□生体電磁環境研究推進委員会とは
1999年(平成9年)10月に旧郵政省内に設置された「生体電磁環境研究推進委員会」が、長期にわたる携帯電話の使用が脳腫瘍の発生に影響を及ぼすか否かについて明らかにするため、2000年度(平成12年度)から2年間、ラットの脳に携帯電話の電磁波を曝露する実験を行なってきた。その研究結果が「長期局所ばく露研究報告書」として2003年10月10日に発表された。
現在の委員名は表のとおり。ただし今回の実験がどのような研究メンバ−で行なわれたかについては発表されていない。
□研究概要
妊娠18日目のラットに発がん物質(ENU)を投与し脳腫瘍が発生しやすい条件にし、そのラットから生まれた子どものラットに1439MHz(メガヘルツ=約1.5ギガヘルツ)のマイクロ波を2年間(104週間)照射し中枢神経系腫瘍の発生度合いをみる、というのが研究概要だ。
使ったラットは合計五百匹で、雄雌各50匹で百匹を1群とし5群に分ける。5群とは「ENU(発がん物質)を投与しない無処置群」「ENUは投与したが拘束しない群」「偽曝露群(曝露したかにみせて曝露しない群)」「SAR0.67W/sの低曝露群」「SAR2.0W/sの高曝露群」である。電磁波を頭部に確実に曝露させるためラットはふつう拘束する。こうしてさまざまな群に分類することで曝露と非曝露、雄と雌、ENU投与の影響、等を比較する。
□どのような影響をみたのか
つまりマイクロ波照射の影響で生存率、体重の変化、摂餌量(えさの食べる量)の変化、血液中のホルモン濃度変化、肉眼的病理学検査(神経系組織・器官を含む種々の組織・器官の変化をみる)、器官重量変化、等がどうなるかをみるのだ。
ENUの投与は限られた期間で早く反応をみるための措置だ。
□結果はどうだったか
ラットのような小動物の実験の場合、拘束することでストレスが生じ結果に影響してしまう。しかし自由に動き回らせれば曝露量が測定できない。このジレンマが常につきまとう。
報告書は92ペ−ジに及ぶが、本文部分は29ぺ−ジで残りは資料だ。
「考察および結論」として、生存率について曝露量による差異はみられなかった。当然ENU投与群の生存率は低下した。
体重変化については、曝露群は非曝露群と比較して下がった。しかし報告書は「曝露箱の拘束による影響と考えられた」としている。又雌の高曝露群と雄の高曝露群でマイクロ波照射期間中に有意な差異が認められたが、雌雄で逆の変動なので「偶然的な変化と考えられた」と報告書はしている。摂餌量は曝露群で照射開始後、雌は第6週まで雄は第9週まで非曝露群と比較して下がったが「これは曝露箱での拘束による影響、と考えられた」としている。
□肉眼的病理学検査で出た変化
肉眼的病理学検査のところでは「(神経系)その他の組織・器官では、雌の低曝露群(第4群)で肝臓の変色斑の低値を認めたが、曝露用量に関連した変動は認めなかったことから、偶発的な変化と考えられた。子宮の拡張が曝露量に関連して有意な高値を示したが、病理組織学的には有意な変化は認めなかった。卵巣の嚢胞が曝露量に関連して有意な高値を示し、病理組織学的検査においても卵巣嚢胞の有意な高値を認めた。」と記述しているが、これも「無処置群(第1群)と同程度の発生であるから、自然発生病変の発生の範囲内での変動と考えられた」と斥けている。
□下垂体線腫の発生は認める
ただし「下垂体線腫の発生が雄の高曝露群(第10群)において有意な低値を示した」ことについては「本試験で見られた下垂体線腫の減少の意義については、明確ではないものの、下垂体腫瘍の発生に対して曝露量による影響が認められたと判断される」としている。
□電磁波の安全性などどこにも出ていない
「要約」の部分で「体重変化では曝露群と非曝露群とを比較すると前者は明らかにに低値を示していた」と記述しているが、前述したように曝露箱の拘束による影響としている。だとしたらこうした実験そのものが不備があることを証明しているようなものである。本来なら動物実験でなく疫学調査も同時平行的にすべきなのにそういう方向は総務省はとらない。唯一ともいえる下垂体の雄の変化も「その意義については明らかではなかった」と逃げている。
だが報告書からいえることは電磁波曝露の「影響は見られなかった」のではなく、「影響についてはわからなかった」のである。報告書をどう読んでも「電磁波は安全」とは読み取れないことは確かだ。これがマスコミ報道では「携帯電話電磁波は安全」となるのだから日本という国はこわい。