チェチェン総合情報

チェチェンニュース Vol.06 No.26 2006.11.26

http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0626.htm (HTML版) 発行部数:1613部

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11月16日に始まったハッサン・バイエフ来日講演ツアーは、水戸、横浜、札幌、長崎、広島、京都、弘前での集会が無事に終わり、残すは東京でのイベントのみとなりました。28日には「戦場の医師ハッサン・バイエフ来日講演 -チェチェンの現在(いま)を語る-」、29日には「バイエフ医師報告会&送別会 −日本縦断講演を終えて−」が開催されます。どうぞご参加ください。

話は変わって、11月23日夜、ロンドンに亡命中のFSB(連邦保安局)元中佐、アレクサンドル・リトビネンコ氏が変死を遂げました。リトビネンコ氏は、チェチェン戦争に反対し、プーチン政権の批判を続けてきた人物です。彼の体内からは特殊な放射性物質が検出されており、25日付タイムズ紙は「動機、手段、機会のすべてがFSBの関与を物語っている」と指摘しています。今回のニュースで、事件の概要をお伝えします。(邦枝律/チェチェンニュース)

INDEX

■イベント情報:戦場の医師ハッサン・バイエフ来日講演「チェチェンの現在を語る」

ハッサン・バイエフ氏の全国スピーキングツアーの締めくくりとなる東京でのイベントです。平日の夕方で開始時刻も少し早いのですが、途中からでもどうぞお気軽にご参加ください。

11/28(火) 東京①[戦場の医師ハッサン・バイエフ来日講演 −チェチェンの現在(いま)を語る−] 18:45-20:45(18:15開場) 東京ウィメンズプラザホール 参加費:1,000円 交通:JR山手線・東急東横線・京王井の頭線:「渋谷」駅徒歩12分/地下鉄銀座線・半蔵門線・千代田線:表参道駅徒歩7分 主催:バイエフを呼ぶ会 共催:チェチェン連絡会議 連絡先:03-4500-8535/baiev@zau.att.ne.jp(岡田)

11/29(水) 東京②[バイエフ医師報告会&送別会 −日本縦断講演を終えて−] 18:00-20:30 文京区民センター3F会議室C 参加費:2,000円(飲食物の持込・カンパ歓迎) 主催:バイエフを呼ぶ会 共催:チェチェン連絡会議 連絡先:03-4500-8535/baiev@zau.att.ne.jp(岡田)

※11/26 現在の情報です。時刻・参加費などが変更される場合があります。主催者にお尋ねください。

■チェチェンの今を、知っていますか?

ジャーナリストの林克明さんが、OurPlanet-TVに出演して、バイエフ氏の著書『誓い』や、チェチェンの現状、バイエフ氏講演ツアーについて語りました。今なら以下のサイトから試聴できます。よろしければサイトからメッセージも送ってください。

OurPlanet-TV: Today's ConAct [11/22]
http://www.ourplanet-tv.org/


■リトビネンコ氏暗殺疑惑

●アレクサンドル・リトビネンコとは誰か

アレクサンドル・リトビネンコ氏は、KGB(1995年4月以降はFSB)の元大佐で、2000年に、プーチン大統領の政敵だった新興財閥のボリス・ベレゾフスキー氏に対するFSBの暗殺計画を告発して、ロンドンに亡命した人物です。第二次チェチェン戦争のきっかけの一つとなった1999年のモスクワアパート連続爆破事件や、2004年の北オセチア・ベスラン学校占拠事件などに関しても、「テロはロシア政府の自作自演」と証言し、ロシア政府から目の敵にされてきました。

2000年というのは、奇しくもハッサン・バイエフ氏がチェチェンから米国に亡命した年でもあります。チェチェンとロシアに生まれたまったく境遇の異なる二人は、1999年に政権を掌握して第二次チェチェン戦争を始めた人物によって、生命の危機に晒され、故国を追われました。ウラジーミル・プーチンというロシアの大統領によって。

邦訳版はまだ出版されていないのですが、リトビネンコ氏の共著書、"Blowing Up Russia: Terror From Within"は、チェチェン戦争が実はFSB戦争であるという暴露本になっています。元KGBスパイのプーチン大統領にとっては、彼の存在はあらゆる意味で不愉快極まりなかったことでしょう。"Terror From Within"(内からのテロ)というタイトルに示されている通り、チェチェン戦争がプーチン政権の主張するような「対テロ戦争」などではなく、FSBによる「テロ戦争」であることを、元FSB将校自らが告発しているのですから。

"Blowing Up Russia: Terror From Within"
http://www.amazon.com/Blowing-up-Russia-Terror-Within/dp/1561719382

リトビネンコ氏の死をめぐる状況については、かなり情報が錯綜している状態が続いているのですが、多くのメディアは彼の死を暗殺として報じています。アンナ・ポリトコフスカヤ記者に続いて、プーチン政権批判の急先鋒に立ち続けてきた貴重な人物が、また殺されてしまった。そう言ってしまっても、よいのではないでしょうか。

●リトビネンコの死をめぐる状況

各紙の報道から事件の大まかな流れについてまとめてみました。

(1) 11月1日、リトビネンコ氏、アンナ・ポリトコフスカヤ記者の殺害に関与した人物のリストを受け取った直後に体調を崩し、翌日2日に入院。17日、容態が急速に悪化し、集中治療室に移動。23日夜に死亡。

(2) リトビネンコ氏が1日に接触した人物は3名。最初の人物がFSB時代の知己で、ロンドン市内のホテルで会ったときに紅茶を飲んだという。二人目はこのとき同席していた「ウラジーミル」と名乗る見知らぬ人物。三人目が旧ソ連の情報機関の活動を調査しているイタリア人のマリオ・スカラメッタ氏。リトビネンコ氏は彼から上記のリストを受け取った。

(3) 死因は(当初タリウムと報じられていたが)放射性物質「ポロニウム210」によるものとされる。同氏の体内と上記のホテルから、ポロニウム210が検出されている。

(4) 致死量のポロニウム210を人工的に作るには、原子力施設など大がかりな設備が必要とされる。25日付タイムズ紙は「動機、手段、機会のすべてがFSBの関与を物語っている」と指摘。一方、英メディアでは、FSBのかつての同志による「裏切り者」リトビネンコ氏への復讐説や、チェチェン共和国の親ロシア政権による暗殺説、ロンドン在住の反プーチン派富豪べレゾフスキー氏の周辺による殺害説も報道されている。

リトビネンコ氏は、事件発生から約2週間前の10月19日に、"frontline"に出演して「アンナ(アンナ・ポリトコフスカヤ記者)を殺したのは、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンその人です」と発言しています。会見では、プーチン大統領が、アンナの友人を介して彼女を脅迫していたことなどが語られています。リトビネンコ氏がアンナの暗殺に関して調査をしていたことと今回の事件は無関係である、そんなふうには考えられないほど、プーチン政権下のロシアではあまりにも多くの体制批判者が殺され続けてきました。

「ロシアはFSBによる厳格な統制下にあります。アンナのような立場のジャーナリストが、プーチン大統領本人の許可なく抹殺されるということなど、まったくありえません・・・ですから、アンナはプーチンに殺された、それがロシアの知るべき真実です」

Alexander Litvinenko at Frontline [10/19]
会見のおおまかな発言内容はこちら

●プーチン政権と国際社会の罪

一連の事件に関して、プーチンはロシア当局の関与を否定して、「死因に関する推測には根拠がない」「(彼の死は)暴力によるものではない」などというコメントを発表しています。プーチンは、アンナが殺されたときにも、彼女が政治に与えていた影響は「極めて取るに足らない」という台詞を口にしていました。

プーチンが二人の暗殺事件に直接関わっているかどうかについては、私には現時点で判断することはできません。ただ、確実に言えることがあります。それは、国家の最高責任者であるプーチンがこれまで一貫して行ってきたこと——すなわち、加害者を罰し、被害者を救済するべき法を徹底的に侮蔑してきたこと——が、二つの事件の実行犯の背を後押ししたということです。

けれども、彼がこれほどまでに人の死を冒涜する発言を繰り返してきたという事実の裏には、私たち一人一人を含む国際社会が、プーチンを、そしてプーチンに象徴されるロシア政府による人権侵害——その最たるものがチェチェン戦争——を、野放しにしてきたことがあるのではないでしょうか。今回の事件に対するプーチン政権の対応は、まったくひどいとしか言いようがありません。では、それに対して誰も何も言わない国際社会というのは、いったい何なのでしょうか。

私たち国際社会は、ロシア軍によるチェチェン侵攻を、二度にわたって止めることができませんでした。いや、もしかしたら、こういう表現をすること自体、欺瞞なのかもしれません。なぜなら、私自身を含む世界の多くの人々は、1994年12月にエリツィンが戦争を始めるまで、あるいは1999年9月にプーチンが戦争を始めるまで、チェチェンという共和国があることさえ知らなかったのですから。そして、2006年11月になってなお、国際社会はチェチェンについて語らないし、語ろうともしていません。チェチェンではすでに25万人の市民が、5万人の子どもたちが、殺されているというのに。

リトビネンコ氏が亡くなった翌日24日、彼がプーチンに宛てたとされる声明が発表されました。

「私を黙らせることには成功したかもしれないが、あなたは残りの人生を世界中からの抗議の声を聞きながら過ごすことになり、高い代償を払わなければならなくなった」

残念ながら、私の耳には、プーチンに対する「世界中からの抗議の声」は聞こえません。彼の死に対して、チェチェンで殺された25万人の死に対して、あるいは愛する人を失って生きていかなければならない、さらに何十万人もの人々の生に対して、プーチンが「高い代償を払わなければならな」い日など、来ないのではないでしょうか。もしも、私たち自身が「世界中からの抗議の声」になろうとしなければ。

■その他のイベント:

●12/1(金)-12/10(日)アゼルバイジャン:チェチェンの子どもを支援する会
 スタディ・ツアー2006年

チェチェンの子どもを支援する会が、アゼルバイジャン共和国の首都バクーへのスタディ・ツアーを行います。募集人数にまだ若干空きがあるので、参加を希望される方は、チェチェンの子どもを支援する会までぜひお問い合わせください。

http://www7.plala.or.jp/deti-chechni/studytour2.html

●12/3(日)大阪:地図からみるパレスチナ〜地理学者ヤン・デ・ヨンさん講演会

http://palestine-forum.org/dejong-061203.html

●12/10(日)東京:ジェノサイド条約からアルメニア人虐殺を考える

http://homepage3.nifty.com/armenia/seglec.htm

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