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4月18日に、チェチェン人ジャーナリストのルスラン・イサーエフは、次のように報告した。「現在もっとも危険な場所はグロズヌイだ。ここでは毎日戦闘と爆破が続いていて、ロシア軍の<掃討作戦>のために毎日犠牲者が出ている。数日前にも、スタロプロミスロフスキー地区で二人の死体が土中から掘り出された。ロシア軍の掃討作戦で拘束された、近郊の村人だった。15日には、機関銃でめった撃ちにされた3人の遺体がグロズヌイ郊外で発見された。なぜか、うち一人はロシア人の子どもだった」
同じ日、チェチェンの隣国、イングーシ共和国のムラート・ジアジコフ大統領は、「国内での人権侵害の防止について、NGOと協力することを決めた」と表明し、イングーシ政府と、チェチェン人権NGO各団体が、人権抑圧に対して協力して対処する方針を明らかにした。
「イングーシはロシア連邦中央の制度とは別に、人権弁務官事務所を設置しており、今後は人権活動家たちとも連携する。逮捕には逮捕状が必要だ。誰一人、イングーシで行方不明者を出すわけにはいかない。難民が強制的にチェチェンへ送り返されることも、あってはならない」とジアジコフ大統領は語る。ジアジコフ大統領はロシア連邦保安局(FSB)出身なので、今回のような人権擁護的な行動はやや意外。
4月20日に、イングーシのナズランで開かれたチェチェン人権会議に参加した各団体の代表は、市民に対する人権侵害や不当逮捕が続いている現状を報告した。
ロシアの人権団体メモリアルのリブハン・バサーエヴァは、「先月23日の憲法制定のための国民投票から2週間ほどは小康状態でしたが、最近は再び事態が悪化しています」と発言した。ベテラン人権活動家のタマーラ・カラーエヴァによれば、国民投票に強く反対していた、ムーサ・ヴァシャーエフ氏が、アルグンで最近行方不明になった。また、マスハードフ大統領の駐ドイツ代表、サイード・ハサン・アブムスリモフの家族も同様の状況にある。
欧州評議会議員総会(PACE)で、今月2日に「チェチェン戦争犯罪法廷設置勧告」が採択された。今回のイングーシでの人権会議は、戦犯法廷の実現のために、国連および欧州安全保障協力機構(OSCE)に対して協力を求める要望書を採択した。チェチェンのNGOは、現在のチェチェンでの人権侵害について、国際機関へのいかなる情報提供も惜しまないとしている。
「チェチェン戦争犯罪法廷」ついては、チェチェン独立派の対外代表を務めるザカーエフ副首相は、「チェチェンの指導者は、国際法廷に出頭して、チェチェンで起こった事への自分たちの責任について裁きを受ける覚悟がある」と発言している。ロシア側はPACEの勧告決議に強く反対している。
http://www.reliefweb.int/w/rwb.nsf/UNID/382FE33063BF7DA449256D0F0003EBB8
http://www.reliefweb.int/w/rwb.nsf/UNID/D85A13D22D6DB25249256D12000320C3
4月24日、チェチェンにおける親ロシア政権のルドゥニク・ドゥダーエフ安全保障会議書記は、グロズヌイで、ロシア軍人による不法逮捕と誘拐を非難した。これによると、今年になって不当逮捕と誘拐が彼らの把握でも215名に及び、その大部分が法を順守していた善良な市民に対するものとした。ドゥダーエフはこのようなロシア軍人の行状はチェチェンの安定実現の妨げであるとした。また、同じ日に同政権のアリ・アルハノフ内相も先月23日以降、46人のチェチェン市民が、ロシア軍と警察によって不当逮捕されていると訴えた。チェチェンタイムスとAFPが伝えた。
http://www.chechnya.nl/news.php?id=3286&lang=rus
http://www.reliefweb.int/w/rwb.nsf/UNID/4397506822F42054C1256D13003FE9AB
第二次チェチェン戦争は今月で3年7ヶ月目になり、チェチェン国内からの報道からは、あいかわらず過酷な状況が伝わってくる。イングーシとチェチェンの親ロシア政府関係者たちさえも強い批判をせざるを得ない状況だ。「国民投票」によってチェチェンに安定がもたらされる、というロシア政府の主張は無意味だった。
(2003.04.29 大富亮/チェチェンニュース)