□大久保千代次氏のひどい説明
第2回電力設備電磁界対策ワ−キング・グル−プ(WG)は、2007年8月20日に、経済産業省の別館で開かれました。今回はもりだくさんな議事内容だったので、2時間半の会議でした。
特に、<議事>第1項のWHO・EHC(健康保健基準)に、最も時間が割かれました。報告は、半年間ほどWHO本部に席を置いていた、大久保千代次氏(明治薬科大学大学院教授)がプロジェクタ−を使って行ないましたが、驚いたのは、「EHCはタスク会議を構成する専門家の見解をまとめた報告書であって、WHOの決定や方針を必ずしも代表しない」「WHOの見解はファクトシ−トで示される」「EHCでは“すべきだ”(should)となっているが、ファクトシ−トでは“した方がいい”(may)となっている。ファクトシ−トの方がWHOの見解だ」と発言したことです。
冗談じゃありません。WHO国際EMFプロジェクトの目的は、新しい環境保健基準を出すことにあります。その環境保健基準を「WHOの見解とは完全に一致しないこともあり得る」と否定するならば、なんのために12年間も時間をかけてきたというのでしょうか。
□しかし疫学の優位は認める
大久保千代次氏の御用学者ぶりには驚きましたが、右ぺ−ジの資料2は、興味を引きました。これは健康影響評価を行なう際における、疫学研究と動物実験と細胞実験の相対的重要度を示したものです。すなわち、証拠の重要度が一番高いものは「ヒトを対象とした研究、つまり疫学研究」です。次に重要度が高いのは「長期動物実験」です。その次が「短期動物実験」で、一番低いのは「細胞実験」です。
大久保千代次氏と兜真徳氏が長い間、国際EMFプロジェクトの日本代表を務めてきましたが、兜真徳氏が疫学研究者で大久保千代次氏が動物実験学者です。兜真徳氏が亡くなったのは、本当に残念です。
2002年にまとめられた、日本における初の全国電磁波疫学調査(兜研究)は、本当に価値のある研究です。その兜研究を「オ−ルC評価」した文科省の姿勢が、いかに非科学的で政治的であったか良くわかります。(この内幕は、今度発刊された『告発・電磁波公害』で明らかになりました)。
□なぜリスクコミュニケ−ションは必要か
次ぺ−ジの資料1「リスク分析」はWHO・EHCをまとめたものです。EHCの第13章の防護策に関する勧告で、「国家当局は、事前に情報提供することで、すべての利害関係者による意思決定が可能になるように、効果的でオ−プンなコミュニケ−ション戦略を実行すべきだ」としています。
電磁波リスクが大久保千代次氏が力説するように、「それほどの重要度ではない」とするならば、そんなリスクコミュニケ−ション戦略も必要ではないはずです。しかしEHCは違います。たしかに「極低周波電磁場と小児白血病との関連を示す証拠は限定的である」が、さりとて否定できないからこそ、リスクコミュニケ−ション戦略は必要なのであり、住民に「施設の建設計画」や「立地計画」を事前にしらせて協議すべきと勧告しているのです。この視点が、日本では決定的に欠落しています。
<参考>
第2回WG(2007年8月20日)議事次第
- 世界保健機関のファクトシ−トNO322と環境保健基準(EHC)について
- 疫学について
- 海外での磁界規制状況について
- 国際電気標準会議(IEC)、TC106と測定器の規格について
- 電力設備に係る電磁界対策を検討する上での論点