東京スカイツリーによる受信障害情報は隠されていた

ウソから生まれた東京スカイツリー
 東京都墨田区に建設された東京スカイツリーは、観光施設としての開業を2012年5月22日に控え、マスメディアによる報道があふれています。東京スカイツリーは地上波デジタルテレビ放送(地デジ)の電波を関東地方へ送信するために必要だと、建設主体の東武鉄道グループは説明していましたが、現在の東京タワーからの電波により、この地域の完全地デジ化が、2010年7月に達成できたのですから、東武などによる説明が虚偽だったことがあきらかなわけです。
 新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会は、新東京タワーと呼ばれていたスカイツリーの誘致を墨田区が表明した当初から、スカイツリーの必要性などについて、テレビ事業者・東武・墨田区による説明のウソ・誤りを指摘し、電磁波による健康影響や地元経済への悪影響の恐れなどを訴えてきました。

東京スカイツリーが作る受信障害
 東京スカイツリーは地デジのために必要などころか、むしろ一部の視聴者に不利益をもたらすと指摘されています。現在の東京タワーから東京スカイツリーへ電波の送信場所が移動することによって、新たな受信障害地域が発生するからです。両方の塔に挟まれた地域などでは、ビルに影となる方角が変わるためです。また、視聴者がアンテナの方向を変える必要性や、他の電波との混信の恐れも指摘されています。
 総務省は、在京のテレビ6社に対して、2007年12月12日付で、新タワーへの移転に伴う影響の内容・規模及び程度や、それらへの対応策などについて、翌年4月までに回答するよう求めました。なお、ローカル局である東京MXテレビに対しては、同社による新タワー移転方針決定後、2008年12月に同様の要請をしました。

総務省が影響はほとんどないと説明
 上記の6社は連名により、2008年4月23日付及び同年7月31日付で、総務省へ回答書を提出しました。東京MXテレビも2009年3月25日付及び同年4月23日付で提出しました。これらの回答を踏まえて、総務省の奥放送技術課長は2009年1月16日に開かれた地デジについての審議会で、委員らに以下のように説明しました。これは、総務省「情報通信審議会地上デジタル放送推進に関する検討委員会(第42回)議事要旨」の12〜13頁です。

 (東京タワーと東京スカイツリーの)方向が大きく変わるというところは、主として東京23区とか、そういった比較的タワーから近いところであるので、非常に電波の強さが強いところでもあり、必ずしもアンテナの向きがタワーを向いてなくても、引き続き今のままで視聴可能であろうということである。比較的電波が弱いところは、距離が離れているので、相対的にアンテナの方向というのは変わらないということで、それについても影響はほぼ出ないだろうということである。あと、ビル陰の影響についても同様であり、スカイツリーというのは、東京タワーに比べタワーの高さがかなり高くなるので、比較的影響の出やすい都心部においては、そのビル陰の影響はほとんど出ないだろうと。あと、離れているところについても、基本的には新タワーと旧タワーの方向が遠いところではさほどずれないということで、ビル陰の影響も大きく変わらないだろうということであるので、現時点においては視聴者への影響はほとんどないのではないかという見方である。仮にもし影響が出るという場合においては、これは放送事業者の事業上の都合で移転するということであるので、放送事業者側で責任を持っていきたいということでお話を伺っているという状況である。
墨塗りで真っ黒の開示資料
 視聴者への影響はほとんどないという、総務省の説明が本当なのか確認するために、総務省に対しテレビ各社による回答文書などについて、開示請求をしましたが、そこには、新たな混信が想定される地域や、新たなビル陰障害が想定される地域についての図が示され、混信の発生規模についての文章が書かれていましたが、その内容はほとんどすべて墨塗りされ、非開示とされました。非開示部分については、当該法人の内部情報であり、公にすることにより、当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるためなどの非開示理由が付けられました。また、同時に、テレビ各社の回答の妥当性について、総務省(又は総務省が委託等を行った第三者)が検討評価した文書についても開示を求めていましたが、そのような文書は不存在とのことでした。
 そこで、総務省に対して2009年8月に情報不開示決定への異議を申し立てました。異議申立ては法律に基づき、情報公開・個人情報保護審査会に諮問され、同会で審議されました。テレビ各社はそれぞれ、同会に情報不開示を求める意見書を提出しました。そこには以下のように書かれていました。
 提出資料には、2008年4月及び7月段階で暫定的に実施したシミュレーション検討による予測値を元に作成しています。(略)今後の検討制度の向上や受信対策技術の具体化・効率化等により、2008年4月段階の発生予測と2012年の新タワーへの移転の(ママ)伴い生じる受信件数や規模には総統の乖離があると考えています。(略)(当該資料が)公表されますと多くの受信者等に無用の混乱を与えることにもなりかねません。(株式会社テレビ朝日提出の2009年6月16日付「行政文書の開示に関する意見書」より)
 他のテレビ各社の意見書もだいたい同じ内容でした。すなわち、開示を求めた資料の墨塗りの下に “受信障害などがそれなりの規模で発生する”ことが記載されていることを、テレビ各社自らが事実上認めたのに等しいのです。にもかかわらず、総務省課長は、視聴者への影響はほとんどないと公の場で明言していたことになります。情報を隠したうえでウソをつくのは、日本の官庁の体質であることを示しています。

1年半かけて不開示は妥当と結論
 この異議申立てについては、同情報公開・個人情報保護審査会は1年半以上もかけて審議した末、2011年6月13日付で、不開示を妥当とする答申を出しました。ただし、審議中の同年2月に総務省が墨塗り部分のうち、ごく一部の追加開示を認めました。


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