チェチェン総合情報

チェチェンニュース Vol.25 No.05(#553) 2025.03.31

「左派は、侵略者をなだめるためのトランプ・プーチン間の取引ではなく、ウクライナのための公正な平和を支持すべき」

 ウクライナの民主的社会主義組織「社会運動」のメンバーで、オンラインの左派雑誌『コモンズ(Commons)』の編集者、デニス・ピラシュ氏(政治学者)のインタビューを掲載します。米国の対ロ政策転換がウクライナと世界に及ぼす影響、また、米国、イスラエル、ロシアが国際的に反動的な動きを主導していると分析し、左派は全ての抑圧者に対決する新たな国際主義を掲げるべきだと主張しています。

 日本の左派、進歩派のかなりの部分がウクライナ侵略の問題を軽視したり、プーチン政権に対して融和的な姿勢を見せていることを考えると、ピラシュの意見は私たち自身に向けられた批判でもあると考えられます。

 2月末に、ホワイトハウスでの共同記者会見の場で、トランプ大統領らがゼレンスキー大統領に「ロシアと合意しないならアメリカは手を引く」などと迫って口論になった件が象徴的ですが、その後実際にアメリカからウクライナへの支援の急激な減少が起きました。

 世界情勢に対するプーチン政権の影響力は、チェチェン戦争当時よりもますます強まっており、プーチン、またそれに追随してウクライナから収奪しようとするトランプにも、批判を強める必要があります。一読者による翻訳に感謝します。小見出しは当編集部によります。(大富亮)

【オンライン雑誌『LINKS』2025年3月13日】 原文:https://links.org.au/left-should-support-just-peace-ukraine-not-trump-putin-deal-appease-aggressor-interview-ukrainian

ウクライナに対する侮辱

Q ウクライナ国内では、トランプ大統領とゼレンスキー大統領の最近の会談〔2月28日〕にどのような反応があったのか?

A 予想通り、怒りの反応だった。 トランプ大統領と(副大統領の)バンスは、ゼレンスキー大統領だけでなく、ウクライナとその国民を侮辱しようとしたというのが大方の見方だ。彼らはウクライナに対して全く敬意を示さず、被害者を冷笑的に非難した。彼らは、自分たちがウクライナに戦争を仕掛ける側に立ついじめっ子であることを証明したのだ。軍関係者を含む人々から聞いたところによると、彼らは米国の現政権に怒っている。ウクライナは、何の見返りも得られないまま自国の資源を差し出すという非常に不利な「取引」を強いられていると感じているのだ。安全の保証も利益も何も得られない、と。この取引は、侵略者ではなくウクライナが全てを支払わされるというものだ。

 それは、私たちの組織である社会運動や、より幅広いウクライナの左派がキャンペーンを展開してきたことと正反対だ。私たちは、ウクライナの対外債務の帳消しを要求してきた。また、ウクライナの再建は、ロシアとウクライナの寡頭制がソ連崩壊後に略奪し、今は西側やタックスヘイブンに蓄えている富で賄われるべきだと主張してきた。これらの資産の一部は欧州各国政府によって凍結されており、ウクライナの再建に利用されるべきだ。だが今、その反対のことが起こっている。

 したがってトランプに対する不満は多い。トランプにまだ幻想を抱いているのはごく一部の少数派だけだ。彼らは、ゼレンスキーはもっと従順で、うなずくべきだったと考えている。なぜなら、トランプの巨大なエゴをなだめれば、言うことを聞いてくれるはずだからだ。しかし、多くの世界の指導者たちがトランプと取り引きしようとしてきたやり方は卑劣であるだけでなく、トランプ、バンス、そして〔イーロン・〕マスクが、国内でも国際的にも強力な抵抗に直面することはないし、何でもやり過ごせる、という信念を強めるだけだった。

トランプとプーチンは、最終的には同じ「大国の支配者」

 おそらく、この件で一つ楽観的なことは、人々がトランプだけでなく、彼の掲げる強硬な右派保守政治に対する幻想を失いつつあるということだろう。トランプが就任する前、24時間で戦争を終わらせるととんでもない主張をしていた頃、ウクライナではトランプへの期待が大きかった。トランプの予測不能な行動が何らかの形で事態の展開を変え、奇跡的に戦争を有利に終わらせることができるのではないかと期待されていた。しかし今では、ほとんど誰もがトランプを嫌っている。そして、トランプとプーチンの強硬な右派政治には直接的なつながりがあると考えている。彼らはトランプとプーチンを最終的には同じものと見ている。つまり、世界に力の支配を押し付け、最強の者が条件を決定しようとしている二つの大国の支配者である、と。

Q 米国がウクライナに対する政策を180度転換したことについては、さまざまな説明がなされている。あなたはどう説明するか?

A 多くの説明がなされている。例えば、ロシアを中国から引き離すための深遠な戦略の一環である、と。しかし、トランプ大統領の外交政策に関しては、特に首尾一貫したビジョンは見られない。だが私たちが目にしているのは、非常に明確なイデオロギー的なメッセージだ。トランプ、バンス、そしてマスクは、本質的には世界、特にヨーロッパに対して「我々はあなた方に宣戦布告する」と言っているのだ。彼らは「我々は極右勢力やネオファシストをあらゆる場所で政権の座に就かせたい。そして、我々はこれらのファシスト的で権威主義的な指導者たちとしか協力しない」と言っているのだ。

今やアメリカが歓迎するのは戦争犯罪人だけ

 今やホワイトハウスが歓迎し、敬意を表しているのは、国際刑事裁判所(ICC)が指名手配している戦争犯罪人だけ、というのは実に象徴的だ。最近イスラエルのネタニヤフ首相が訪問した際の歓迎ぶりを見てみよう。あるいは、トランプ政権がプーチンについてどう語っているか。トランプは常に、プーチンを戦争の責任者と非難したり、独裁者呼ばわりすることを避け、その代わりにプーチンの強力なリーダーシップについて語ることを好む。彼らが喜んで挨拶するのは、今や「イーロン・マスクの敬礼」と呼べるものに関連する人々、すなわち「ドイツのための選択肢」〔AfD〕、(アルゼンチンの)ミレイ大統領、そして超保守主義、市場原理主義、ネオファシズムの価値観を推進する極右の政党や政治指導者たちだ。

 トランプ、プーチン、ネタニヤフ、欧州の極右勢力、そして世界中のさまざまな権威主義体制が結びついた、新たな軸が明確に現れつつある。これは、ウクライナと約50カ国の共同提案国が(ロシアの全面侵攻3年に際して)提出した(ロシアの戦争を非難する)決議案に対する国連総会の投票結果に表れている。反対票を投じた国には、もちろんロシアも含まれていたが、米国、イスラエル、オルバン首相のハンガリー、西アフリカのクーデター多発地域にある軍事政権、北朝鮮なども含まれていた。以前は超親ウクライナ派を自認していたミレイのアルゼンチンでさえ棄権した。ミレイは、父親であるトランプを批判する気にはなれなかったのだ。

 米国、ロシア、イスラエルに関しては、彼らの世界観と明確な利害の一致がある。それはプーチンが長い間支持してきた世界観であり、彼はそれを「多極性」と表現している。この世界観では、例えばロシアはソ連崩壊後の地域で自由に振る舞うことができ、米国は西半球で自由に振る舞うことができる。もちろん、米国は長年にわたりその地域で帝国主義政策を実施してきた。しかし、今私たちが目にしているのは、トランプがグリーンランド、カナダ、パナマに対する拡張主義的主張を行い、メキシコをはじめとするラテンアメリカ諸国に圧力をかけていることだ。そして、もはやその事実を隠そうともしていない。

「陣営主義左翼」の陥った罠

 その意味で、1世紀以上前の帝国主義と似たような状況が生まれている。(世界を親米帝国主義陣営と反米帝国主義陣営に分けて考える)陣営対立論の〔campist〕左派の多くは、世界中に多くの権力の中枢がある方が本質的に良いと考え、それが何らかの形で自動的に平等主義的で民主的になると考える罠に陥った。実際には、その反対が真実であることが判明した。この種の「多極性」は、世界を民主化するものではなく、一握りの大国(そして、それらの大国のみ)が影響力を及ぼす勢力圏に分割するものだった。

 このシナリオでは、トランプが真の競争相手とみなしている大国は中国だけなので、ロシアを自らの側に引き入れたいと考えているのは事実だ。しかし、トランプとプーチンの同盟関係は、単に地政学的に説明できるものではない。階級分析を放棄したまま、純粋に地政学的な思考に頼ることは、現代の左派の多くが抱える弱点だ。トランプとプーチンは、世界的な極右のロールモデルだ。彼らは啓蒙主義の遺産を解体しようとする保守的な秩序のビジョンを共有しており、この民族主義的、大国主義的、排外主義的なビジョンを世界中に広めようとしている。これが、この同盟を説明するものである。

 そして、この同盟は階級に関係している。西側諸国の支配階級の中でも最も反動的な層は、20世紀に労働運動や社会運動が勝ち取った福祉国家の遺産や譲歩を解体し、巻き返すチャンスをつかもうとしている。米国で、世界で最も裕福な資本家であるマスクが社会保障、教育、公衆衛生、あらゆるものに対して攻撃を仕掛けているのを見れば、それは明らかだ。彼らは、一部ではテクノ封建主義と呼ばれているものを導入したがっているが、私はそれをステロイド漬けのウルトラ資本主義と呼んでいる。ここでも、トランプとプーチンには共通したビジョンがある。政治指導者や超富裕層が略奪を続けることを容認する、オリガルヒが政治的意思決定に干渉しないロシアの寡頭制に、億万長者の米国大統領は羨望の眼差しを向けているのだ。この寡頭制は、抑制されない最高権力に基づくものであり、トランプや極右はこれを欧米で再現したいと考えている。

 つまり、これは全て、小国や自国民が一切の権限を奪われるような世界秩序に作り変えようという彼らの共通ビジョンの一環なのだ。彼らはあらゆる国に強硬な権威主義的ヒエラルキーを押し付けようとしている。ウクライナをあからさまに侮辱しようとした彼らの意図的な試みは、この極端な反動主義の軸が世界をどう機能させるべきだと考えているかを明確に示している。

Q トランプ大統領が提案した取引で、ウクライナだけでなく、グローバルサウスはどうなるのか?

A まず、レアアース鉱物取引について言えることは、その取引内容がまだ明らかになっていないということだ。実際、最終的な取引が成立しているのかどうかも不明だ。次に、仮に取引が成立したとしても、それはソ連時代に行われた探査に基づく推定値に基づいている。つまり、5000億米ドルの取引を履行するのに十分な量のレアアース鉱物がウクライナにあるという保証はないのだ。もしレアアースが十分でないことが判明したり、採掘が余りにも高額になることが判明した場合、どうなるのか? この契約は、ウクライナが米国に他の資源や経済の他の部門、特にインフラを譲渡することで補償しなければならないことを暗に示唆しているように思える。

 明らかに、この契約は経済的植民地主義を押し付けるものだ。ウクライナを従属国、搾取国の地位に固定化するだけであり、グローバルサウスにとって危険な前例となる。

「代理戦争論」の破綻

Q ロシアと米国の和平協議についてはどうか? その意義とは何か?

A もし、ウクライナ国民の意向を無視してモスクワとワシントンがウクライナを分割する協定が締結されるのであれば、それは世界の人々、特にグローバルサウスに住む人々にとって重要な教訓となるはずだ。状況は極めて明瞭だ。周縁国であるウクライナは、隣のロシア帝国主義によってひどい扱いを受けてきた。その上、今では米国の帝国主義によって切り売りされている。この二つの帝国主義は、ウクライナを犠牲にする共謀を図っている。このシナリオはこれ以上ないほど明白だ。まるで、非常にあからさまなマルクス主義の脚本家が書いたかのようだ。道化のような大統領〔トランプ〕と世界一の富豪〔マスク〕が共同運営する億万長者による政権が、露骨に帝国主義的な態度で振る舞い、プーチンのロシアと協力していると公言している。

 もちろん、私たち左派は米国に対して幻想を抱いてはいなかった。ウクライナ人は、シリアのクルド人と同様に、侵略者に抵抗するために必要な支援を得るにはあらゆる機会を利用する必要があることを理解していた。しかし、私たちは、これは対等な者同士の対話ではないこと、大国は自国の利益に適うのであればいつでもこちらを敵に回すことができることを理解できなかった支配層を批判していた。しかし、この新たな状況は、プーチンのロシアが欧米や米国の帝国主義に対する何らかの均衡を保つ存在であると考える人々にとって、もはや言い訳の余地はない。単純な思考法では、帝国主義は永遠に対立し続けると考え、敵の敵は味方だと考える。しかし、これは明らかに機能しないことが証明されている。また、現在の状況は、この紛争が代理戦争に過ぎないという単純な主張を否定するものでもある。もしそうだとすれば、ウクライナは誰の代わりに代理戦争を戦っているのか? 米国は明らかにウクライナの味方ではない。米国はロシアと歩調を合わせている。では、ウクライナはデンマークの代わりに代理戦争を戦っているのか? ラトビアの代わりか?

 残念ながら、私たちは世界のさまざまな地域の人々が直面している状況について、しばしば無知である。だからこそ、私たちの雑誌『コモンズ』は、ウクライナと中東欧の人々と、ラテンアメリカ、アフリカ、中東、アジアの人々を結びつけ、植民地主義、新植民地主義、帝国主義の経験、歴史、遺産を共有することを目的としたプロジェクト「Dialogues of the Peripheries(周縁部の対話)」を立ち上げたのだ。我々の背景は異なるが、大国が小国を征服し、植民地化し、従属させるというパターンは非常に似ている。

平和を最も望んでいるのはウクライナ人

Q ウクライナ人はどのような交渉結果を望んでいるのか?

A 最初に言いたいのは、ロシアのプロパガンダは巧妙とは程遠いが、ウクライナ人が好戦的で、ロシアは平和の側にいるという考えを作り出すことに成功しているということだ。実際には欧州ではヒトラー以来の最大の侵攻を行ったのに、だ。彼らは「交渉」、「和平協議」、「和平合意」といった言葉を独占することに成功している。しかし、ロシア政府高官――プーチンやセルゲイ・ラブロフ(外相)のことであり、政権の攻撃犬のような狂気じみた人物たちのことではない――の発言に耳を傾けると、彼らは明らかに、ロシアは占領した領土を返還しないばかりか、和平協議の前提条件として、ウクライナがさらに多くの領土を割譲することを求めている。これには、ロシアが占領したこともなく、したがって、憲法にそれらの領土を組み込むための偽りの住民投票を実施することもできなかった大都市ザポリージャを含む、ヘルソン州とザポリージャ州の全域の割譲も含まれている。にもかかわらず、彼らはこれを「新しい地政学上の現実」の一部であり、受け入れなければならないと主張している。

 真実は、ウクライナ人ほどウクライナの平和を強く望んでいる者はいない、ということだ。ほとんどの人々は当然ながら戦争に疲れ果てている。しかし、だからといってロシアに降伏し、ただ国土と人を差し出したいと思っているわけではない。ウクライナが分割されれば、占領地域にいるか、あるいは避難を余儀なくされた数百万人の人々が帰る場所を失うことになることを、彼らは理解している。侵略者に多大な利益をもたらす結果は、プーチンの権威主義体制を強化し、特に占領地域で、さらなる弾圧を意味するだけであることを彼らは理解している。 つまり、ウクライナ人がいかなる合意についても考える際には、占領地域の人々の運命と、ロシアが戦争を再開するのをいかにして防ぐかという二つのことが念頭にあるのだ。

 その中で、合意が可能な分野も存在する。例えば、ウクライナ政府は、ロシアの違法な併合を認めないことを明確にしている。これはウクライナと世界にとって危険な前例となるからだ。しかし、停戦後、ウクライナが現在占領されている領土の少なくとも一部を維持し、残りの領土の運命については交渉を行うという一時的な取り決めを受け入れる用意があるとしている。

 ウクライナ政府がもう一つ挙げた重要な条件は、安全の保証だ。停戦を利用して、ロシアが単に資源や人的資源、砲弾をさらに蓄え、その後戦争を再開することがないよう、どのような保証が得られるのか? トランプは、これまでの「弱々しい」米国大統領とは異なり、プーチンは「強力」なトランプを個人的に尊敬しているため、そのようなことは起こらないと主張している。しかし、トランプの最初の政権時代を通じて、ロシアはウクライナに対するハイブリッド戦争を止めることはなかった。トランプの言葉は意味を持たない。(まだ少数派ではあるが)ますます多くの人々が、NATO〔北大西洋条約機構〕加盟の見込みはないことを理解している。ここでは、このことの持つ意味や、左派としてNATOの間違った点を全て知っていることはさておこう。しかし、ロシアが再び侵攻しないようにするには、重要なプレイヤーを巻き込んだ何らかの安全の保証が必要だ。

ウクライナ大統領選挙は可能か?

Q よく挙げられる批判の一つに、選挙が実施されていないのでゼレンスキーには交渉を行う上での正当性も権限もない、というものがある。これにはどう答えるか?

A 面白いことに、選挙で負けたにもかかわらず選挙結果を覆そうとした人物と、まったくのインチキ選挙で25年間も権力の座にあった人物、この二人が、サウジアラビア――政敵を殺害し〔王室批判の記者が在イスタンブールのサウジ領事館で殺害・解体された事件を指す〕、選挙を経ずに絶対君主制で統治されている――で会合を開き、戦争のさなかで選挙を実施していないウクライナを批判している。

 戦争中には、適切な選挙を行うことはできない。なぜなら、選挙を行うには、人々の安全を保証する必要があるからだ。そして、自国が絶え間なく爆撃されている状況では、それは不可能だ。もう一つの問題は、国内避難民や国外に逃れた難民として何百万人もの人々が避難を余儀なくされている状況で、彼らをどう選挙に参加させるかということだ。また、前線にいる兵士や占領地域の人々の自由な投票をどう保証するかという問題もある。こうした問題が全て、公正な選挙の実施を非常に困難にしている。そして、戦争中や戒厳令下での選挙実施を禁じているウクライナの憲法について議論する前から、すでに困難な状況にある。しかし、ロシアがそれほどウクライナでの選挙実施を望むのなら、ロシアにできる最善のことは、ウクライナの都市への砲撃を止めることだ。

 ウクライナ当局はゼレンスキーの任期が終了したため正当性を欠くという主張については、答えは同じだ。敵対行為を停止し、その後、ウクライナ人は選挙で誰にでも投票できる。しかし、私はこう言いたい。彼の人気は著しく低下しているが、世論調査では、ゼレンスキーは依然としてウクライナ人の目には他の政府機関よりも正当性があることが示されている。そして、ウクライナ人にとっては、トランプやプーチンよりもはるかに正当性があると見られている。そして、彼の支持率をウクライナの他の政治家と比較した場合、ゼレンスキーが圧勝することは明らかだ。彼の唯一の真の対抗馬は、ウクライナ軍司令官であったバレリー・ザルジニー元帥のようだが、当然ながら、彼はロシアの友人ではない。つまり、ゼレンスキーを追い出して、トランプやプーチンと親しい大統領を選びたいという意見は、あらゆる世論調査に反している。実際、もしウクライナで今選挙が行われたとしても、急遽行われる選挙プロセスにおいて、おそらくゼレンスキーがより簡単に勝利するだろう。一方、トランプの代理人として振る舞い、ゼレンスキーよりも良い取引ができると主張する政治家たちの支持率は4%以下だ。

問題は個人ではなく資本主義システムにある

Q 現在の状況は、ウクライナの左派にどのような新たな課題と機会をもたらすか?

A これらは全て、ウクライナ左派だけでなくウクライナ人全体にとって大きな課題だ。以前から私たちの未来が不透明であったとすれば、今はさらに不安定になっている。しかし、左派の観点から見ると、現在の状況は明らかに「裸の王様」を明らかにした。資本家や起業家を称賛する神話は全て、人々の目の前で解体されている。トランプとマスクがウクライナについて語る様子は、これらの偽りの偶像に幻想を抱いていた人々を遠ざけた。今もなお彼らを応援しているのは、トランプ的な反動主義が世界中で勝利することを望む極右の人々だけだ。

 この瞬間を捉えて、問題は個人ではなく、このような卑劣な人間を生み出す資本主義システムにあることを人々に示す必要がある。問題は、社会を犠牲にして資本の所有者に報酬を与えることを基盤とする資本主義であることを説明しなければならない。そして、この道を進み続ければ、このシステムはウクライナだけでなく世界をも破壊してしまうことを説明しなければならない。また、新自由主義的な寡頭制資本主義に対する代替案を示すチャンスでもある。

 そのためには、この戦争で最大の犠牲を強いられてきたウクライナの労働者階級に利益をもたらす問題について、効果的なキャンペーンを行う必要がある。労働者の力を強化し、ウクライナ経済の再構築に向けた提案を打ち出す必要がある。人々の幸福のためだけでなく、戦争時にはそれが不可欠だからだ。もし私たちが自分自身を適切に守れるようになるのであれば、適切に機能する戦争経済、医療制度、科学・研究部門などが必要となる。これら全ては相互に結びついており、経済を発展させたいのであれば不可欠だ。また、再建の段階では、私企業ではなく社会志向の問題が優先されるようにしなければならない。そのためには、寡頭制による民営化を覆し、経済の戦略的部門を公的所有に戻す必要がある。

 また、左派の仲間たち、すなわち、さまざまな社会主義やアナーキズムの環境から来た同志、労働組合員、進歩的な社会運動の関係者たちとともに、戦争によって生活が破壊された人々や、軍隊に所属している人々、あるいは不可欠なサービスを提供している人々、武装抵抗に関わっている人々を支援し続けることも意味する。私たちは、これらのつながりと構造を基盤として、革命的な変革への道筋を切り開くことのできる政治的主体を生み出さなければならない。

 もちろん、これはウクライナの左派だけの課題ではなく、世界の左派全体の課題だ。私たちは、きわめて反動的な勢力が第二次世界大戦以来見られなかったほどの勢いを得ている、極端な二極化の時代に直面している。プーチンのウクライナ侵攻とトランプのガザ地区に対する計画が互いに強化し合い、世界中で反動を強化している。トランプとプーチンは、世界をさらにひどい地獄に変えるつもりだ。真正かつ協調的な抵抗が彼らに立ち向かわない限り、超保守的でファシスト的な勢力が次々と権力を握り続けるだろう。

 私たちの階級敵は世界レベルで団結している。だからこそ、左派として国際的に団結する方法について、真剣に考え始める必要がある。その達成には、一貫した国際主義が必要だ。つまり、連帯を拒む言い訳はもうできないということだ。どの民族が他の民族よりも支援に値するのか、あるいは、間違った抑圧者によって抑圧されているという理由で、まったく支援に値しないのか、といったことを判断しようとするのはやめなければならない。私たちは、世界中の抑圧された人々と共に立つ必要がある。

侵略者への譲歩は、状況をさらに悪化させる

Q ウクライナに関する新しい状況を(少なくともそれ以前と比較して)前向きに捉えている真の進歩主義者もいる。虐殺を終わらせるのに役立つかもしれないと考えているから、あるいはこの戦争が核戦争や世界大戦にエスカレートするのを恐れているからだ。彼らにどう答えるか?

A 実際、私たちは世界中の同志たちから多大な連帯と支援を受けてきた。しかし、進歩主義者たちが、ただ単にどちらの側にもつかないだけでなく、私たちの話を聞くことさえ拒否しているのも見てきた。その原因は理解している。多くの場合、それは無力感から来るものだ。最終的には、既存のシステム(少なくとも主要な帝国主義)に何らかの形で異議を唱えることができる別の勢力が現れれば、変化の余地が生まれるかもしれないという考えに頼ることになる。しかし、そのような考え方は左派政治との明確な断絶を示している。究極的には、それは冷笑的リアル・ポリティクスや「現実主義」的な政治観と共通するものだ。それは階級的立場の政治の放棄を意味し、資本主義に代わる選択肢を求める闘いを、単に反西洋の体制を支持することに置き換えている。

 このような考え方が、右翼保守派の考え方と非常に似通ったものになるのは、想像に難くない。保守派は、キューバ危機において、キューバ革命が世界を核戦争の瀬戸際に追い込んだと非難した。当時、彼らは「キューバがソビエトのミサイルを欲しがるなど身勝手だ。それは米国を危険にさらす可能性がある」と非難し、事態の深刻さを理解していない「狂気じみたキューバ人」を責めた。今日、ウクライナ人は「第三次世界大戦の危険を冒している好戦的な人々」であるかのように言われているが、今では極右の大富豪である米国大統領だけでなく、左派の一部からもそのような声が聞こえてくる。第三次世界大戦を本当に望んでいるのは侵略者たちだ。第三次世界大戦の危険を冒し、ロシア人の命さえも顧みないのはプーチン大統領だ。しかし、左派の人々がウクライナ人を非難し、「最後のウクライナ人」まで戦うつもりかと非難するのを耳にする。

 戦争を回避するという点では、侵略者に報奨を与えたり、侵略者をなだめたりすることが功を奏したという歴史的実例はないというのが現実だ。しかし、スペイン内戦でファシストの勝利を阻止するために国際社会が実質的に何もしなかったように、第二次世界大戦への道を開いた例は数多くある。スターリン主義のソビエト連邦は、スペイン共和国に援助を提供したが、その見返りとしてスペインの金準備を奪った。これは、トランプがウクライナのレアアース鉱物に対して行おうとしていることとよく似ている。同様に、英国とフランスは「不干渉」を口実に、スペイン共和国をあっさりと見捨てた。彼らはまた、おそらくその地域で最も民主的な国であったチェコスロバキアを解体するためにヒトラーと直接協力したが、それも第二次世界大戦を止めることはできなかった。モロトフ・リッベントロップ協定(ソ連とドイツの協定〔独ソ不可侵条約〕)も、第二次世界大戦でドイツがソ連を攻撃することを止めることはできなかった。つまり、このパターンは何度も繰り返されてきたのだ。

 結局のところ、これらの進歩派の問題は、彼らが真の代替案を提示できないことにある。彼らは素晴らしい平和主義的で、多くの場合理想主義的なスローガンを掲げる。例えば、「既成概念にとらわれない」、「戦争は決して答えではない」、「外交にチャンスを与えよう」などだ。しかし、結局のところ、彼らが固執する解決策は、大国が提唱する現実主義と同じものだ。帝国主義者が小国を分割し、世界を勢力圏に分割する方法について交渉するのだ。このような論理を唱える人々は、本当に私たちの立場に立って、私たちの側から見てどう見えるかを考える必要がある。もしあなたが占領され、拷問を受け、殺害されたとしたら、それでも他の人々はこれを世界秩序の改善に役立つと考えるだろうか? 現実には、私たちの今の状況は世界をより悪く変えることにしか役立たない。

 そのようなレトリックに固執する人々は、米国とロシア(そしてどうやらイスラエルも)が主導する新たなファシスト国際社会の一部である極端な反動勢力と歩調を合わせていることに気づくことになるだろう。なぜなら、最終的には、ウクライナに対する彼らの計画に賛成するなら、パレスチナの人々に対する彼らの計画にも賛成することになるからだ。なぜなら、帝国主義諸国が結集して小国に何が起こるかを一方的に決定することに賛成するからだ。

帝国主義に反対する、新たな国際主義を

Q 激動の時代において、国際左派はウクライナの人々、特にウクライナの左派をどのように支援できるだろうか?

A 私がまず言いたいのは、左派は自国における自国の支配階級、そして世界中で同様の勢力と連携している自国の反動勢力との闘いを放棄してはならないということだ。ウクライナの人々を支援するためにまずするべきことは、自国の闘いを継続することだ。

 第二に、全ての侵略者、全ての抑圧者、全ての帝国主義に反対する国際主義の立場に立つことだ。今日、それは、追従的な独裁者や超資本主義者の計画を支援するのではなく、ウクライナの人々を支援する方法を見つけることを意味する。ウクライナは左派にとって重要な闘争だ。「苦しみは何とかして終わらせなければならない」、「戦争は何とかして終わらせなければならない」といった素晴らしいスローガンは、苦しみや戦争を止めるには十分ではない。これを達成するには、公正で持続可能な平和が必要なのだ。しかし、プーチンとトランプの間で行われているいわゆる「和平」交渉は、侵略者に報奨を与えるだけであり、さらなる侵略を招くだけだ。

 したがって、今日の左派に見られる現実主義政治に反対し、世界にまだ存在する進歩勢力や社会的達成に対する地球規模の極右攻撃を主導するトランプ政権に立ち向かうには、新たな国際主義が必要だ。トランプが諸国家の消滅を要求し、それらを米国の州にしようと発言したり、他国の一部を併合すると脅したりするたびに、国際社会からは非常に穏やかな反応しか返ってこない。彼らは恐れているのだ。しかし、左派である我々は、資本主義の最悪の悪夢の中であっても、恐れていてはならない。今こそ行動を起こすべき時だ。今行動を起こさなければ、明日はないかもしれない。そうなれば、我々は皆、世界を思い通りに再構築しようとする、過激な権威主義的ファシズム政権の支配下で、世界で最も残忍で裕福な人々にとっての広大な遊び場で、暮らすことになるだろう。

‘The left should support a just peace for Ukraine, not a Trump-Putin deal to appease the aggressor’: An interview with Ukrainian socialist Denys Pilash

By Denys Pilash & Federico Fuentes

Published 13 March, 2025


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