チェチェン総合情報

チェチェンニュース
Vol.02 No.09 2002.06.02

【チェチェンイベント情報】

■荒川国際平和展2002  今考えよう戦争と平和(開催中:本日まで)

チェチェン戦争難民支援を行っている「チェチェンの子どもを支援する会」が、荒川区で開かれている国際平和展に写真を出展しています。今日、6月2日は、午後3時30分よりジャーナリストの林克明氏による「チェチェン・レクチャー」が行われます。同氏は94年からチェチェン戦争を追い、精力的な取材活動を続けています。この写真展のために準備された鮮明な写真パネルを使い、詳細なレクチャーを行なう予定です。ぜひ足をお運びください。主催(問合せ)荒川国際平和展実行委員会/森谷(03-3807-1317)後援:荒川区教育委員会会期:2002年6月1日(土)〜2日(日)時間:11時から5時まで入場:無料場所:町屋文化センター2階地図:http://www.mapion.co.jp/here/kokosp/020512/mapi0316679020512212629.html

◆音楽祭が同時開催されます!6月1日 午後2時〜3時 会場にて「沖縄の歌と踊り&朝鮮学校の子どもたち」6月2日 午後2時〜3時半・会場にて「音楽構成・歴史の向こうから吹いてくる風」 グループ多摩じまん 「平和アンサンブル」荒川吹奏楽団

【人権】

■アルハン−カラでの掃討作戦、写真公開

2002.5.13/チェチェンプレス・チェチェン国営通信社4月25日から30日にわたって、ロシア軍によるアルハン−カラ村に対する掃討作戦が行われた。この際に撮影された写真が、チェチェンプレスで紹介されている。「掃討作戦」とは、村落に隠れているチェチェン人レジスタンスを捜し出すために、村や町を封鎖し、戸別に証明書などのチェックを行うことを指す。

実際には、15歳以上の男性の大部分を拘束して、学校や畜舎のような場所に設置した臨時の収容所で尋問し、レジスタンスかどうかを選別する。連行された人々のかなりの部分が行方不明になり、場合によっては遺体となって発見されることから、人権抑圧として、外国政府、人権団体から批判されている。

http://www.chechenpress.info/english/news/05_2002/13/3.htm

【イングーシ情勢】

■イングーシ警察、チェチェン人に対する作戦を開始

5月19日、プーチン大統領が「チェチェン難民は早期に帰還させなければならない」と発言した。ロシアの人権オンブズマンのオレグ・ミロノフ氏は、イングーシに避難中の15万人のチェチェン人が急激に帰還した場合、「ロシア史上まれにみる惨事につながるだろう。チェチェンでは身の安全は保証されないし、家も破壊されている。仕事などあるわけもない」と評価した。22日の早朝4時から、イングーシの「アリナ」難民キャンプに対して、イングーシ警察部隊によるパスポートチェックが行われたと、翌日のコメルサント紙が伝えた。この作戦はムラート・ジアジコフ新大統領の指示で行われたものと思われる。

イングーシでは最近の大統領選挙で、FSB出身のムラート・ジアジコフ退役将軍が大統領に選出された。しかし、5月14日付けの Chechenya Weekly (jamestown.org)がまとめたところによると、警察または軍部隊による選挙妨害が相次ぎ、最近のベラルーシに見られるような強引な選挙が展開されたようだ。第一回投票でかなりの優位にあったアミルハノフ候補を、第二回投票で突然引き離す形でジアジコフ将軍が当選したことには、このような背景がある。

29日、ジアジコフ氏はチェチェンの首都グロズヌイ入りし、親ロシア政権のカディロフ行政長官と、2つの合意を結んだ。1つは、イングーシ、チェチェン両国文化交流に関して、もう1つは、今後の難民帰還についての共同作業に関するもの。親ロシア政権の副首相であるスタニスラフ・イリアソフ氏は、「チェチェン政府はイングーシでテント生活をしているすべてのチェチェン難民に、住居を提供できる」と、インターファックス通信に対して語った。しかし、こういった親ロシア政権からの力強い宣言によって、どんな事態が生じるかということについては、これまでの例をもとに、チェチェン人のジャーナリスト、ルスラン・イサーエフが指摘している(http://www.geocities.com/kafkasclub/che/01news/chn_031.html)。

最近のイサーエフの記事(www.watchdog.cz)によると、イングーシに駐留しているロシア陸軍第58部隊が、スレプツォフスカヤ周辺に展開し、難民キャンプ付近に検問所を設け、パスポートチェックなどをはじめた。

さらに5月31日、人権活動家で、「チェチェン難民国際連帯委員会」のコーディネーターのバウディ・ブダーノフ氏が、チェチェンとイングーシの国境で逮捕された。ブダーノフ氏の関係者によると、生家のあるチェチェン領内のアチホイ-マルタンに向かおうとしていたところ、国境の検問所で、人権活動を逮捕の理由として拘束された。現在ブダーノフ氏の安否が気づかわれている(2002.5.29 grasnostmedia.ru)。

ロシア政府はイングーシでの救援活動から、チェチェン領内での活動に重点を移すよう、国連などに対して要請をはじめているが、一方の手でイングーシ国内の締め付けを厳しくし、強制的に帰還させることで難民数を無理に少なく見せようとしていることを指摘しておきたい。チェチェン領内での戦闘が続いている以上、チェチェン人が生き延びるための避難所としてイングーシ共和国、あるいはグルジア共和国のパンキシ渓谷は重要であり、こういった地域でのNGOの活動はこれからも増強されるべきだろう。

【グルジア情勢】

■アメリカ政府軍事顧問が到着

5月13日のラジオリバティーによると、グルジア外務省のスポークスマン、カッハ・シハルリゼ氏は、アメリカから派遣された軍事顧問が、グルジア内の基地でチェチェンの野戦司令官と会見したとの地元報道を否定した(2002.5.13www.rferl.org)。

一方、米軍部隊の本隊は、5月19日にトビリシの空港に到着した。APが報じたところによると、この部隊はコロラド州フォート・カーソンのグリーンベレー、ウォルトマイヤー第2大隊第10特殊戦闘部隊の50人。公表されたところでは今後2年間、グルジア軍部隊の対テロ訓練にあたる(2002.5.20 AP)。

5月19日、グルジアのゲラ・ベズアシュビリ国防副大臣は、「米軍がパンキシ渓谷のチェチェン独立派への攻撃に参加することはありえない」とし、グルジア軍の対テロ作戦支援のために派遣された米軍部隊がチェチェン問題に介入する可能性を否定した。(2002.5.22. www.rferl.org)

5月30日、グルジアのイラクリ・ナツリシビリ国防副大臣は、グルジアとチェチェンの国境地帯にあるパンキシ渓谷に拠点を置いていたチェチェン軍部隊は撤退の準備に入ったと発表した。グルジア当局はパンキシ渓谷のチェチェン部隊は900人程度と発表している。 国防省のある担当者によると、グルジア当局はチェチェン、ロシア双方との対話を経て、パンキシ渓谷の情勢について平和的な解決を果たしているという (2002.5.30 グルジア国連協会)。

【戦闘状況】

■5月中旬のチェチェン戦況

5月21日付けのチェチェンプレスによると、15日にロシア軍がアフトゥル村を包囲して掃討作戦を数日間にわたっておこない、非武装の住民に暴行を加え、略奪を伴う大きな被害を出した。

また、21日付けのカフカスセンターの報道によると20日夕方、アフトゥル村における掃討作戦を終え、この地方の中心であるヴェデノに向かっていたロシア軍部隊の軍用トラック13台、装甲車両20台に対して、セルジェニ・ユルトの南、2キロの位置で、ビララ司令官の率いるチェチェン部隊が攻撃を加えた。

激戦の結果、ロシア兵士90名以上が戦死、車両17台が破壊され炎上した。また100名以上の兵士が負傷した。チェチェン側も7人が死亡し、11人が負傷した。同日夜になって、ロシア軍の増援部隊が到着、セルジェニ・ユルト付近は厳重に封鎖された。その後の状況は不明。ビララ司令官の部隊は南部の基地に引きあげた。付近には武装ヘリコプターが多数飛び交い、周辺の森林部に大規模な爆撃を加えている。

ロシア側は、この壊滅的な被害について沈黙を守っている。カフカスセンターの通信員は、火曜日になって攻撃に参加し軽傷を負った兵士と接触し、戦況の報告を受けた。チェチェン側はこの勝利で大量の武器弾薬をロシア軍から捕獲した。また生き残ったロシア兵は、数台の装甲車両で、セルジェニ・ユルトやシャリ方面に逃走した。

同じ21日、親ロシア政権側のサイトはこの激戦には触れず「一晩で、武装勢力7名を殲滅」と公表し、同夜13個の特別作戦をロシア軍が敢行したとしている。

■チェチェン南部への爆撃/2002.5.28 http://www.kavkaz.org

5月27日、チェチェン南部地域に対して、ロシア軍による大規模な爆撃が行われた。ここ24時間の間に、ヴェデノ、ノジ−ユルト、イトゥム・カレ地域に対して20回以上の爆撃が行われた。攻撃対象は道路、森林および数箇所の村落である。

チェチェン側の発表では、ノジ−ユルトで少なくとも4人の市民が死亡、シャトイでは空爆と地上からの砲撃により3人が死亡した。村と村との間を移動する自動車も攻撃目標となった。死亡者のうち2名は、ベティ−モフ村のエディ・ベクムルザエフ、グデルメスのサルタンベック・ハサーノフと判明した。

■シャミーリ・バサーエフ野戦司令官インタビュー

「われわれは自由である権利のために闘っている」聞き手:アレクサンドル・ポドラビニェクロシア人権ニュース「プリマ・ニュース」編集長

http://www.prima-news.ru

バサーエフ:アレクサンドル、既に1年半にわたって、私はジャーナリストに対するインタビューには応えていません。でもあなたの人権擁護活動に配慮して、ご質問に答えようと決心しました。今日、真実を探求する者、特にロシア・チェチェン戦争について真実を追究しようと努力する者は、極めて少ないのです。みんな自分の閉鎖的な世界に閉じこもって、そこに安住しています。しかし、外の世界はお互いに連関性を持っていて、そんなことはしていられない筈なのですが・・・。

アレクサンドル・ポドラビニェク (以下 AP):ロシア軍参謀長クワーシンが、あなたは死んだと発表していますが、それについてコメントはありますか?

バサーエフ:小型の携帯テレビを持っているので、その発表は聞いています。それから、トローシェフ将軍の私が死んだという発表も見ました。なかなか賢そうな顔して、謎めいたことを言ってました。「まあ、待ってくれ。皆さんには証拠をちゃんと見せますから」とかね。

私が言っておきたいのは一つだけです。これは、上官に対して、自分が努力してるんだとポーズをとっているに過ぎないと言うことです。あなたは、ハッターブの死について国防相のイワノフが発表したのを覚えていられるでしょう。あなたがたの理屈から言えば、あれはパトルーシェフ(ロシア連邦保安局(FSB)長官)が発表するべきものでした。ところが、死体により近い奴が全てを決めるという訳です。クワーシンは、イワノフの功績にしたくないと言う嫉妬心から、あんな発表をしてしまったのです。

大局的に見れば、何も変わらないのです。今日、私が死のうが、他の者が死のうが、イスラムの聖戦は、止まるものではありません。例えばハッターブが死んでもそうなのです。正面切っての戦闘では、ハッターブを倒せないので、卑劣な方法を思いついて、毒入りの手紙を使って彼を毒殺しました。アッラーの思し召しで、われわれは下手人たちを特定し、既に下手人の一名を銃殺に処し、もう一名を追っています。こいつも必ず捕らえて処刑します。

問題は私の生命とか、他のわがイスラム戦士(ムジャヘディン)の生命にあるのではありません。今日問題なのは、人々がこの現実世界と、彼らの人生観や、自分の自由というものに対して、どう自分を関係付けられるのか?ということなのではないでしょうか。われわれはいまや、誰にも妨げられることなく、われわれが生きたい様に生きる権利、自分たちの自由を確立する道を歩んでいます。アッラーのお陰により、遅かれ早かれ、自由はわれわれのものになるのです。

ですから、クワーシンの発表は、われわれの間では、単なる失笑を買うに過ぎませんでした。と言うのは、こんな愚かで、どうしようもない連中を指導部に担いでいるロシア軍は、それで途方もない戦費と人的資源を無駄にしているのかと思うと、私にはロシアという国が哀れでならないからです。

一番重要なことは、現在の戦いが地雷・爆破戦となっていて、それが幾千もの戦傷不具者を生み出し、一生その責め苦を背負わねばならない幾千の戦傷者をチェチェンから送り出し続けていると言うことです。実際、ロシアはこのことに気づいていない。彼らは、自分たちの犠牲者と死体の数を数えていないのですから。ロシアの政権には、真実人民を代表し、人民の幸せを考えようと言う者がいた試しがないのです。ロシアは土地や資源を奪われまいとして闘うということを余り経験していません。ほとんどが、他人のものを奪おうという闘いをしてきたのです。アッラーがコーランで語っているように、「わが道を遮るならば、お前らの最も嫌う手口で懲らしめよう」ということになって、われわれはロシア侵略者には天誅を加えざるをえないのです。

AP:現在の戦況は、先の戦争の初期と較べてより困難が多いということはないのでしょうか?

バサーエフ:簡単に言ってしまうなら、ずっと楽なものですの一言です。まあ、グロズヌイ包囲戦の時を除いての話ですが。あの時は大変な量の戦力と武器を消費する戦いでしたから。一つの例をお話ししましょう。中将だったか、少将だったのか、はっきり覚えていないのですが、内務省軍のマロフェーエフ将軍が戦死して、遺骸がわれわれの手に落ちました。グロズヌイのスタロプロミスロフスキー地区で起こったことですが。兵士がびびって突撃に立ち上がらないのに業を煮やした将軍が、範を示そうと立ち上がり、一軒の建物に突入し、迎え撃ったわれわれによって殺されたのですが、彼からわれわれは作戦文書を手に入れました。

その作戦計画を実例としてお話ししようと思っているのですが、ロシア軍はグロズヌイを4方向から包囲強襲しており、彼は北西方面軍の副司令官でした。1月15日のたった1日、1方面からだけで、多連装ロケット砲GRADが、確か2870発。もしかすると10桁の部分で間違えてるかも知れませんが、100桁台は間違いないと思いますが、戦車砲2700発だったか2750発だったか。続いて、自走砲SAUと大砲でさらに2360発、その後でBMP軽戦車が45000発射撃。航空機による爆撃が、爆弾300発、SKAD短距離ミサイルが50発。彼のメモ帳にそう書き込まれているのをわれわれは読んだのを覚えています。たった1方面だけの数字ですよ。攻撃は4方向から行われたのですが。その一日だけで、われわれは31名が戦死、67名だったか68名が負傷しました。この日の被害が、われわれの出した最大の被害でした。

実際、グロズヌイの戦いはその後も厳しく、2-3月は、市街戦からパルチザン戦争に転じるまで辛いものでした。われわれは数千人の戦士を包囲網を突破して、二つの退出路から平野部を抜けて山岳地帯に送りださなければならなかったのです。われわれは平野部や村々におけるパルチザン戦争の基盤づくりの任務に、戦士たちを強制的に追い立てねばなりませんでした。

ところが、今では戦争は自然の流れのように進行しています。特別なことは、私には何も要求されていません。それは他の指導者にも言えることで、ムジャヘディンは、皆何をなすべきか、自分の課題を良く心得ています。自分たちが、どうやって闘うのか、どういう風に、あらゆる材料を使って地雷を準備したら良いのか、どのようにそれを仕掛けたら良いのかを習得しています。要するにわれわれが選択した戦法、いわば蜜蜂が刺す様な、わが祖先が編み出した戦法を全ての者がマスターしてしまったのです。これは個々の打撃は小さな痛みですが、数で敵に大きな痛みを与える戦法です。この戦法はわが方のムジャヘディンにとっては被害が少なく、経費の点でも非常に安上がりな戦法です。

ただ、この戦法の問題点は、戦闘に加わっていない平和な住民に大きな被害が出ているという点です。われわれと対峙できず、捕らえることもできないロシア侵略者は、もっぱら平和な非戦闘員住民に向かって懲罰活動を繰り返しています。まあ、それだけでも彼らは評価を下げ、われわれの評価は相対的に上がりはするのですが・・・。

多くの人々にとって、これは終わりのない戦争です。ロシア側もわれわれを組み伏せることはできないし、われわれも彼らを打ち負かす事はできないのではないかと思われています。しかし、それは表面的な見方です。今われわれの採っている戦法は、最終的な勝利を得るがための、選択としての長期戦なのです。

そのためには何十年だって、このまま闘う用意があります。ですから、もう一度言いますが、現在は以前よりずっと楽な戦いをわれわれは自分たちの土地でしており、特にその戦法を変える必要性も感じてはいないということです。

AP:チェチェン問題に関するロシアの政策に、国際世論が影響を与えられるとお考えでしょうか?

バサーエフ:世論というものは、暴君の政治にでさえ影響を与えることができます。ただし、現在の西側の、特にアメリカの指導部は、テロリズムという言葉で、全世界を脅かしているという状況が生まれています。彼らは、国際テロリズムという、非常に都合の良い用語を発明しました。このレッテルは、実質的に如何なる個人にも、国家にも貼り付けることが可能ですし、それには大した証拠も証明も必要としません。

今日全世界は、催眠術にでもかけられたように、底なしの破滅に引きずり込まれようとしています。例を先頃のカスピースクの5月9日の爆発騒ぎに見てみましょう。事件の後、すぐに全世界が、犯人はラバニ・ハリロフだと騒ぎ立てました。何の証拠もなしにです。2−3日後、彼の父親がテレビに登場し、自分の息子を非難し、もし目の前に現れたら自分の手で焼き殺してやるなどと言っておりました。テレビを見ながら考え込んでしまいました。「疑わしきは罰せず」といった美しい格言は何処へ行ってしまったのかと。

実際にやったか、やらないか事実認否の機会すら与えず、自分を弁護する可能性は、いったい何処にあるのでしょうか? そして誰も彼に質問しようとすら、しないではないですか?そして、彼が答えていないということも私は知っています。最も興味深いのは、今日彼には、やっていないという最も初歩的な可能性すらないということです。そして、たとえ彼がしゃべり、身の証しを立てようとしたとしても、無駄であるということです。なぜかと言いますと、彼が無実であるという身の証しを立てようとする相手が、まさにダゲスタンの政府であり治安機関であるからです。

彼らは自分たちの無能ぶりを隠すのに、ハリロフを贖罪の羊として探しだし、すべての罪を彼に着せようと決め込んでいるのです。まるで、いろんなところで発生している爆弾騒ぎの一環として、この爆発事件のことも事前に知っていたかのようです。とすれば、いろんな疑問が生れてきます。こうした状況では、世論の動向は大きな意義を持ってきます。国際世論は、第三次世界大戦に滑り込んでいくかもしれない世界の動きを抑制する力になるでしょう。

今日、その兆候は静かに始まっていますが、そこに内在する不公平さ、混沌に、遅かれ早かれ火花が散って、大戦争に燃え広がりかねないのです。その支配者たちの言い分を鵜呑みにしない、扇動に乗らないで、事実を提示することを要求し、具体的な証拠を要求していく、そしてアメリカやロシアという大国にも、それらに沿った行動を要求していく必要があります。国際世論には、まだまだ将来やれる可能性はあるのですが、現状はと言うと、現在の西側諸国、ヨーロッパ諸国は、テロリズムに恐怖して、何とか速やかにロシアと手を組もうと焦っています。ロシアと手を組んで、ロシア人民の肉弾を利用できないかと思っているのです。そんな現状においては、国際世論は有効に機能できると期待できないでしょう。

AP:チェチェンの抵抗運動が、パルチザン戦争から自国の行政機構確立に移行する可能性はあるとお考えですか?

バサーエフ:アッラーのご加護により、それに向かって準備は進めています。一昨年、昨年と、大反撃に転じる可能性は検討されましたが、色々な付帯的条件の検討から見送られました。細かなことは申し上げられませんが、そういう計画は確かにあります。

最も重要なことは、反撃が機の熟した時に行われるべきだということです。現在、人的資源も武装も充分なのですが、大口径重火器や弾丸に関しては不足しています。アッラーのお力により、われわれはその入手に努めており、備蓄は相当量になっています。今日、ロシア軍部は、自分たちに有利な「最終決戦」にわれわれを誘い込もうと試みていますが、それは現状では、それが彼らに有利で、われわれに不利なものだからです。

状況が変化し、われわれにとって有利なものに変わったら、必ずわれわれは正規戦に転じて、わが共和国の支配確立に向かいます。転じること自体には、困難はありませんが、今は状況の自らにとっての有利、不利を見極める時であり、現在に最も適した戦法を選択するべきなのです。まあ、当然の事ながら早く、現状から脱したいとする者は沢山いるのですが、全てに時の流れが大切です。

AP:何かロシア国民におっしゃりたいことは?

バサーエフ:率直に言ってしまうと、何も申し上げたくない。奴隷に話しかけても無駄だからです。奴隷というものは本質的に自分では何も決めないのです。

そして、誰かが同情してくれたり、自分にとって害になると明らかな状況でさえ、主人の命令を実行しようとしかねないからです。で、私はロシア国民が哀れと感じるのは、ロシア社会が奴隷状態にいると思えるからです。

で、ただ一つ申し上げたいのは、よくロシアのテレビが、平和な住民、平和な時代と語っていますが、ロシア国民は、戦争があなたがた全ての家に忍び寄ってきている、あなたがたのロシアがわれわれと闘っている以上、平和の時代にあなたがたは暮らしているのではないということです。ですから全ロシアがわれわれとの戦争状態にあり、われわれの眼から見たとき、あなたがたは平和な住民とは、見られないということです。われわれの眼から見ればあなたがたは、非武装の軍人であり、平和な住民とは見なし得ません。

なぜなら大多数がチェチェン民族へのジェノサイドを肯定しているような人々は、平和な住民などと呼ぶわけには行かないからです。シャリアータ(イスラム法廷)の規定するところでは、われわれに対し敵対的な言動をする者は、非武装であろうと敵と見なされます。現状では、ロシア国民は武器を持たぬ敵以上の存在ではありません。多くの人々は、この問題を考えようとせず、考えたところで、どこか遠くで、チェチェン人というテロリストを、何か国際的な悪党を、偽ドルを使う連中と闘って、そういう無頼漢を殺そうとしているのだと思い込んでいるのです。自分たちの自由、この世に自由に生きる権利のためにわれわれが戦っているとは考えが及んでいません。

チェチェンで今、ドル札のために戦っている者がいるとすれば、それは第一にロシアの傭兵たち(金目当ての契約志願兵)どもであり、クワーシンやトローシェフの手合いです。われわれは自分たちの自由、自分たちの独立、そして自分たちの信仰を守るために戦っています。われわれは、アッラーのお導きで自らの勝利に前進するでしょう。

チェチェンの初代大統領、ジョハル・ドゥダーエフは、かつて「溺れる者を助けられるのは、溺れる者自身でしかない。」と語ったことがあります。これは、われわれチェチェン抵抗運動の戦士にもあてはまり、ロシア国民にもあてはまる言葉です。というのは、ロシアは、いまや国全体が自らの過ちという泥沼に溺れ込もうとしているのです。実際に今日のロシアは、崩壊しようとしており、ロシアの嘘つき指導部がロシア国土の一体性などと語るのはわれわれの眼からすれば、滑稽至極です。

今やロシアは、1万5千平方キロのチェチェンを巡って既に10年にわたり2回の戦争を行い、膨大な人的損失を自らにも、またわれわれにも強いてきています。前の戦争(第1次ロシア・チェチェン戦争)の時期に、チェチェン全土の10倍にあたる、15万平方キロを中国に割譲しています。今も色々な国境紛争地域で領土は割譲され続けており、国土の一体性など、こじつけに過ぎません。現在の戦争は、国土の一体性を隠れ蓑に続けられている、わが民族への敵対的な侵略です。

ロシア指導部が国土の一体性を語りたいならば、まず日々チェチェンで失われている資源と毎日何十人という兵士・将校の生命の損失を招く愚行をやめて、国境線を確定し、彼らの住居を確立してやれと言いたいです。現在のロシア指導部の行動を見ていると、祖国に尽くすという姿勢がまったく見られません。やっているのは単なる博打です。もっとも、これはわれわれが心配することでもなく、あなたがたが考えれば良いことですね。

ロシア国民の皆さんには、こういう例を申し上げておきたい。ロシアの戦争気違いどもが、今日のチェチェンで、戦争、ジハード以外のいかなる生活も知らない世代を作り出してしまったということをです。この若い連中は、自分の生命も重く見ないし、全ロシアを破壊しても何とも思わないという世代です。彼らはただひたすら、ロシアにより多くの被害を与えれば、それで良いと考える連中です。そして、こういう自然発生的な小グループを規制することは、私にも、またマスハードフ(大統領)にも、誰にもできないのです。彼らは自分たちの判断で、望むことを自律的に行おうとしています。彼らはこの戦争を、より苛烈なものにして行くでしょう。

ロシアのことわざに「戦場に一人だけいても戦士にはなり得ない」というのがありますが、今日、進歩の世紀においては、たった一人戦場にいたとしても、立派に戦士たりえるのです。ロシアの戦争気違いの平和な住民に対する野蛮で過酷な対応がこれ以上続くなら、一定の時間を経て、必ず(ロシアへの)復讐が起こることでしょう。われわれはニュートンの第3法則「全ての作用は反作用を引き起こす」という言葉を忘れてはなりません。

われわれ自身は、アッラーのお慈悲で、自らの問題を解決し、勝利に向かいます。時間はずいぶんかかるでしょうし、多くの力と損失が要求されるでしょう。それは覚悟しています。われわれは、今回の抵抗戦争で成長しました。遅かれ早かれ勝利に到達します。なんとか、われわれの子供たちには、戦いの明日がないようにしたいと願っています。

プリマ通信社 2002年5月24日(訳:渡辺千明)

●訳者より4月後半以来、野戦司令官ハッターブの謀殺に続いて、野戦司令官シャミーリ・バサーエフの戦死報道が、ロシアの国営通信社のWebサイトStrana.ruを中心に執拗になされてきた。彼の死亡の証拠写真として、手術台に横たわるバサーエフの写真が掲載される一方、「彼の死体が出てこないのは、砲撃によってバラバラになってしまったからだ」と、矛盾した記事がお粗末にも流されていた。

チェチェン独立派は、国営通信社チェチェンプレス chechenpress.com が、5月5日にチェチェン軍最高司令官であるマスハードフ大統領が召集した司令官会議にバサーエフが出席し発言した内容を報じ(チェチェンニュース Vol.02 No.41 2002.5.13参照)、また、イスラム系の独立派サイト、kavkaz.org が、バサーエフが3人目の妻を娶り、その結婚の祝いに20人ほどの友人が集まったといったニュースを流し、死亡を否定してきた。

今回のインタビュー記事は、プリマ通信社が配信すると直ちにチェチェンプレスが転載し、続いてカフカスセンター(kavkaz.org)や、国際的な独立支援グループのサイト ichkeria.org も後を追った。このことは、バサーエフの政治的な位置が、以前よりマスハードフ大統領に接近していることを物語っていると思われる。

参照サイト:

http://www.prima-news.ru/news/news/2002/5/25/10459.html ロシア語原文

http://www.prima-news.ru/eng/news/news/2002/5/25/10463.html 英訳文(渡辺千明/本紙コントリビューター)

■戦争は継続すべきか? ロシア世論調査

4月末の世論調査機関VTsIOMの調査によると、チェチェンでの作戦を「継続すべき」は調査対象者の34%、「和平交渉を開始すべき」が58%、「わからない」は8%だった。