1月27日、チェチェンの首都グロズヌイの北西のシェルコブスカヤで、ロシア軍のMi-8型ヘリコプターが突然墜落し、搭乗していたロシアのミハイル・ルドチェンコ内務次官、内務省軍のニコライ・ゴリドフ将軍など合計14人が死亡した。目撃した軍の当局者によると、ヘリはハンカラのロシア軍基地から飛び立って、すぐに墜落した。故障によるものか、レジスタンスの攻撃によるものかは不明。
1月23日、グロズヌイから東に15kmほどのアルグンの住宅地域にロシア軍の爆撃が行われ、多数の家屋が損壊。数人が負傷した。市民たちは医薬品を必要としているが、24日朝にもロシア軍による「掃討作戦」が行われたため、屋外に出ることができない。この時逮捕されたのは住民20人。ここ数日間、アルグンからは国外へ非難する住民が相次ぎ、30家族が新たにイングーシへ避難した。
1月24日、グロズヌイ郊外の検問所で、自動車に乗ったレジスタンスがロシア軍部隊に対して銃撃した。これにより警察官1人が死亡、4人が負傷。乗車していたレジスタンスは全員射殺された。同日、ノジ-ユルトでもロシア軍の装甲車が攻撃され、兵士1人が死亡、5人が負傷。
1月25日、ロシア政府のチェルノフ検察官は、1999年のチェチェン進攻以来、チェチェンの市民400人が行方不明となっていることを認めた。これまでに市民側から調査要求があっただけでも、昨年1年間で246件にのぼる。チェチェンではロシア軍による「掃討作戦」が続いており、包囲された町や村から民間人が拘束され、行方不明になる事態が続いている。また、チェルノフ検察官は、「昨年、チェチェンでは司法当局の職員5人、内務省職員87人、現地のチェチェン政府(親ロシア政権)職員37人、イスラムのムフティ(宗教指導者)9人がチェチェンの山賊たちに殺害されている」とし、抵抗を続けるチェチェン側に対して強い懸念を示した。
3日間にわたって包囲作戦が続いていたチェチェンの村バチ-ユルトでは、村人100人が拘留され、うち20人が死亡した。詳しい状況は不明。
1月24日、人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、国連でチェチェンでの人権抑圧の状況についての報告を行った。以下は抜粋。
2000年3月26日、エルザ・ヴィサエヴナ(18歳)は、タンギ-シュ村の家族のもとから、ロシア軍のユーリ・ブダノフ大佐に基地へ連行された。彼女は尋問のためと称してブダノフ大佐のテントに送られ、絞殺された。軍医の所見によると、彼女は死亡直前に、複数の人物から強姦されていたという。ロシアの司法当局はこの事件を捜査し、3月30日、ブダノフ大佐は逮捕され、2001年末現在、裁判が続行されている。
14歳の少女イリーナ(被害者保護のため仮名)は、2001年の初めにウルス-マルタンで拘束された後、チェルノコーゾバの収容所で死亡した。拷問と、度重なる強姦の結果だった。彼女はバスで移動中にロシア軍の検問所で拘束され、チェルノコーゾバの25号房に、他の60人の女性たちとともに収監されていた。イリーナはしばしば看守たちの殴打の標的にもされていた。
2001年の10月18日、クチャロイ村の女性ザイナッフ(仮名)の自宅に、彼女の夫を拘束するためにロシア兵が来た。しかしロシア兵たちは夫を見つけだすことができなかったため、妊娠8か月目のザイナッフを拘束し、クチャロイのロシア軍基地内の内務省の臨時事務所(VOVD)に連行した。
二人の目撃者(いずれも女性)によると、ザイナッフはロシア兵による拷問と強姦をくりかえし受け、流産した。11月半ば、ザイナッフはロシア軍が家族に要求した10丁の機関銃と引き替えにに釈放されたが、強姦被害者としてチェチェン社会での文化的タブーの存在になってしまい、彼女の夫もザイナッフを受け入れることができなくなった。夫は言う。「ザイナッフは汚れてしまったのだ・・・」と。
1月24日、チェチェン共和国のマスハードフ大統領の代表、アフメド・ザカーエフ副首相は、現在もロシア側代表と和平のためのコンタクトを継続していると、ロイターに語った。しかし、ロシア側代表との直接の会談は今のところ未定だという。同副首相は23日にも欧州評議会議員総会で演説し、「われわれは現在も無条件に対話に応じる準備がある」と、交渉への前向きな姿勢をアピールした。
一方、ロシア外務省は1月24日、アメリカ国務省の担当者が、チェチェンのイリアス・アフマドフ外務大臣と会談したことに対して、「両国関係を悪化させる」として、非難する声明を発表した。
1月24日、ロシア連邦保安局(FSB)のパトルーシェフ長官は、ボリス・ベレゾフスキー氏がチェチェンのレジスタンスに資金を提供している証拠があると発表した。また、「この情報は外国の情報機関にも通報される」とも語り、チェチェン人の「武装反乱」への協力を理由に、ベレゾフスキー氏を逮捕することを示唆した。
昨年末から、ベレゾフスキー氏は、1999年のモスクワでの連続アパート爆破事件について、「チェチェン人の犯行などではなく、犯人はFSBそのものだ」と告発し、政府への対抗姿勢を明らかにしていた。同氏は「チェチェンに対しては医薬品などの人道援助物資や、教科書、コンピュータなどを提供したことはあっても、軍事行動を支援したことはない」と、この疑いを否定している。
1月23日、ロシア政府のウラジミール・カラマノフ補佐官は、「チェチェン人たちは、アスラン・マスハードフをはじめとする指導者たちを信頼しておらず、影響力は低い」として、現在大統領であるマスハードフ氏との交渉を否定した。また、最近イギリス外務省当局者が、チェチェン独立派の代表と面談したことについて、駐モスクワのイギリス大使がロシア外務省に呼び出され、ロシア側からの抗議を受けた。イギリス外務省の報道官によると、面談自体は「低位の当局者同士の協議だった」としているが、ロシア側は、「こうした行為は、国際テロリズムへの協調における”ダブルスタンダード”だ」と、強く反発したという。
1月30日、グルジア政府とロシア政府指導部は、チェチェン-グルジア国境のパンキシ渓谷に居住するチェチェン難民とレジスタンスに対し、共同で押さえ込む方針をとることを明らかにした。グルジア共和国安全保障会議のナグザール・サザヤ書記によると、「パンキシ渓谷において共同作戦をとることを決定した。グルジア政府としては、この地域にチェチェンのゲリラがいて、チェチェンでの戦闘に参加していることは否定しない」と話している。
これまでもロシアのプーチン大統領は、グルジアに居住するチェチェンゲリラが、越境してチェチェンでの戦闘に参加していることについて「テロリストのシェルターになっている」との非難を続けてきた。ロシアのウラジミール・ルシャイロ安全保障会議書記のコメントによると、今回の合意は、グルジア、ロシア両国の安全保障会議間で結ばれたという。
1月27日、ロシアのヤストルゼムスキー大統領報道官は、アメリカ資本のラジオ・リバティー(RL)のチェチェン関係の報道内容に「バイアス」がかかっているとして非難し、「今後、放送を監視する」ことを明らかにした。同報道官はガゼータ紙のインタビューの中でも、「RLの報道は、分離主義者たちの活動を正当化しようとしている」と語った。同報道官はRLの今後の出方によっては、放送免許の取り上げも考慮するとしている。
ラジオ・リバティーは27日、紛争地域に向けたチェチェン語の放送を開始したばかり。この非難に対して、RLのアンドレイ・シャリ支局長は報道陣に対して「事実無根だ」とし、「RLのチェチェン報道は、基本的に紛争の平和的解決、人権保護、人道援助などを中心に据えており、今後も変化しない」と答えた。ラジオ・リバティーの放送言語の種類は米国議会によって規定されており、推移によっては外交問題への発展も考えられる。
1月24日、ロシア連邦保安局(FSB)のパトルーシェフ長官は、政商ベレゾフスキー氏が「チェチェンのゲリラに資金援助をしている」との批判を始めた。エリツィン時代末期まで権力中枢にいたベレゾフスキー氏が、政権から離れて「1999年のモスクワなどでの連続爆破テロ事件は、ロシアの諜報機関による自国民へのテロだ」と発言していることへの対応と思われる。FSBは、問題の内部テロ説には具体的な反論はしていない。
一方、アメリカ資本で運営されているモスクワの放送局、ラジオ・リバティーに対して、ヤストルゼムスキー大統領報道官などが「チェチェン側に偏向している」として強く非難した。1月27日のチェチェン語による放送が開始されたことを警戒してのものらしい。同報道官は放送免許取り上げも考慮すると発言しているが、同局を含む「自由ヨーロッパ放送Radio Free Europe」は、東欧圏からの放送も行っているので、現実に放送できなくなる可能性は低い。
ロシアのマチビエンコ副首相が明らかにしたところでは、先月、突然放送を停止した独立系テレビ局TV6は、プーチン大統領などの指示によって、本格的なスポーツ専門チャンネルになる可能性が強くなった。現在の"7TV"というスポーツ専門局が増強され、TV6の周波数で放送する構想である。この結果、チェチェン問題について、政府と異なる立場で報道するテレビ局は、ほぼ皆無となる。
この構想を最初に明らかにしたのは、プーチン大統領のスキーのコーチを務めているとされる、ロシアオリンピック委員会のレオニ−ド・チャガチョフ委員長だった。同委員長は、「人々は政治に疲れている。国民や政治家がスポーツを愛好するようになれば、非常にいいことだ」と話している。(www.themoscowtimes.ru,1/31)チェチェンではなく、スポーツを。この動きは大衆操作の実際についての興味深いケースと言える。
さらに、チェチェンニュースの紙面でもたびたび取り上げているグラスノスチ財団など、ロシアの人権NGOが、法人格の再登録をという形で政府側の圧力を受けている。同様の手法が、人権団体である「メモリアル」などに対しても加えられているという。