東京スカイツリー周辺における電磁波測定調査
報告者:新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会・代表
網代太郎
テレビの地上波デジタル放送電波を、関東地方へ送信することなどを目的に建設された東京スカイツリー(東京都墨田区)。この新タワー周辺で電磁波を測定した。測定データについてはなお整理検討中だが、これまで分かったことについて、とりあえずのご報告をさせていただく。
東京スカイツリーからの電波
東京スカイツリーからは、地上波デジタル放送以外にも様々な電波が送信されている。主なものは、表1に示す。それぞれの送信アンテナの場所は図1の通りである。
(1)マルチメディア放送
NTTドコモのグループ会社が運営する、NOTTV(ノッティーヴィー)が、2012年4月1日の放送開始時より、関東地方への電波を東京スカイツリーから送信している。
NOTTVは、スマートフォンなど携帯端末向け専用のテレビ放送である。2011年の地上波アナログテレビ放送終了で空いた、VHF帯の電波を利用している。ドコモの携帯電話等のうち、この放送に対応している一部の機種を入手しないと視聴できない。
(2)タクシー無線
各タクシー業者が共同で設置した、東京スカイツリータクシー無線集中基地が2012年3月初旬から試験運用を開始し、同年4月23日から本運用された。
東京スカイツリー第一展望台の下である、地上約300m付近の南西および北東の2か所にアンテナが設けられ、東京23区内全域をサービスエリアとしている。
(3)FMラジオ
FMラジオのJ−WAVE、NHKFM、及びFM電波を利用したVICS(道路交通情報通信システム)は、2012年4月23日に、東京タワーから東京スカイツリーへ電波送信所を移転させた。
TOKYO FMは、東京スカイツリーへ移転せず、東京タワーに留まっているが、送信アンテナを従来より100m以上高い、東京タワーの頂上部(高さ333m)へ移し、2013年2月11日から運用を始めた。
(4)地上波デジタル放送(TOKYO MX)
テレビの地上波デジタル放送のうち、東京ローカル局であるTOKYO MXの電波は、在京テレビキー局に先駆けて、2012年10月1日に、東京スカイツリーからの電波送信を開始した。TOKYO MXの場合は、東京タワーからの電波と東京スカイツリーからの電波とは周波数が異なっており、両方から同時に電波を出しつつ、東京タワーからの電波のほうを段階的に弱くしていった。約7カ月かけて、受信障害を報告した家庭などへ対応を取り、2013年5月13日に、東京タワーからの電波を停止した。
しかし、キー局送信所の東京スカイツリー移転によって、TOKYO MXに新たな受信障害が発生しているという。
(5)地上波デジタル放送(キー局)
キー局の場合は、東京タワーから東京スカイツリーへの移転前後で、周波数は変わらない。このため、TOKYO MXのように両タワーから同時に電波を送信すると、干渉による受信障害が発生するので、東京スカイツリーからの電波送信開始と東京タワーからの停波は、同時に行わなければならない。
各キー局は、東京スカイツリーへの移転による電波障害の規模は、たいしたことは無いと考えていたとのことだが(会報75号参照)、東京スカイツリー完成後の調査で、電波障害が大規模に発生することが判明したので、予定していた2013年1月の移転を延期し、11万件以上に及んだ受信障害対策を進めたうえで、2013年5月31日午前9時に移転した。もちろん、この日までに受信障害がゼロになったわけではなく、午前9時から1時間だけで787件もの受信障害情報が寄せられた。5月に東京スカイツリーへ移転予定と叫び続けてきたキー局の面目を保つために、視聴者が犠牲になった。
受信テストを利用した電磁波測定
東京スカイツリーからの電波によって、周辺環境はどのように変わるのだろうか。新東京タワーを考える会は、2012年にも、東京スカイツリー周辺で高周波電磁波の測定を行った。キー局の送信所の移転後と比較することが目的だった。
その後、前述の通り、キー局の送信所移転による受信障害が判明した。実際に障害が起きた家庭などについては、個別に対応するしか手立てがないため、各キー局は、東京タワーからの電波を一時的に止めて、東京スカイツリーから電波を出す、受信テストを繰り返した。また、障害の発生に気づいた視聴者からの連絡を受けて、必要な場合は業者が派遣された。
受信テストは2012年12月から、土曜日の早朝などに5分間行われた。2013年3月からは、日中なども含め1時間のテストが行われ、5月には移転リハーサルと称して、3時間、6時間、10時間のテストも行われた。最初と最後の1分間は説明を行うなどのため、テスト送信の正味時間はそれぞれ2分間短い。たとえば3時間の受信テストの場合、東京スカイツリーから実際に電波が送信されるのは2時間58分となる。
新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会は、この受信テストを、環境電磁波測定の好機ととらえた。なぜなら、受信テスト中と、その前後の受信テストを行っていない時間帯(または前後の日など)に測定を行えば、東京スカイツリーからの電波の中で、最大出力であるキー局の電波がある場合とない場合との比較ができるからである。
第2世代携帯電話サービスが2012年7月に終了し、LTEやWiMAXの基地局が増え、また、通信量が多いスマートフォンが普及するなど、私たちの身の回りの電磁波環境は急速に変化している。受信テスト中と、その前後の時間帯(またはその前後の日など)とで測定すれば、数時間から1日の間に携帯基地局が増える確率はあまり大きくないので、キー局地上波デジタル放送電波の送信場所の違い以外は、まあまあ同じ条件下で測定できる。
もちろん、まったく同じ条件というわけではなく、また、測定時には携帯電話端末・基地局の電波など東京スカイツリー以外の電波の影響を受けざるを得ない。東京スカイツリーからの電波だけを正確に調べるためには、周波数ごとの強さが分かるスペクトラムアナライザで測定する必要があるが、残念ながら私たちは入手できない。たとえ大まかであっても、東京スカイツリーによって私たちの環境がどう変わるのか、地元住民として把握しておきたいと考えた。
また、地上波アナログ放送電波を送信していた東京タワー周辺で、2001〜2002年に、NPO法人市民科学研究室が行った電磁波測定調査でもわかるように、複数の局から少しずつ違った周波数の電波が地上に向けて送信される場合、周辺の建物の位置や形も関係して、反射波や回折波の重ね合わせが生じて、特異的に高い値を示すスポットができることがある。そうしたスポットを計測によってあらかじめ見出しておくことも重要だと思われる。
測定方法
(1)測定場所
市民科学研究室代表のアドバイスにしたがい、東京スカイツリーから8方向に、水平距離で100mおきに測定することにした。測定場所の設定のしやすさなどから、方向によって東京スカイツリーから0.1〜0.3km地点から、3.0(西方向)〜4.9km(南方向)地点にかけて測定した。測定場所は全部で269カ所となった。
測定場所は、次のように決めた。インターネットの地図上で距離を測定できるサービス「キョリ測」を利用し、地図上に東京スカイツリーから100mおきに印を付け候補地とした。候補地へ行き、東京スカイツリーがよく見えない場合は、前後最大30mまで距離をずらして見える場所を探すか、または最低でも東京スカイツリーの地上波デジタル放送アンテナが見える場所を選んだ。東京スカイツリーが見える場所が見つからない場合は、その距離については測定しなかった。
(2)測定日時
東京スカイツリー受信テストの実施時間が1時間の場合は、テスト開始前の概ね3時間以内、テスト中、テスト終了後の概ね3時間以内の、計3回ずつ同じ地点を測定した。
受信テストの実施時間が3時間以上の場合は、原則としてテスト前日のだいたい同じ時間帯、テスト中、テスト翌日のだいたい同じ時間帯の、計3回ずつ同じ地点を測定した。
(3)測定器
当初はTM−195を使用したが、信頼性が高いとされるEMR−300を電磁波問題市民研究会からお借りできた。結局、TM−195で測定済みの場所も含めて、全地点をEMR−300で測定した。
タワーから0.7kmに“ホットリング”
受信テスト中の最高値は0.621μw/cu(1.53V/m)だった(60秒平均値。V/mで測定しμw/cuへ換算。以下同様)。この地点は東京タワーから送信中の測定でも0.357〜0.376μw/cu(1.16〜1.19V/m)と高めであった。
電磁波問題市民研究会の見解では、これまで測定した他のポイントと比べて(キー局電波が送信中か否かに関わらず)全体的にかなり高い値の場所が多いとの指摘であった。
8方向の測定結果のうち、東方向を図2に示す。キー局電波が東京タワーから送信されている時間帯における2回の測定値の平均値と、受信テスト中の測定値との差が、東京スカイツリーからのキー局電波のおおよその強さを示している。タワーから離れていくと電波は単純に右肩下がりで弱くなるのではなく、強くなったり弱くなったりを繰り返しながら弱くなっていった。東京タワーで測定した時と同じパターンが見られると、市民科学研究室・代表から指摘された。
すべての方向で、東京スカイツリーから0.7km地点(方向によっては0.6km又は0.8km地点)の電波が特に強く、東京タワーからのキー局送信時(2回測定の平均)と比べて0.128〜0.554μw/cu上昇し、0.281〜0.613μw/cu(1.03〜1.52V/m)であった。ホットスポットならぬ、いわば“ホットリング”が生じているわけだ。もちろん、ホットと言っても、電波防護指針(数百μw/cu)を大幅に下回ってはいるが。
受信テスト中の測定値が特に高かった測定地点と、受信テスト中の測定値が東京タワーから送信時の測定値に比べて特に上昇した地点とを図3に示した。タワーから0.7km以外にも、上昇幅が大きくなる距離がありそうだ。
逆に、東京スカイツリーの近くであっても、東京スカイツリーからの送信時と東京タワーからの送信時とで測定値に、あまり差がなかった距離もあり、たとえば1.3km地点(方向によってはその前後)がそうであった。総務省によると、地上10mの高さで、放送電波が0.001V/m以上ならば視聴できるとのことである。
以上をまとめると、東京スカイツリー周辺地域が、東京スカイツリーから受ける電磁波の影響は一様ではなく、距離が少し変わるだけで電磁波の強さが比較的大きく変化する場合がある、ということが言えそうだ。
謝辞など
新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会では、測定地点からの東京スカイツリーの見え方と測定値の関係等々、今後とも得られたデータの整理・検討をしていく。
東京スカイツリーからキー局電波の送信が始まったので、地元住民は、従来とは違う環境に住むことを余儀なくされている。住民に健康影響等が出ないことを願ってはいるが、携帯電話基地局レベルの電磁波で健康影響が起きているという、全国各地からの報告を鑑みれば、安心することはできない。
最後に、測定方法などについてアドバイスをいただき、一部の測定にも参加してくださった市民科学研究室、測定結果へのコメントなどをいただいた電磁波問題市民研究会の測定担当、測定器を貸してくださった電磁波問題市民研究会に、お礼を申し上げる。
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