発行部数:1065部 ■モスクワとグロズヌイが近づくとき モスクワニュース No.5 2004.02.13-19(サノバール・シェルマトーワ) ●記事について: ロシアの週刊誌、モスクワニュースの評論記事。最近ロシアでは各種報道機 関への締め付けが厳しくなっていて、部数の少ない媒体しか、チェチェン問題 を報道できなくなっている。シェルマトーワ記者は継続してチェチェンをウォッ チしていて、ロシアがチェチェン侵攻を行う理由として、石油の問題を追及し たことがある。ロシア側の良心的な視点のひとつとして紹介します。(大富) 関連記事/クレムリンの新チェチェン政策とは?: http://chechennews.org/archives/20020401IWPR.htm ●別の世界に住む人々 2月6日の地下鉄爆破事件。上は大統領から下は一般庶民まで、みなが、チェ チェンの武装勢力の仕業と決め付けて、この爆破事件に対してどう報復をすべ きかを議論している。処方箋はすでにでき上がっている。カフカス出身者が、 モスクワに来ることを禁じればいい。住民登録規則を厳しくする。連邦保安局 (FSB)の権限を増やすべきだ。市内や地下鉄駅では、例によって、チェチェ ンやその他の所の出身者の狩り出しが始まった。 モスクワに住むチェチェン人たちは沈黙を守っている。テロへの連帯の表明 なのか? まさか。モスクワに住むチェチェン人たちの中核は、知識人や、チェ チェン共和国独立強硬派のドゥダーエフ大統領のもとから逃れてきたビジネス マンたちだ。彼らの多くは、武装勢力に関して、それぞれ一家言を持っている。 それならなぜ沈黙しているのか? 答えは簡単だ。チェチェン人(チェチェン 共和国外に住んでいても)と、それ以外のロシア国民は、もうずっと前から別 々の世界に暮らしているからだ。 チェチェン人はここ何年もずっと、戦争の世界に暮らしている。この地下鉄 爆破事件は、精神的に正常な人にとっては、惨事だ。だが、常に死と隣り合わ せに暮らし、爆撃で友人が殺され、ロシア軍の掃討作戦で親類を失った人々に とっては、この爆破事件は戦時下の日常生活の一コマにすぎない。 しかし、同じことが10年前にもなかっただろうか? 1995年、モスクワの私 たちは新年を祝ってシャンパンを飲んでいたが、チェチェン共和国の首都グロ ズヌイでもやはり新年のお祝いのテーブルを囲んでいた人々の上に、空から連 邦軍の砲弾が降り注いだのだ。その頃モスクワでは、「憲法秩序をうち立てる のだ」と言われていた。グロズヌイの人々には、そのためにどうして住宅地域 が破壊されなくてはならないのか、理解できなかった。 ●あなたたちの仇を討ってやる 何も変わらないのだろうか? いや、ずっと悪い方へと変化している。この 10年間のチェチェンにおける「秩序の確立」によって、グロズヌイは、モスク ワに一歩も近づかなかった。その代わりモスクワは、急速にグロズヌイに接近 している。モスクワはすでに、戦線一歩手前の都市となった。 チェチェンの母親は、朝子どもたちを送り出しながら、夕方子どもたちが生 きて帰ってくるかどうか確信を持てない。劇場広場でのテロ事件のあった今、 モスクワの女性たちも、チェチェンの母親と同じ感情に襲われている。 「あなたたちの仇を討ってやる!」とモスクワ市のツシノで起きたテロ (2003年7月、13名死亡)の被害者の親類はやけくそになって書いた。それと同 じ言葉が地下鉄の駅に書かれていた。誰に復讐するというのだろうか? プロ の兵士たちがいくら探しても見つけられないでいるバサーエフに復讐できるわ けはない。 決死隊員たちに復讐する? 彼らは自分自身で死ぬ運命を選んでいるのだ。 テロリストの親類に? それも現実的ではない。となると、身近な人たちに復 讐することになる。他のモスクワ市民と同じく地下鉄を利用し、給料で生活し ている人々に。ただ、彼らが他のモスクワ市民と違うのは、その顔、カフカス 系の顔を持っているという点だけだ。 ●終幕までの長い道のり ロシア連邦軍は、チェチェンでは一般市民と武装勢力を見分けられない。ロ シアではチェチェン人はだれでも潜在的な犯罪者とみなされている。私たちは 彼らを、チェチェン人全体をバサーエフ部隊に属するものと決め付けている。 それと同じように、彼らも私たちをロシア軍のブダーノフ陸軍大佐(2000年3月、 チェチェン人少女を拘束、強姦、絞殺した)の仲間扱いしている。 彼らはモスクワに決死隊員のベルトを締めて乗り込んでくるわけではない。 私たちがチェチェンの村々の「掃討作戦」をしないのと同じように。しかし、 私たちお互いの猜疑心は、徐々に相互の憎悪へと変わっていく。ましてや、市 民にこうした感情を植付けようと躍起になっている政治家は、あちら側にも、 こちら側にも十分にいるのだから。 最後のチェチェン人を追い出すまで、モスクワで掃討作戦を展開しようか。 すると、毎日爆弾テロが起きるようになるかもしれない。グロズヌイでは経験 済みだ。 私は確信していることがある。 いつか必ず、モスクワの大通りを、市民たちが行進する日がやってくるはずだ。 モスクワで命を落とした人たちを追悼するだけでなく、グロズヌイで亡くなっ た人たちのことも思いながら。グロズヌイでも、同じようにチェチェン人たち が行進することだろう。 けれど、それまでに、どれほどの血が流されなければならないのだろうか。 (訳:N)
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▼発行部数:1057部 ▼発行人:大富亮