チェチェン総合情報

14 Dec 2011
チェチェンニュース#382

 チェチェン紛争の話題も盛り込まれた、「ロシア・小さき人々の記録」という
貴重なドキュメンタリーが、BSでアンコール放送されますのでご連絡します。

 直前ですみません。このメールを見て下さり、視聴・録画される方がわずかで
もいらっしゃることに期待して、メール連絡差し上げます。



番組名:BSプレミアム
「ロシア・ドキュメント「ロシア・小さき人々の記録」」
(アンコール放送:東京外国語大学長・亀山郁夫氏解説)

放送日時:2011年12月14日(水)午前9:30〜11:30 
放送波:NHK BSプレミアム(3ch)



【内容】

今年はソビエト連邦崩壊から20年という節目の年となりました。最初にこの番
組が放送されてからも11年の歳月が流れています。

この20年の間に、「勝利」したと凱歌をあげたはずのアメリカを中心とする自
由主義資本主義圏も、ウォール街の格差社会反対デモなどに象徴されるように、
「終わりのはじまり」の淵に立っています。

「国家」とは何か—。そこに生きる「人間」とはどういう存在なのか—。私たちは
いかに生きるべきなのか—。

イデオロギーや国家体制の違いを理由に、これを「対岸」として見るのではな
く、現在、我々の生活や人生の根本に突きつけられた問いを、自らの問いとし
て、見つめ直すときに来ているように思います。

この番組は、放送後、国内外の数々の賞もいただきましたが、それよりも、この
番組を見てNHKに入ることを決心した、と言ってくれる後輩のPDやカメラマ
ンがいたことが何よりもうれしかった番組です。

下記の貼付は、早稲田大学教授の水島朝穂さんが、この番組が10年も前に放送
された後、ご自身のブログに書いてくださった番組評の一部です。

いささか過分な評価をいただいているようにも思いますが、登場する人物や社会
の「強さ」ともいうべきものを的確に読み解いていらっしゃる文章で、私がメッ
セージしたかったことを鋭く書いてくださっていますので、参考までに貼り付
け、番組案内とさせていただきます。

なお、水島先生がご覧になったのは、NHKスペシャル(74分版)です。

今回のアンコール放送は、ハイビジョンスペシャル版の120分ロングバージョ
ンです。

NHKスペシャルでは放送時間の関係上、割愛せざるを得なかったシーンやカッ
トも、ディレクターズ・カットとして46分も追加して盛り込んでいます。



「小さき人々の記録」をみる(2001年2月5日) 水島朝穂

NHKスペシャル「ロシア—小さき人々の記録」(再放送1月9日)は、何年かに一本
の傑作だと思う。

今回の「小さき人々の記録」は、これと同様のトーンで、巨大な国家のなかで懸
命に生きる「個人」に光をあてたものだ。

第二次大戦で住民の4人に1人が犠牲となったベラルーシ(白ロシア)。そこに住
む記録作家アレクシエービッチの取材活動を、カメラは淡々と追う。
まず番組は、スターリンの「粛清」で父親を銃殺された娘のインタビューから始
まる。そのなかで、シベリアで殺された住民の死体から石鹸を作っていたという
衝撃的事実も明らかにされる。人間の脂肪の「有効利用」という点では、ナチス
もソ連も同じだった。まさに国家的犯罪である。

さらに、独ソ戦で生き残ったのに、スターリンの戦術指導の誤りを隠すため「人
民の敵」にされ、その後「英雄」になって名誉回復するも、ソ連崩壊ですべてを
失って自殺した男の話。妻には「休暇に出る」とメモを残し、鉄道の線路に身を
投げた。「英雄にされるまで、夫は私のものだった」と妻。国家の都合で翻弄さ
れ続けた個人の悲惨である。
 次いで、アフガニスタン戦争から無事帰還した兵士とその母親の話。息子は戦
場で精神を病み、帰国後凶悪な殺人を犯す。懲役15年。やっと息子は出獄した
が、母のもとには戻らなかった。息子だけが生き甲斐で、ひたすら待ちつづけた
母。新興宗教に入信して、教祖とともに母を糾弾する息子。ついに母は精神病院
に入院する。すべてをカメラは淡々と映していく。

そして、チェルノブイリ原発事故で現場に真先に飛び込んだ消防士の妻の話。重
度の被爆をした夫を看病し、お腹の赤ちゃんを死産する。夫の死体は亜鉛の柩
に。国家は「英雄」としてこれを扱い、妻のもとには返さなかった。同居する年
老いた祖父は、なぜ夫の看病をしたのかと彼女をカメラの前で追及する。1600レ
ントゲンも被曝した夫に近づけば自らも被爆するのに、と。妻は再婚。そこで生
まれた12歳の息子にもインタビューする。番組は、ベラルーシの汚染された村々
を歩く良心的科学者の活動も描く。汚染された牧草で育った牛の乳を飲み、病気
になっていく貧しい家の子どもたち。くったくのない笑顔が痛々しい。

そして、息子をチェチェン戦争に送るのを阻止する「母親たちの会」。「人々の
語り方には明らかに変化が生まれている。かつては『我々』だったが、いま最初
に来る言葉は『わたし』。『わたしの家、私の生き方…』。独り立ちする個人が
あらわれはじめている」。このナレーション(渡辺美佐子)にハッとした。
 最後は、軍隊で虐待されている恋人を脱走させた恋人の話。化粧品店で働く普
通の女の子だ。なぜ恋人を脱走させたのかと問われていわく。「チェチェンの戦
争は政府には必要かもしれないが、ロシアという国には必要ないわ」。
 番組は最後に、それまで登場した人々一人ひとりがカメラを見つめるシーンを
流しながら、ナレーションがかぶさる。

「これだけの被害者の声を聞いたのに、加害者はずっと姿を隠している。国家が
つくり出す神話。それが最も恐れるもの、それは生きている人間の声です」。

番組が終わってから、ドッと涙が溢れてきた。自分でも信じられなかった。哀れ
とか悲しいという気持ちではない。耐えがたく重い一つひとつのエピソードへの
感動でもない。心の深奥から滴る涙。作品全体によって与えられた、まさに「心
動」と言えるだろう。絶望と悲しみのどん底から、希望がかすかに見えてくる。
体制に同化しない、生きた人間の顔が見える。旧ソ連・ロシアへの画一的なイ
メージを塗り替える迫力をもつ。そんな作品に出会えたことに感謝したい。


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