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(大富亮/チェチェンニュース)
きょうの英紙ガーディアンとロシアのモスクワ・ニュースによると、ロシア政府がチェチェンに置いた傀儡政権の人権担当者ナルディ・ヌハジーエフ氏は、「チェチェンには50箇所以上の遺体遺棄現場がある」と語った。
ヌハジーエフ氏は親ロシア派チェチェン政府の人権委員会の委員長で、インタビューに対して、「チェチェン全体で50箇所以上の遺体遺棄現場があることがわかっているが、掘り返してみなければ人数はわからない。チェチェンでは6万人以上の人が、親族を失っており、遺体の身元を調査して、その行方不明者たちとの照合をしなければならない」と語った。
重要なのは、ヌハジーエフ氏が、「ロシア軍は分離主義者とイスラム原理主義者を排除するための「対テロ作戦」を行っているが、それに数千人のチェチェン市民を巻き込んで犠牲にしている」と語っている点だ。また、最近も親ロシア派のアルハノフ大統領は、「国内での5%から10%の誘拐は、ロシア軍によるものだ」と語った。
もともとチェチェンでは、ロシア軍による「掃討作戦(浄化作戦)」が毎日のように行われている。これは、「テロリストを匿っている」と判断した村をロシア軍が包囲して住民たちの書類をチェックし、男性を拘束して選別収容所に収容するというものだ。選別とは、民間人か、テロリストかを、尋問で選別するという意味だ。収容された人々は身代金を集めれば解放されるが、親族にそれができなかった場合、幸運な場合はさらに尋問/拷問を受けて再び身代金が要求され、不運な場合はそのまま遺棄遺体として発見される。
チェチェンからのニュースを読んでいると、チェチェンの人々や、ロシアの人権団体から、毎日のように不当拘束のニュースが流される。自動車で走行中に止められて拘束された、身分証明書のチェックのさいに拘束された、現在も行方不明、道端で死体として発見された・・・。
2001年、アメリカの人権団体ヒューマンライツ・ウォッチが発表した報告書によると、チェチェン中部のダチヌイ村で、51体に上る民間人の遺棄遺体が発見された。ここは駐留ロシア軍の本部ハンカラに近く、発見したチェチェン人とチェチェンの民警隊員は、村中に装甲車のタイヤの跡を見つけていた。結局、この事件では17体の遺体しか識別できず、あとはまた埋葬されたのだった。
行方不明となった人々の親族は、ロシア軍に居場所を尋ねるか、親ロシア派の政府に陳情や抗議をして、何とか取り戻そうとする。ヌハジーエフが挙げた「6万人」というのは、その人々の署名の数を数えているのかもしれない。いずれにしても、突き上げを受けた親ロシア派は、「すべてロシア軍の仕業だ」と思っていたとしても、そうは言わずに数だけを発表し、責任を回避しようとしている。
チェチェンでは、大規模な空襲や砲撃ではなく、静かな戦争が続いている。それはロシアでは、各地でのテロとして、チェチェンでは、人々の失踪と、しばらくたってから発見される腐乱死体という形をとってあらわれる。今日、世界中の報道機関に届いたはずのこのニュースを、日本ではまだ誰も報じていないのではないか。モスクワ劇場占拠事件を報じ、北オセチアの事件を報じる日本の報道機関が、ただチェチェンのごく普通の人々に降りかかっている惨事だけを、伝えようとしない。
Guardian/Chechen government admits civilians buried in mass graves: http://www.guardian.co.uk/international/story/0,,1507453,00.html
Mosnews/Rights Official Admits Over 50 Mass Graves in Chechnya: http://mosnews.com/news/2005/06/16/chechengrave.shtml
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