(記者:モニカ・カウピ『ヘビ−メタル(重金属)会報』2000年第2号)
ビデオ『電磁波と人類の未来』に宇宙服のような電磁波防護服を着て登場するスウェ−デン人のパ−・セガベックさんは強度の電磁波過敏症で共に暮らすインガ−さんと二人で約2年間、ほとんど日光も入らない小さな鉄で覆われた部屋で生活している。
◆パ−はエリクソン社員だったが解雇さる
パ−・セガベック(Per Segerback)さんは現在44歳で、1989年から電磁波過敏症で苦しんでいる。インガ−・スベデゥミア(Inger Svedmyr)さんは現在43歳で、彼女も過敏症だ。1997年秋、スウェ−デンの首都ストックホルムに新しい携帯電話システムが導入されたため、二人は家の外に出ることができない位に症状が悪化した。
それ以来約2年間、二人は12u(約7畳)の小さな鉄で覆われた部屋で一緒に暮らしている。
パ−はその家から仕事に出かける。彼はエリクソン社の有能な技術者だ。エリクソン社はストックホルムにある巨大なスウェ−デンの携帯通信会社である。エリクソン社はかつては電磁波過敏症に理解のある会社だった。しかし1999年11月、パ−は解雇された。理由は、電磁波防護服なしでは1週間に2日も職場に出ることができない状態なためだ。
◆一挙に50人も技術者が過敏症に
80年代後半、エリクソン社とテリア社の共同開発会社である「エレムテル社」(Ellemtel)で約50人の若い高学歴技術者が電磁波過敏症になった。そのうちの何人かは病欠を取らねばならなくなった。過敏症になった有能な技術者たちは会社の財産ともいえる従業員であったので、会社としてもなにか対策を取らねばならなかった。
エレムテル社は電磁波過敏症の治療法のため州労働生涯基金に助成金申請し890万クロ−ネ(125万ドル=1億5千万円)を受けた。エレムテル社の社是は「従業員が居てこそ会社あり」だったので、社の助成金は「因果関係の解明が主目的なのではなく、過敏症の従業員が働き続けられるよう良く思えるようにする」ことにあるとエレムテル社は説明している。
◆過敏症は許容される
エレムテル社が最初にしたことは職場に電磁波シ−ルドを施すことだった。エレムテル社員は技術者としての誇りがあったので電気的環境ではない方策から会社が始めたことに当事者は屈辱を感じたであろう。
その他に、歯科治療用として使用されるアマルガム(水銀化合物で歯補填剤として使用されるがこれが過敏症には悪い)・光線(可視光線も過敏症に悪い)・家具(塗料等が同じく悪影響)・他の化学物質放射物・心理的社会的状況及び組織、などの要因についても取り組まれた。
治療方法としてカロリンスカ研究所で鍼(はり)治療が施された。いくつかの症状は鍼治療で和らいだし電磁波への耐性も強まった。
◆コンピュ−タは水銀放出を増大させる
90年代初期、溶接工が水を浴びていると歯の中のアマルガム充填剤がいかになくなっていくかについて文献に書かれている。溶接熱と水分と水銀が反応するということだ。生物物理学者パ−・ヘグシュテッド(Per Hogstedt)と歯科医ト−マス・エレンダ−ル(Thomas Orrendahl)の二人がコントロ−ルされた実験でもそのことが確認されている。
また、コンピュ−タ画面から出る電磁波で歯科治療用のアマルガムが汚染被曝される。水銀蒸気の放出はアマルガムが適切に管理されているケ−スに比べて6倍も増大する。エルムテル社へ提出した報告書の中でヘグシュテッドとエレンダ−ルともう一人オランダのロイ(Roy)博士の3人は「コンピュ−タ画面の一つはいわゆる低放射線画面であった。増大した決定的要素は磁場の特性にあると考えられる。すなわち磁場がどのくらい速く方向を変えるかだが、その関係については調査段階にある。背景としてのメカニズムは、“誘導”か“共鳴効果”のどちらかだ。
アマルガム充填剤を入れ替えた技術者の50%は状態が良くなった。しかし入れ替えなかったその他の技術者は変化がなかったか悪くなったかのどちらかだ。(アマルガム患者を支援する団体=「スウェ−デン歯科水銀患者協会」は、ケアとしてその部分の“防護”か酸化防止剤を補填することを勧めている)。
結論的には、アマルガムの取り替えは普遍的治療ではないということだ。個人によって差異は大きく、ある人はアレルギ−反応を示しそれゆえ治療薬物種に関係なく反応してしまう。それと別に多くのニッケルや水銀に過敏な患者は歯の治療で使用される別の多種類の金属で反応してしまう、と様々である。
エレムテル社が実施した対策は成功し多くの技術者は仕事に復帰した。効果の大きかった対策は次のようなものだ。
(1)電磁場そのものを減らす。
(2)心理的社会的環境の改善。
(3)個人的属性(差異)への考慮。
◆鉄製の家で
過敏症の中でも、パ−・セガベックさんは最も重いケ−スだった。パ−さんは鉄の板金で覆われた部屋の中でしか仕事をすることができないほどだった。ストックホルム北部の彼の自宅に会社側は、できる限り電磁波放射線から逃れられるように一つの部屋だけ鉄で覆った。会社にも同様の鉄製の部屋があり、パ−さんは仕事部屋と自宅の二つの鉄製部屋の間を特別なタクシ−で移動し生活することになった。「特別なタクシ−」とは、彼は自動車のモ−タ−で発生する電気から逃れるためより古く、より長期間使用したタクシ−を必要とした。
1996年から97年にかけて携帯電話システムが拡大されるにつれてパ−の健康状態は悪化した。それでも彼は仕事に出かけなければならなかった。彼はほんの僅かなマイクロ波被曝でも頭痛、吐き気、聴覚低下、めまい、時には人事不省、といったひどい症状を起こした。そして1999年に携帯電話タワ−が自宅の近くに建った時、パ−とインガ−はタワ−から電磁波が発信する前に田舎に引っ越しせざるを得なかった。
◆“宇宙服”なしでは暮らせない
彼はそんなひどい状態にもかかわらず、彼の田舎の家からだけでなくエリクソン社が緊急に必要とした仕事のためには鉄製の家からも出勤し仕事を続けた。
だが、パ−はエリクソン社からの「1週間に2〜3日位、電磁波保護服なしでオフィスにいるように」との要求に応じられずに解雇された。(宇宙服のような保護服は社会保健局が費用を負担した)。エリクソン社にはストックホルム北部から仕事に来る従業員は他にもいるのだが…。
パ−に支給された保護服は無線基地局近くで電磁波を測定する技術者がマイクロ波防護用に着るのと同じ服である。会社はこの保護服を仕事用として着ることを認めなかった。
5月23日付けの夕刊紙『エクスプレッション』のインタビュ−記事でエリクソン社の顧問弁護士は次のように語った。「保護服を着られるとお客さんや同僚が変な目で見てしまう。彼がそんな服着て歩き回ったら多くの人は危険な仕事をしているかと考えてしまうからだ。」
◆ハンディキャッパ−への差別
エリクソン社労組はパ−を支援しているのでおそらく訴訟となるであろう。スウェ−デンの会社はそのような健康上の問題や身体的ハンディキャップを理由にしては解雇されにくいからだ。ハンディキャップで解雇することは違法である。
パ−の最近の生活ぶりは多くの新聞やラジオで報道されている。実際パ−はスウェ−デンでいや全世界でおそらく最も有名な過敏症の人であろう。彼を撮影するのは難しい。なぜならばパ−は極端にデジタルな機器に反応する過敏症だからだ。そのことは1997年にイタリアのテレビクル−が学んだ。雨が降る中、二階部分でヨロヨロするハシゴでバランスをとり、カメラマンはアルミのブラインドを付けた部屋の中のパ−を一瞬なんとか撮るのがやっとだった。
◆“檻”の中のロマンス
パ−とインガ−は6年前に、地域の過敏症同士の会合で知り合った。インガ−はパ−と少なくともと同じタイプの電磁波を感じるが、彼女は彼ほどひどく影響を受けない。1997年秋、二人は12uの鉄製の部屋で暮らし始めた。
そんな小さな空間で暮らすことで二人の関係に影響はしませんか?囚人か島かなにかで暮らしているようではありませんか?
「そうですね。でも囚人の方がましでしょうね。囚人はたまに運動するために外に出るでしょうから。圧迫感はたしかにあります。でもパ−の3人の子がこの部屋を訪れても驚くことにけっこうやっていけるんですよ。」
パ−さん、こんな状態はお子さんたちにどのように影響しているとお考えですか?
「子どもたちは慣れています。長男は理解してくれています。一番下の子は9歳で女の子だが私が健康とはおもっていない。」
過敏症は性生活に影響しているでしょうか?
インガ−「そうね。人が思っているほど問題はないですよ。」
パ−「足で立っていられる限りはね…」
それは気を失わない限りはOKということですか?
パ−とインガ−「そういうこと!」
◆化学的放射物
パ−は90年代の初めに、彼の静脈洞炎(sinusitis)を改善するため4−5本の歯のアマルガム充填剤を「混合ヘリオモラ−(Heliomolar)」に替えた。しかし親知らず歯の2本にはまだアマルガム充填剤が入っている。インガ−は自分の歯に詰められているすべてのアマルガム充填剤をヘリオモラ−に替えた。そしてインガ−はさらにヘリオモラ−をヘリオプログレス(Helioprogress)に後で替えた。
「私は二酸化チタニウムを積極的にテストしてみたわ。なぜって、一つも悪い症状が出ないからよ。」
パ−は菜食主義者(ベジタリアン)だ。インガ−はグルテン(小麦粉に含まれるタンパク質)抜きの食物を食べる。最近二人はマ−ガリンを止めた。マ−ガリンの中に脂肪系の溶媒(solvents)が入っていたからだ。
電磁波過敏症に影響を及ぼすもので他になにかありますか?
パ−「パラフィン・ヒ−タ−(灯油暖房機)の煙が感じます。パラフィン・ヒ−タ−の煙でマイクロ波と同じ症状になる。神経伝達物質にある変化が出る。細胞代謝かカルシウム漏出だ。細胞の膨張を引き起こす何かだ。それは全身にソ−ダができるようなひどい不快感だ。身中が破裂するような感じだ。
パ−は彼の状態はコンピュ−タから出る化学的放射物によって何かが起こると考えている。パ−は病気になる前は配達されてくる新しいコンピュ−タの検査テストに従事していた。
パ−「それは彼らもまた病気になったJAS(スウェ−デン軍用飛行機メ−カ−)の労働者が使っていたのと同じ機種のコンピュ−タだった。」
パ−とインガ−は田舎に引っ越し、散歩もできるようになり良くなった。ただし田舎にいても電子機器を積んだ車が近くにあればだめなのであくまで条件付きだ。
インガ−さん、将来はどうなるとお思いですか?
インガ−「そうね。このままではいけないし変わる必要があると思うわ。自覚の面でも社会の方向性の面でもね。」
パ−によれば、エレムデル計画に深く関わった人はほとんど計画から離れたかがんで死んだという。一度過敏症になった技術者は風で飛ばされたようにチリヂリになってしまった。エレムテル計画が他の会社で同様な計画をする際のモデルや将来のために利用されることがあったとしても、みんなその時の技術者がいなくなってしまったのでだれも今日の計画について語れる者はいないのが現実だ。
なぜそうなんでしょうか?
パ−「違った考えの全く別の人にしか引き継がれない、つまり継続性がないということです。」