□予想どおりの中途半端な結論
経済産業省の原子力安全・保安部会電力安全小委員会に設置された「電力設備電磁界対策ワ−キンググル−プ」(以下WG)が、2007年12月20日の第6回会合で「ワ−キンググル−プ報告書(案)」をまとめて終了しました。
WGの設置目的は、WHOの環境保健クライテリア(EHC)の発表で世界的に電磁波規制の動きが出ることを予想し、日本に磁場規制値を早急に提言することにありました。
その意味で、報告書にあるように「50ヘルツで100マイクロテスラ(千ミリガウス)、60ヘルツで83マイクロテスラ(830ミリガウス)の磁場基準値」を提言して、所期の目的は達成されました。
しかし、それは経産省にとってのねらいであり、本来の「電磁波から国民の生活・健康を守る」からは、明らかにずれた結論です。
□一度も出席しない委員もあった
WG委員の選出方法が旧態以前として役所主導で決められ、リスクコミュニケ−ションに配慮したものではありませんでした。電力会社の代弁者は参加させながら、電力設備により被害を受けている住民は参加させないことに、端的に示されています。
リスクコミュニケ−ションの専門家として期待された学者などは、一回も出席しませんでした。そのような無責任な人を選ぶくらいなら、市民団体から一人参加させるべきでした。
□「基準値」を超える路上変圧器
報告書には興味ある記述もあります。「測定の結果、局所的な最大値としては、路上変圧器について、最大値124.4マイクロテスラ(設備表面での値)、また、ケ−ブルの立ち上がり部について、最大値144.0マイクロテスラ(設備表面での値)が測定される場合がある」(報告書15ページ)とあります。つまり、とんでもなく甘い値である、100マイクロテスラを超える路上変圧器(トランス)やケ−ブル立ち上がり部が、現状ではあるということです。
会員からの情報ですが、専門家に言わせると「磁場ばかり気にしているが、電場だって既成基準値3キロボルト/メートルを超えている所はかなりあるはずだ」ということです。既存の施設について、きちんと調査させることは大事です。
□EHCよりファクトシ−トを優先
WHOが国際EMFプロジェクトを1996年に設立したのは、環境保健基準をつくるのが目的でした。ところが、WGは「EHCNo.238 は専門家チ−ムの見解をとりまとめた報告書であって、WHOの決定や方針を必ずしも代表するものではない。ファクトシ−トNo.322 こそがWHOの正式見解だ」と主張しています。このファクトシ−トはWHOの常駐部の見解で、この常駐部は以前から、企業より専門家の集まりと批判されています。今回のWGの中心メンバ−として“活躍”した大久保千代次氏は、昨年6ヵ月間ほど、この常駐部に籍を置いていた人物です。このファクトシ−トはEHCを薄める見解になっています。
□クライテリアの原文と都合のいい訳
報告書では「疫学調査で関連性が示される、磁界曝露と小児白血病に関する証拠は因果関係があると見なせるほど強くないというのが、一般的理解である」(報告書24ペ-ジ)としていますが、EHCの健康リスク評価部分で、「慢性影響」については「Thus,on balance the evidence is not strong enough to be considered causal,but sufficiently strong to remain a concern」と記述しています。この訳は「(磁場曝露と小児白血病に関する証拠は)だから、結局の所、因果関係を示すとみなされるほどには証拠は十分ではないが、懸念が残る程度には十分な証拠なのである」とするのがふつうです。つまり、後半部分を意図的に省いているのです。
他にも「慎重なる回避」(prudent avoidance)を「賢明なる回避」と翻訳したり、「予防措置」(precautionaray approach)を「念のための措置」としたりといった“懐疑色を薄める”努力があちこちで行なわれました。本当にひどいWGでした。
参考までに、以下に、WGの目的、経緯、結論を示しておきます。
<ワ−キンググル−プの設置目的>
ワ−キンググル−プ委員12名
電磁波研会報46号4ぺ−ジ参照
<ワ−キンググル−プ会合経緯>
<ワ−キンググル−プの結論>
<ワ−キンググル−プの政策提言>