(1)パーム油ブームの背景
セッケンの原料として、この数年パーム油の消費量は急激に増加しました。90年から92年にかけて消費量は約23倍にもなりました。
◇セッケン加工原料としての日本でのパーム油の消費量◇
90年 499t 91年 6382t 92年 11585t (通産省鉄鋼化学調査室)
この理由として次のようなことが考えられています。
- メーカーが「環境ブーム」に合ったイメージの商品で売り出そうとした。
- 一年中安定して生産できる、収穫率が高い(約3500kg/ha 大豆は319kg ナタネ409kg)などの理由により、マレーシア政府がゴムにかわる輸出品として生産力向上に力を入れ、品種改良・製油技術の改善等を進めたため、需要・供給が共に増加した。
- 組成が似ていて競争になりやすい牛脂・豚脂等のその他の動物性油脂よりも価格が安くなった。
- 産油国である中近東が度々戦火に見舞われるため、メーカーが石油以外の原料の安定供給を求めた。そこで政情の比較的安定したマレーシアからの原料の一定量の確保がしだいに望まれるようになってきた。
このように増産が続くパーム油ですが、その生産現場では何が起こっているのでしょうか。現場を訪ねて様子を見てこられた坂本さん・辻村さんのお二人にお話しをうかがい、以下のことがわかりました。
(2)サラワク
お二人が訪ねたところはマレーシアのサラワク州です。
マレーシアではアブラヤシはプランテーションという大規模な植林農園で生産されています。
マレーシアでのアブラヤシプランテーションの面積は以下のようになっています。
サバ州 約160万ha サラワク州 約7万ha 半島部 約33万ha サバ州ではプランテーション飽和状態で、半島部では工業開発やリゾート開発が進行しているため、現在プランテーション開発はサラワク州で最も盛んに行われています。
(3)現地の人の生活の変化 〜伝統的生活・森林伐採・プランテーション〜
もともとサラワクでは川沿いで陸稲栽培などをする焼畑農民や狩猟採集生活を営むプナンなどの人たちが長い間生活してきました。
そこに80年代ごろから木材会社がやって来て大量に木材を伐採するようになり、生活の変化を余儀無くされるようになりました。
この際には太い木を選んで切る択伐が行われました。これにより森はボロボロに荒らされ、河の水は土壌の流出により濁る、などの森林破壊が大きな問題となりました。
狩猟採集生活を営んできたプナンなどの人たちにとって、森は衣食住すべての場、言ってみれば命そのものですので、森林破壊は非常に深刻な問題です。国や企業に伐採の中止や被害の補償を求めたりもしていますが、一向に取り合ってもらえないために、プナンの人たちは道路封鎖によって伐採を中止させようとしたこともあります。こうした、生活を守るための当然とも言える抵抗に対して、警察は耳を貸そうともせず排除しようとするだけです。生活の安定を失い、栄養失調や病気で病気で死ぬ人も少なくありません。
しかし森林伐採の後にアブラヤシのプランテーションが作られる場合、事態はさらに深刻になります。木材伐採後の森林はボロボロに痛みますが、それでもまだ木は残っています。また先住民の伝統的所有地である先住慣習地では、周期的に焼畑が行われているため、あまり太い木がありません。その結果、商品的価値を持つ木が少ないことから、先住慣習地は伐採を逃れてきました。伐採が終われば木材会社は引き上げるため、土地は再び先住民が使うことができるようになります。何十年か経てば森の木々も回復するでしょう。
しかしそこにプランテーションが作られる場合、木の大小に関わらず、全ての木を切り倒す皆伐が行われ、その後にアブラヤシが植えられ、半永久的にプランテーションを営む企業が居座ります。つまり土地が半永久的に住民のもとに戻って来ないのです。
プランテーション開発を進める手段も非人道的に進められることが少なくありません。先住慣習地を開発するため、企業は村の人に「開発が行われればカネも入るし将来はバラ色。」などの甘い言葉を囁いて村の人たちを騙し、故意に村の人たちの読めない英語の契約書にサインをさせたりします。
加えて1974年に土地法が改革されてから、先住慣習地での開発も、それを告知してから6週間以内に異議申し立てが無ければ開発を行うことがで切るようになりました。アイバイ的に行われる告知に現地の人が気づくのは非常に困難で、知らないうちに告知期間が過ぎて、ある日突然村の人は土地に関する権利を失い有無を言わさず開発が進められる、ということが起こっています。更に1976年と1981年に2つの土地開発公社が設立され、これらによって強制的に先住慣習地を開発することと、開発に海外の企業が参入することが可能になりました。日本の洗剤企業が使っているパーム油も、こうしたプランテーションで作られたアブラヤシからとれたものです。(この箇所は事実誤認がありましたので訂正致しました。)
プランテーション開発によって土地を追い出された人は、プランテーション農園で働くか、都市に流入するかしか選択の余地はありません。プランテーションでの労働は収入が低く、更に過度の農薬の使用などによる危険も伴っています。
このような生活・労働条件に対し、労働者は改善を求める声を上げていますが、会社側が耳を傾けることは少ないとのことです。ストライキを行ったある労働者に対して、企業は水道・電気・医療の供給を停止し、強制的にその声を消した、という事件もありました。会社側はより安く、従順な労働力として多くのインドネシア人をプランテーションで使っています。所得がマレーシアの5分の1であるインドネシア人は、彼らにとっては高い賃金を目の前にチラつかされて、ひどい労働にも我慢を強いています。
(4)セッケンならいいの?
このように、パーム油を生産している現地では多くの深刻な問題が起こっています。逆に、これだけひどく現地の人を痛めつけ、森を大量に剥ぎ取り、更に大量の農薬と化学肥料を使って大量生産しているからこそ、パーム油は安くなり、牛脂などとの競争に勝って、日本に大量に輸入されるようになり、私たちは安価なセッケンを使えるようになったと言えます。
結局、パーム油から作られるセッケンが、人に・地球にやさしい、とは決して言えないのです。私たちからは遠い、見えにくいところで人々を、環境を害し続けているのです。
※ 今回、調査不足のため触れませんでしたが、ヤシ油(その大産地はフィリピン)に関しても、同様の問題があるようです。
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