http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0702.htm (HTML版) 発行部数:1669部
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欧州人権裁判所が、ロシア軍による人権侵害についてまたもやロシアに賠償命令を出しました。チェチェンは、2006年の最も報じられなかった人道的危機のひとつに選ばれるなど、依然として出口の見えない危機にとらわれています。
1月27日には『踊れ、グローズヌイ!』がアムネスティ・フィルム・フェスティバルで上映されます。破壊された瓦礫の下で必死に踊り続けるチェチェンの子どもたちの姿を通じて、チェチェン戦争の実態を映し出した秀逸なドキュメンタリーです。ぜひお誘い合わせの上、ご来場ください。
今回のニュースでは、国内の人権問題として、朝鮮学校卒業生の大学受験資格が拒否された事件も紹介します。こちらも併せてお読みください。(邦枝律/チェチェンニュース)
INDEX
欧州人権裁判所が、ロシア軍による人権侵害についてまたもやロシアに賠償命令を下しました。原告は2人のチェチェン人兄弟で、6ヵ月にわたって、瓶やこん棒で殴打されたり、窒息死しそうになるまで口をテープやガスマスクで塞がれたり、犬をけしかけられたり、肌をペンチで焼かれたりといった拷問を受けました。2人は、自分たちが生き延びることができたのは、アンナ・ポリトコフスカヤによる記事と人権団体メモリアルの助力があったからだと語っています。
これまでも欧州人権裁判所ではロシア軍によるチェチェン人の失踪や殺害に関して幾度も賠償命令が下されてきましたが、チェチェン人に対する拷問によって賠償命令が下された例は今回が初めてとのことです。
[ラジオ・リバティ 1/18]
http://rferl.org/featuresarticle/2007/01/5CD2A296-7EF4-4181-BF1A-63F369BDE2F4.html
判決に先立つ1月11日、プーチン大統領は、欧州人権裁判所がロシアに「政治的な」決定を押しつけているとして、チェチェンでのロシア軍による人権侵害を批判している欧州人権裁判所に露骨な不快感を示しました。欧州人権裁判所は、個人や団体、国家が、欧州評議会の加盟国による人権侵害を訴えることのできる人権救済機関で、加盟国は判決を履行する義務があります。
過去にロシアがチェチェン人の失踪や殺害に関して欧州人権裁判所から違法判決と賠償命令を受けた事例はこちら(一部)。
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20060729
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20061015
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20061113
プーチン大統領は、ロシアを訪問中の欧州評議会議員総会(PACE)議長に向かって、「ロシアはまったくいわれのない糾弾を受けており、国際司法システムの信用を貶める政治的な判決が下されている」などと言いたい放題のことを言っています。
[ラジオ・リバティ 1/11]
http://rferl.org/featuresarticle/2007/01/9D15A5CC-496D-489C-A68A-2883FFB58FB8.html
最近のロシア・チェチェン関連ニュースをまとめて一気に紹介します。
2006年、10の最も報じられなかった人道的危機
[国境なき医師団 1/10]
http://www.msf.or.jp/2007/01/10/5710/200610.php
2006年に世界で最も注目を浴びず、報道されることの少なかった人道的危機のワースト10に、チェチェンがランクイン。国境なき医師団が、メディアの関心の外側で、出口の見えない危機にとらわれ続ける人びとの窮状を訴える。
「チェチェンにおける紛争、そして一般市民に与えた影響は、世界の他の国々にはほとんど完全に知らされないままになっている。紛争の激しさは弱まっているものの、この悲惨な12年間の戦争に翻弄され生きてきた多くの人びとの身体的・精神的な傷跡は未だに癒えていない・・・」
ロシア、暗殺批判を逆利用、国民の反欧米感情あおる [日経新聞 12/27]
リトビネンコ暗殺、ポリトコフスカヤ暗殺、「サハリン2」権益取り上げ。西側のロシアに対する不信感に火がついているが、こうした報道に対してロシアのラブロフ外相は、「2−3日で忘れられるような事件をしつこく報道するのは大国として復興するロシアをおとしめようとする国の意図がある」と言ってのけた。駐露の米国、英国の大使らはプーチン政権の組織した青年団「ナーシ」の嫌がらせを受けている。リトビネンコ暗殺は、ロシア政府内の強硬派が、西側との対立ムードを作ろうとして仕組んだのではないか。
政府高官の秘密接触? 元スパイ殺害から1ヶ月 [朝日新聞 12/28]
ロシアのメディアは一貫して「ベレゾフスキー黒幕説」を流しているが、ノーヴァヤ・ガゼータ紙のラティニナ評論員はこう書いている。「ポロニウムでの苦痛の死は反体制派への警告となる。高価な放射性物質を使った殺害は国家の後ろ盾が必要」と。さらに政治学者のオレシキン氏は、選挙で政権エリート層が交代して力を失うことを恐れるグループが、憲法で禁止されたプーチン大統領の3選を実現するため、暗殺などの事件を起こしていると指摘する。このグループはパトルーシェフFSB長官や、セーチン大統領府副長官など。
モスクワに赴任したE記者へ [Fujisankei Business 12/29]
「赤の広場で果てようとも・・・」最近ロシアがらみで起こる恐ろしい事件に、産経新聞「正論」調査室長は若き日のモスクワ支局時代を思い出す。「モスクワに赴任したE記者へ。君が赤の広場やモスクワ川で死体で発見されても、社は決して君が自殺したなんて思いはしない。KGBの仕業として徹底的な捜査を申し入れる。21世紀初頭にまた<ソ連>が巡り来るとは想定外だったが、健闘を祈る」
ジョニー・デップが映画化へ=ロシアの元スパイ殺害事件 [livedoor NEWS 1/12]
http://news.livedoor.com/article/detail/2977177/
ハリウッドの俳優ジョニー・デップが、リトビネンコ事件を題材にした映画をプロデュースすることになった。ニューヨーク・タイムズの記者が執筆した本を映画化するということだが、この本だと犯人は誰になっているのだろう?
<露中佐毒殺>最高検が亡命政商ら捜査の方針示す [毎日新聞 1/16]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070116-00000120-mai-int
リトビネンコ暗殺事件に関して、プーチンの腹心チャイカ検事総長が、近くロンドンに検察官を派遣し、ボリス・ベレゾフスキーとアフメッド・ザカーエフから事情聴取する方針を明らかにした。またイスラエルに亡命中の元ロシア石油大手ユコス幹部のレオニード・ネブズリンも捜査する方針という。ロシア検察庁が事件の容疑者としているのは、なぜかプーチン政権に反対する人物ばかり。一方、英国警察当局が最重要容疑者としているのは、元情報機関員のアンドレイ・ルゴボイとその実業家仲間のドミトリー・コフトン。
ノーベル平和賞に1000人の女性推薦 写真や著書、活動を紹介 [京都新聞 1/16]
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2007011600097&genre=K1&area=K10
平和や人権尊重のために活動している女性1000人を選び、ノーベル平和賞に推薦する国際運動を紹介する「平和をつむぐ1000人の女性展」が20日から京都市で開催。暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤ記者の写真や著書の紹介も。
英大使ストーカー問題 露外相が“厳重注意” [フジサンケイ ビジネスアイ 1/20]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070120-00000008-fsi-bus_all
「英国のブレントン駐露大使が親クレムリンの官製青少年団体『ナーシ』から半年間に及ぶ深刻なストーカー被害を受けている問題で、ロシアのラブロフ外相は18日までに、同団体のリーダーを外務省に呼び、“厳重注意”した・・・ナーシは『民主主義のファシズムからの防衛』なる不可解な目標を掲げ、公称8000人のメンバーと少なくとも5万人の動員力をもつ」
ロシア産原油供給を再開 ベラルーシ経由で欧州へ [フジサンケイ ビジネスアイ 1/12]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070112-00000013-fsi-bus_all
ベラルーシ経由で欧州に送られるロシア産原油の供給が再開。年末から続いていた原油価格問題でベラルーシがロシアに譲歩した形だが、欧州委員会のバローゾ委員長は「容認しがたい」とロシア側を非難、エネルギー供給国としてのロシアに対する危機感を表明した。
ロシアでテロの脅威に関する注意喚起 [時事ドットコム 1/17]
http://www.jiji.com/jc/c?g=saf2&k=2007011700763
外務省がロシア渡航者に向けてテロに関する注意を呼びかけている。「1月16日、ロシア連邦反テロ国家委員会は、地上及び地下の交通機関を対象とするテロが発生する可能性を示唆する情報を入手した旨発表しました・・・テロの標的となる可能性がある政府関連施設、大型商業施設、遊興施設、劇場等の場所にはできる限り近づかない、地下鉄、鉄道等の公共交通機関の利用を差し控える、多数の人が集まる場所では周囲の状況に警戒するなど、安全確保に十分注意を払ってください」
露、負の歴史は闇に 過去の栄光を美化 反体制作家シャラーモフ氏没後25年 [産経新聞 1/18]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070118-00000022-san-int
「スターリン独裁体制下で行われたラーゲリ(強制収容所)の恐怖をソ連国内で発表したロシアの代表的な反体制作家ワルラム・シャラーモフ氏の死から17日で25年。ロシアではいま、ソ連による過去の『犯罪』を省みようとする空気はない。逆に、『過去の栄光』を美化するロシアのプーチン政権はソ連愛国主義への傾倒を強めており、『ソ連時代の闇』は封印されつつある・・・」
今年も受験のシーズンがやってきました。最後のニュースは国内に視点を転じて、玉川大学が神奈川朝鮮高校の学生の受験資格を拒否した事件を取り上げます。
1月10日、玉川大学は、受験を希望する神奈川朝鮮高校の学生に対して、「高校卒業程度認定試験の合格が必要」として出願を拒否しました。玉川大学は、「朝鮮学校を認めると、ほかのインターナショナルスクールなどをどうするかといった問題が出てくる。差別などということは全く考えておらず、逆に公平性を期すために断った」と説明していますが、欧米系インターナショナルスクールに対しては2004年度から一律に大学の受験資格が認められているため、玉川大学の対応が「公平性を期す」ものとは言い難いと思います。
朝鮮学校受験拒否:玉川大に入学資格認定求める 人権協 [毎日新聞 1/18]
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20070119k0000m040069000c.html
もしよろしければ、玉川大学に朝鮮学校卒業生の入学資格を認めるよう抗議のファックスを送ってください。玉川大学の願書受付の締め切りは1月26日(金)なので、もうあまり時間がありません。以下に抗議文例を用意したので、よければ参考にしてください。そのままプリントアウトして利用もできます。
http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/dl/20070121tamagawa_univ.pdf
日本にいる私たちが民族的マイノリティである在日コリアンに対する身近な差別を許してしまうなら、それよりも遠くで起こっているチェチェン戦争に対してロシアの責任を問う資格もなくなってしまうのではないでしょうか。私たち自身の足下から人権問題を問い直していくためにも、上記の趣旨に賛同してくださる方は、どうかご協力をお願いいたします。以下は朝鮮学校についての大まかな説明です。
1910年に日本が朝鮮半島を併合し、植民地支配を行っていた時代、朝鮮語教育をはじめ民族教育は禁止されていました。1945年に戦争が終わると、在日朝鮮人によって朝鮮語講習所が開設され、1947年にはより組織的かつ体系的な民族教育を行うための朝鮮学校が各地に設立されました。
日本全国には現在73校(併設校は一校と見なす)の小・中・高の朝鮮学校があり、日本の普通教育と類似したカリキュラムを実施しながら、朝鮮語をはじめとする民族教育を行っています。海外の日本人学校は、現地の教育制度とは関係なく、小(6年)・中(3年)・高(3年)制度を取り、日本の学校カリキュラムに従って教育を行っていますから、それと比べて、朝鮮学校は民族的主体性を保ちながらも、在日コリアンを取りまく日本の教育事情を考慮して運営されていると言えるのではないでしょうか。
1948年の冷戦下で朝鮮半島が分断され、韓国と北朝鮮が建国された後も、朝鮮学校は(朝鮮籍・韓国籍を問わず)在日コリアンの子どもたちが民族的アイデンティティを育む場として機能してきました。
1948年1月、文部省は在日コリアンに対して朝鮮学校での教育の禁止と日本人学校への入学を強制する内容の通達を出しました。同年3月には山口県と兵庫県で、その後岡山県、大阪府、東京都などで「朝鮮人学校閉鎖令」が下され、在日コリアンが大規模な反対運動を展開します。
同年4月26日には大阪府庁前に集まった2万人の群衆の中にいた16歳の少年が警官隊に射殺されるという事件が起こりました。阪神地区だけでも数百人が重軽傷を負い、1000人を超える在日コリアンと彼らを支援した日本人が逮捕されました。日本戦後史上、最初にして(今のところ)最後の戒厳令が敷かれたのもこのときです。
その後も朝鮮学校は、一部を除いてすべて全面閉鎖になったり、日本の学校の分校や民族学級という形で日本人学校に組み込まれたりしていきますが、1955年に在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)が結成され、1957年に北朝鮮から教育援助費が送られてきたことを転機に、各地に再び朝鮮学校が建てられるようになりました。大雑把に言ってしまえば、朝鮮学校はこのような歴史を経て今に到っています。
日本政府は最近まで外国人学校卒業生に対する大学受験資格を一律に認めていませんでした。ですが、2004年度からは、文科省の方針によって、
(1) 欧米系インターナショナルスクール
(2) 外国人学校のうち本国が認定する正規教育(12年)に準じていることが確認できるもの
については、大学受験資格を一律に認め、
(3) そのほか、大学の個別審査により高校卒業と同等以上の学力があると認められた者
について、大学受験資格を認めています。
(2)の本国には、日本と国交のない北朝鮮と台湾を認めるかどうかという問題がありますが、文科省は台湾系学校については(2)に含め、朝鮮学校は除外するという措置を取りました。
学校教育法施行規則の一部改正等について(通知)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/15/09/03092001/003.htm
2004年度以降は、実質的にすべての国立大学で朝鮮学校卒業生に対する受験資格が認められるようになりましたが、昨年には大阪市立大学が推薦入試を拒否するなど、朝鮮学校卒業生が大学教育から排除されやすい状況が続いています。
おかげ様で「チェチェンで何が起こっているのか」、ふたたび増刷して四刷となりました。
http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/books/naniga.htm
買ってくださった皆さまに感謝します。まだお持ちでない方は、どうぞお買い求め下さい。また、アンドレイ・バビーツキ講演録も好評販売中です。こちらもどうぞ。
http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/books/babitsky01.htm
1月27日のアムネスティ・フィルム・フェスティバルで、『踊れ、グローズヌイ!』が上映されます。ご都合のつく方はぜひ会場までお越しください。
●12/1- 東京ほか: みえない雲
http://www.mienaikumo.jp/
●1/6-2/9 東京: 六ヶ所村ラプソディー
http://rokkasho-rhapsody.com/pole2.html
●1/26 東京: さらば!共謀罪 1・26集会
http://www.labornetjp.org/labornet/EventItem/00_2007_1Q/1166925271534kawazoe
●1/27,28 東京: アムネスティ・フィルム・フェスティバル
http://secure.amnesty.or.jp/film07/
●1/27-2/9 東京: ヒバクシャ—世界の終わりに
http://rokkasho-rhapsody.com/pole2.html
●2月 東京: チョムスキー:マニュファクチャリング・コンセント上映!
http://www.cine.co.jp/media/
●2/8 東京: トークイベント「ラテンアメリカ、社会運動と左派政権」
http://www.parc-jp.org/main/bbs/1166491471/index_html
●2/18 東京: 今、文学と芸術に何がなし得るか
http://npopeaceon.org/schedule/
●3/10- 東京: パラダイス・ナウ
http://www.uplink.co.jp/paradisenow/
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