チェチェン総合情報

チェチェンニュース Vol.07 No.07 2007.03.08

http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0707.htm (HTML版) 発行部数:1672部

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きょう、3月8日は、チェチェン共和国のアスラン・マスハードフ大統領(独立派)が、ロシア軍特殊部隊によって暗殺された日です。ついさきほど、知人からのメールをもらって思い出しました。

私は彼と会ったことはないのですが、彼が、チェチェンとロシアの平和のための、残された希望だったとは言えると思います。チェチェンの人々に民主的に選挙され、ロシアとの和平交渉を常に訴えてきたにも関わらず、(いや、だからこそ?)ロシア軍に殺されたこの人物のことを、忘れたくないと思っています。(大富亮/チェチェンニュース)

INDEX

■アスラン・マスハードフの命日

アスラン・マスハードフ

きょう、3月8日は、チェチェン共和国のアスラン・マスハードフ大統領(独立派)が、ロシア軍特殊部隊によって暗殺された日です。ついさきほど、知人からのメールをもらって思い出しました。

私は彼と会ったことはないのですが、彼が、チェチェンとロシアの平和のための、残された希望だったとは言えると思います。チェチェンの人々に民主的に選挙され、ロシアとの和平交渉を常に訴えてきたにも関わらず、(いや、だからこそ?)ロシア軍に殺されたこの人物のことを、忘れたくないと思っています。

紛争当事者の片方であるマスハードフ氏に対して、過剰な思い入れや、英雄化につながるようなことを書くべきではないのかもしれません。

それもたぶん間違っていないのですが・・・ロシア軍の侵攻下で、わずかな部下とともに地下活動を続け、文字通り地下で殺害された彼の晩年を思うと、この戦争の非対称性と言ったらいいのでしょうか、どうしてもやるせない思いになります。

チェチェン人は、自分たちの手で同族の遺体を葬ることをとても大切にしていて、そうしなければ天国に行けないと信じているそうです。けれども、まだマスハードフの遺体は返還されていません。そのことが遺族に与える苦しみ、そして、他にも大勢の市民がロシア軍や親ロシア派に拉致され、帰ってきていない苦しみが、今日もチェチェンに積もり、静かに重みを増していることでしょう。

マスハードフの最大の功績は、96年に結ばれたハサブユルト協定と、97年に結ばれたロシア・チェチェン平和条約だと思います。現在でも、読む意味のある文書だと思います。下に貼り付けますので、一度目を通していただければ幸いです。(大富亮)

人物情報: http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/basic/biograph.htm#Maskhadov

●ハサブユルト協定

共同声明

我々、下記に署名した者は、軍事行動停止に関する協定の実現において得られた進展を考慮し、武力紛争の政治的解決のための相互に受入れ可能な前提条件をつくりだすことを目指し、紛争問題の解決に際して軍隊の行使または軍隊による威喝の禁止を承認し、一般に認められている民族の自決権、同権、自発性および意思表示の自由の原則、民族間の協調および人民の安全の強化に立脚し、国籍、宗教、住所、その他の相違にかかわりなく、人間および市民の権利と自由を無条件に擁護する意志を、また政治的敵対者に対する暴力行為の阻止を表明し、同時に、1949年の世界人権宣言と1966年の市民的および政治的権利に関する国際規約に立脚して、今後の交渉過程の基礎となるロシア連邦とチェチェン共和国の相互関係の基本を決めるうえでの原則を共同で検討した。

A. レベジ A. マスハードフ S. ハルラモフ S. アブムスリモフ
年月日: 1996年8月31日
署名地: ハサブユルト
立会人: 欧州安全協力機構(OSCE)チェチェン支援団長T.グルディマン

ロシア連邦とチェチェン共和国の相互関係の基本を決めるうえでの原則

1. 一般に認められている原則と国際法の規定に従って決められるロシア連邦とチェチェン共和国の相互関係の基本に関する合意は、2001年12月31日までに得られなければならない。

2. 遅くとも1996年10月1日までに、下記を任務とするロシア連邦とチェチェン共和国の国家権力機関の代表からなる合同委員会が結成される:

1996年6月25日付ロシア連邦大統領令第985号の実行状況の点検と軍の撤退完了に関する提案の準備;

犯罪、テロリズム、民族的宗教的敵意発露の防止に関する調整措置の準備とその実行状況の点検;

通貨金融および予算関係の回復に関する提案の準備;

チェチェン共和国の社会経済複合体の復興計画の準備とそのロシア連邦政府への提出;

住民への食料および医薬品の供給に際して、国家権力機関とその他の関係諸組織が調整された共同行動を行っているかどうかの状況点検。

3. チェチェン共和国の法令の基礎は、国籍、宗教その他の相違にかかわらず、人間的権利および市民的権利の尊重に、民族自決権に、また民族の同権、市民的平和の保証、民族間の協調、チェチェン共和国の領域に居住する市民の安全などの諸原則に立脚する。

4. 合同委員会は、相互の事前合意にもとづきその作業を完了する。

公表: 独立新聞、第163号、1996年9月3日
原文: http://www.cityline.ru/politika/doc/hasavurt.html

●ロシア連邦とイチケリア・チェチェン共和国の平和と相互関係に関する条約

双方は、数世紀にわたる敵対関係の終結と、安定の構築、対等で実りある関係をめざし、以下を合意する。

1.永久にいかなる紛争問題の解決にあたっても武力の行使や威嚇をしない。

2.双方の関係を、常識的かつ国際法の基準に沿って発展させること。その際、双方は明確な合意のもとに対話を行うこと。

3.この条約は、他のあらゆる関係における、合意、協定の基としての地位を有する。

4.この条約は2部の複写からなり、双方が所持し、等しく効力を有する。

5.この条約は、署名の日から効力を有する。

1997年5月12日、モスクワ
(署名)B・エリツィン ロシア連邦大統領
(署名)A・マスハードフ イチケリア・チェチェン共和国大統領

●マスハードフ関連記事:

マスハードフはどうして殺されたのか?
http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0508.htm

ロシアとチェチェンを汚染するもの−−−マスハードフの死のあとに
http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0523.htm

チェチェンタイムス論評 「1対1で」
http://groups.msn.com/ChechenWatch/general.msnw?action=get_message&mview=1&ID_Message=1610

■R・カディロフ、ついにチェチェン大統領に

チェチェン大統領にカディロフ氏(時事通信)

3月1日、プーチン大統領が、チェチェン親ロシア派政権のボス、ラムザン・カディロフをチェチェン共和国大統領に指名しました。2日には、チェチェン共和国議会が、カディロフを大統領として承認。一ヶ月以内に就任式が行われ、カディロフが名実ともに親ロシア派政権のNo.1になります。

同日2日、欧州会議のハマーベルク人権問題担当委員は、モスクワでの記者会見で、チェチェン共和国で蔓延している治安機関による拷問と、誘拐などによる市民の失踪を批判しました。こうした拷問と誘拐の多くに関わっているのが、「カディロフツィ」と呼ばれる親衛隊(マフィア集団)を率いるラムザン・カディロフ。

彼がチェチェンで権力をもてあそんでいる限り、そして、クレムリンが彼のような人物に権力を与え続けている限り、チェチェン戦争に終わりはないと思います。(邦枝律)

「チェチェン新大統領に親露武闘派」[産経新聞 3/4]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070304-00000010-san-int

人物情報: http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/basic/biograph.htm#rKadyrov

■最近の報道拾い読み

ロシア・チェチェン関連ニュースをやや雑多にお送りします。

●ロシア

○露、記者また不審死 違法輸出追及 機密保護で暗殺? [産経新聞 3/7]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070307-00000018-san-int

ロシア人ジャーナリストが、またしても不審死を遂げた。死亡したのは、日刊紙コメルサントの軍事評論家だったイワン・サフロノフ氏。モスクワ市内の自宅アパートの最上階から落下して死亡したため、当初は自殺の可能性が高いと言われていた。

しかし、コメルサント紙は6日、ロシアがミサイルや戦闘機をベラルーシ経由でシリアやイランに輸出しようとしているとの記事を出稿する直前にサフロノフ氏が死亡したこと、さらに同氏がロシアの武器輸出の極秘情報を記事にしないよう脅迫されていた事実を挙げ、「殺害された可能性が高い」と報じた。

欧米諸国からは、「ロシアでは反政権的なジャーナリストがあまりに多く死亡している。ロシアは説明する義務がある」などと、相次いで懸念が表明されている。

○サンクトで反政府デモ、100人逮捕 [NNA 3/6]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070306-00000021-nna-int

サンクトペテルブルクで3日、数千人規模の反政府デモが行われた。警官隊が大挙出動し、100人以上が逮捕されている。デモを主導したのはチェスの元世界チャンピオン、ガリー・カスパロフ氏のほか、プーチン大統領とたもとを分かったミハイル・カシヤノフ前首相など。「大統領は民主主義を踏みにじっている」と訴えた。

●チェチェン

○R・カディロフ、グローズヌイ市長を解任 [ラジオ・リバティ 3/7]
http://rferl.org/featuresarticle/2007/03/7D68FD0D-9B83-4837-9B4A-969E07C837BC.html

3月7日、チェチェン親ロシア派大統領、ラムザン・カディロフは、チェチェンの首都、グローズヌイの市長を解任した。カディロフいわく、グローズヌイには「新しいアイディアとアプローチが必要だ」とのこと。ちなみに、前市長は、カディロフへの権力の集中や、彼がカルトの教祖じみていること、人権侵害を続けていることなどを批判していた。

○グローズヌイで反徴兵デモ [プラハ・ウォッチドッグ 3/5]
http://www.watchdog.cz/?show=000000-000005-000004-000139&lang=1

3月5日、チェチェンの首都グローズヌイで、チェチェン人の徴兵に反対するデモが行われた。参加者は30名ほど。デモに参加した母親のほとんどは、徴兵そのものには反対していないが、息子がチェチェン以外のロシアの地域に派遣されることに反発しているという。

●国際・人権

○米国務省、チェチェンでの人権侵害を批判 [ラジオ・リバティ 3/6]
http://rferl.org/featuresarticle/2007/03/AE06072A-27E6-4060-9D8F-089A58FD27D2.html

3月6日、米国務省は2006年の世界の人権状況に関する報告書を発表した。報告書は、チェチェンおよびロシアの北コーカサス地方で「重大な人権侵害」が続いているとして、ロシア軍および(親ロシア派)チェチェン軍による市民の殺害および虐待を批判している。プーチン大統領への権力の集中や、法執行当局の腐敗、司法に対する圧力、NGOおよびメディアに対する規制などが、ロシア政府の説明責任の後退に拍車をかけているとも。

○アゼルバイジャンでチェチェン難民デモ [ラジオ・リバティ 2/28]
http://rferl.org/featuresarticle/2007/02/AA2F48C1-EFF9-4B62-8DF8-3C316C25B99B.html

アゼルバイジャンの首都バクーで、数十人のチェチェン難民が、国際法上の難民としての権利を要求するデモを行った。要求は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に対するもので、要求が認められない場合には、第三国への出国を支援するよう訴えた。UNHCRによると、アゼルバイジャンに在住するチェチェン人は現在約2600人。

●エネルギー

○露ガスプロム 拡張主義、南米に 異業種買収も エネルギー独占へ [フジサンケイ ビジネスアイ 2/28]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070228-00000013-fsi-bus_all

世界最大級のロシア国営天然ガス独占企業体、ガスプロムが、外国のエネルギー各種事業にも積極的に参画し、買収する動きをみせている。自国企業の株式をハゲタカファンド(外資)が買い占めることは許さないけれど、ガスプロムを通じてロシアが世界の資源エネルギーの産出から運搬、供給までを牛耳って、価格を操作するのはOKということらしい。

■イベント情報

●12/1- 東京ほか: みえない雲
http://www.mienaikumo.jp/

●1/27- 東京ほか: グアンタナモ、僕達が見た真実
http://www.guantanamo.jp/

●2/1-3/30 東京: 東京国際芸術祭2007
http://tif.anj.or.jp/

●2/17 東京: チョムスキー:マニュファクチャリング・コンセント上映!
http://www.cine.co.jp/media/

●3/9 東京: イラン・パペ来日 パレスチナ/イスラエル──民衆の共存に向けた歴史の見直しを
http://midan.exblog.jp/5526275/

●3/10- 東京: パラダイス・ナウ
http://www.uplink.co.jp/paradisenow/

●3/10 東京: 講演会「憲法9条を泣かせるな」
http://www.ikenkoukoku.jp/

●3/10 東京: 3.10 パネルディスカッション STOP! 改憲のための手続き法 国民投票法=改憲手続き法案の危険性
http://www.jlaf.jp/jlaf_file/070202C310.pdf

●3/12 東京: STOP!改憲手続き法—3・12 国会へ行こうアクション
http://www.annie.ne.jp/~kenpou/

●3/17 東京: 地教研例会「チェチェン・カフカス・ロシア」
http://www.geocities.jp/chikyouken/tokyochikyouken.html

●3/20 東京: 憲法改悪のための国民投票法案を許すな!米軍・自衛隊はイラクから撤退せよ!米軍基地再編・強化反対 3・20中央集会
http://www.kokumintohyo.jp/modules/piCal/index.php?smode=Daily&action=View&event_id=0000000005&caldate=2007-3-8

●3/22-4/1:周 香織・ねもと よしみ 二人展 「おわりとはじまり」
 会期中トークイベントあり
 ○3/24, 4/1:「ねもとよしみ劇場」
 ○3/25, 3/31:「周香織の部屋」
http://shukaori.exblog.jp/d2007-02-01

●3/31 東京: 板垣雄三講演「アメリカはイランを攻撃するか」
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20070303/1172934232

●4/5-9, 18-20 東京: 写真展「核の傷跡」
http://homepage2.nifty.com/chernobyl_children/index.html

●4/14 東京: 地球のなかま映画祭2007
http://momotomonet.seesaa.net/article/34594178.html

●4/21 東京: チェルノブイリ21周年救援 講演&コンサート
http://www.tokyo-art.info/work.htm#chernovyl

●5/29-11/10 東京ほか: DAYS JAPAN フォトジャーナリズム写真展 「地球の上に生きる2007」
http://www.daysjapan.net/news/news2007/news200703_01.html


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