チェチェン総合情報: http://www.jca.apc.org/tlessoor/chechennews/
発行部数:1711部
イギリスの民放、チャンネル4に、チェチェンの野戦司令官シャミーリ・バサーエフが登場した。といっても、ビデオを通して。バサーエフは、ベスラン事件に責任を認めつつも、どのように関与したかについては何も語っていない。また、「プーチンが強行突入をするなんて思いもしなかった」とも発言していて、真意がつかみにくい。
最近のバサーエフは、ロシア国民全体に対して「プーチンの共犯者」と決め付けていて、今回のインタビューの中では、テロの対象が、ロシアだけではなく、西欧を含む世界全体に及ぶと示唆している。これからの同様のテロを計画しているとも言う。
賛否両論、というより、この内容に嫌悪感を抱く人は多いと思うが、訳すうち、一面の真理も語られていると思った。確かに非道なテロリストとしてバサーエフを糾弾することはたやすい。本人もそれを挑発しているふしがある。一方で、94年以来のチェチェン戦争という大きな事件の中で、20万人の人びとを殺した犯罪は今も許されていて、千人以下の人びとを殺した犯人(とされる人物)は、世界中の世論から非難されている。
番組の音声部分が記事にされていたので訳した。ロンドンで番組を見ていたMさんからのコメントも、全体の雰囲気を理解するのに役立ったので、この場を借りてお礼したいと思う。この番組の放送に先立って、ロンドンのロシア大使館は「テロリストに放送時間を与えることは、<テロとの戦い>を進める協力体制に亀裂を生む」として、イギリス政府に対する強硬な抗議声明を発表した。
毎日新聞 英TV局が武装勢力の会見放映 露政府反発:
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050205-00000021-mai-int
http://www.channel4.com/news/2005/02/week_1/03_basayev.html
ジョナサン・ミラー
−−−(ナレーション)
ベスラン第一初等学校での人質救出作戦の結果、330人の、主に子どもたちが死亡しました。この事件の背後にいたシャミーリ・バサーエフは、チャンネル4に対して、再び同じような事件を起こす可能性があると語りました。彼はべスラン事件だけでなく、2002年に120人が死亡することになったモスクワ劇場占拠事件でも黒幕でした。現在は姿を隠していて、首には1千万ドルの賞金がかかっています。バサーエフは、ロシアがチェチェンを占領している限りは、自分の闘争は正当なものであると主張しています。バサーエフの理由? この紛争で殺された数十万というチェチェンの市民です。
ロシア政府は今回、英国政府に圧力をかけて、この素材の放映をやめさせようとしました。視聴者の皆様はバサーエフの意見は不愉快だと思われるであろうと、当番組でも考えましたが、一方で彼が子どもたちの殺害を、どのように合理化するかという点で、関心を持つ方が多くいることを前提に放映するものです。
国際部のジョナサン・ミラーがお伝えします。
−−−(ミラー)私たちチャンネル4は、一連の質問をシャミーリ・バサーエフに送りました。あの事件の黒幕だったとして非難されているチェチェン抵抗勢力の司令官です。私たちは彼に理由を訊きたいと思いました。子どもたちを殺すことが、いったいどうして、彼の大義の助けとなるというのでしょう。
私たちは質問リストをヨーロッパのある都市で仲介者に渡し、ビデオテープを使って返事をよこすようにリクエストしました。どこにバサーエフがいるかはわかりません。おそらくチェチェンにいると思うのですが。それから4ヶ月が過ぎて、私達はコーカサス地方からのメールを受け取りました。そのメールには、小包を用意したから受け取ってほしいとありました。そして私達は、中東のとある都市のショッピングセンターである男と会うように私たちは指示されました。それがどこであるかは申し上げることはできません。そして先週、箱に入った3枚のビデオCDを入手したのです。
ビデオに写っていたのは、確かにバサーエフでした。ベスラン事件以降、初めて姿をあらわしたことになります。質問は彼のラップトップに送られていました。そして、1時間にわたって、バサーエフはそれらの質問にすべて答えました。この映像はバサーエフの仲間が撮影したものです。おそらく、3週間ほど前だと思われます。彼の背後にかかっている幕には、「アッラーの他に神はなし、ムハンマドはその預言者なり」とあります。他のイスラム主義グループ、および他の戦争を連想させる図像です。
<答え始めるバサーエフ>
バサーエフ:「正直なところ私は、当初ベスランでこれが起こることを計画していたわけではない。私たちはモスクワかサンクト、あるいはその両都市で同時にと作戦を計画していたのだ。しかし資金がなかった。ベスランで起きたことについて私たちが喜んでいるわけではない。正直、私はベスランで起きたことでショックを受けさえしているのだ。私は今でもショック状態にある。あんな残酷な結果になるとはね」
−−−しかしバサーエフは、彼の部下たちが何をしたかを語るのではなく、ロシア人について語ろうとします。彼は、学校に突入して子どもたちの命を奪ったことを非難しているのです。<あんなことをするとは思いもしなかった>と。
バサーエフは、ロシアで最も悪名高い男で、いわばロシアのオサマ・ビン・ラディンです。プーチンはこう言います。
プーチン大統領:「われわれは、ああいうゴロツキとは交渉などしない。子ども殺しと交渉しろなどと言う資格は誰にもない。私たちの誰もが、ロシアの町ベスランで起こったことのために深く苦しみ、悲しんでいるのだ。ベスランでは私たちは人殺しを相手にしなければならなかったばかりか、無防備な子どもたちに対して武器を使った連中を相手にしなければならなかったのだ。人殺しとも、子どもに武器を向ける奴らとも、交渉などはしない」
−−−ロシアはテロに慣れてしまっていますが、ベスランの事件は国中にすさまじい衝撃を与えました。
バサーエフ:「われわれを正しく理解してもらいたい。いまは戦時なんだ。ロシア人はこの戦争のために税金を納め、この戦争に兵士たちを送り込む。ロシアの司祭たちは兵士たちに聖水をかけて〈聖なる務め〉とやらを祝福し、兵士たちを祖国の英雄的守護者と呼んでいる」
「われわれはと言えば、<テロリスト>。どこまでめでたいんだ?ロシア人は戦争の共犯者だ。武器を全員が手にしていないとしても」
<資料映像−−テロ事件の映像>
−−−バサーエフは自分はテロリストでないと強く確信しているようで、キリル文字で「アンチ・テロ」とプリントされたTシャツをわざわざ着ています。しかしそれでも、膝には6連装グレネード・ランチャーを抱えています。11年間のゲリラ司令官としてのキャリアのなかで、バサーエフは次のようなことをしてきました。ハイジャック、人質事件、爆破。10年前、南ロシアの病院を占拠し、結果として130人が死亡しましたが、バサーエフは逃げおおせています。2年前にはモスクワ劇場占拠事件で黒幕になり、ロシア特殊部隊の突入救助作戦によって120人が死亡しました。
ベスランの数週間前には、ロシアの航空機2機を空中で爆破し、モスクワでは地下鉄を爆破しました。その次がベスランでした。しかしこのときの犠牲者は子どもたちでした。バサーエフはプーチンがどこまでやるかを読み誤ったと言っています。全世界的に強い嫌悪感が巻き起こり、そのためにロシアは、これはロシアの「対テロ戦争」なのだと位置づけることができました。ベスランはバサーエフにとって裏目に出るものと思われますが、ショックを受けたと言いつつも、バサーエフはまた同じようなことを繰り返すと私たちに予告します。
バサーエフ:「この先もベスラン型の作戦を私たちは計画している。それはそうせざるを得ないからである。今日もチェチェンの市民は(誘拐され、)失踪している。少女たちが跡形もなく姿を消している。彼らは誰であろうと連れてゆく。このカオスを止めるために、私たちはあれと同じ方法を取るしかないのだ。シニカルに見えるかもしれないが、世界に対して何度でもロシア国家の仮面を剥ぎ取って示し、プーチンの悪魔の角の生えた素顔を示すためだけであるとしても——そうすれば世界はプーチンの本当の顔を見る、私たちはこういった作戦を計画する、そしてそれらの作戦を実行するだろう。ジェノサイドを終わらせるためには、私たちは手段を選ばない」
−−−ここで「ジェノサイド」と呼んでいるのは、チェチェンでのロシアによる戦争のことです。ここでは、10年間の間に、100万人の人口のうち、7万人から20万人の人々が死亡しています。第一次の戦争が終わってから3年後、プーチンは第二次戦争を開始しました。この独立を志向する地域に対する強硬なスタンスが、6年前に彼を大統領職に押し上げる力になりました。
<資料映像−−破壊されつくしたグロズヌイの様子など>
−−−しかし、戦争はロシアでは不人気なものになりつつあります。2万人とも言われる兵士たちが死亡してもいます。バサーエフのウェブサイトにアップロードされたビデオ映像には、兵士たちがどのように死んでゆくかが映されています。しかし、まだこれからもベスランのようなことを計画していると述べておきつつも、バサーエフは、これまでに既にあまりにも多くの死者が出ているとも言っています。
バサーエフ:「そのような理由で、私たちには戦争をやめる心積もりがある。そして、マスハドフ(独立派大統領)が言っているように、無条件で(和平)交渉を始める心積もりがある。だが1つだけ条件がある。それは、私たちの領土からロシアの占領軍が交渉の余地なく完全に撤退することである。もしもロシア人たちがチェチェン人へのジェノサイドをやめて軍を撤退するなら、私自身法廷に立ったっていいし、どんな判決だって敬意を持って受け入れる」
−−−しかしバサーエフはロシアが撤退しようとしないことを知っていますし、それはプーチンにとって絶対に譲れない点でもあります。バサーエフはロシアのチェチェンでの軍事行動が、彼の言葉を借りれば<ブーメランが戻ってくるように>、ロシアだけでなく、ヨーロッパ、さらに世界全体を覆うだろうと警告しています。クルアーンやウィンストン・チャーチルや中国の思想家の言葉を引用しながら、彼なりのジハードへの理由付けをしながら(この部分は番組では省略されている:訳注)も、バサーエフの動機はより暗く、より根本的なものになってゆきます。
バサーエフ:「これは、戦争なんだ——あなたたちの国のダーウィンが書いたような猿の子孫たちと、アダムの子孫たちの。動物は動物の居場所に戻すための。私は偉大なる神に、そして、ジハードへの道、神へとまっすぐに続く道を歩みし者にこれをささげる。アッラーに栄光あれ」
−−−そういった万能の祈り文句と一緒に、ジハードの戦士であり、哲学者であり、子ども殺しであり、自由の戦士であるバサーエフは、私たちの質問への回答を終えました。バサーエフはこのように、昨年9月にベスランで自身が行なったことは正当なことだったと弁明したわけです。しかし、どうしてこのようなことになってしまったのかを、あなたなら、子どもにどう説明なさるでしょうか。
<了>
大使館からの抗議についてのコメント、チャンネル4の立場の説明:
http://www.channel4.com/news/2005/02/week_1/03_basayev.html
バサーエフの人物情報:
biograph.htm#Basayev
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