送信日時 :2001年 10月 2日 火曜日 11:25 PM
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『亜空間通信』26号(2001/10/02)
【サウジ大使:狂信者集団の犯行に見せかけた国家的背景を持つテロの可能性】
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転送、転載、引用、訳出、大歓迎!
『朝日新聞』(2001.09.30)
私の視点
特集・米同時多発テロ[私ならこう付ける大見出し]
狂信者集団の犯行に見せかけた国家的背景を持つテロの可能性[朝日が付けた大見出し]
過激派生む貧困、一掃が必要駐日サウジアラビア大使 モハメッド・バシール・クルディ
サウジアラビア・メデイナ生まれ。シリア・ダマスカス大法学部卒。1961年サウジアラビア外務省入省、1963年駐日大使館総務および文化担当官。その後駐スペイン大使などを歴任し、1998年から現職。65歳。
[私ならこう付ける小見出し]
広島・長崎の原爆被災者を思い起こし数千人の命を奪つた9月11日の卑劣なテロをテレビで見ながら、私は、広島・長崎の原爆被災者を思い起こしていた。あの朝も、想像を絶する残酷な不意打ちに罪なき無数の市民の命が奪われた。
神はコーランに示している。「神が人類をそれぞれ違う種族と部族に分けたのは、互いに知り合って、幸せな人生を築き上げ、協力しあおう」ということだと。今回の惨劇は犯罪行為であり、このテロ行為を世界中のイスラム教徒が断固非難し、議論の余地なく否定するのも、まさにコーランの教えによる。
ブッシユ米大統領は今回のテロを「21世紀最初の戦争」と宣言した。一方で、これは戦争ではなく、警察の守備範囲だどいう見方もあるが、どう定義するかは本質的な問題ではない。大事なことは、こうしたテロを二度と起こさないこと、そのために何をしなければならないのかを考えることだ。
首謀者とみられているオサマ・ビンラディンは、湾岸戦争後に設けられたサウジ国内の米軍基地に対して、異教徒を国土に駐留させていると自分勝手に反発し、行動している。わが国には、政府の指導者と一般の人間が意見を交わす協議会があり、いつでもドアは開かれている。
ビンラデインであれ、だれであれ、自分の意見をすぐにテロに発展させ、不安をまちらすことは許されない。ビンラデインのようなイスラム過激派を、イスラム原理主義者と同一視するのは間違いだ。人が過激派になる理由は様々だが、不当な扱いを受けたり、弾圧や隔離をされたり、母国を失ったりすると、往々にして過激に走る。一方、原理主義者は、常に原理原則に立って考え、行動する人々のことであってキリスト教徒にもいる。
イスラム過激派のタリバーン政権をわが国が承認したのは、アフガニスタンに平和と安定を願ったからだ。このイスラム教国はソ連の侵略に苦しみ、それを克服した後に多くの勢力が力を得るために戦っていた。わが国は首都カブールを制した強い勢力を認めた。それがタリバーンだった。しかし、今回の事態を受けてタリバーン政権とは断交した。今はこちらからいろいろ働きかけるのは不可能だ。
事件の真相解明は、米連邦捜査局(FBI)であれ、一捜査機関で対処できる限界を超えている。世界中の惰報機関が連携しないと、我々の文明社会は守れない。まして今回の事件は、狂信者集団の犯行に見せかけた国家的背景を持つテロの可能性をぬぐえない。米政府の情報秘匿にはやむを得ない面もある。
それにしてもわからないことが多い。米捜査当局が乗っ取り犯と名指ししたサウジアラビア人が死んではおらず、チユニジアの航空会社に勤務しでいるとCNNが伝えていた。同じく乗っ取り犯とされた別のサウジアラビア人も実際にまだ生きていた。容疑者リストに載った者のうち、すでに5人は事件に無関係と判明している。
真実を徹底的に明らかにすること。そしで何より過激派を生みやすい貧困を政界から一掃すること。第2次大戦後、欧州の復興を助けたマーシャルプランのようなものがぜひ必要だ。それらに向け、私たちは日本となら大いに連帯できる。日本は欧米と違い、イスラムと戦火を交えたことがなく、未来にわたって尊敬しあえる間柄だ。もつとも今は世界が力を合わせ、闇の勢力と闘うときだ。
(原文英語)