チェチェン総合情報

チェチェンニュース Vol.22 No.41(#512) 2022.09.23

ウクライナで戦う独立派チェチェン人たち
カディロフツィ、チェチェン人を脅迫してウクライナに連行

〈記事について〉

 今回は2つの記事を紹介します。ひとつ目は、「ウクライナで戦うチェチェン人たち」。ウクライナ側に所属して戦うチェチェン大隊についての話題です。前回のニュースでは、ウクライナで残虐行為をするカディロフツィの問題を取り上げましたが、今回はウクライナ側に立って戦うチェチェン人です。

 安全上、あまり多くのことは語れない独立派チェチェン人たちですが、チェチェン独立の大義名分をかけて戦う人々が何百人もウクライナにいるということは、注目していきたいです。チェチェン戦争の責任はロシアにありますが、傍観してきた私たちのあり方も問われると思います。

 2つ目の記事は、「カディロフツィ、チェチェン人を脅迫してウクライナに連行」です。ウクライナ侵略のために、9月21日にプーチン政権が動員を開始したことは、みなさんご存知と思います。これによってロシアの劣勢が挽回できるかというと微妙で、おそらく多くのロシア国民が政権を見限るきっかけにはなると思います。

 ところで、ウクライナへの動員については、すでにチェチェンが3ヶ月も先行していたという報道を見つけました。親ロシア派指導者カディロフは、強制的に若者を志願させて、ウクライナに送り込んでいたのです。逆らえば家族を誘拐し、人質化するという常套手段を使っています。

 また、記事によればカディロフに反抗的な者を選んで戦場に送り込んでいるようで、これでは懲罰ですから、そんな軍隊が強いはずもありません。しかし、反カディロフの前途ある若者たちが、ウクライナの民間人を虐待する役割を押し付けられているとしたら、あまりの残酷さに声も出ません。ロシアでも、反動員のデモに参加した若者が、警察に拘束されたとたんに召集令状を渡される例があるようです。好戦的かつ抑圧的なプーチン・カディロフ体制の倒れる日は近いと信じたいところです。(大富亮)

ウクライナで戦うチェチェン人たち

NPR(全米公共ラジオ)、2022年9月5日

 マンスールが13歳のとき、ロシアの軍隊が彼の住む村、サマシキを破壊した。ロシアから独立するのための第一次チェチェン戦争の最中だった。

 ロシア兵は火炎放射器を振り回し、マンスールの隣人たちを生きたまま焼き殺し、手りゅう弾を地下室に投げ込んだ。4年後、ロシアとの停戦は崩壊し、また戦争が始まった。「それまでとは、何もかもが変わってしまった」と彼は言う。

 「ロシアは私が持っていたものすべてを台無しにした。私は戦争とともに育ち、戦争が私を育てた」と、40歳のマンスールは淡々と言う。マンスールは、それからの第二次チェチェン戦争の間に、トルコとヨーロッパに逃れた20万人以上のチェチェン人の一人だ。

 故郷を離れたからといって、ロシアとの戦いを諦めたわけではない。「もし私がアメリカやカナダで生まれていたら、このウクライナには来なかった。しかし、ロシアはすべてを奪ったので、私は戦いを続けなければなならない。それだけだ」とマンスールは言う。

 マンスールは、ウクライナでロシアと戦っている少なくとも2つのチェチェン大隊の一つ、シェイフ・マンスール大隊の副司令官だ。これらのチェチェン人は、ロシアの侵攻開始直後にウクライナ軍に加わった約2万人の外国人戦闘員の一部で、彼らの大隊の数は少なくとも数百人にのぼる。彼らは多かれ少なかれトラウマを抱えつつ、ロシアへの憎しみに突き動かされている。

 ウクライナでは、ロシア兵が民間人を銃撃し、無差別に学校やアパートを砲撃し、占領した町や村を恐怖に陥れた。しかし、チェチェンの兵士たちは、これらの恐怖に動じなかったと言う。自分たちがすでにもっとひどい経験をしたと信じているからだ。

 「ブチャとマリウポリでのウクライナの悲劇は、私たちが子どもの頃に経験したものとは比較にならない。ロシア人は私たちの都市や村を壊滅させた」と別の兵士は言う。彼はロシアの爆撃によって破壊される前のチェチェンの首都グロズヌイで生まれ育った。

●チェチェンとロシアの衝突の歴史

 ロシア人とチェチェン人は、18世紀以来、繰り返し衝突してきた。帝政ロシア軍は、チェチェン人に対する血なまぐさい民族浄化を行い、入植地を作った。スターリン時代には、約40万人のチェチェン人とイングーシ人が北コーカサスから強制的にカザフスタンなどに追放された。生き残った人々がフルシチョフ時代に故郷に戻ることを許されるまで、3割もの人が移住先で死亡した。

 ソ連の崩壊後も、ロシアはチェチェンの独立を容赦なく鎮圧した。独立をめぐって戦われた第一次チェチェン戦争は休戦で終わったが、1999年にロシアの首相であったプーチンがテロリストと戦うためとして第二次チェチェン戦争を開始した。歴史家たちは現在、この主張は誇張されていたか、捏造の可能性があると考えている。

 「私たちはいつも裏切られ、売られていた」と大隊の別の兵士は言う。安全のため、彼は名前を明かさなかった。ウクライナには親ロシア派のチェチェン人もロシア側に配置されているからだ。「チェチェン共和国の独立以来、国際社会は誰も私たちを助けなかった」

●榴弾砲も戦車もなく

 チェチェン人は、過去20年間のロシアとの戦いから得たノウハウをウクライナ軍に伝えたいと熱望している。武器支援を続ける米国と違い、彼らはウクライナに与える榴弾砲や重火器を持っていない。ただ、自分の身体一つでウクライナに奉仕することしかできない。命など重要ではないと、二人目の兵士は言い切る。

 「私たちは祖国を失った。人はこれ以上、何を失うことができるだろうか? 私たちが家も国も失っているのを見ても、全世界は沈黙していた。あの時から、私たちの家族や子どもたちなど重要ではないと知った」と彼は言う。

 シェイフ・マンスール大隊のメンバーは、17世紀のロシア皇帝の北コーカサス侵略に始まった、400年間の抗争を解決することが重要だと述べている。「それが私たちの夢です。巨悪を滅ぼすまで、この夢を世代から世代へと伝えていきます」と。

 チェチェン人はロシアと戦うかどうかで意見が分かれている。2006年、ロシアは親ロシア派の指導者ラムザン・カディロフをチェチェンの統治者に任命し、カディロフはプーチンに忠誠を誓い、ウクライナ侵攻も支持し、チェチェンの戦闘員をウクライナに派遣している。チェチェン人同士の戦いが起きる可能性は十分にある。

 彼らはここで長いゲームをしている、とマンスールは言う。「帝政時代には、エルモロフ将軍が私たちからすべてを奪った。しかし、私たちは生き延びた。スターリンは死んだし、プーチンも死ぬ。私たちはあんな者たちより長く生きる」と彼は言う。

 マンスールは、ロシアが世界のどこで戦争を始めても、彼の大隊とともに追撃すると決意している。いまや彼らの人生の唯一の目的は、ロシアに対して武器を取ることだ。 https://www.npr.org/2022/09/05/1119703328/chechens-ukraine-russia

カディロフツィ、チェチェン人を脅迫して強制的にウクライナに連行

モスクワタイムズ、2022年6月16日

 ロシアのチェチェン共和国当局は、地元の男性に対し、モスクワのウクライナ侵攻のための「志願兵」大隊への参加を強制していると、調査報道機関のザ・インサイダーが水曜日に報じた。これによると、チェチェン共和国軍の兵士たちは、被害者に対する拷問だけでなく、親族を誘拐するといった脅迫を行ったと報告されている。

 事件の正確な数は不明だが、地元の人権団体 Vayfond は、強制動員に関連する訴えを、少なくとも50件受けていると述べました。チェチェンのブロガー、イスラム・ベロキエフはザ・インサイダーに「毎日少なくとも3つは通報を受ける」と語った。「チェチェン人が強制的に戦争に送られているというメッセージがたくさんあります」と、地域の反対運動1ADATのリーダーであるイブラギム・ヤングルバエフは語った。

 「捏造された犯罪容疑で投獄されている人々には、軍との契約に署名する機会が与えられます。警察はそれに同意すれば釈放すると約束します。ヤングルバエフ氏は、地元の当局者が「過激派」のリストを維持していると主張している。彼らは地域のリーダーであるラムザン・カディロフ氏を支持しない人々であり、彼らは強制動員の標的にされている。

 一部の役人は、兵士になりそうな男を誘拐した上で、その家族から金銭をゆすり取ろうとしたり、家族を強姦または拷問すると脅迫し、誘拐した男性を強制的に軍隊に入れると伝えられている。チェチェンのラムザン・カディロフ首長(親ロシア派)は、ウクライナにおけるチェチェン人戦闘員の熱意と高い士気について、ソーシャルメディアで繰り返し自慢した。

 しかし、ウクライナで死亡または負傷した「志願兵」の家族は、当局からの支援がほとんど受けられない。ウクライナで死亡した兵士の遺族は、伝統的な埋葬を行うことさえ許可されなかったと述べている。当局側の理由は、埋葬が望ましくない注目を集める可能性があるというものである。

 チェチェン議会のマゴメド・ダウドフ議長が引用した数字によると、戦争の開始以来、少なくとも1,360人のチェチェン住民がウクライナで戦うために「志願」したという。

https://www.themoscowtimes.com/2022/06/15/chechen-authorities-using-threats-and-blackmail-to-recruit-soldiers-for-ukraine-investigation-a78011


▼ご意見や情報をお寄せください。 ootomi@mist.ocn.ne.jp

▼チェチェンニュースは、ロシアによる対チェチェン軍事侵攻と占領に反対し、
平和的解決を求める立場から発行している無料のメルマガです。2001年から発行 しています。

▼チェチェンニュースへのカンパをおねがいします。少額でもかまいません。

 〈郵便振替口座番号 00130-8-742287 チェチェンニュース編集室〉
 〈ゆうちょ銀行 019店 当座 0742287 チェチェンニュースヘンシュウシツ〉

▼転送・転載は自由です。

▼新規購読はこちらから:
https://list.jca.apc.org/manage/listinfo/chechennews

▼発行部数:1249部 ▼発行人:大富亮

チェチェン総合情報
http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/