8月9日(金)〜11日(日)まで、大田区(東京)で開催される第23回大田・平和のための戦争資料展「戦争と民衆」に、メドゥサン・デュ・モンド(MdM、世界の医療団が参加する。会場では、チェチェン共和国の子どもたちを対象とした、心身の傷を癒すための医療活動の様子を報告するパネル写真等が展示される予定。
主催:大田・平和のための戦争資料展実行委員会日時:8月9日(金)〜11日(日)午前9時30分〜午後7時まで場所:大田区民ホール・アプリコ(JR蒲田駅東口徒歩5分)
http://www.city.ota.tokyo.jp/sisetu/hall.htm入場無料チェチェンでの活動以外の展示内容: ・戦争と民衆-NGOから見た現代の戦争と民衆- ・15年戦争下の戦争と民衆-反戦と弾圧・民衆生活- ・日本が侵略したアジアの国々-侵略の実態- ・有事法制はなにを狙っているのか ・原爆と人間展-原子爆弾実物大パネル- など ・日替わりで朗読・講演会等。問い合わせ先:(展覧会)大田・平和のための戦争資料展実行委員会 大坪省吾氏(03-3751-6971)まで。 (MdM)メドゥサン・デュ・モンド ジャポン 広報:田口かずみ mdmjap2@gol.com http://www.medecinsdumonde.org/japan (03-3585-6436)
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7月22日に公表されたチェチェン共和国拡大国家防衛委員会のマスハードフ・バサーエフ共同記者会見のビデオ・インタビューの中で、チェチェンのマスハードフ大統領からは、次のような予言的な言葉が聞かれた。
記者:「国外にいる司令官たちに関するあなたの立場、そして彼らにどんな期待をもたれていますか?」
マスハードフ:「すべての司令官は、国内にいようと、国外にいようとわれわれの兄弟です。今日、われわれの敵はただ一つ、ロシアのみです。ロシアの侵略者、わが人民に対する首切り役人、イスラム教徒に対する首切り役人どもです。ですから、いかなる司令官も、ムジャヘディン(イスラム戦士)も、あらゆるチェチェン市民が、自分の祖国へ戻って、カフィール(異教徒=不信心者)どもと戦うことが可能です。ここには戦いの場が存分にありますから」
この記者発表から一週間。7月27日(土)朝より、チェチェン・グルジア国境地帯付近でロシア国境警備隊とチェチェン独立派武装勢力の間で激しい戦闘があった。独立派・ロシア軍双方ともこれを認めているが、詳細については、例によって大きく食い違う。
ロシア側の発表では、「イトゥム・カリ地区国境警備隊は、朝早くグルジア国境からチェチェン側ケリゴ渓谷に侵入した、駄馬を含む60人ほどの武装部隊を発見、交戦した。戦闘は非常に激しいものであった。国境警備隊側には5名の死者と3人の負傷者が出た。国境警備隊は戦闘爆撃機の支援で態勢を固め、予想される行き先への道を断って包囲を固めた。
土曜の夜と日曜の未明、包囲を突破しようと武装分子は戦闘を仕掛けてきたが、国境警備隊より撃退された。最初の衝突のあった場所で、国境警備隊はチェチェン側武装勢力の遺留品武器多数を押収した。その中には小型携帯対空ミサイル(スティンガーミサイル、ロシアのイグラなどのこと)数セットとグレネードランチャー数丁が含まれれていた。北コーカサス国境警備本部は、予備部隊のケリゴ渓谷への増派を決定した」
http://kavkaz.strana.ru/news/153841.html
というものであり、グルジアに潜伏したチェチェンゲリラが、グルジア-->チェチェンの方向で攻撃を開始したという文脈である。発表上ロシア軍が優勢であるが、国境警備部隊の増派が必要な状況であることがわかる。
チェチェン側の発表では、「27日午後2時より、シャトイ地区とイトゥム・カリ地区で、二つの部隊がロシア国境警備隊を攻撃し、敵に39名死亡という被害を与えたことを確認した。第2の戦闘は午後5時半に始まった。いずれも少数の偵察部隊が、ロシア国境警備隊にわざと発見されるという罠をしかけ、充分敵を引きつけたところへ本隊が圧倒的な攻撃を仕掛けた特殊作戦であった。
チェチェン側はロシア国境警備隊から多数の武器を戦利品として獲得した。グレネードランチャー5丁、狙撃銃3丁、自動小銃20丁とPK式機関銃5丁、その他。チェチェン部隊は、速やかに移動し自らの陣地に帰り着いた。ロシアの戦闘爆撃機は無人となった衝突現場付近に爆撃を続けているに過ぎない。グルジアからのムジャヘディン潜入という事実はなく、この作戦は先に策定されたチェチェン軍事委員会の夏-秋攻勢の一環として実施されたものである」
http://www.kavkaz.org/russ/article.php?id=4247
つまり、チェチェン国内から、グルジア国境のロシア軍部隊を攻撃したという主張である。英字のメディアは、この戦闘について困惑気味の報道を続けている。たとえば7月29日付けのモスクワタイムスによると、
「28日、グルジアとチェチェン国境地帯において、チェチェンに侵入しようとしたゲリラと、ロシア国境警備部隊との間に激しい戦闘があった。国境警備軍によると、武装したチェチェン人50名がグルジアからチェチェンへの国境を突破しようとしており、ここ2年間でも最も大規模な戦闘になっている。今のところチェチェン側3人が死亡、2人が投降。ロシア側の損害は負傷者5人」
と、とりあえずはロシア側の発表を引用する形にし、「チェチェンに侵入しようとしたゲリラと、ロシア国境警備部隊との間」で戦闘が起こったと書くのが精一杯のようだ。これがロシア政府による報道管制の成果なのだが、ドイツのDPA通信もそのような記事を配信している。
http://www.themoscowtimes.com/doc/HotNews.html#23384 (モスクワタイムス)
http://www.reliefweb.int/w/rwb.nsf/480fa8736b88bbc3c12564f6004c8ad5/ecf958045c32c564c1256c0700320fea?OpenDocument (DPA通信)
グルジア国境でこのような大規模戦闘があったことで、「いよいよゲラエフ部隊がチェチェン入りか」と考えた向きも多いと思うが、この後、事態は意外な方向に向かう。
グルジア国連協会のwebサイト、「シビル・グルジア」は、7月29日に、グルジア・チェチェン国境のグルジア側は静穏そのものとするグルジア治安当局者の談話を引用して、ロシアの主張する、パンキシ渓谷からのチェチェンゲリラの侵入説を間接的に否定した。当局者はまた、衝突の起こった地点からは国境のチェチェン側、10km以上も入ったところにあり、戦っているのはロシア軍とチェチェンの独立派だとした。
http://www.civil.ge/cgi-bin/newspro/fullpnews.cgi?newsid1027940528,18634,
そして30日、この事件が一挙に国際問題に「昇格」する事件が起こった。グルジア領内にいるカフカスセンター特派員は、ロシア軍機が30日未明、グルジアの領空を侵犯し、パンキシ渓谷アクメタ村付近を爆撃したと報告したのである。これによると、ロシアの爆撃機は数機で飛来し、20分間ほど爆撃を行い、パンキシ渓谷上空で数回の示威飛行を行った。
この件については、8月6日の読売新聞が比較的わかりやすかった。モスクワの瀬口記者は、「露・グルジア険悪化、武装勢力掃討めぐり」のなかで、「こうした中、イワノフ国防相は先月末、「特殊部隊投入による武力解決以外あり得ない」とグルジアへの露軍派遣を示唆。これに対し、グルジア側は露軍派兵には断固反対しながら、「国境警備はロシア側にも責任がある」(シェワルナゼ大統領)と批判した」とし、ロシア−グルジア指導部間の摩擦を指摘した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020806-00000514-yom-int (読売新聞)
http://www.kavkaz.org/russ/article.php?id=4277
29日、グルジア国境から遥か北のカラチャエボ・チェルケス内務省の発表として、29日16時頃、アブハジアとカラチャエボ・チェルケス共和国(ロシア連邦)の国境を武装集団がアブハジア側から越境してきて、迎え撃ったロシア国境警備軍と衝突となったと報じた。国境警備軍は武装集団の帰属を確認できていない。
http://www.kavkaz.org/russ/article.php?id=4298
この武装集団はゲラエフ部隊である可能性が高い。東隣のカバルディノ・バルカリア共和国のルートと予測したが更に西隣から、いよいよ入ったかという感がある。チェチェンでの国境付近での衝突は、こうした別ルートからの侵入の陽動作戦だったのではなだろうか。
先週後半のコーカサス情勢は、ロシアとグルジアの非難の応酬となった。先週末のチェチェン・グルジア国境での独立派の攻勢をグルジアに責任転嫁するロシア政府・軍部の動きにグルジア政府は、ロシアの苦情・非難を討議して欲しいと国連安全保障理事会へ提訴した。
この提訴では、ロシア側が否定している、ロシア軍機によるパンキシ渓谷爆撃も問題とされている。また、ロシアの軍部などから出ている、パンキシ渓谷への武力制圧論に対抗して、グルジアのNATOへの正式加入を急ぐ動きも加速。さらにシュワルナゼ大統領の後継者として、アメリカ国籍でグルジア系アメリカ人のジョン=マルハズ・シャリカシビリ将軍を擁立する動きまで活発化してきた。
ここで、冒頭で取り上げたマスハードフ大統領の答えが思い出される。グルジア国境で今何が起こっているかは、時間とともに明らかになるだろうが、あくまで間接的な形で、ゲラエフの動きがキーになっている可能性は高い。また、これによって引き起こされたグルジアとロシアの関係悪化は、言ってみれば正真正銘の国際問題なので、今後も注意深く観察しよう。(渡辺千明)
参考記事:
http://www.kavkaz.org/russ/article.php?id=4360
http://www.kavkaz.org/russ/article.php?id=4359
http://www.kavkaz.org/russ/article.php?id=4355