今回のニュースは、次のURLから写真入りで見ることができます。
http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0715.htm (HTML版) 発行部数:1652部
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チェチェン戦争の直接的当事者ではない自分がチェチェンニュースを書くとはどういうことだろう?私たちはチェチェンを語ることによって戦争の当事者になれるのか?語らないことによって非当事者でいることができるのか?そんな文章を、ややとりとめなくお送りします。
6月18日まで、東京・新宿で、硬派フォトジャーナリズム誌「DAYS JAPAN」の写真展が開催されています。学校や仕事の帰りにも、休日にも、ぜひお立ち寄りください。 (邦枝律/チェチェンニュース)
INDEX
(邦枝律/チェチェンニュース)
「月刊オルタ」という雑誌をご存知だろうか?「オルタ」はアジア太平洋資料センター(PARC)が発行している雑誌で、今の世界を変革してもうひとつの世界(Alternative World)を作り出そうとする世界各地の動きを伝えるメディアの一つである。
「月刊オルタ」とは?
http://www.parc-jp.org/main/a_alta/alter_text
その「オルタ」の2007年5月号に掲載された岡真理さんの文章を読んで考えたことを、今回のチェチェンニュースで紹介したいと思う。
「当事者とは何か」というわずか2ページの文章で、彼女はイスラエル=パレスチナ問題における私たちの当事者性を見事に暴き出している。私たちの無知や「中立性」こそが「問題の不可分な一部を構成し、パレスチナ人に対する抑圧の永続化に貢献」している以上、私たちもまた問題の「当事者」に他ならない、というふうに。
こうした見方は以前にもチェチェンニュース Vol.04 No.28 などで伝えてきたけれど、ここでもう一度振り返って考えてみたい。
「チェチェン ——— 失敗した侵略」
http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0428.htm
2004年10月、パレスチナのガザで、通学中の13歳の少女がイスラエル兵から十数発もの銃弾を浴びて死亡した。この衝撃的な事件を受けて、世界中でイスラエル政府に対する抗議行動が呼びかけられたが、その直後に少女がテロリストであったというニュースが報道されたため、真偽を確認できない大多数の人々は、少女の死について判断を保留した(※)。
翌2005年8月、イスラエル政府はガザ地区からユダヤ人入植者を撤退させ、通常は第三者の立ち入りが厳しく制限された現地にプレスセンターを設置した。その結果、世界中のメディアが、住み慣れた家を追われる住民の悲劇を連日報道し、同胞を強制的に排除せざるを得ないイスラエル兵士の葛藤を伝える記事が日本でも大きく紹介された。
二つの事件には、報道されなかった背景がある。一つは、少女が殺された10月6日を挟む9月28日から10月15日までのわずか18日の間にガザで135人(うち34人は18歳以下)がイスラエル軍の侵攻によって殺害され、521名もの人々が負傷したという事実。そしてもう一つは、イスラエルの建国によって、80万人ものパレスチナ人が住み慣れた故郷を引き剥がされて難民となり、現在も400万人もの人々がイスラエル政府によって帰還の権利を否定されているという事実である。
こうした背景がメディアで報じられないことによって、少女の死の真相は曖昧なまま忘却され、パレスチナ問題の歴史的文脈は封印され、イスラエル政府が自国民に多大な犠牲を負わせてまで「平和」を求めているというフィクションが私たちの意識を占領していく。ゆっくりと。けれど確実に。
著者は二つの事件を比較してこう述べる。「二つの例は、私たちが問題の直接的当事者で『ない』がゆえに逆に、問題の不可欠の構成要素となっているという事実を教えてくれる。問題の先行きに大きな影響力をもつ国際世論を構成する第三者たち——私たちのことだ——は、メディア戦略の重要なターゲットとして、つねにすでに問題に組み込まれているのだ」と。
つまり、私たちはパレスチナ問題について無知であったり、「中立的」であろうとすることによって、非当事者あるいは傍観者という名の問題の構成要素——すなわち「当事者」——になっているのである。
※この事件については、P-navi info が丁寧なフォロー記事を出しているので、ぜひご一読いただきたい。
「ラファでの少女銃殺で、下士官たち上官を訴える」
http://0000000000.net/p-navi/info/news/200410130112.htm
上の構図はそのままロシア=チェチェン問題にも当てはまる。プーチン政権のメディア戦略は、あからさまに暴力的でイスラエル政府のようには「洗練」されていないが、現地への第三者の立ち入りを排除している点ではイスラエル以上に徹底した統制が敷かれている。
そうした中で、25万人ともいわれるチェチェン人の死については、「私たちに是非の判断を留保させるような対抗的言説がネットを活用して流される」(例えば「チェチェン人はテロリストだ」など)。「真実は藪の中だ、どちらが正しいとは言えない、と私たちに思わせるだけで作戦は成功だ」(「ベスラン事件の真相は今だに解らない」し、「ロシアの占領も悪いがチェチェンのテロも悪い」という「中立的」な立場に立つことで、事態を「客観的」に分析した気になることもできる)。
「他方、自分たちに都合のよい出来事は、マスメディアを舞台に全面展開され」る(チェチェン戦争の「終結」やチェチェンの「戦後復興」など)。
こうして「問題をめぐる私たちの認識は、一方の側にとって極めて都合のよいものになる」。つまり、私たちは、ロシア政府という一方の当事者に都合よく操作されることで、チェチェン問題の解決に影響を与えることのできる第三者ではなく、チェチェン問題の固定化に加担してしまう第三者に変質させられているのである。
確かに私たちはチェチェン戦争の当事者ではないかもしれない。けれども、チェチェン問題をめぐる言説——そしてその言説がチェチェン戦争に決定的な影響を及ぼす——を形成する過程においては、紛れもなくまた当事者といえるのではないだろうか。
このことは、少し視点を変えて見ると、わかりやすいかもしれない。もしもあなたがチェチェン戦争を終わらせたくない立場にあるとしたら、第三者に対して戦争を支持するよう働きかける必要は、実はない。大多数の人間を無知や無関心のままに留めておき、関心を持つ少数者の意識を「チェチェンの独立は問題の解決につながるのか」といったようなシニカルな——チェチェン人の自決権を尊重しないという点ではロシア政府と同じく傲慢な——ものに誘導していけばよいのである(それによってロシアおよび親ロシア派チェチェン当局による現在進行形の人権侵害は相対的に軽視されることになる)。
一方、もしもあなたがチェチェン戦争を終わらせたい立場にあるとしたら、第三者に対してはどうしても戦争に反対するよう訴えなければならない。彼らを無知や無関心のまま放置しておくわけにはいかないし、自国の権益——たとえばエネルギー戦略や「テロ」との戦いというフィクションを作り上げること——と引き替えに発言権を放棄してもらうわけにもいかない。「チェチェン人は果たして独立を望んでいるのか」といったような当事者不在の議論も、事態の解決にはあまり役立たないだろう(現在のような人権侵害が続く状況でチェチェン人に言論の自由が保障されていると考えるなら別だが)。
要するに——第三者が戦争に賛成も反対もしないという一見「中立的」で「客観的」な態度を取ることは、明らかに戦争を終わらせたくないという一方の当事者の利益に適っている。もっとはっきり言ってしまえば、戦争の終結を望む他方の当事者の、あまりにも切実な、そしてあまりにもささやかな願いを、否認する結果にさえなっていると思う。
つまりは、チェチェン問題の直接的当事者ではない私たちこそが、この戦争の非対称性に異議を唱えることもできれば、非対称性を拡大再生産することもできるというわけだ。とすれば、やはり私たちはチェチェン問題に組み込まれた、もうひとつの「当事者」なのではないだろうか。
と、まあ偉そうなことを書いてきたけれど、私自身、自分が知らなかったり、誤解したりしている無数の問題については、その解決を否認する無自覚の「当事者」になっているのだろうと思う。極端な話、「テロとの戦い」というフィクションを全面的に支持するのであれば、チェチェン人のジェノサイドこそがチェチェン問題の「解決」ということにさえなりかねない。
同様に私がある問題の解決手段として認識しているものが、実は悲惨な現状を追認し、より悲惨なものに変えてしまう可能性だってある。そもそも問題それ自体を知らなければ、それを解決する必要性さえ感じないままなのだ。
ではどうすればよいのだろうか。考えられるひとつの答えは、知ることと知らせることの限界をわきまえつつ、可能な限り真摯にそれを追求していくことだと思う。幸いなことに、決して主流ではないけれど、そうした視点で情報を発信しているメディアや市民団体、個人は少なくないし、私たちはその気になりさえすれば、そうした情報にアクセスしてそれらをさらに広げていくことができるのだから。
岡田一男さん(映像作家)から寄せられた情報です:
二人の高名なドキュメンタリー作家によって制作されたアレクサンドル・リトビネンコ関連作品が発表された。「踊れ、グローズヌイ!」のヨス・デ・プッターは、オランダのテレビ局のために1時間番組「追悼!、アレクサンドル・リトビネンコ」(56分)を製作、1月に初放映、この5月20日には、ロンドンでデ・プッター自身が出席するプレゼンテーションが、有力ジャーナリスト団体「フロントラインクラブ」の主催で開催され、BBCなどのマスコミに大きく報道された・・・
つづきを読む:
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20070524/1179965689
映画評論家の齋藤敦子さんによる解説文はこちら:
・・・リトビネンコの暗殺は誰が行ったのか、今も様々な情報が乱れ飛んでいますが、リトビネンコ氏の真摯な証言を聞きさえすれば、直接の実行犯が誰かはわからなくても、暗殺を命じたのが誰かについて、疑いを挟むことはなくなるでしょう。身も凍るように恐ろしい、けれども必見のドキュメンタリーです。
くわしく読む:
http://www.kahoku.co.jp/cinema/cannes2007/070527.htm
日程:2007年5月29(火)〜6月18日(月)
時間:10:30〜19:00(最終日のみ15:00まで)
会期中無休
入場料:無料
場所:コニカミノルタプラザ ギャラリー全館(新宿高野ビル4F JR新宿駅東口駅前)
硬派な写真報道雑誌「DAYS JAPAN」の主催による写真展が、東京・新宿のコニカミノルタプラザにて開催中ですので、ご紹介させていただきます。入場も、期間中のイベントも、全て無料ですので、ぜひご参加下さい。
会場内はテーマごとに3つのギャラリーに分かれており、ギャラリーC「第3回DAYS国際フォトジャーナリズム大賞 受賞作品」・ギャラリーB「戦争・命の尊厳・光ある未来」・ギャラリーA 映像とイベントで見る「世界は今」という構成になっています。
チェチェン関係の展示をご紹介しますと、ギャラリーCの展示室には、読者賞を受賞した「チェチェンの戦後」という作品も展示してあります。また、ギャラリーAでは、壁一面の大スクリーンにスライドショーが上映されています(イベント開催時には、上映は一時中断します)。こちらのスライドにも、ジェイムズ・ナクトウェイが撮影した戦車と子どもの写真や、一面瓦礫の山となったグロズヌイの街など、チェチェンの写真も数点使われています。
私事で恐縮ですが、私はこちらで上映されているスライドの作成に、ボランティアスタッフとして製作のお手伝いをさせて頂きました。
製作中は、誌面で紹介された、戦争、難民、貧困、病気、児童労働、女性への暴力、核、環境問題など130枚の写真を3週間毎日繰り返し見ていましたが、編集しながら思うことと言えば、世界に溢れる深刻な問題と、過去から現在に至るまで、それを繰り返している人間の愚かさです(私が言うのも大変おこがましいのですが)。
戦争はしてはいけないと誰もが分かっているにも関わらず、人はそれを繰り返します。そして、現在の日本ですらも、戦争ができる国にするための準備が着々と進められています。
会場内には、世界各地で撮影された、様々な問題を鋭く切り取った作品が、多数展示してあります。海の向こう側で、あるいは日本の片隅で苦しんでいる人々のことを知り、どうすればこれらの問題を解決できるか、考えて頂くきっかけになれば幸いです。
(周香織)
5/29〜6/18 DAYS JAPANフォトジャーナリズム写真展「地球の上に生きる2007」
http://www.daysjapan.net/event/bn/2007/event070502.html
5/28〜6/28 広河隆一写真展「フォトジャーナリストは何を伝えたか」 http://www.daysjapan.net/event/
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6/24 茨城: 世界の現在を映すドキュメンタリー(『踊れ、グローズヌイ!』上映)
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20070519/1179586537
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7/1 大阪:『踊れ、グローズヌイ!』上映会
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20070418/1176870879
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6/22 各地: 動けば変わる! TEAM GOGO 2007
エコな内容の号外を豪快にばらまきます。協力者募集中!
http://www.teamgogo.net/
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1/27- 各地: 映画「グアンタナモ、僕達が見た真実」
http://www.guantanamo.jp/
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3/10- 東京ほか: 映画「パラダイス・ナウ」
http://www.uplink.co.jp/paradisenow/
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5/26- 東京: 映画「ひめゆり」
http://www.himeyuri.info/index.html
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5/28-7/1 東京: 広河隆一・山本宗補写真展
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20070521/1179759793
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5/29-11/10 東京ほか: DAYS JAPAN写真展
2007
http://www.daysjapan.net/event/bn/2007/event070502.html
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