http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0617.htm (HTML版) 発行部数:1541部(修正済)
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しばらくご無沙汰していましたが、チェチェンニュースを再開します。どうしても日本では(というか世界的にも)マイナーな話題になりがちなチェチェン問題を、もう少しメジャーなイラクやパレスチナとの関連性の中で考えてみました。ベスラン事件の続報などもあります。今後もよろしくお願いします。(邦枝律/チェチェンニュース)
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気分のよくないニュースをひとつ。チェチェン親ロシア派政権首相ラムザン・カディロフ配下の治安部隊の間で、拘束したチェチェン市民を拷問・虐待して、その様子を携帯電話で撮影する変態趣味が流行っているそうです。
9月6日付のラジオ・リバティの記事に、そうした写真が公開されています。治安部隊に蹴り倒されている赤いジャケットの女性(23歳)は、妊娠中だったにもかかわらず2時間におよぶ拷問と虐待を受けました。拷問と虐待の具体的な内容については、紹介するのがちょっとはばかられるようなもので・・・。
といいつつ結局紹介します。彼女はそもそも夫に不貞行為で訴えられたのが始まりで治安部隊に拘束されました。拘束中、彼女は殴打され、浮気を自白させられ、汚らわしい言葉を投げつけられた挙句に、全裸にされ、頭から水をかけられて丸坊主にされ、さらに全身の毛を剃られ、体中にバツ印を描かれて、蹴られまくりました。なんというか、カディロフ部隊、人として終わってますね。よろしければ チェチェン親ロシア政権宛てに説教をお願いします(nyさんよりご指摘をいただきメールアドレスを訂正しました)。
もう少し続けると、チェチェンではこうした事件はあまり珍しくないようです。被拘留者への拷問が日常的・組織的に行われていたイラクのアブグレイブと同じで、現在のチェチェンが巨大な無法地帯になっているということでしょう。ちなみに、撮影されたビデオは、「市民に恐怖を植えつけ、軍隊の士気を高める」ためにネットに出回っているのだとか。もうなんなのこいつらと思いますが、ここには単なる変態趣味で片付けられないチェチェンの構造的な問題、つまり犯罪加害者が一切責任を問われず野放しになっているという現実があります。平和がなければ人権も守られなくなるのだということは、何度でも繰り返されるべき警句ではないでしょうか。
チェチェンとイラクとパレスチナの共通点——その一つはこれらの国または地域が「対テロ戦争」という名の圧倒的非対称の暴力によって支配されていることだと思います。
1994年から続く戦争によって、チェチェンでは約100万人といわれた人口のうち20万〜25万人が死亡しました。イラクでは、湾岸戦争後の経済制裁によって5歳以下の子ども62万人を含む150万人が死亡し、2003年のイラク戦争開始以降4万人以上の市民の命が失われています。パレスチナでは、現在のインティファーダが始まった2日後にイスラエルが住民への爆撃を開始し、石を投げただけの人々を2日で何十人も殺傷しました。
これに対して、たとえばイラクで占領を続ける米軍の死者数は公式統計によると約2650人。どう考えても戦争というより虐殺と呼ぶべき状態が続いているわけですが、テロリストのレッテルを貼られているのは、なぜか虐殺されている側の人間だったりします。占領されている側が占領している側を攻撃するのは、テロではなくレジスタンスであり、ジュネーブ条約によって認められた権利でもあります。けれど、今やテロを定義することができるのは、つねに「対テロ戦争」を声高に叫ぶ者たちの特権になりました。あたかも、テロとは「彼らから我々に向けられる暴力」であり、テロリストとは「我々の暴力によって殺される人々」である、とでも言うように。
次に、チェチェンとイラクとパレスチナを侵略・占領しているロシアと米国、イスラエルという3ヶ国の共通点の中から、(1) 核兵器の保有 (2) 国家や企業によるマスコミ支配 (3) 社会保障システムの崩壊 (4) 国際刑事裁判所に未加入 という問題についてざっと考えてみたいと思います。
(1) 世界には、常任理事国5ヶ国(米国、ロシア、イギリス、フランス、中国)やインド、パキスタンのように公然と核兵器を保有している国と、イスラエルのように公然の秘密として核兵器を保有している国があります。
(2) プーチン政権下のロシアでの露骨なマスコミ統制については、バイナフ自由通信でも紹介しているので繰り返しませんが、米国で1950年代以降に軍産複合体とマスコミとの癒着が進み、テレビが6局、ラジオがたった1局しか残っていないこと、イスラエルが非常に洗練されたマスコミ操作を行っていることについては、意外と知られていないかもしれません。
(3) 貧困ライン以下の生活をしている国民の割合は、ロシアで20.6%、米国で12.7%、イスラエルでは何と子どもの3人に1人におよびます。ロシアでは、富裕層10%と貧困層10%の所得格差は現在27倍、首都モスクワでは50倍になっているそうです。一般的には、この数値が12倍以上になると社会不安が増大し、革命が起こりやすい状況が発生すると言われており、富の再分配システムが機能していないことがわかります。
(4) 国際刑事裁判所とは、ジェノサイドをはじめ重大な人権侵害を犯した個人を裁く常設国際裁判所なのですが、ロシアも米国もイスラエルもこの国際的な司法システムに加入していません。
ところで、これはなんだか今の日本の状況に似ていないでしょうか?
(1) 現在首相の座にもっとも近いと言われている安倍晋三官房長官は、2002年に早稲田大学のシンポジウムで「日本核武装論」というテーマで「小型であれば原子爆弾の保有も問題ない」なんてすごい発言をしています。
(2) また安倍長官ネタになりますが、女性国際戦犯法廷の番組改変をめぐってNHKに圧力・・・なんていうのもありました。
(3) 日本の貧困率は15.3%で、特に若年層と高齢者で貧困率が高くなっています。なんというか、私自身も思い当たる節があったりして。
(4) 日本も国際刑事裁判所に未加入の国の一つです。
日本のロシア化(あるいは米国化、イスラエル化)が何を意味するかについては、別の機会に語りたいと思いますが、一つ確かに言えることがあります。それは、今チェチェンで、イラクで、パレスチナで起こっていることを歴史がどう評価するかは、私たちがこれからどのような世界を創っていくかにかかっている、ということです。その意味で、チェチェンで起こっていることと、日本にいる私たち一人一人が今後積み重ねていく選択は、決して無関係ではありません。あなたはどんな世界を創りたいと思いますか?
2004年9月1日にロシアの北オセチアで発生し、治安部隊の強行突入によって330名以上(うち半数は子ども)が死亡する大惨事となったベスラン学校占拠事件から2年。ロシアの上下院議員によって設置されたベスラン独立調査委員会は、今年の2周年追悼式典を前に、政府の公式見解を根底からくつがえす報告書を発表した。
8月31日付のラジオ・リバティの記事によると、モスクワ市当局は、ロシアの人権団体が独自にベスラン学校占拠事件の追悼2周年集会を開催することを禁止した。主催団体の代表、スベトラーナ・ガンヌシキナは、モスクワ市の動きを、「(ベスラン学校占拠事件に関する)政府の調査が『客観的な事実』と異なっているという私たちの主張を広めさせないため」のものであると指摘し、「当局は、いま私たちがベスランの事件について自由に語ることを望んでいないのです」と語る。なぜなら、8月29日にベスラン独立調査委員会がまとめた報告書は、政府による公式見解とあまりにもかけ離れていたからだ。
8月29日付のラジオ・リバティの記事から、報告書の要点をまとめてみる。
(1) 政府は、体育館内の爆発とゲリラ側からの銃撃が、治安部隊の突入のきっかけとなったと発表している。一方、独立調査委員会のメンバーであり、爆発物専門家のユーリ・サヴェルエフは、700ページにもおよぶ報告書の中で、最初の銃撃がゲリラ側からではなく外部から体育館に対して発砲されたものであるということを科学的に説明し、爆発が起こったとされる場所に関して公式見解と人質の証言が一致していないことに言及している。この点については、「装甲兵員輸送車が一台、爆発の前に校舎に向かって攻撃を仕掛けた」、「爆発はそのあとで起こった」という市民の目撃証言もあり、独立調査委員会による報告がそれを裏付ける形になった。
(2) 政府の公式見解によると、実行犯は32名で、うち31名が治安部隊によって殺害されたという。しかし、独立調査委員会の報告書は、実際には60名から70 名の実行犯がいた可能性を指摘する。それが事実だとすれば、彼らはいったい誰だったのだろうか?これに関しては、ゲリラ唯一の生存者とされるヌルパシ・クラーエフの裁判の中で、「人質犯たちのなかには、少なくとも数人のスラブ系(チェチェン人はコーカサス系)の人物がおり、うちひとりの狙撃手は、指揮にあたっていたと見られている。しかし、9月3日にロシア治安部隊の突入のあと、その遺体はどこからも見つからなかった」ことなども明らかにされている。
(3) さらに、報告書では、ロシア内務省が事件に関して事前に情報を得ていながら何も対策を取らなかったことも指摘されている。
こうした報告を受け、ベスラン母親委員会は、当局に真相究明を求める請願書を作成している。ベスランで活動するジャーナリストのムラート・クボーエフは、次のように語る。
「大勢の人質の死に対して治安部隊が責任を負っていることは解りきっています。それが故意であったかそうでないかは問題ではありません。問題は、検察当局が目撃者の証言にまったく耳を貸そうとしていないことなのです」
ロシアのNGOが、チェチェンで横行している刑務所での拷問に警鐘を鳴らしている。チェチェンでは、最近執務中の弁護士が警察署の所長に「とても表現できない(ほど下品な)言葉」で罵られた挙句に殴り倒される事件も起こっていて、なんだか暴力のメッカのようになっている。[8/24 バイナフ自由通信]
つづきを読む: http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20060824/1156370925
イタル・タス通信によると、ロシア財務省は21日、パリ・クラブ(主要債権国会議)に対するロシアの債務約216億ドル(約2兆5000億円)を完済した、と発表した。[8/21 gooニュース]
http://news.goo.ne.jp/news/asahi/kokusai/20060821/K2006082103920.html
●9/5-18 神奈川:「BESLAN」 菱田雄介展(詳細不明)
●9/9(土) 東京:平和をつくる、平和を維持する、NGOの試みとチャレンジ(イラク・スリランカ)
http://www.ohdake-foundation.org/modules/eguide/event.php?eid=3
●9/9(土) 東京:もうひとつの「9・11」を思う初秋の夕べ
http://www.jca.apc.org/gendai/event/index.html
●9/9(土) 東京:終わらせようイラク占領 終わらせよう戦争の時代
http://give-peace-a-chance.jp/118/20060909.html
●9/16(土) 東京:集会とめようやめよう共謀罪
発言者: 中村順英氏(前日弁連副会長)、林克明氏(ジャーナリスト)、増田都子氏(元中学校教員)
時間:18:00-21:00(開場17:45)
場所:渋谷勤労福祉会館2階第1洋室
地図: http://www.city.shibuya.tokyo.jp/est/sogo.html
参加費:500円
主催:「とめようやめよう共謀罪」実行委員会
協賛:『週刊金曜日』
問い合わせ先:Tel/Fax 03-3739-1368
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