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1997年1月、停戦協定に基づくチェチェン共和国大統領選挙に国際監視員として参加した者として、ひとことふたこと書き記しておきたい。
ロシア側の発表のとおり高投票率だったかも知れないし、独立派の言うようにいかさまだったかも知れない。でも誰も立ち会わせず、誰も見てないところでやった選挙が有効だという話は聞いたことがない。
南アフリカだって東チモールだって、国際監視団を大勢呼び集めて選挙をやったのは、自信たっぷりの民主主義に裏打ちされた選挙だからである。97年のチェチェン大統領選挙もそうである。
ところが今回、ロシアは国際監視団を呼ばなかった。民主主義に裏打ちされていない自信があったからだろう。ゆえにこの選挙は、たとえ100%の投票率でも無意味である。中学の生徒会ほどの意味もない。
だがこういう言い方もあるか。「日本でも今選挙をやっているけど監視団なんか呼ぶかい?選管が発表すれば全部有効だろう?ロシアは日本と同じサミット参加国なんだよ」とロシア政府が言うかもしれない。
ロシアは先進国だから南アフリカや東チモールと一緒にするな、と言うのなら、チェチェンを「読み書きもまともにできない野蛮なイスラム教徒の国」などとはのたまうな。
アメリカのイラク攻撃がいけない、と平和主義者ぶったことを言ったのも、「そのロシアがチェチェン攻撃をするはずがない」、と世界を騙してこのいかさま選挙を実施するためだったのか。
97年のチェチェン共和国大統領/議会選挙のとき、私は日本からの監視団の一人として参加した。選挙を仕切った欧州安全保障機構(OSCE)が主催して行った選挙前後のミーティングにも参加した。日本からの監視団は3人だったが、報道関係は世界中から、もちろん日本からも数十人が来ていた。NHKを先頭に、各紙もこぞって報道した。どこの投票所も行列だった、と。
ロシアの報道ほどではないが日本の報道もしばしばでたらめを書く。けれどもこの時の報道に関しては私が見た選挙風景そのままだった。
私たちが実際にチェチェンに行ったかどうか、信じがたい?
出発にあたって今は檻の中にいる鈴木某議員の息のかかった外務省ロシア課が大妨害をかけてきたから、彼らが証人になってくれるだろう。ヨーロッパを中心に世界35カ国205人の監視団の見守る中、現マスハードフ大統領が選出され、それまでロシア側のチェチェン総督だったザブガエフはタンザニア大使に赴任して行った。
その赴任先中央アフリカのタンザニアにムネオ・スクールがあったというのを最近知ったが、これも運命のいたずらか。いずれにしても、チェチェン大統領選挙監視団として97年1月27日、私はあと2人のボランティアとともにウルスマルタン中央投票所にいたのである。
フランステレビ2が、「ソ連時代のおもかげそのままにうそとプロパガンダのノーボスチ通信」と評したことがある。外国の報道機関の自由な取材報道を認めないかぎり、「投票率89%」は信じない。(2003.03.29 中河 紅/主婦、チェチェン支援ボランティア)
3月25日、ロシアの人権団体メモリアルのナズラン事務所のウサム・バイサエフ氏は、23日の国民投票について次のように記者団に語った。「国民投票に参加したチェチェン人は、1割前後です。ほとんどの人がボイコットしました」
24日には、チェチェン人で元ロシア下院議長のルスラン・ハズブラートフ氏が、「チェチェンの親ロシア政権の発表している投票者数(47万人)のうち、12万人はチェチェン駐留ロシア軍の兵士だ」と話した。ちなみにこれまで国防省はチェチェン合同軍の員数を8万人と発表している。
欧州評議会(COE)のワルター・シュマイヤー事務総長は、「国民投票が前提条件を満たしているのならば、ロシア政府はそれを公表しなければならない。なお、COEはロシアとチェチェン間の権限分割の協定策定への協力を惜しまない」とした。
http://www.rferl.org/newsline/2003/03/270303.asp
3月23日以降の日本での報道の多くは、「チェチェンで国民投票が行われ、選管は投票率89%、賛成90%と発表」といった記事でした。当局発表と言う留保はあるものの、そのまま読むと、民主的な手続きが進んでいるように読めます。
そこで、あえて Vol.03 No.12 2003.03.20 から本号まで、国民投票に批判的な情報を重点的に掲載しました。最初は重箱の隅をつつく作業になるかも知れないとも思いました。しかしふたを開けてみれば、現地を取材した記者からは、ほとんどチェチェン人が参加していないという報道の方が多く伝えられました。
読者のお一人からは、こういう感想もいただきました。
「チェチェンニュースは読むのにちょっと努力がいりますが、あまりにひどいやり方・言説が横行していますので、だれかが声を上げないといけないと思います。そしてそれを、斜めに読むくらいの努力をするのは、しかたがないなというのが正直な感想です」
今後とも、どうぞ斜めにお読み下さいますよう。それが圧力になっています。(2003.03.29 大富亮/チェチェンニュース)