『亜空間通信』2001.11.26:111号

共産党員運営「さざ波通信」が海上保安庁法「改正」案賛成の中央を噴飯と批判

送信日時:2001年 12月 15日 土曜日 11:48 AM

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『亜空間通信』111号(2001/11/26)
【共産党員運営「さざ波通信」が海上保安庁法「改正」案賛成の中央を噴飯と批判】

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 転送、転載、引用、訳出、大歓迎!

 呆れた話なのだが、私個人としては論評する気も起きなかった国会猿芝居の一幕について、日本共産党員が運営する「さざ波通信」が、海上保安庁法「改正」案賛成の中央を噴飯と批判する論文を発表した。一般紙でも「驚き」として報じられた「事件」である。

 以下、「さざ波通信」の見解の基本姿勢のみを簡略に紹介して置く。

 現在の日本で、日本人民の「主権」をもっとも脅かしているのは、アメリカ帝国主義と日本独占資本である。この「2つの敵」が日本の政治を支配し、経済・外交・軍事を牛耳り、さまざまな権力機構を通じて人民を支配している。[中略]今回のテロ関連3法案とは、[中略]「2つの敵」による支配を、このうえなく強化する法案なのである。

 以上で一部引用終わり。言葉が固いが、これは基本であろう。

 ただし、日本共産党の軍事問題に関する矛盾の根源は、戦後の日本憲法制定当時に、今では裏切り者として除名の汚名に塗れた野坂参三が、当時の国際共産主義運動の軍事路線に従って、自衛権の放棄に反対したことに発している。野坂を除名し、ソ連や中国の共産党を訣別したはずの日本共産党が、その根本に立ち返った徹底検証を怠っていること、または、そんなことをする気もないことに関しての徹底検証なしには、この問題の決定的な評価はできないのである。

 以下、同論文を全文紹介する。

「右傾化の新段階――海上保安庁法改悪案に賛成した日本共産党」

1、党史上はじめて安保関連法に賛成

 日本共産党は、10月16日の衆院テロ問題特別委員会で、海上保安庁法改悪案に賛成した。日本の安全保障関連の法律に賛成したのは、党史上はじめてのことである。

 今回の海上保安庁法「改正」案とは、海上保安庁の巡視船が「不審」と認めた船に対して、この船が停戦命令に従わないときに、相手の船体を射撃し人命殺傷しても罪を問われないという「危害射撃」を認めるものである。この海上保安庁法「改正」案は、政府がこの5年間で成立をめざす「中期防衛力整備計画」の主要な柱の一つであった。今回の同時テロ事件のような特殊な背景がなければ、猛烈な反対世論との衝突は避けられず、およそ今国会の形式的な審議で強行できる類のものではなった。

 この法律は、戦力の不保持、「武力による威嚇」はもとより、「武力の行使」を認め、しかも武力の行使にあたっては「先制攻撃」を認めるという明確な憲法違反の法律である。日本共産党は当初、これらの法案を審議するための特別委員会の設置や、国会での趣旨説明に反対した。しかし、海上保安庁法「改正」案については採決の当日に、与党3党と自由党、民主党らともに突如賛成に回った。さらに29日の参院本会議でも賛成にまわった結果、憲法違反の法律が、参院の96%(反対したのは社民党の8名のみ)という圧倒的な賛成によって成立してしまうという異常事態がおこった。

 日本共産党は、16日のテロ対策特別委員会での採決について、翌17日の「しんぶん赤旗」で、ほとんどの読者が気づくことのできないような小さな記事で、次のように報道した。

日本共産党/海上保安庁法改正案に賛成

 2001.10.17「しんぶん赤旗」

 衆院テロ問題特別委員会で16日、海上保安庁法改正案の採決がおこなわれ、日本共産党は賛成しました。

 海上保安庁法改正案は、日本の領海内に侵入した外国の「不審船」が、停船命令に従わず、逃走しようとした場合に、海上保安官が威嚇だけでなく、船体への射撃ができるようにするもので、射撃によって人に危害を与えても違法性をとわない要件を定めるものです。

 海上警備は海上保安庁の任務であり、日本共産党はその権限強化は必要なことだとして賛成しました。自衛隊法改悪法案も、自衛隊に同様の権限を与える規定を盛り込んでいますが、これには反対しました。

 これは、いったいどういうことか?

「射撃によって人に危害を与えても違法性をとわない」という言葉は、他でもない我が党自身の言葉である。日本共産党は人命殺傷を認めるというのか?

 テロ関連3法を阻止するために私たちは集会を組織していたのではないのか?

 いつ、どうやってそんな方針がだされたのか?

 このような基本的な疑問に、この記事はなに一つ答えなかった。

「さざ波通信」にも投稿が寄せられたが、党本部には少なくない疑問の声が寄せられたに違いない。

 翌18日、ようやくこの問題に関する公式見解が発表された。以下が全文である。

海上保安庁法改正案─主権侵害に対抗する警察力の強化は必要

2001年10月18日(木)「しんぶん赤旗」

 日本共産党は、十六日の衆院テロ問題特別委員会で、海上保安庁法改正案に賛成の態度をとりました。

 日本の領海内で挙動不審な行動をしたり犯罪の疑いがある外国船舶に対応するのは警察力であり、それが海上保安庁の任務です。

 いわゆる「不審船」などによる領海侵犯などがあった場合、軍隊である自衛隊ではなく、第一義的には警察力で主権の侵害を守るのというのが、日本共産党の考えです。

 その海上保安庁の能力に問題があれば、きちんとした機能強化が求められます。たとえば、海上保安庁の巡視船の速度が遅くて「不審船」などに追いつけない状態では困りますから、巡視船の高速化、大型化が必要です。

 また現行法では、法令違反などの疑いがあり、停船命令を出しても従わず、逃走する「不審船」を停船させる手段として武器の使用を認めています。このとき威嚇射撃はできますが、人に危害を与える恐れのある、直接船体に射撃することは許されていません。

 今回の改正では、当該船舶が法令違反などの疑いがあり、かつ停船命令を出しても抵抗・逃亡しようとする場合に、最終手段として、人に危害を与えても罪に問われない「危害射撃」を認める要件を定めるものです。

 日本共産党は、「不審船」に対する立ち入り検査などは必要なものであり、停船命令に従わずに逃亡する場合には、危害射撃によって逃亡を阻止することが必要との立場から、今回の法改正に賛成したものです。

 こうした危害射撃は、実際の運用では慎重さが求められることはいうまでもありません。

 なお今回の自衛隊法改悪法案で、自衛隊に海上保安庁と同様の権限を与える規定をもりこんでいましたが、日本共産党はこれには反対しました。

 この公式見解は、法案に賛成した理由についての説明を試みているが、そもそもなぜ説明が採決の前ではなく、「事後報告」となったのかという点は答えていない。つまり、「抜き打ち」で賛成にまわったということは、事実上認めたものとなっている。

 また内容についても噴飯ものである。武力の行使を「主権の侵害に対抗」と言い換え、危害射撃の容認を「警察力の強化」と言い換える。これは、「構造改革」という名で、国民生活を破壊する小泉・自民党の手法とほとんど同じだ。すでにトピックスで批判をしたとおり、99年に「不審船」が能登半島沖で発見され逃走したという事件に対して、「もっと有効に対処しなければならない」「法整備をしてしっかりとした防衛を」といった政府・マスコミのキャンペーンに日本共産党もまんまと乗せられたかたちになってしまった。

 そもそも共産党のような階級政党にとって、日本の主権問題を、なんら定義をすることなく論じることなどできるだろうか?

 単刀直入に言えば、現在の日本で、日本人民の「主権」をもっとも脅かしているのは、アメリカ帝国主義と日本独占資本である。この「2つの敵」が日本の政治を支配し、経済・外交・軍事を牛耳り、さまざまな権力機構を通じて人民を支配している。たとえ、選挙権があっても、彼らの権力が揺るがないためのあらゆるハードルが設けられている。このしくみに批判的な世論はマスコミでは決して扱われない。日本共産党の主要な任務は、このような政治支配体制を打ち破っていくことである。

 しかるに、今回のテロ関連3法案とは、アメリカを中心とした「普通の国」列強による世界秩序のなかで、日本が本格的にその役割を担っていくためのものであり、「2つの敵」による支配を、このうえなく強化する法案なのである。

 また、護憲・平和運動にとっても、「警察力」増強によって「主権」の侵害に対抗せよという主張は、二重・三重の裏切りである。たとえ自衛隊の解消をめざしたものなのだと釈明したとしても、やろうとしていることは武装船による危害射撃なのである。これは、海上自衛隊のかわりに海上保安庁を軍隊化させる主張である。

 しかも、現実の国会では、今回の海上保安庁法「改正」は、自衛隊の解散・縮小とセットで提出されたものではまったくなく、逆に国家機密法の一部を取り入れた自衛隊法の改悪とセットで提出された。自衛隊の存在が前提である以上、国会議員団がとった行動と党指導部の説明は、現実には軍拡をもたらす行動であり主張なのである。これは軍事費の削減を掲げているわが党のこれまでの政策にも反する。党の路線、大会決定にしたがうなら、どう解釈しても賛成などできるものではない。

2、過去の党の対応

 かつて、戦後間もない時期に海上保安庁が設置され、その「警察力」を肥大化させたり、軍事的性格を強化させるように企てられたときに、日本共産党は徹底して闘い、その危険性と支配層の狙いを明らかにしてきた。

 例えば、1950年に、海上保安官の武器使用基準が広げられ、量的にも警察力の増強がなされようとしたときには、これが人民支配の体制を強化するものであると指摘し厳しく批判した。

第7回参議院本会議(1950年5月1日;板野勝次議員の国会質疑)

 共産党はこの法案に反対であります。

 この改正案の第一の特徴は、地方の管区本部が国警の全国六管区制と完全にマッチするよう改正されましたけれども、管区本部の設置箇所の争奪に会いまして現行通りにはなりましたが、明らかに警察力増強と共に海上保安庁が人民弾圧の武器に性格を変えようとするものであります。

 第二の特徴は、旧海軍軍令部から受け継いだ管船課を主とする新設の船舶技術部と現地採用によつて旧海軍軍人が圧倒的多数を占める哨戒課が警備救難部の中心となつて、管船区と同様に旧軍人からなる掃海課を中心として動く航路啓発所のいわゆる第一線の勢力が、事実上海上保安庁の中枢を占めるように強化されるのであります。

 第三の特徴は、海上保安官が任務遂行に当って武器の使用範囲が警察官と同様拡大されたこと、又非常事変に察しまして附近にある人及び船舶に対して協力を求めることにしてありますが、これこそ曾ての国家総動員の戦後版であります。

 第四の特徴は、主として62隻の旧海軍掃海艇に乘つて瀬戸内海方面の掃海に従事していた掃海課所属の旧軍人約2000名は、海上保安庁職員の定員1万名から除外されており、新らしく警察権を持つ海上保安官に登用されるような巧みな措置がとられ、臨時職員だという名目で増員される危険性が多分にあります。

 改正の主な特徴点は以上のようなものでありますが、本法案の改正の裏には、警察力の増強に対応した保安庁機能の強化と旧海軍省の復活が企図されているのであります。即ち昨年七月下旬に結ばれた海上保安庁と国警との業務協定、並びに同年十二月九日に結ばれた海上保安庁と国家消防庁との協力規定、及びマル秘となつております非常配備規定等は、警備救難部哨戒課が中心となつて旧海軍の戰時船舶部署標準等を参考として作成したもので、国警や自治警の非常事態発生に対する配備規定に呼応し、想定される事態は天災地変と犯罪暴動の二つでありますが、明らかに大衆運動仰圧の意図を秘めているのであります。

 また1951年に、政府が海上保安庁内に海上保安隊(52年4月に設置され同8月に分離独立したのち、54年に海上自衛隊になった)を設置してその軍事的性格を強めようとしたときには、憲法の平和主義を最大の武器として徹底抗戦した。

第12回衆議院内閣委員会(1951年11月16日;加藤充議員の質疑)

 日本共産党は本法案に対して反対であります。

 日本はその憲法において、ただ、戦争と武力による威嚇または武力の行使はせぬと宣言しただけではなく、その宣言を履行するために、陸海空軍その他の戦力は一切保持せず、国の交戦権を認めないと規定しておるのであります。だから戦力である迫撃砲やロケット兵器を持つような警察予備隊や国警、海上保安隊を持つこと、及び軍事協定により日本が提供するものが、軍事力であろうと、軍事基地その他の方法であろうと、他国と共同防衛の協定を結ぶがごときは明らかに憲法違反であります。このことは自衛権だというようなごまかしは断じて許されないのであります。

 さらに最近においても、海上保安庁の巡視船の武装ぶりを調べあげ、武装した巡視船は、憲法の平和主義に抵触し、およそ対外的に用いることなどできないという立場から論陣を張った。90年の不破委員長(当時)の国会質疑をみてみよう。

衆議院;国際連合平和協力に関する特別委員会(1990年10月25日)

○不破委員 今度は、海上保安庁の船舶を利用するという条項がありますが、海上保安庁のどんな船を使うつもりですか。

○丹羽政府委員 お答え申し上げます。

 基本的には海上保安庁の巡視船を使用するつもりでおります。

○不破委員 さっきの防衛局長の話だと、小さいものじゃ無理なようですね、派遣するのに。中型、大型の巡視船が何隻ありますか。

○丹羽政府委員 海上保安庁の巡視船につきまして、中型、大型というのがどこまで当たるかというのはいろいろな考え方があると思いますが、仮に私どもがつけておりますPL型、PM型ということで考えてまいりますと、PL型が全部で四十七隻、それからPM型が四十七隻でございます。

 なお若干、先ほどの御質問につきまして単純にお答えしましたものですから、真意が伝わらないといけませんので申し上げますが、海上保安庁の巡視船を輸送に使うというつもりではございません。

○不破委員 海上保安庁の巡視船の一番大型のものは、私の調べですと十隻あって、十隻全部四十ミリ機関砲、二十ミリ機関砲、三十五ミリ機関砲で武装していますね。それから、今言われたPLという大型巡視船は、三十七隻あるうち三十六隻が四十ミリ機関砲、二十ミリ機関砲で武装しています。それから、中型PMも、三百五十トンですが、四十二隻のうち四十隻が二十ミリ機関砲で武装しています。こういう巡視船を今度の平和協力隊に協力を求められますか。

○赤尾政府委員 三条二号の「平和協力業務」がいろいろとございますが、その中に被災民の救済等がございまして、主として平和協力本部の……

(不破委員「武装の話ですよ、どんな任務であろうが」と呼ぶ)

 依頼します任務のことでございますね。私は今、どういう仕事を頼むのかというふうに理解しましたものですから私が出てまいりましたけれども、考えられる業務といたしましては、例えば被災民の巡視船による救済でありますとか、傷病者に対する救急医療活動、あるいは沿岸国への搬送等の業務が考えられます。

○不破委員 答弁する人は、質問がわかる人に立ってもらいたいですね。海上保安庁といったって、巡視船は圧倒的部分が、中型以上は武装しているのですよ、二十ミリないし四十ミリの機関砲で。その機関砲を持った船を協力隊にそのまま動員できますかということを聞いているのですよ。だれか、やはり将来の本部長、答えてくださいよ。

○柳井政府委員 輸送ということではございませんけれども、海難救助等に海上保安庁に御協力いただくわけでございますが、その際、そのような装備を持った船を使うということを考えているわけでございます。そのような場合にそれを取り外すというようなことは考えておりません。

○不破委員 そうすると、ほとんど使える船はないんですよ。わざわざ海上保安庁を動員して、船舶を動員すると言っても、原則非武装とあなたは言われるけれども、原則非武装の巡視船なんてほとんどないんですよ。そういうことをほとんど担当者が理解もしないままつくった法律だとすれば、私は、本当にこれが将来運用の中でどれだけ肥大化するかということを恐れをなしますね。

 このように、1990年当時の不破氏は、たとえ海上保安庁の巡視船といえども、それがかなり強力な武器で武装していることを問題とし、それが国連への平和協力の一環として海外に出されることに対し、厳しい追及を行なっていたのである。ところが今では、自衛隊と海上保安庁を機械的に分離し、海上保安庁が主体になるならば、たとえ、相手の船舶に直接武力で攻撃を加えて死傷者を出すような行動をとっても、「警察的行動」であるから問題はないという議論を展開しているのである。

 以上見たように、共産党が、平和と憲法の問題をめぐって、大きな変質を遂げたことは明らかではないだろうか。

3、日本共産党が賛成に至るまで

 今回の海上保安庁法「改正」案は、同時テロ事件を契機に一気に浮上・成立したとはいえ、その重大な契機となったのは、99年2月の「不審船」をめぐる一連の問題である。史上初めて「海上警備行動」が発動され、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機が、合計1300発(海上保安庁の分を含む)もの警告射撃を行なったことに対し、日本共産党の不破委員長(当時)は、憲法擁護の立場からの批判をなに一つ行なわず、「全容の究明」を述べるだけで、その後においても沈黙を守った。

 結局、日本共産党は、この「不審船」事件に関して正式にコメントをしないまま事態が進行し、政府内では、「不審船」事件を口実とした法整備が着々と進められていった。

 私たちは、「さざ波通信」2号の雑録「不審船への警告射撃は憲法違反――共産党は断固糾弾せよ!」のなかで、このときの日本共産党の対応の問題を指摘し厳しく批判した。

 しかし、実はこのときすでに、我が党指導部は、憲法の平和主義を擁護するという立場から決定的に離別をはじめていたのである。これは、党の右転落を危惧していた私たち編集部の予想を、その規模もそのスピードもはるかに上まわるものであった。

 たとえば、『しんぶん赤旗』の客観報道的な記事として見過ごされていたものにも、武力行使を容認する重大なメッセージが含まれていた。

海保のヘリ防御推進/不審船対策を強化

1999.08.19 日刊紙

 海上保安庁は十七日までに、不審船への対応能力の強化策として同庁のヘリコプターを防弾材で覆うなどして防御能力を高めることを決め、経費を来年度予算の概算要求に盛り込みます。武器を携帯してヘリに乗り込んだ保安官が威嚇、支援射撃することができるとの判断も固めています。

 三月の不審船の領海侵犯事件では、海上自衛隊からの通報をうけて海上保安庁の巡視船艇が、二隻の不審船を追跡。巡視船艇は停船させようと威嚇射撃しましたが、スピードに勝る不審船に振り切られました。一方、航空機は不審船に追い付き、追跡・監視していましたが、武器が搭載されていませんでした。

 防備強化により、ヘリは従来以上に不審船に接近し、活動できます。同庁は、ヘリに機銃などの武器を取り付けることは構造上困難で、同庁所有の固定翼機からは威嚇射撃できないとしています。

 この記事は、その大部分が客観報道として構成されているが、よく読めば「武器が搭載されていませんでした」という箇所が、「しんぶん赤旗」によって記述されていることがわかる。驚くべきことに、日本共産党はこのとき、武器を搭載していたならば武力行使が必要な場面であった、という内なるメッセージを送っていたのである。

 また、「しんぶん赤旗」にはなぜか掲載されていないが、国会においても同様のやりとりがなされていた。2000年4月18日の衆議院安保委で、日本共産党の佐々木陸海氏が「不審船」事件に関して次のような質疑をしていた。

佐々木陸海議員

 ああいう不審船が来た場合に、捕まえて、そしてもう二度とそういうことができないようにきちんと調べてということをやりたいという国民の感情も、それは当然ですよ。しかし同時に、私が言いたいのは、今日本の周辺の国が、至るところの国が日本にどんどん不審船や工作船を派遣して、日本の様子を探っている、どの国か捕まえてみなきゃわからないなんという国民の意識じゃないんですよ。

 大体あんなことをやるのは、ああ、あの国だなというのはあるわけです、国民の合意として、意識として。そういう事態でしょう。今、世界の国々が、どの国も全部ああいう不審船を出して、互いに相手の国の動静を探り合うなんということをやっているような時代じゃないんですよ。かなり時代おくれの、ああいうことをやっている、それはどこかということは、日本国民ならだれもわかっているわけです。

 そして、そういう国に対して、そういうことをやる者に対して、抑止と対話という、国際的には二つの対処方法があるということも私もよく存じています。そして、日本の対処の基本というのはどういうところにあるべきかという問題があるわけで、これは皆さんがどう考えようと、今の日本国憲法のもとでは、海上保安庁を本当に必要なだけ強めて、これを追っ払うなら追っ払うということをきちんとやるというのが今の憲法のもとでの基本的な対応方法であって、だから、自衛隊法の八十二条なんかをああいうのに発動するということになると、さっき防衛庁長官ちょっと答弁に詰まったように、まともな説明もつかなくなるようなことも起こってくるということを私は指摘したいわけです。

 このように、このときすでに佐々木陸海氏は、「海上保安庁」という警察力を「必要なだけ強め」ることを主張している。いつ、どうやって、このような立場が決定されたのか?

 なぜ「しんぶん赤旗」には、この質疑の内容が掲載されないのか?

 この佐々木発言と「しんぶん赤旗」記事とあわせて考えるならば、私たちはもっと早く指導部の変質に気付き、近い将来に日本共産党が「主権」の名のもとに日本の武力行使を容認する立場に転落する危険性があることを強く強く訴えていかなければならなかった。

4、党員を欺くクーデター的路線転換に抗議する

 日本共産党指導部が、テロ問題をめぐって国連の軍事行動を容認したことと、現状日本の主権確保に武力行使が必要とする立場に踏み入れたことは、日本共産党の右転落の道をたどる上で、昨年の自衛隊活用論とならんで、決定的な出来事である。この右転落は、私たち一般党員が、どれほど認めたくないものだとしても、現実である。

 これまで、30数万の党員の統合力を保ちつづけるために、我が党指導部は、どんなデタラメであったとしても、過去との整合性についての説明を求められ、ときに詭弁を弄しながらもその説明責任に応えてきた。一般党員は、それがどのような見解であれ、信頼する指導部の説明であれば、その方針を「ストンと落とす」ための努力をしてきた。

 しかし、今回の問題に関しては、我が党指導部は、ついに最小限の説明責任すら果たすことなく、事実上、クーデター的な手法で路線転換を行なった。6月28日付の「しんぶん赤旗」を見てほしい。これが、今回の海上保安庁法「改正」案に対する、事前に説明がなされた唯一の記録である。

不審船対応で「船体射撃」も/防衛庁が法案準備

2001.06.28「しんぶん赤旗

 防衛庁は二十七日、領域警備に関する法整備の基本方針をまとめました。今後、内閣官房や警察庁、海上保安庁と法案化作業を進めた上で、秋の臨時国会にも提出します。基本方針によると、「不審船への対応」に関して、「不審船を停船させるため、他に方法がない時は合理的に必要とされる限度で『船体射撃』を行うことができる」ように法整備します。

 この場合、結果として船舶の乗員に危害を加えた場合でも、自衛官が責任を問われないようにする方針です。この関連で、海上保安官も同様に「船体射撃」ができるようにするとしています。

 また、治安出動の際の武器使用権限に関し、少人数の武装工作員への適用を可能にします。

 よく見てほしい。この記事は、一般党員の目には、とくに違和感なく読めるだろう。それは党員にとって、「船体射撃」が違憲行為であることは自明であり、それを防衛庁が準備している危険性を報じることは当然だからである。

 しかしこのときすでに指導部は、この法律に賛成する立場へと変質していたのである。この記事は、「反対しなかったコメント」という意味で、賛成するための既成事実、アリバイとして使われたのである。

 したがって、国会議員級の幹部や「しんぶん赤旗」編集部などの主要な党幹部たちでさえ、この法案に日本共産党が賛成するということを最後まで知ることができなかったのである。

 だから「しんぶん赤旗」紙上での表記が、「『改正』案」となったり「改定案」となるようなブレが生じたり、党本部書記局の幹部にとってさえ、賛成したことが「寝耳に水」となるような事態が生じたのである。

 これまで、党の主張や行動に多少の不安や疑問を抱いてきた党員であっても、きっと復元力が発揮される、いずれよい方向にいずれ変化するはず、といった大局的な信頼によって、自己の党員としての存在を理解しようとしてきた人もいるかもしれない。

 しかし、私たちの指導部は、こうした私たちの政治的信頼を踏みにじり真っ向から裏切った。

 私たち一般党員は、指導部にとって、新路線に追従・適合させていくための対象でしかないのである。この事実を、いま勇気をもって認識することが必要だ。この党を改革していくことは、現在の私たち党員に課せられた歴史的な責任であるということを自覚するべき時ではないだろうか。(K・M編集部員)


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