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予想もしない大勢の参加者。廊下で受付を待つ人びとは行列を作り、 スタッフたちはとっくに足りなくなった資料の増刷に走る。 2月12日に渋谷で開かれた報告会は、120人がチェチェンと周辺地域からの報告に聞き入る集会になった。 この日は、ジャーナリストの林克明さんと、チェチェンの子どもを支援する会の鍋元トミヨさん、 最後に市民平和基金の青山正さんが、報告と考えを語った。その一部を写真とともに報告したい。
(写真01)
満員御礼の会場。新人ボランティア4名も初陣。運動が大きくなりつつあるのか?
(写真02)
鍋元さんの報告風景。アゼルバイジャン共和国、バクーを中心にここ2年間の支援をふりかえる。
「チェチェン戦争がはじまってもう10年、今ビデオで見てもらったあの子達は戦争しか見ていません。 2003年から現地の国連が、難民の教育環境の改善に力を入れ始め、チェチェン難民の子どもが現地の 学校に通えるように事業をしていますが、実際には4〜5年のブランクがあるので、 長続きしない子が多いという現状があります」
(写真03)
バクーで難民生活をする子どもたちの作る刺繍作品。
「ビデオで踊っていた子どものお兄さん二人は、 チェチェンに親戚のお葬式に帰ったところを拘束されて、8千ドルという身代金を(ロシア軍に)要求されて、 ありとあらゆる財産を売り払ってようやく身柄をひきとりました。でも、パスポートを取り上げられたままです」
「ある証言です。ウルスマルタンというところから逃げてきた人ですが、1999年の終わりごろに、 爆撃を受けて一番上の男の子は瀕死の重傷で病院に運ばれました。 そのときに、お母さんと二人の娘さんが地下室に隠れていたら、ロシア兵がやってきて、 <ここにいたら危ない、大規模空爆があるから早く逃げるんだ>と言って逃がしてくれた。 そこの7歳の女の子は、身体障害で歩けないんですけれど、それをお母さんがおぶり、 もっと小さい3歳の女の子は、ロシア兵がだっこして連れて逃げてくれた。 その家の人たちに、<悪いロシア人はいっぱいいるけど、いい人たちだって沢山いるわよ> と言われたのが、私はすごく印象に残っています。
多分、嘘ではないと思います。ロシア人がどれだけ悪いことをしたかと話す人は沢山いますけれど、 <いいことをした>という話を聞いたのは、10年くらいかかわってますけど、初めてです。 どうしてもこの話は皆さんに聞いていただきたいと思っていました」
(写真04)
林さんの報告。チェチェンで出会った人々の群像を通して、チェチェンの今を語る。
「今回は、テレビの番組を作ろうと思って、その関係でチェチェンに入りました。 入れたと言っても、それほど自由に動けたわけではありません。
今回感じたことですが、ひとつは、グローズヌイ(首都)は一見、人通りも車も多く、 道端の市場などには物資もあって、カフェやレストランができ始めているという面もあったのですが、 よく見ると、その華やかさの陰で、恐ろしいことが起こっている。そう考えると怖いと思いました。 たとえば今回、ずっとチェチェンと周辺を動いているとき、直接知っている人だけでも 10人以上は拉致されて、失踪していましたし、そうやってどんどん、治安機関が 少しでも怪しいと決めた人を拘束している。それを知らなければ、街は華やかで、そんな感じはしないんです。 けれどその一方で、人が消えていく事態が起こっている。
ふたつめは、やはり、戦闘は毎日続いている。 グロズヌイあたりでも、夜になれば銃撃や、戦車砲の音が聞こえてきたり、振動が聞こえてきます。 三つめは、戦争の地域が拡大しているということです。今まで、去年の夏ぐらいまでは、 チェチェンの中だけで戦闘をしていたんですが、いまは西隣のイングーシ共和国と東隣のダゲスタン共和国に、 戦闘が拡大していますね。たとえば、イングーシに行ったとき、ホテルでも数時間立て続けに、 自動小銃、機関銃、戦車砲の音がずっと聞こえていて、ロシア側に言わせれば、 テロリストを掃討するための作戦という発表でしたが、レジスタンスによれば、ゲリラの立てこもる建物そのものを 全壊させるというような作戦だったようです。イングーシでもそんなことが起こっていました。
(写真05)
Q:「チェチェンの人たちは傀儡政権(親ロシア派)に対してどんな考えでいるのでしょうか。 また、その傀儡政権はどんな統治の仕方をしているんでしょうか」
林:「評判は悪いです。ただ、世論調査ができるような状況ではないので、統計的にはなんともいえませんが。 聞いた限りでは、今の大統領アルハノフのことは、大統領になるまで、 ほとんど名前も聞いたことがないという人が大半でした。統治の面で言うと、間接統治と直接統治の中間にあるような 感じです。軍事的にはロシア軍が大きいわけですが、あちこちにある検問所には、傀儡政権のチェチェン人とロシア軍の、 合同で警備していたり、チェチェン人だけで守っているということがありました。両者による合同支配という感じです」
Q:「占領しているロシア軍や、一般の人たちは、取材に対して、どんな反応を示しましたか」
林:「直接ロシア軍と接触しないようにしていたので、そちらはよくわからりませんが、 チェチェンの親ロシア政権(傀儡政権)と接触しつつ、非公式的なことも同時並行でやると、 いう微妙な取材でした。一般の人は、かつては積極的に答えてくれていたんですが、 それに比べると、あまり応じてくれなくなりましたね。いろいろな人に聞いたんですが、 99年から2001年くらいにかけて、外からたまに来るジャーナリストに対して、 本当のことを喋った人のかなりの部分、特に女性が、殺されているんです。 何か喋ったとか、外国のテレビに映ったということで。
そういうことがあって、逮捕されたり、拷問を受けた人々が喋らない、ということは多いですね」
(写真06)
最後に市民平和基金の青山さん:
「国際的な無関心がチェチェン戦争を続けさせているのではないかと思います。
日本では本もたくさん刊行され、関心が高まっていますが、
マスコミではいまだにチェチェンといえばテロリストの象徴として伝わり、
その一方で、今日話があったような、チェチェンの中で起こっていることというのは、
ほとんど伝わっていません。ここにいる皆さんがたには、
ぜひチェチェンで起こっていることを周りに伝えていただきたいと思います。
もうひとつ、チェチェン問題とは何かということをずっと考えているんですが、 チェチェンで起こっている戦争、あるいはチェチェン人が起こしているテロ、 というだけの問題ではなく、結局はロシア社会の、 またはロシアの政治状況の反映された、 スケープゴートということではないかと思っています。 ロシア社会で進行している強権化、軍事化の進行と同時に、チェチェン戦争が続いている。 それはロシアだけではなく、ある意味で全世界に広がっていることなのではないか。 だとすれば、それはわれわれ自身の問題でもあるのではないかという気がします。 ロシアの現在は明日の日本なのかもしれないということを、強く感じます。
4月ごろにプーチン大統領が来日します。 ぜひわれわれとしてはプーチン大統領を歓迎したいと思います。 そして、プーチン大統領と一緒に、チェチェン問題を考える、 そういうイベントをぜひやりたいと思います。 これからも、時間はかかると思うのですが、 ぜひ皆さんで一緒にチェチェン問題を考えていきましょう」
今回の集会には、香川県、岐阜県、長野県など、全国から大勢の人びとが参加してくれた。 そんな人たちとの対話がもっとできればよかった。返す返すも残念なところ。 ともあれ、じょじょに多くの人が参加してくれるようになってきたことに、安心する。 また、運動の責任が重くなってきているというのも、実感。 今後はプーチン訪日を見据えた行動と、チェチェン関係の映像イベントの準備などもしていきたいと思う。 大勢の方の協力と参加、そして会の後にも寄せられたいくつもの意見に感謝します。
(2005.02.18 文責:大富亮)
(2005.02.18 信濃毎日新聞)
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