮してしまうと言ったのでした。
今、私の手許には、『昭和陸軍『阿片謀略』の大罪/天保銭組はいかに企画・実行したか』(藤瀬一哉、山手書新社、1992.2.20)と題する単行本があります。私は、この本が出る3年前、『噂の真相』(1989.5)に「戦後秘史/伏せられ続けた日本帝国の中国『阿片戦略』の詳報』を寄稿しました。これは、下記で無料公開しています。
http://www.jca.apc.org/~altmedka/ahen.html
上記の単行本には著者の経歴紹介がないので、もしかすると旧軍関係者の筆名ではないかと想像しているのですが、従来の資料と比較して特段に詳しいのは、冒頭に「陸軍エリートによる倫理なき軍事謀略/はじめに」の項を立てているように、陸大出身者(徽章が天保銭に似ていた)の特権支配が、国を誤らせたとする厳しい告発です。その天保銭組の代表が東条英機なのです。
私の短い記事にも簡単に記してありますが、関東軍参謀長だった頃の東条英機は、天皇の意志も陸軍本省の制止も無視し、自由に使える機密費欲しさに、しかも、参謀長が軍を率いるという軍規にも触れる暴挙によって、阿片栽培地帯を侵略し、謀略の限りを尽くし、その後の中国侵略の拡大への奈落の道を突き進んだのでした。
このような事実は、教科書は愚か、そこらの御立派な大出版社の歴史叢書にすら載っていないのです。だから、本や雑誌よりも観客動員力のある映画で、東京裁判の法廷で「演技」をしている東条英機の姿を見せ、それで歴史を考えるように観客を誘導してしまうと、とんでもない間違いを犯すことになるのです。
映像は、使い方を誤れば、非常に危険なものなのです。これから「敗戦記念日」を巡って、またぞろ、危険な使われ方の映像が流れるでしょうから、あえて一言しておきます。
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