チェチェン総合情報

チェチェンニュース Vol.06 No.14 2006.06.18

発行部数:1560部


INDEX

■独立派・サドゥラーエフ大統領の殺害について

チェチェン独立派のサドゥラーエフ大統領が、6月17日の早朝に親ロシア派部隊によって殺害されたというニュースが入った。独立派のザカーエフ外相がこれを認めたので、おそらく確かなのだろう。

サドゥラーエフのあとは野戦司令官・副大統領のドック・ウマーロフが繰り上がるようだが、選挙を経ずに大統領が交代していくと、権威の低下は否めない。05年3月のマスハードフの暗殺の後、サドゥラーエフの1年3ヶ月の任期の中で目立った動きはなく、「独立派の実権は、モスクワの劇場占拠など数々のテロ事件に関与したとされるバサーエフ野戦司令官らに移っており、チェチェン情勢に与える影響は少ないと見られる」[5/17 朝日]という指摘は大体正しいのではないだろうか。

●この事件の意味

ウマーロフの大統領就任が実現すれば、独立派の実権は、政治家から野戦司令官に移ることになり、チェチェン情勢の転換点の一つ(悪いほうへの)となる可能性がある。

事件が示す特徴を私なりに書くと、これは今までも見られた、ロシア側の拒否主義・暗殺主義の例の一つだと思う。ロシア側との交渉姿勢を多少でも持った人物から、順番に消されていき、残るのはロシア側との徹底対決を主張する野戦司令官だけになってきている。(ウマーロフについて私は不勉強だが、とりあえずインタビュー記事あたりを読んでみる)

●親ロシア派が殺害を実行したとすれば・・・

サドゥラーエフの殺害を、おそらくラムザン・カディロフが請け負ったのは、もしロシア政府が、交渉の相手としての独立派地下政府を認めた場合、自分たち親ロシア派政権の存在意義がなくなってしまうという計算もあるはずだ。またこの場合、ロシア側による暗殺攻撃というより、チェチェン人同士の内紛または内戦というイメージに近くなり、ロシア政府にとって好都合だ。今後はますます親ロシア派を手先に使った攻勢が強まるだろう。見かけ上の「内戦」は、現実のそれへと変化していく恐ろしい可能性があるのだが。

●ロシア政府と過激派の「合作」

「チェチェンの権力は過激派に移った」とする見解は、拒否・暗殺主義を結果として補強、あるいは追認している。こういうのを、遂行的というのだろうか。「そんな連中と交渉など、できるわけがない」と言いたいのは、誰よりもプーチン政権だからだ。99年に第二次チェチェン戦争がはじまって以来のロシア政府の主張は、「和平交渉に値する相手はいない」というものだ。事実はそうでないにも関わらず、いないと言い続けるためには、交渉の可能性を持った人物を消し続けるしかない。私個人はバサーエフとでも誰とでも、平和のためなら交渉すべきだと思うのだが。

さらに、今回のサドゥラーエフ殺害のわずか2日前、バサーエフは2004年のアフメド・カディロフ(親ロシア派大統領)暗殺を「自分が5万ドルで某人物に依頼した」と、ビデオテープを使って公表し、各国のメディアに流れた。意味の読み取り方は何通りもあるとはいえ、事件はそういうタイミングで起こっている。

私は、戦争を続けたいプーチン政権と、同じく戦争を続けたいバサーエフたちの合作によってチェチェン戦争が続いているのだと考えている。こうした合作説、あるいは陰謀説には批判も多いのだが、実際の打ち合わせのあるなしには関係なく、結果として両者の意図と推移は一致している。イングーシほか、北カフカスを旅行してもバサーエフは殺されることがなく、チェチェンを出ないマスハードフや、マスハードフの系譜にある政治家は次々と潜伏地で殺されていく。そして戦争は終わらない。

●取り残される人々

想像してみると、カディロフ暗殺を得意に公表して再び「勇名」をはせたバサーエフは、その翌々日のサドゥラーエフ殺害のニュースを知り、ある種の孤独感を抱いたのではないだろうか。自分がこうして交渉の不可能性の象徴として利用されていることに気づくセンスが残っているとすれば。彼は、浜辺の引き潮の中の石ころのように取り残されようとしている。

けれど、本当の意味でこの殺人ゲームから取り残されているのは、ゲームとはまったく別のレベルにいる人々だ。たとえば、チェチェン内の10万人の難民や、5万人のイングーシの難民、数知れない、南コーカサスやヨーロッパにいる難民たち、それから、ロシア軍の空爆で家族を失い、掃討作戦で拉致され、消された人々にとってこそ、戦争は災厄なのだと思う。

(大富亮)

関連記事

Заявление МИД ЧРИ: http://chechenpress.net/events/2006/06/17/11.shtml
サドゥラーエフの人物情報: http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/basic/biograph.htm#sadulaev
「チェチェン独立派の後継大統領を殺害 ロシア治安当局」[6/17 朝日] :http://www.asahi.com/international/update/0617/012.html
「ロシアマスコミ、サドゥラーエフ大統領殺害を報道」[6/17 ChechenWatch]http://groups.msn.com/ChechenWatch/general.msnw?action=get_message&mview=0&ID_Message=1922
「アフマド・カディロフ抹殺には5万ドルを支払った」[6/15 ChechenWatch]http://groups.msn.com/ChechenWatch/general.msnw?action=get_message&mview=0&ID_Message=1919

18.Jun 2006 分析:サドゥラーエフの死の影響は小さい
Analysis: Impact Of Sadulayev Death Likely To Be Negligible

ラジオ・リバティのフューラー記者の分析。

[6/17 RFE/RL]
http://www.rferl.org/featuresarticle/2006/06/58cd3b0b-d83f-4b37-bb03-5083043a674e.html

チェチェンのラムザン・カディロフ首相(親ロシア派)は、6月17日に、グロズヌイの東に位置する町アルグンでの特別掃討作戦の際に、アブドゥルハリム・サドゥラーエフが死亡したことを発表した。サドゥラーエフ氏は、2005年3月のアスラン・マスハードフの暗殺のあと、大統領に指名されていた。サドゥラーエフによって3月27日にチェチェン共和国イチケリアの外務大臣に指名されていたアフメッド・ザカーエフ氏は、ラジオ・リバティーの電話インタビューに対して、この死を確認した。

予想通り、アフメド・カディロフも、親ロシア派のアル・アルハノフも、サドゥラーエフの死を、親ロシア派政権がチェチェンに置かれて以来6年間の中でも「大変な成功」と表現している。しかし軍事的な表現で言えば、チェチェンや、その近隣の北コーカサスの共和国のイスラム抵抗勢力にとって、その影響は「無視できる範囲」でしかない。少なくとも短期的には。

ブルガリアの雑誌「ポリティカ」に掲載されたインタビュー記事(独立派のサイト、チェチェンプレスに6月9日から15日にかけて掲載された)のなかで、サドゥラーエフはは、「2002年の夏に開かれた戦時会議の場で、自分は正式にマスハードフの後継者として認められた」と語っており、またその1年後、サドゥラーエフ自身の後継者として、ベテランの野戦司令官ドック・ウマーロフを副大統領に任命したという。サドゥラーエフは、ウマーロフの指名の正統性は確かなものだと強調している。

「ポリティカ」誌のインタビューのなかで、サドゥラーエフは自分自身の死の可能性については楽観的だった。ウマーロフは、抵抗勢力のリーダーが殺害されることを憂慮しており、その場合にはただちに適任のものがポストにつくとコメントしている。

●野戦司令官たち

サドゥラーエフは2005年夏、首長たちと野戦司令官たちによる、北コーカサス全域のネットワークを創設した。ウマーロフとシャミーリ・バサーエフを中心として、ダゲスタン、イングーシ、カバルディノ・バルカリアの戦線の司令官たちのあいだの恒常的な連絡網を作り上げるというものだ。サドゥラーエフは「ポリティカ」のインタビューの中で、こうした各種抵抗組織の連帯のう動きは、日々強くなっていると語った。

ウマーロフは1964年生まれで、94年以来のチェチェン戦争で戦っている最も経験のある野戦司令官の一人だ。彼は「テロ」と呼ばれるような作戦に参加していない。リバティのインタビューに対しては、「チェチェン人がいつも苦しめられているようなやり方だからといって、それをロシア人に対して加えることには、はっきり反対する。そんなことをすれば、我々自身だって、人間としてやっていけなくなるからだ」と答えている。また、「全体としてチェチェン抵抗勢力は、2004年に起こったベスラン学校占拠人質事件のようなものを、われわれがロシアに対してとりうる合法的なやり方とは考えていない」と付け加えた。

そうしたテロ戦術の拒否は、マスハードフが過去に下した、ロシア市民への攻撃やチェチェン領からの越境攻撃を禁じる命令を思い出させる。しかしウマーロフは、マスハードフとは対照的に、抵抗勢力が北コーカサスのほかの地域へ活動を拡大するための措置を講じていると語っている。

●大規模な作戦

サドゥラーエフは「ポリティカ」でのインタビューで強調しているのは、「わが国(チェチェン)では、市民を人質にする作戦は容認されない」ということだ。これは、2006年6月17日になって親ロシア派のアフメド・カディロフが言ったところの「サドゥラーエフはアルグンで大規模なテロ攻撃を準備していた」という発言に、疑問を投げかけるものだ。

もしサドゥラーエフの死が、抵抗勢力の結合を脅かすものでないとしても、バサーエフとウマーロフの間で、(テロ戦術に対する)容認/非容認や、モスクワ劇場占拠事件やベスラン学校占拠事件のような事件を起こして世界の関心を集めようとするご都合主義をめぐっての対立が生まれる可能性はある。(実際にはこの戦争は、親ロシア派のチェチェン人が同じチェチェン人を攻撃していることから激化している)ただ、リバティの北コーカサスニュース担当であるアスラン・ドウカーエフは、「ベスラン事件以降、バサーエフはロシア市民をターゲットにした作戦をひとつも組織していない。これは、最終的に彼が、罪のない市民を殺害することは、モスクワの拒否主義によって交渉と戦争終結が遠のくのを理解したということではないだろうか」とコメントしている。

サドゥラーエフが殺害されたタイミングが偶然であったとしても、はっきりしていることがある。前にマスハードフが暗殺されたときは、抵抗勢力からロシアに対する和平交渉を求め、一方的な戦闘中止を行ったときだった。ロンドン滞在中のザカーエフ外相(もともとマスハードフにごく近い同僚)が今年5月にリバティのインタビューに答えたところでは、「モスクワは終戦工作をはかっている。それを察知した、ドックワッハ・アブドゥルラハノフ(親ロシア派議会の議長で、ラムザン・カディロフの腹心)は、『ザカーエフを通すような工作には絶対反対する』とロシア側に警告したのだという」

(リザ・フューラー/ラジオ・リバティ)

■6/18 東京:チェチェンの子どもを支援する会 活動報告会 チェチェン難民として生きる子どもたち

最新情報はこちらをご覧ください: http://www7.plala.or.jp/deti-chechni/event2.html

「チェチェン難民って、なに?」 チェチェン戦争が始まって約12年。人口100万人のチェチェン共和国では、こ の戦争によって5万人の子どもを含む20万人以上が死亡し、数十万人が難民とし てロシア国内や隣国、ヨーロッパに逃れています。私たちチェチェンの子ども を支援する会は、「悲惨な状況だからこそ子どもたちにはせめて教育を」とい う親たちの願いに応えるために、現在アゼルバイジャン共和国で難民学校の教 育支援を行っています。戦火によって幼い頃や生まれる前に故郷を追われ、行 き場のない思いを抱えながら、避難先で大人になってしまった、あるいは大人 になっていく子どもたち・・・。 今回の報告会では、映像や音楽を交えて等身大の彼らの姿をお届けします。 チェチェンや難民の問題に関心のある方も、チェチェンってなに?難民ってな に?という方もぜひお気軽にご参加ください!  

日時:2006年6月18日(日)18:20〜21:00
会場:文京シビックセンターB2 消費生活センター 電話:03-3812-7111
交通:後楽園/春日駅より徒歩1分、後楽園駅から徒歩3分
地図:http://www.city.bunkyo.lg.jp/shisetsu/civic/index.html
参加費:500円

チラシがダウンロードできます(pdf形式): http://www7.plala.or.jp/deti-chechni/event/20060618leaf.pdf

「チェチェンの子どもを支援する会とは」 チェチェンの子どもを支援する会は、戦争に苦しむ 子どもたちに教育支援を行うNGO(非政府組織)です。 2001年度東京国際交流財団、2002年度立正佼成会一食 平和基金の活動助成を受けて支援事業を実施しました。 2003年からはアゼルバイジャン共和国のバクーを活動 拠点にチェチェン難民学校への支援を続けています。 この活動にあなたのできる範囲で力を貸してください!  

報告者 プロフィール

鍋元 トミヨ(なべもと とみよ)  当会代表。1997年にチェチェン共和国大統領選挙に選 挙監視ボランティアとして参加。現在、雑誌『記録』に て「チェチェン・死と瓦礫を乗り越えて」を連載中。

加茂 尚広(かも たかひろ)  「カモネギ」の名で千葉県を中心に活動するギタリスト&シンガー。平和音楽集団「タノシイウツワの会」を主宰、 コンサートでは世界平和とチェチェン支援を訴え活動中。

松本 宗大(まつもと むねひろ)  当会ボランティア。横浜市立大学卒業。英国ブラッド フォード大学大学院平和学部紛争解決学科修了。2005年 7月より現地NGO・HAYATの短期インターンに参加。

富樫 耕介(とがし こうすけ)  当会ボランティア。横浜市立大学国際文化学部4年生。 チェチェン戦争を研究テーマとしてユーラシア研究所で の発表や大学での講演を行っている。

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