チェチェン総合情報

チェチェンニュース Vol.06 No.15 2006.07.11

発行部数:1533部

INDEX

重大なニュースを二つ、お伝えします。

まず、チェチェンの野戦司令官、シャミーリ・バサーエフが死亡したという報道です。もうひとつは、7月13日にも来日する予定だったチェチェンの外科医、ハッサン・バイエフ氏の来日が暗礁に乗り上げていることです。

■シャミーリ・バサーエフ死亡か

チェチェン独立派の野戦司令官シャミーリ・バサーエフが、7月10日朝に殺害されました。すでに国内では朝日新聞共同通信が報じています。

報道が正しいとすれば、バサーエフはチェチェンに隣接するイングーシ共和国で、ロシア連邦保安局(FSB)を中心とする「特殊作戦」によって殺害されたそうです。

バサーエフは、第一次・第二次チェチェン戦争を通して独立派の野戦司令官として戦争に参加していました。第二次チェチェン戦争のきっかけのひとつとなった1999年のダゲスタンへの私兵を率いての侵攻事件をひきおこし、最近では2004年9月の北オセチア・ベスラン学校占拠人質事件でも犯行声明を出しました。(ただし、この事件での彼の犯行声明は信憑性にとぼしいものがあります。「ベスラン事件、真実はどこに?」を参照。いったい彼は事件の黒幕なのか、そうでないのか。その混乱が、現在のチェチェン戦争そのものです)

特に第二次チェチェン戦争(1999-現在)に入ってからの彼の位置は、独立派内の、あるいは統制の効かない存在としての最強硬派であり、独立派のマスハードフ大統領(2005年3月に暗殺)との軋轢も続きました。

バサーエフとロシア情報機関

バサーエフは、ロシア情報機関とも関係を持っていました。1992年のグルジア・アブハジア紛争の際、彼はロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の訓練と指示を受けて、アブハジア側について戦っていました。

バサーエフは殺されたか?

きょう11日になって、バサーエフは殺害されたのではなく、自動車の爆発事故で死亡したという報道が入ってきました。ここでは両方の可能性があるとみて考えます。偶然発生した事故でバサーエフが死んだことを知ったロシア連邦保安局が、それを手柄にするために「特殊作戦により殺害」と報告した可能性が、、、っておいおいおいおい。君たち、子供?!

以下は殺害説を元にして書きます。

疑問に思うのは、ベスラン事件のあと、類似の事件が起こらなかったことです。2005年10月13日には、チェチェン近隣のカバルディノ・バルカリア共和国ナルチクでの武装蜂起事件がおこり、これもバサーエフによるものとされていますが、この事件ではロシア警察・軍などが標的とされ、ナルチクの市民の反チェチェンの感情はさほど高まりませんでした。

私は、バサーエフとロシア当局は、「戦争を継続する」という共通の利害を持っていると論じてきました。そうであれば、この考えと今回の殺害は一見つじつまが合いません。

こうも考えます。バサーエフの戦術が、人質事件、自爆攻撃といった、ロシア市民や国際社会の憤激を容易に買う種類のものから、別の何かに移ってきたとき、彼が「殺害」されたのだと。

私の知人のチェチェン人は、マスハードフの殺害に触れて、「チェチェンの希望が失われた」と言いました。そしてこう付け加えました。「あとはバサーエフしかいなくなった」と。ある程度のチェチェン人たちにとって、選挙された指導者としてのマスハードフという「表の希望」に対する、「裏の希望」、そういう存在だったのだと思います。私自身も、彼を強く批判しつつも、彼が万一和平交渉を引き受ければ、チェチェン情勢はまた少し違ったのではないかという気持ちを、捨てきれません。

もうひとつの変化点

彼の死は、99年のダゲスタン侵攻、05年のロシア軍によるマスハードフの暗殺に続いて、チェチェン情勢の一つの変化点になると思います。チェチェン独立派のいっそうの地下化が進み、さらに予測のつかない情勢が訪れることを憂慮しています。

ダゲスタン侵攻をはじめとする多数の犯罪を犯した彼を、逮捕し、裁判にかけることなく殺害したロシア当局に対する対する憤りを感じます。この殺害によって、解明されるべき多くの事実が、闇に葬られたからでもあります。

大富亮/チェチェンニュース発行人

バサーエフ関連情報:
人物情報: http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/basic/biograph.htm#Basayev
バサーエフにききたいこと(1):http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0424.htm バサーエフにききたいこと(2):http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0425.htm

「ベスラン事件、真実はどこに?」http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/chn/0522.htm

新聞報道: 朝日「ロシア、バサーエフ氏を殺害 チェチェン独立派幹部」:http://www.asahi.com/international/update/0710/013.html
共同「バサーエフ司令官を殺害 チェチェン独立派指導者」:http://www.nishinippon.co.jp/nnp/world/20060710/20060710_039.shtml

チェチェンの医師・ハッサン・バイエフ氏招聘が困難に

半年がかりで準備を進めてきた、ハッサン・バイエフ医師招聘が難しくなってしまいました。おそらく明日か明後日には状況が確定すると思いますが、最悪の場合7月の日本訪問はキャンセルとなり、延期となる可能性があります。

今も多くの方からの募金をいただき、多数の支援者が自主的に各地での集会を準備してくれています。にもかかわらずこんな事態になっていることを、招聘主催者の一員として、本当に申し訳なく思っております。

その事情は、チェチェンからアメリカに脱出したバイエフ氏に、US Travel Document(以下UTD)という書類が交付されていないことです。アメリカ国籍を持っていないバイエフ氏が、いったんアメリカを離れると、この書類のない限り、再入国することができません。

この書類は1年間有効ですが、昨年更新したときは、申し込んでから6週間で更新ができました。その期限が今年4月に切れ、すぐに更新したところ、すでに3ヶ月間も発行されていません。

バイエフ氏の招聘は4月以前から伝えてあったことなので、早期の発給があるように、さまざまなつてを使っていたのですが、結局発給されていません。今のところ却下になったわけではないので、明日にも発行される可能性を残しています。

もっと詳細がわかり次第、このニュースで流します。

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