チェチェン総合情報

チェチェンニュース
Vol.02 No.18 2002.07.14

■概況

今週の概況としては、南部のヴェデノ地区などでの戦闘が激化、首都グロズヌイの中心部でも抗議行動やゲリラ戦が繰り広げられているとの報道が伝えられています。

チェチェンのマスハードフ大統領が提示した停戦開始日(7月15日)もすでに明日に迫っていますが、ロシア政府側からの応答は特に見られていません。今後の展開が注目されます。

折からの、ロシア国内での厭戦機運を反映して、ロシア側のNGOの活動が活発化しつつあるようです。【ロシア国内】のセクションをご参照ください。

不穏な動きとしては、チェチェンの隣国イングーシに、ロシア軍部隊が増派されようとしています。この地域への新たな干渉かも知れません。詳しくは【周辺地域】「ロシア、イングーシ共和国に軍部隊3000人を配備予定」をどうぞ。

意外にもロシア軍は補給の危機に陥っているようです。詳しくは巻末の【展望】「ロシア軍に深刻な兵器不足」をどうぞ。(編集室)

【戦闘状況】

■チェチェンで激戦が続く

7月5日、カフカスセンターが、独立派に戦死者がかなり出たことを報じた。

特別任務イスラム連隊(IPSN)の司令官モフタル・バラエフの話として、3日、メスケルユルト付近での戦闘で、IPSNの戦士6人が戦死した。その中には2名の中級司令官が含まれていた。彼ら6人は、自分らの陣営に戻る途中ロシア軍と遭遇し、撃ち合いとなった。

ロシア側は重火器と武装ヘリコプターを繰り出す本格的な戦闘となり、戦いは7時間にわたった。ロシア側は、レジスタンスたちを捕虜にしようと試みたが、激しい抵抗の中で全員が死亡した。戦闘を目撃した地元住民の話では、ロシア側は17名の戦死者を出し、軍用ヘリコプターが、双方の死体すべてを運び去った。IPSNでは、最近3ヶ月間に、29人の戦死者を出している。

またイスラム戦闘班ジュンドゥッラのスリヤン司令官によると、彼の部隊の隊員が7月1日のバッス川の谷間での戦闘で、3名の戦死者を出した。ロシア側には5名の戦死者と、BTR装甲兵員輸送車1両破壊の被害が出た。また同じ部隊は、サマシキの森林部での戦闘で2名の戦死者を出した。スリヤン司令官の報告によれば、最近2ヶ月に彼の部隊では11名が死亡し、3名が敵の捕虜となったという。

http://www.kavkaz.org/russ/article.php?id=3795

■ツォツィン−ユルト村などに対する攻撃

7月4日から5日にかけて、ツォツィン−ユルト村とメスケル−ユルト村が、ロシア軍による攻撃を受けた。ロシアのNGO「戦争のこだま=Echo of War」が伝えた。これによると、女性を含む6人の村人がロシア軍に射殺された。チェチェンプレスはこの事件について、「国際社会と呼ばれる物の無関心、冷淡の結果、ロシア軍による犯罪が続いている。チェチェン独立派は市民に対する攻撃への反撃として、ロシア軍拠点に対する攻撃を行う」と声明した。

http://www.chechenpress.info/english/news/07_2002/08/1.htm

■地雷により少年二人が重傷

7月8日、チェチェンのアチホイ−マルタン地区で、少年二人が地雷によって死亡した。8日、同地区の首長、シャミーリ・ブラーエフがインターファックスに語ったところによると、マゴメッド・アブーエフと、バハン・エルムザーエフ(ともに6歳)が、地雷の爆発によって重傷を負った。マゴメッド君は両足切断、大量の出血により危険な容態。バハン君は右足を失った。(2002.7.8Interfax.ru) チェチェンでは独立派、ロシア軍を問わず戦闘で地雷が多用され、今回のような事態が増加している。

http://www.interfax.ru/one_news_en.html?lang=EN&tz=0&tz_format=MSK&id_news=5582438

■アブ−ワリド野戦司令官の死亡、確認できず/ロシア軍筋

7月9日のロシア連邦軍高官の発言によると、先月の洪水の際に増水した川に落馬して死亡と伝えられたチェチェン側の野戦司令官、アブ−ワリド氏だが、その死亡はまだ確認していないという。(2002.7.10 rferl.org)インターファックスが取材した成果としてラジオリバティーが伝えた。

■独立派、ヴェデノの村落で重火器を使用し攻勢

7月12日の独立派イスラム系サイト、カフカスセンターは、首都東方に位置するヴェデノ地区の村、エリスタンジで、前日11日中、激しい戦闘が続いたと報じた。チェチェン軍は、NURS(非制御ロケット弾)S-5、S-8をロシア軍司令部と軍陣地に打ち込み、司令部の建物を完全に炎上させた。激しい戦闘にロシア軍は17名が戦死、20人が負傷を負った。のち、ロシア軍は戦闘爆撃機、武装ヘリコプターを動員して反撃した。

■クルチャエロフ地区でロシア軍車列を攻撃

7月12日付けカフカスセンターによると、クルチャエロフ地区の中心部において11日の日中、野戦司令官マゴメド・サリフ指揮下の小部隊が、ロシア軍の車列を攻撃した。今回の攻撃も、まず遠隔操作地雷により、ロシア軍のウラル型大型トラックを爆破、その後周囲からグレネードランチャーと機関銃の斉射を加え、ロシア兵5名を殺し、最低9名に重傷を負わせた。ウラルは炎上し、2台のBTR装甲兵員輸送車が大破した。チェチェン側に死傷者はなかった。

■「親ロシア警察部隊の爆殺は挑発」独立派は関与を否定

7月12日付けの独立派政府サイトチェチェンプレスは、グデルメス地区のカジユルト村とノブイ・ゴルダリ村の間の路上に仕掛けられた遠隔操作地雷によりバスが爆破され、車上の親ロシア派チェチェン人OMON(民警特別部隊)30名以上が負傷した事件に関し、独立派の関与を明白に否定した。4月20日に起きた類似の事件と同様、チェチェン社会の分裂を加速させようとするロシア側の挑発工作であるとした。

今回の事件に巻き込まれたチェチェンOMON隊員たちは、エンゲリユルト村で行われるロシア軍の「掃討作戦」支援に動員されたものだが、状況から判断して明らかにチェチェン人OMONの車両だけが狙われており、その車両に彼らが乗っている事、その運行ルートは、ロシア軍当局以外には知る由もなかった。独立派は殲滅するに十分なロシア軍と対峙しており、不必要に同じチェチェン人のOMON隊員を攻撃することはないとして、社会分裂の危険に懸念を表明した。

■独立派、グロズヌイでの攻勢を強化

7月13日の独立派イスラム系サイト、カフカスセンターは、最近数日間、独立派武装勢力が首都での活動を強化させていると報じた。首都ジョハル(グロズヌイ)のアストルハノフ地区とオクチャブリ地区では、それぞれサイハノフ通りとグデルメス通りで、ロシア軍陣地が襲撃された。ロシア軍には戦死5名、負傷約15名が出た。

またマヤコフスキー通りの交差点で移動中のロシア軍用車列がグレネードランチャーで襲われた。襲われたBTR装甲兵員輸送車は炎上した。ロシア軍戦死者3名、負傷10名以上が出た。さらに第六ミクロライオン(中層住宅団地)を巡回中のロシア軍との間に戦闘があり、ロシア側に1名の戦死者が出た。これらの戦闘での独立派側の損害は、死者1名、負傷者4名。

注:独立派の中でも、イスラム系のサイトでは、チェチェン軍構成員を含めて戦闘員をモジャヘード(ムジャヘディン-イスラム戦士)、ロシア軍との戦闘でのムジャヘディンの死者をシャヒード(殉教者)と表現している。一方、マスハードフ大統領の独立派政府系サイトでは、これらの表現は見られない。

また、ロシア政府、西側各国の呼称も含め、レッテルは数知れない。混乱を避けるため、本紙では、特殊な場合を除き、「ゲリラ」または「レジスタンス」、「戦死者」と呼称する。

【ロシア軍問題】

■ロシア現地軍、軍監察官を謀殺か?

7月6日、チェチェンプレスは、北カフカス軍管区報道官イリヤ・シュバルキンに近い情報源からの情報として、今年初めに起きたロシア軍高官搭乗の軍ヘリコプター墜落事件は、駐チェチェン合同軍が仕組んだもので、その責任は司令官であるモルテンスコイ将軍に帰するものだと報道した。

これによると、搭乗していた高官は、軍監察官を務めるA・ポズニャコフ少将で、彼らは首都グロズヌイの南郊、ハンカラにある合同軍司令部を監察した結果、戦費の運用に多くの疑惑があることを突き止めていた。事態の進行に狼狽したモルテンスコイ大将ら合同軍司令部が、監察官を監察結果もろとも抹殺したという。

シュバルキンら北カフカス軍管区幹部は事実がこのようなものだったとみなしているが、モルテンスコイ将軍とクワシニン参謀総長の親密な関係から、立件は困難との見方になっている。今回の件が事実だとすれば、事実関係の一部リークにより、北カフカス軍管区が現地合同軍に警告を発したものと思われる。

今のところこの件はチェチェンプレスのみが報じている。

http://www.chechenpress.com/news/07_2002/5_06_07.shtml ロシア語原文
http://www.chechenpress.info/english/news/07_2002/06/3.htm 英語訳文

■チェチェン戦争におけるロシア兵の犠牲、アフガニスタン戦争と並ぶ

7月9日、元内相で現在、ロシア下院安全保障委員会副委員長、アナトリー・クリコフ氏が「ニェザビシマヤ・ガゼータ=独立新聞」とのインタビューで、チェチェン戦争において、アフガニスタンでソ連軍が出したのとほぼ同じ6万5000人の戦死者を出していると認めた。モスクワのラジオ局「エホー・モスクボイ=モスクワのこだま」による。

この数字は、ソ連・ロシア当局が公式発表してきた数字と大きく異なっている。まず公式のアフガニスタンでの戦死者は1万3000人、チェチェン戦争でのロシア国防省の公式発表の戦死者はわずか3000人に過ぎない。同氏のコメントが正確だとすると、アフガニスタン戦争に較べて犠牲者を出すスピードはかなり速い。アフガニスタン戦争の失敗はソビエト帝国の墓穴を用意したことを考えると、早期に方向転換を試みなければ新生ロシアは悲惨な末路をたどることになろう。

追記:「モスクワのこだま」放送局は、同局のインターネットサイトから、この件に関する関連ページを、説明抜きで全て削除した。さまざまなサイトに転載された同記事を見た読者が、オリジナル記事を探したが見つからず、信憑性に疑問を抱いたことから判明した。ロシア政府筋からの圧力によるものと思われる。

【周辺地域】

■95年の病院占拠事件の参加者、裁判によって有罪

7月3日、ロシア南部、スタブロポリ地方の裁判所で、逮捕されたチェチェン人兵士らに、懲役9年から15年の判決が下った。容疑は1995年、第一次チェチェン戦争の際に、ロシアのプジョンノフスク市での病院占拠事件に参加したというもの。プラハ・ウォッチドッグが報じた。(2002.7.9 watchdog.cz) この事件は、チェチェンで現在も戦闘を続けるシャミーリ・バサーエフが指揮したもので、1500人の病院患者を人質にとって和平交渉を要求し、時のチェルノムイルジン首相が現地に赴いて交渉を約束することで一応の収束をみた。

http://www.watchdog.cz/?show=000000-000005-000001-000102&lang=1

■アブハズ市民権問題:シュワルナゼ氏、ロシアを非難

7月8日付けのAFPによれば、グルジアのシュワルナゼ大統領は、グルジア西部で分離独立を主張している「アブハジア共和国」の住民がロシアの市民権を取得している問題について、すでに5万人以上が市民権を得ていることを明らかにした。同大統領は、「この行為をどう呼べばいいのか? (アブハジアをロシアに)併合しようとしているのか、それともすでに併合し、その正当化なのか」と記者団に語り、ロシア側の動きに強い不満を表明した。(2002.7.8 AFPvia themoscowtimes.com)

アブハジア共和国は1993年にグルジアから事実上独立し、94年からはロシア軍を主体としたCISの平和維持軍が派遣されている。全体としてロシアの支援を受けて存在する国であり、グルジアを操縦しようとする意図から、クレムリンとグルジアの駆け引きのなかでたびたび引き出されている。アブハジアと並び、グルジア領の南オセチアでもロシアの露骨な介入が見られる。南オセチアでは、「南オセチア共和国」のコイッタ大統領が最近、モスクワで記者会見をして公然とロシアへの併合を提案した。

http://www.themoscowtimes.com/stories/2002/07/09/031.html

■ロシア、イングーシ共和国に軍部隊3000 人を配備予定

7月9日のAFPの報道によると、ロシア国防省のアレクサンドル・コソヴァン次官は、チェチェンの隣国イングーシ共和国が独立派の基地として使われることを防止するため、ロシア軍部隊3000人を、今年10月までに配備すると語った。これによると、部隊はチェチェンとの国境に近いスレプツォフスカヤ村近辺に配備されるという。配備の理由として同次官は「イングーシにおける展開が不十分なために、領内にゲリラが基地や武器庫を設置することが可能になっているためだ」と説明した。

最近イングーシでは、これまでプーチン大統領の対チェチェン政策を強く批判していたルスラン・アウシェフ大統領が辞任し、ロシア連邦保安局(FSB、旧KGB)出身のムラート・ジアジコフ退役将軍が大統領に就任している。ジアジコフ大統領は、イングーシに流入している15万人の難民をチェチェンに帰国させる政策を進めている。(2002.2.9 AFP) ロシアのチェチェン駐留軍のモルテンスコイ大将らは、今年中にチェチェンから軍部隊を撤退させる意向を明らかにしているが、イングーシへの増派が公になったのは今回が初めて。

今年5月末、チェチェン大統領の特別代表であるアフメド・ザカーエフ氏は、ノーヴァヤ・ガゼータ紙のインタビューの中でイングーシのジアジコフ退役将軍の大統領就任について触れ、「イングーシ国民自身にとって、大いに問題があり、イングーシを第二のチェチェンとしようとするものと確信しています。軍部は、自分たちが国を仕切るヘゲモニーを手放したくないのです。それには、新しい地域紛争を作り出す以外に方法は考えられません。チェチェン人の次は、チェチェン人に親近感を寄せるイングーシ人だと言うわけです。今後、イングーシにおける戦争機運が「煮詰められていく」でしょう。夏か秋には戦争がはじまる可能性があります」と語っており、今回の報道に不意の一致を見せている。

ロシア側からは、「イングーシに独立派が基地を設置する可能性がある」という説明を裏付ける根拠は示されていない。イングーシ国境はロシア軍による厳重な管理がなされているはずであると同時に、国内には西側のNGOが数多く展開している。したがって新たな干渉の口実という見方が妥当である。今後の展開は注視を必要とする。(大富亮)

■イギリス人の傭兵が、ウスチノフ検事総長暗殺を計画?

7月10日のgazeta.ruは、トルコ生まれ、イギリス国籍のジョン・ベデニ(JohnBeneni)らが、ロシアのウラジミール・ウスチノフ検事総長の暗殺を図っていたとして、カスピ海岸のダゲスタン共和国の法廷にかけられていると報じた。

ベデニらは昨年11月にロシアの国境警備隊に身柄を拘束されるまで、チェチェンのイスラム原理主義者の指示で動いていたと検察側は主張している。

http://www.gazeta.ru/2002/07/10/Britishmerce.shtml

【政治】

■欧州評議会チェチェン代表部閉鎖問題

7月9日に、ロシアのマスコミが、フランス、ストラスブールの欧州評議会におけるチェチェン議会代表部事務所が閉鎖されたと伝えたが、これは悪意のある誤報だとチェチェンプレスが7月10日に伝えた。代表部は、正常に議会の建物の中に位置し、機能しているとし、またフランスではフランス外務省の正式な認可により、パリにチェチェン共和国イチケリア、フランス常駐代表部が存在していることを付け加えている。

■ヤンダルビエフ、チェチェン共和国イスラム諸国担当大統領代表に指名

7月10日付けのチェチェンプレスは、親ロシア政権の外交攻勢に対抗し、チェチェン共和国(独立派)の外交政策の強化のため、ゼレムハ・ヤンダルビエフ(第2代大統領)をマスハードフ大統領の全権代表に指名する大統領令(5月20日付け)を公表した。(2002.7.10 chechenpress.com)同氏は97年の第一次チェチェン戦争の終結以来マスハードフ大統領の政敵であったが、チェチェン側の外交的まきかえしのために今回の指名に結びついたと見られる。

http://www.chechenpress.com/news/07_2002/8_10_07.shtml

■プーチン大統領、新チェチェン人権問題担当代表を指名

7月12日のロシア国営通信社strana.ruが伝えるところによると、プーチン大統領は、チェチェンにおける人権擁護問題担当大統領代表として、アブドル=ハキム・スルティゴフ氏を任命する大統領令に署名した。

アブドル=ハキム・スルティゴフ氏はチェチェン人で、モスクワで組織されたアブドラフマン・アフトルハノフ記念人文政治技術研究所の主宰者。カフカスセンターkavkaz.orgはスルティゴフ氏のインターファックス通信の伝えた記者会見での次のような発言を引用し、否定的印象を露わにした。

「チェチェン駐留ロシア軍に余り多くのことを期待するのは誤りです。彼らは天使ではないんですから。でも、チェチェンに秩序をもたらすことに生命をささげてはいるのです」「この10年間にチェチェンから40万人のロシア人が去っていきました。彼らの人権も守られるべきです」

【ロシア国内】

■ロシア人権NGO組織、ロシア政府軍との協議を拒否

メモリアル、モスクワヘルシンキグループ、市民協力、ロシアチェチェン友好協会、その他チェチェン戦争下の人権擁護に関わってきたロシア、チェチェン双方の人権擁護組織は、7月8日をもってロシア政府・軍との6ヶ月間続けられてきた協議の場から一斉に脱退することを声明した。

これは、先般、チェチェン駐留合同軍司令官モルテンスコイ大将が、記者会見の席上で語った「ロシア軍のチェチェンにおける作戦行動は、メモリアルなど人権擁護団体の立ち会いの元に十分な透明性を維持して行われている」という声明が著しく現実と食い違っていることに強く抗議するためのという。共同声明は、ロシア軍作戦行動の現実を糾弾し、軍高官の二枚舌を追及している。

http://www.chechenpress.com/news/07_2002/13_10_07.shtml

■ロシアの人権団体、チェチェン問題について西側に疑問を表明

7月9日のgazeta.ruによると、ロシアの人権団体「ヘルシンキ・グループ」が、2001年中のロシアでの人権状況についての報告をまとめた。400ページ以上にのぼるこの報告書によると、ロシアでは、言論の自由を含む市民の基本的な権利が現在も保障されていない。執筆者の一人、セルゲイ・ルカシエフスキー氏は、「すべては繰り返しです。人権侵害は毎年報告されていますし・・・われわれはこの状況を好転させることができずにいるのです」とコメントしている。

ベテランの活動家で、グループの代表であるリュドミラ・アレクシェーエヴァは、昨年9月11日の同時多発テロ以降の西側の圧力が、ロシアの人権状況を悪化させたと話す。特にチェチェンでそれが顕著で、「対テロ陣営への参加と引き換えに、ロシアには人権問題についての免罪符が与えられたようなものです」という。このレポートでは、チェチェンでのさまざまな人権侵害の事例とともに、現在ロシア連邦政府が進めようとしている、チェチェンから流出した15万人の難民に対する強制帰還政策の危険性を指摘している。

http://www.gazeta.ru/intnews.shtml#183084

■ラジカル党、モスクワ、クレムリン付近で集会

7月15日、国際ラジカル党(TRP)ロシア委員会と反軍国主義ラジカル協会(ARA)は、プーチン=マスハードフ対話を求めて、クレムリン壁際のモスクワ川べりにおいて、集会を開くと発表した。ロシア政府当局は、マスハードフ大統領の停戦実現への対話呼びかけを無視しようとしているが、5月の世論調査ではロシア市民の60%以上が、対話による戦争終結を求めている。

【人権】

■チェチェンで続く人権抑圧

7月10日に発表された、人権抑圧の事例。チェチェン国民救済委員会まとめ。

6月23日、チェチェン南部、ヴェデノ地区のエシェルスコイ村において、イバディ・アズエジドヴィッチ・ダカーシェフ氏が、ハンカラから来たロシア軍部隊に逮捕された。同氏は数日間苛酷な虐待を受け、ゲリラの一員であるという自白を強要された。結局自白は得られず、29日に釈放された。ダカーシェフ氏は1964年生まれで、3人の子どもがいる。

6月29日、首都グロズヌイの警察署近くで、特殊部隊員と見られるロシア兵が、トルストイ−ユルトから来たムーサ・サカーエフ氏に暴力を振るった。同氏は親ロシア政権の文化省次官であるが、1週間前にもグロズヌイで逮捕されている。理由は依然として不明。

7月3日の夜、グロズヌイのプリゴロドノエで、マスクで顔を隠したロシア兵がバウディノフ氏の家屋に装甲車で乗り付けて押し入り、家族の兄弟2人を逮捕した。その後の足取りは不明。2人のうち一方はバスの運転手として、もう一人はパン屋として働いている。近所に住む人々によると、2人ともゲリラに参加したことはなく、いかなる犯罪とも関係がないという。バウディノフ 家と同時に、隣家に住むムターリ・ダシャーエフ氏(80歳)もロシア兵に襲われ、尋問のために床に顔を長時間押し付けられるなどした。

7月3日の夜、ウルスマルタン地区のゲヒチェ村で、イズライロフ・サイハン氏30歳が自宅でロシア兵に逮捕された。同氏には3人の子どもがおり、電力技術者として働いていて武装闘争には参加していない。同日、ゲヒチェ村では他にも数人の村人がロシア軍に逮捕され、消息を絶っている。

7月1日の午前11時ころ、グロズヌイの親ロシア政権の庁舎前で自然発生的な集会があり、メスケルーユルトからきた200人ほどの女性がデモを行った。最近2度にわたって掃討作戦が行われ、数十人の人々が消息を絶っているため、女性たちは「私たちの息子を返して!」と口々に訴えた。これについてロシア軍のイリヤ・シュバルキン報道官は、「ゲリラから金をもらって集会を開いているんだろう」とコメントした。

http://www.chechenpress.info/english/news/07_2002/10/3.htm

【展望】

■ロシア軍に深刻な兵器不足

7月5日付けのロシアの新聞、ニェザビシマヤ・ガゼータ(独立新聞)にミハイル・ホダルノク署名の興味深い記事が掲載された。この記事は、様々なロシア軍使用兵器の備蓄・補給状況を詳しく分析したもので、実例を挙げながら、ソ連時代に大量生産されたが、新生ロシア期の最近10年間に、生産がほとんど行われずにきた重火器ための大口径砲弾類が、長びくチェチェン戦争で消費され尽くしてしまい、実弾不足で使えなくなってきている事実を指摘した。

いくつかの部隊では、これまで使ってきた兵器を使用を取りやめ、わざわざ第2次大戦期に使用した旧式兵器の使用に切り替え、1938年に規格が制定された旧式砲弾を使用し始めている。ブダーノフ事件で隊長自ら強姦殺人事件を引き起こし勇名を馳せた第160戦車連隊では、これまで使用してきたT-80型戦車から、すでに旧式になっているT-62に切り替えた。

現代的な戦車戦となった場合、T-62で戦うのは自殺行為だが、チェチェン戦争なら使用可能という判断。しかし乗り心地の悪さは格別で、戦車兵たちには、ひどい負担となっているという。その他、空爆用の爆弾、航空機の整備部品、交換エンジンの不足も限界に近づきつつあり、効果的運用ができなくなりつつある。また、多用されている戦闘ヘリMi-28も、1982年の制式採用で、その後登場したスティンガー・ミサイルなどの対空兵器への対応はできていない。

1992年以来、破局的状況にある軍産共同体の現状を無視して進行させてきたロシア連邦軍の独走は、独立派との闘争よりも、自己の兵器補給不足から窒息死する可能性が高い。将軍たちの楽天的戦局観の裏に忍び寄る危機に注目する必要があると、この記事では警告している。

皮肉な見方ではあるが、これは深刻な問題だ。独立派はこれまでの様に、ロシア軍から銃弾武器を自由に買えなくなってしまうではないか? 大浪費部隊である、ロシア連邦軍を年内にチェチェンから引き揚げるという、プーチン大統領の発言の裏には、こういう事実が隠されていたのだ。(渡辺千明)

http://www.ng.ru/printed/politics/2002-07-05/1_chechny.html 原文(ロシア語)