チェチェン総合情報

11 May 2013
チェチェンニュース#405

■ロシアは未来の日本/HRWのリリースに考える
                              (大富亮)

 人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのリリースを転送したいと思います。
対チェチェン軍事侵攻が国際的に大きく問題視されていた時期には、当然、他の
ロシアの人権問題も注視されていましたが、侵攻が、占領や傀儡統治に変化して
いくとともに、国際社会の関心も薄れてきてしまいました。

 今回のリリースは、むしろプーチンが大統領に復帰してから、ロシアの人権状
況はますます悪化していることを伝えています。一方、日露関係はといえば、相
変わらず北方領土と天然ガスの取引ばかり。メディアも評論家も、プーチンの発
言やしぐさに一喜一憂するありさまです。

 ロシア社会の現状、とりわけNGOに対する政権の弾圧はリリースに詳しいので
すが、これを読んで私が抱いたのは、自民党が夏の参議院選挙の争点にしようと
している憲法改正は、最終的に日本を、ロシアのような独裁あるいは権威主義体
制に変えてしまうのではないか、という危機感です。

 これは抽象的な不安ではありません。ここで、自民党による憲法草案の「表現
の自由」の項目を引用します。

> (表現の自由)
> 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
> 2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動
> を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

 第2項は、いきなり新設されたもので、第1項の内容をまったく否定するもの
です。何が「公益」かは、ときの政府が決めることなので、どのようにでも解釈
できるからです。自民党はこのような憲法改正をめざしている、ということを念
頭に置いた上で、このリリースを読んでください。

 私たちにとって、背筋の寒くなるような未来図が、ロシアでは現実になってい
ることに、気づかざるを得ません。



■ロシア: 旧ソ連崩壊後 最悪の人権状況 かつてない規模の市民社会への弾圧

日本語リリース: http://www.hrw.org/node/115452

(モスクワ、2013年4月24日)−ウラジミール・プーチン氏が大統領に復帰して
から約1年が経過した。この間ロシア政府は、旧ソ連時代以降最も深刻な弾圧を
市民社会に加えてきた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書
で述べた。

 今回の報告書「法による摩耗:プーチン大統領復帰後のロシアにおける市民社
会への弾圧」(全78ページ)は、2012年5月に
プーチン氏が大統領に復帰した後の変化の一端について詳述している。ロシア政
府は制約的な法律を次々に成立させ、NGOへの一斉査察キャンペーンを全国で開
始した。また政治活動家に嫌がらせや脅しを加えたのみならず、その多くを投獄
するなど、政府批判者を「隠れた敵」と位置付けようとした。本報告書は、通称
「外国代理人」法、反逆罪法、集会法を含む新たな法律を分析し、これらの法律
適用の実態を取りまとめている。

 「新法や政府による嫌がらせは、市民社会活動家を法の片隅に追いやってい
る」とヒューマン・ライツ・ウォッチ欧州・中央アジア局長ヒュー・ウィリアム
ソンは述べた。「政府の弾圧は、ロシア社会を傷つけるのみならず、同国の国際
的地位を損なわせている。」

 新法の多くと、政府による市民社会への対応は、ロシアの国際的人権保護義務
に違反するものである。

 新法の多くは、外国人との関係や、海外からの資金援助に新たに厳格な制約を
課すことにより、独立したアドボカシー(政策提言)活動を制限あるいは不可能
にすることを意図している。「外国代理人」法は、外国からの資金援助を受け
「政治活動」に携わっているとみられる団体に、「外国の代理人」として登録す
る義務を課すもの。昨年12月に成立したもう1つの法律は、米国からの資金をNGO
が「政治」活動に使用することを原則禁ずると共に、「ロシアの国益に反する」
活動をする団体を禁止している。3つめの反逆罪法は、国際的な人権アドボカ
シー活動に関与する行為を刑事犯罪とできるよう、反逆罪の法的定義を拡大して
いる。

 本報告書は、政府が数百の団体事務所に対し行った強圧的な全国一斉査察キャ
ンペーンの実態を取りまとめている。このキャンペーンに関わったのは、検察局
や司法省に所属する当局者、税務査察官、そして時には過激派取締警察、保健医
療査察官、消防査察官などだ。2013年3月に始まった査察キャンペーンは、「外
国代理人」法がきっかけだった。

 多くの団体は査察結果をまだ受け取っていないが、少なくとも2団体が「外国
代理人」としての登録漏れを指摘され、その他団体も消防安全基準違反、大気汚
染基準違反などで罰金を科された。査察官は団体の税務・財務・登録記録他の書
類を調べ、中にはパソコンやEメールの検査をも要求した件もあった。あるケー
スでは、職員が天然痘の予防接種を受けているか証明するよう求め、また別の
ケースでは職員が結核に罹っていないことを証明するため、胸部X線写真の提出
を求めている。更には、団体が開催したセミナーや会議での全スピーチ原稿を要
求したケースもあった。

 「政府は査察を所定業務と主張しているが、明らかにそうではない」と前出の
ウィリアムソンは指摘する。「このキャンペーンはその範囲と規模において前例
がなく、市民社会を威嚇し社会の片隅に追いやることを目的としているのは明確
だ。様々な団体がアドボカシー活動を止めたり、活動全てを停止せざるを得ない
よう、追い込むために使われる可能性がある。」

 ロシア当局が「外国代理人」としての登録漏れを根拠に、行政法に基づき告発
した最初の団体は、選挙監視団体のゴロス (Golos)であった。ゴロスは2011年の
国会議員選挙における違反を取りまとめた。モスクワの裁判所は判決を4月25日
に出す予定で、ゴロスとその代表はそれぞれ、最高50万ルーブル(約16,280米ド
ル)と30万ルーブル (約9,700米ドル)の罰金を科される可能性がある。原告であ
る省の訴えを認める判決が出された場合、同団体は「外国代理人」としての登録
を余儀なくされるか、「外国代理人」法の適用により更なる処分を課される見込
みだ。

 「外国代理人」法は、外国からの資金提供と活動を既に当局に報告した団体を
悪者扱いするだけである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。当局は
ゴロスに対する訴えを直ちに取り下げるべきだ。

 これらの新法が議論され、成立したのと平行し、政府寄りの報道機関は著名な
NGOをターゲットに、「資金援助と引きかえに西側の利益を推進している」、と
批判するプロパガンダ・キャンペーンを展開した。

 「『外国代理人』という言葉は、ロシアではスパイや反逆者を意味すると広く
理解されている。当局はこの法律を成立させることにより、外国から資金援助を
受けている市民社会団体の信用を落とし、悪者にしようとしているという印象を
持たずにはいられない」と前出のウィリアムソンは述べた。

 明確にNGOを対象とした法律に加え、政府はインターネット上のコンテンツに
も新たな制約を課した。ドミトリー・メドヴェージェフ前大統領の任期末に非犯
罪化された名誉棄損も、7ヶ月後に再度犯罪化された。また、新集会法は、市民
によるデモに制約を課し、違反した者にはロシアの平均月給の10倍にもなる罰金
が科される。

 ロシアの憲法裁判所は、集会法の幾つかの条項が憲法違反であるという判決を
下した。欧州評議会のヴェニス委員会は、集会法の改正は「集会の自由の保障に
おける後退」であるとし、ロシアに主要な条項を撤回するか改訂するよう強く求
めた。ヴェニス委員会は現在、「外国代理人」法及び新たな反逆罪法も検証中で
ある。

 インターネット上のコンテンツを規制する新たな法律により、児童ポルノ映
像、麻薬関連の情報、そして「人々に自殺を促す」情報を掲載するウェブサイト
の連邦登録簿が作成された。裁判所の命令がないにも関わらず、複数の政府機関
は既にウェブサイトを登録簿に載せる権限を与えられている。

 ウェブサイトが登録簿に掲載された場合、そのコンテンツのプロバイダーは、
24 時間以内にサイト管理者に対し禁止されたコンテンツを撤去するよう通知し
なければならない。通知を受けたサイト管理者は、その後24時間以内にコンテン
ツを撤去する必要がある。撤去を怠った場合、プロバイダーは当該ウェブサイト
へのアクセスを24時間以内にブロックしなければならない。本登録簿の管理は透
明性と独立性を欠いており、新インターネット・コンテンツ法が、オンライン上
の政府批判を抑圧させるために乱用される危険性について懸念を生じさせる、と
ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

 ロシア政府は市民社会への弾圧を止め、市民社会の活発化に向けた環境が整う
よう、市民的及び政治的権利を尊重しなければならない、とヒューマン・ライ
ツ・ウォッチは指摘。ロシア政府は、過度に制約的な法規定を廃止し、欧州評議
会や国連をはじめとする国際機関の勧告に従い、法および行政行為が国際法上で
同国が負う義務に従うものとなるよう、改革を進めるべきである。

 欧州評議会は、憲法に関する顧問委員会であるヴェニス委員会に対し、2012年
12 月に改正されたNGO法、インターネット・コンテンツ法、そして名誉棄損を再
犯罪化した法律を検証し、これらの法律が欧州条約上のロシアの義務に沿ってい
るかを判断するよう要請するべきだ。

 また欧州連合は、EU加盟27ヶ国とEU諸機関が、ロシア国内の弾圧およびEU・ロ
シア関係における人権の中心的位置付けについて、統一された強力かつ原則に
則った共通のメッセージを明らかにしなければならない。

 「ロシアの国際的パートナーは、同国で進行中の弾圧に対する懸念の深刻さを
明確にし、人権侵害を止める緊急な必要性を当局に印象づけるべきだ」と前出の
ウィリアムソンは指摘した。

 4月29日にジュネーブで開催予定の国連人権理事会による普遍的定期的審査
(UPR) は、ロシアにおける弾圧に関する懸念を表明するのに大切な機会である。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチは報告書「法による摩耗:プーチン大統領復帰
後のロシアにおける市民社会への弾圧」を、アムネスティ・インターナショナル
の報告書「自由への危機:ロシアにおける表現・集会・結社の自由に対する弾
圧」と共に発表。両団体は、プーチン大統領3期目の初年度に強化された、表
現・集会・結社の自由に対する攻撃の実態を明らかにした。

=======================================================================
▼チェチェンニュースは、ロシアによる対チェチェン軍事侵攻と占領に反対し、
平和的解決を求める立場から発行している無料のメルマガです。2001年から発行
しています。
▼新規購読はこちらから: http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/index.htm

▼発行継続のためのカンパをおねがいします。いくらでもかまいません。
▼ 〈郵便振替口座番号 00130-8-742287 チェチェンニュース編集室〉
〈ゆうちょ銀行 019店 当座 0742287 チェチェンニュースヘンシュウシツ〉

▼ツイッター: @chechennews 

▼転送・転載・引用歓迎です。
▼よろしければご意見、ご感想や情報をどうぞ: ootomi@mist.ocn.ne.jp 
▼発行部数:1262部 発行人:大富亮
=======================================================================