これまでは、日本での国籍の役割をいくつかの側面から見てきた。国籍の意味をさらに探っていくために、日本との差を意識しつつ、フランスにおける国籍の役割を見てみよう。
まずフランスにおける国籍の取得と在留資格について紹介しよう。フランスは日本と同じく血統主義を採用しているから、父母の一方がフランス国民であればフランス国籍を取得できる。ただし生地主義的な要素もかなり強い。両親がともに外国人であっても、本人がフランス生まれで5年の間フランスに居住し、国籍を取得するという意思表明をすれば国籍を得ることができる。つまり、フランス社会との密着度が高い外国人(フランス生まれ、フランス育ち)は、希望があれば国籍を得ることができるようになっているのだ(この制度をそのまま日本に適用するとどうなるだろう)。また、アルジェリアなどの旧植民地出身者は、他の外国人より簡単に国籍を取得できる。それから、フランス人と結婚した外国人も共同生活が2年続けば国籍を取得できる(子供がいればすぐもらえる)。表6から近年かなりの数の外国人がフランス国籍を取得していることがわかる。
次に、外国人の滞在と国外退去について。1990年現在、フランス在住外国人は総人口の6.3%で約360万人にのぼる。フランスでは、近年の法改正で労働許可と滞在許可が切り放されて、3種類の滞在許可が存在する。外国人は、3年間滞在を続けると居住者証がもらえ、そのうち国外退去を命じられない地位も得ることができる。また、フランス人と結婚してもフランス国籍を取得しない外国人配偶者には、無条件で10年間フランス滞在が許可され、許可後1年たてば国外退去させらなくなる(ちなみに日本の場合、外国人配偶者の在留資格は6カ月・1年・3年がある)。また、フランス生まれの外国人の子は、未成年の間は在留資格を問われない、つまり国外退去させられることはない。居住要件(フランスで5年過ごすこと)を満たしている人は、成年になってフランス国籍取得を選べばそれでよし、選ばなくても10年間の滞在が許可される。もちろん公序に反する行為をしなければ更新できる。フランスを中心に生活している外国人が、国籍の取得を含め、安定した在留資格を得られるように配慮していることが分かる。
最後に、外国人に対する社会保障について少し述べておこう。フランスにおいては、基本的に、社会保障は外国人に対しても平等に適用される。フランス人であろうと外国人であろうと、全ての労働者は、医療保険(日本の国民健康保険のようなもの)・年金・失業保険などの各種保険に加入する義務がある。また、子供に対する手当として家族給付というものがあり、国外の子供でも条件しだいで給付されることがある。