チェチェンの隣国イングーシ共和国では、避難中の3千人以上の難民に対する食料の供給が停止されている。チェチェンとの国境に近いスンゼンスキーで活動中の援助団体のスタッフは、「ロシア政府から支払われるはずの食料購入費が入ってこなくなった」とタス通信に話している。他の援助団体でも同様の状況であり、不払いの額は1、600万ドルに及ぶという。
1月16日、国連のルドルフス・ルベルス難民高等弁務官(UNHCR)は、イングーシ共和国のチェチェン難民キャンプを訪問した。難民の女性、Maret Magamadova(45歳)は、「ロシアでは死刑が停止されているのに、チェチェンでは何の裁判もなしに何百人もの人々を射殺しているんです」とルベルス氏に訴え、この姿はロシアのテレビでも放送された。「ここは寒くて、食べるものもありません。私は喜んでチェチェンのわが家に帰ります。戦争をやめてくれさえすれば」と、別の難民も訴えた。ルベルス氏はその後の会見で、「ロシア軍がチェチェンでの展開の時期を限定することが最も重要だ」と慎重に語った。
1月16日、チェチェンの隣国イングーシのマリサゴフ大統領代行は、ルベルス難民高等弁務官に対して、「難民たちが帰国できるよう、支援してほしい。すでにイングーシ共和国のインフラは限界に達している」と、難民対策への協力を求めた。イングーシ共和国には、推定15万人程度の難民が戦禍のチェチェンから流入している。
チェチェンの親ロシア政権のカディロフ行政長官は、次回のチェチェン共和国大統領選挙での立候補を表明した。チェチェンでは今月27日に、現在のマスハードフ大統領の所定の任期が切れるため。この他にも、元グロズヌイ市長ガンタミロフ氏も立候補を表明。
イングーシ共和国のアフメド・マリサゴフ大統領代行は、昨年末に辞任したアウシェフ前大統領が、ロシア上院の連邦評議会に参加することを明らかにした。アウシェフ氏のイングーシ国内での高い支持と連邦での影響力によるものだという。
1月10日、アメリカ国務省のリチャード・バウチャー報道官は記者会見の場で、「最近のチェチェン情勢についての情報では、基本的人権の侵害と、市民を標的にした過剰な武力行使が伝えられている」と、ロシアのチェチェン進攻について非難を表明した。
今週、ロシアのいくつかのメディアが、南ロシア連邦管区のカザンツェフ代表の発言として「対チェチェン作戦は、現在の連邦保安局(FSB)から内務省の管轄に移されるだろう」と伝えたことに対し、FSBと内務省はそれぞれノーコメントと答え、確認できていない。ヤストルゼムスキー大統領報道官も、「そういった情報は入っていない」とRIAの取材に対して答えた。
1月18日、国連のルベルス難民高等弁務官は、チェチェン戦争による難民の居住するイングーシへの視察の結果を踏まえた記者会見を行い、「ロシアは率先して、事実上チェチェンを指導しているマスハードフ大統領との和平対話を行うべきだ」との見解を明らかにした。また、21日、欧州評議会議員総会のシエダー議長は、チェチェンのザカーエフ副首相を、議員総会のセッションに招待していることを明らかにした。
1月9日、ロシア政府のヤストルゼムスキー報道官は、ここ1か月の戦闘により、92人のチェチェン側レジスタンス兵が死亡したと発表した。これによると、ロシア側の損害は死亡5人、負傷24人。また、12月10日から1月7日までの、アルグンおよびスタール・イタギでの特殊作戦によって27人のレジスタンスを逮捕したという。
1月9日にロシア軍筋が認めたところによると、チェチェンの首都グロズヌイの東の町アルグンで、ロシア軍の包囲をチェチェン側が突破した。これによりロシア側は兵士2人が死亡。先月末からこれまで、アルグンにはチェチェンの野戦司令官5人が潜伏しているとの疑いでロシア軍が包囲作戦を行っていた。
1月11日の親ロシア政権の担当者のコメントによると、ロシア軍は24時間の間にチェチェンの2つの地域に対して空からの爆撃を行った。匿名を条件にこの担当者が語ったところでは、同日、ロシア兵と警察官5人が、地雷による攻撃で死亡した。また、100人以上のチェチェン人が、ロシア軍の掃討作戦によって拘留されている。
ロシア政府筋によると、今週(-19)、チェチェンではレジスタンス23人およびロシア兵14人が戦闘により死亡した。21日にも、首都グロズヌイではロシア軍による住民の証明書のチェックが行われている。これまでの発表によれば、1999年のロシア軍の進攻以来、3、500人以上のロシア兵と、11、000人以上のチェチェン人レジスタンスが死亡しているとされるが、正確な数字は確認できない。現在チェチェンには、軍、内務省軍、保安局部隊を含め4万人のロシア側部隊が展開している。インターファックスによると、検察当局には2001年中に、チェチェン人の行方不明事件246件に関する調査要求が寄せられている。
見逃せない事件は、チェチェンの前線ではなく、モスクワで起こっている。1月22日、ソビエト時代後初の独立系テレビ局だった"TV6"が、突然放送を中止してスポーツ番組のみを放送するようになった。TV6は、プーチン政権による対チェチェン作戦に対して批判的な放送をおこなっており、昨年政府系企業に強制的に吸収されたNTVの関係者多数が再就職していた。(AFP、1/23)
放送は22日の深夜に中止された。この放送局は、現在はロシア政局から外された格好の政商ベレゾフスキー氏が支援しており、同氏は昨年12月にも、モスクワでの会議の場で「1999年のモスクワとヴォルゴドンスクでの連続アパート爆破事件は、ロシアの情報機関が行った陰謀だ」と発言していた。
TV6の放送が突然中断したあと、オーストラリアからのテニスの中継が流されたと報道されている。おそらく偶然だろうが、多数の国民の関心を戦争から引きはなし、スポーツに向けさせる仕掛けは、古典的な愚民化政策を思い出させる。ロシアがチェチェンに進攻することで、ロシア国民の一体感が高まっている部分は否定できない。しかし、同時にロシアの抱える病はさらに深化している。
昨年9月の同時多発テロと、チェチェン紛争がどのように関連づけられるか。テロ事件後、プーチン大統領は、チェチェンのレジスタンスの存在を国際テロリズムそのものと位置づけ、改めてロシア側の正当性を主張してきた。結果としてはこのキャンペーンは奏功しなかった。国際社会の受けとめ方としては、米政府のバウチャー報道官や、国連難民高等弁務官の発言のように「<対テロ戦争>とは別個の、広範囲な人権侵害を含むロシア国内の内紛」である、という線に落ち着いている。
チェチェンでも最強硬派であるバサーエフ、ハッターブ野戦司令官らと、同時多発テロの主犯とされる国際的な「イスラム原理主義」グループとのつながりが、ロシア政府からも提示されていないことを考えると、関係は見い出せないとしか言いようがない。これも肝心なテーマを覆うための煙幕の一種であろう。(発行人)