[映画紹介] |
『出草之歌 台湾原住民の吶喊 背山一戦』
人間の魂とは何か、人間の尊厳とは何かを問う |
−−チワス・アリさんと飛魚雲豹音楽工団の闘い−− |
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『出草之歌 台湾原住民の吶喊 背山一戦(ぺいさんいっつぁん)』という映画を観に行ってきた。
「出草」とは首を狩ることであり、台湾原住民の人々のかつての風習である。正直言って、何かひどく野蛮な場面があるのかと思っていたが、実際のところ、野蛮なのは日本人の方であることを思い知らされる映画であった。
この映画の主人公は、台湾原住民出身の立法委員(日本の国会議員に当たる)のチワス・アリさんと「飛魚雲豹(フェイユウウンバオ)音楽工団」の人々である。彼らは靖国神社に祀られている台湾原住民の合祀取り消しと小泉靖国参拝訴訟のために幾度も来日し、2006年8月にも、東京で小泉首相の靖国参拝に対して激しい抗議行動を展開した。この映画の中で言われた「我々は必ずもう一度来ます」という言葉通りに。
「飛魚雲豹音楽工団」の活動は、1999年9月の台湾大地震から始まった。この地震で台湾原住民の住む地域が特に大きな被害を受けたが、政府の救援はまったく手薄であった。そこで、救援活動を行うボランティアグループが結成され、それが元になって「原住民部落工作隊」が結成された。それは、原住民の尊厳と文化を守り、米日の植民地主義に抵抗し、原住民の自治区を勝ち取ることなどを綱領としている。また、原住民以外の人を排除するのではなく、抑圧を受けているあらゆる少数派の団結を勝ち取るという見地に立っている。この「原住民部落工作隊」の音楽グループが「飛魚雲豹音楽工団」である。このグループは、地震発生後、現地で音楽会を開き、意気消沈している人々の意識を高めると同時に、そのCDを販売して復興資金にした。そのCDは飛ぶように売れ、大衆的な支持を獲得した。
そのメンバーの一人、陳さんは語る。
「私たちの音楽は生活の旋律そのものです。原住民のそれぞれの部族によって生活様式が異なっているように、その音楽も多種多様です。台湾という小さな島にもかかわらず、実に豊富な音楽を聴く事ができます。」
彼らが歌う『出草之歌』とは、「私たちの蕃刀を研ぎ澄まし、祖先が歩んできた道を踏みしめて、私たちを侵してくる敵に対して戦いを挑むという歌」である。
刀を研ぐ音を模した鋭くリズミカルな掛け声とともに力強く歌われる『出草之歌』が、この映画の中で何度も登場する。
2004年12月のチワス・アリさんの台湾での選挙運動の様子が映し出される。彼女はカジュアルな赤い服を着て、赤い野球帽をかぶっている。彼女が日本で果敢に闘えるのは、現地で、原住民の権利のために地道な努力を続け、支持を得てきたことを背景にしていることがひしひしとわかる。
その5年前、彼女は肝臓癌の手術を受けた。彼女のたたずまいから常に感じられる凛とした雰囲気とすさまじいばかりの気迫は、おそらく、そうした生死の境から復活したという体験、そして病気が再発していつ死ぬかもわからないという覚悟に基づくのであろう。 台湾の政権は、原住民に対して常に冷淡であった。日本の植民地支配のあと政権の座に着いた国民党もそうであったが、現政権の民進党もまた原住民らの抗日闘争の歴史を改ざんしてきた。この闘争の先頭に立っているチワス・アリさんでさえ、台湾原住民の歴史を知ったのは、2002年に友人の家で偶然目にした一枚の写真からであった。
テレビのニュースでは、副総統の呂秀蓮が「原住民は皆、南米に移住すればいい」と暴言を吐いている。これに対してチワス・アリさんは、民進党が原住民に「伝統領域を返還する」と言いながら、それを空約束に終わらせていることを激しく非難する。
チワス・アリさんはさらに支援者に訴える。
「原住民は自らの権利を原住民の力だけで獲得することは非常に困難です。私たちは人口40万。選挙権があるのは約20万という少数派だからです。だから私たちは国際的な友人や良心のある漢族の支援を必要としています。そのような支援がなければ、私たちは永遠に抑圧され続けるでしょう。」
ここには、優れた現実認識と国際感覚とがある。小泉靖国参拝違憲訴訟が、日本、台湾、韓国のアジアの民衆を結集する運動になった背景には、こうした見地が運動を貫いていたことがあるのではないだろうか。
チワス・アリさんと「飛魚雲豹音楽工団」とは、緊密に協力し合いながら、原住民の権利拡大のために、さまざまな活動をしている。
2003年、「飛魚雲豹音楽工団」は、ウズベキスタンの国際音楽祭に招待される。しかし、自分たちは「台湾原住民を代表しこそすれ中華民国を代表することはない」とあらかじめ主催者に伝えてあったにもかかわらず、会場には中華民国の国旗が…。
メンバーの一人張さんは、「中華民国の国旗の赤い部分は正に私たち原住民の血で染まった赤であるとさえ思う」と述べる。それほどまでに過酷な支配が行われてきたのである。それでは、台湾原住民はいったいどこの国に帰属するのか、という質問が想定されるが、それに対して張さんは、「私たち原住民の側からすれば、国家という概念が膨らめば膨らむほど、私たち原住民の置かれている境遇は過酷なものになります。」と答える。
張さんはさらに言う。
「この資本主義社会で私たちが求めているのは、原住民の自治区を作ることです。」
「資本主義は常に競争を伴う社会であり、必然的に対外的な拡張と、略奪によって支えられている。それは私たち原住民の生き方とは無縁です。私たちは社会主義を信じています。それは、社会主義が階級の平等と民族の平等を保証しているからです。」
原住民の生き方と社会主義、この二つが、彼らの苦難と戦いの歴史の中でおのずと結び付けられている。
2005年、チワス・アリさんは、大阪高裁での小泉靖国違憲訴訟での尋問と東京の靖国神社に対する台湾原住民の合祀取り消しのために来日する。
大阪の裁判では、結局金目当てに裁判をするのであろうという靖国側の代理人の無礼な質問に対して、チワス・アリさんはきっぱりと「そのような質問が私たち原住民に対しての最大の侮辱です。」と答える。そして、「靖国神社の名簿から名前をはずしてほしいというささやかな願いさえかなわないのでしょうか。どうか正義と良心に基づいた判決を心から願っています。」と結んだ。
東京での行動で、靖国神社の慇懃無礼な態度にチワス・アリさんは怒りをあらわにする。
「おまえ達のいう神道というものはでたらめ、糞みたいなものだ。人間の魂とは何か、人間の尊厳とは何か、を全く理解していない。」
「人間は死んでも尊厳というものは残ります。」
尊厳のための闘い――これがこの映画のテーマである。
「♪もし、あなたが原住民なら…生命を永らえる道を閉ざされたとき、最後に残された道、それは山を背にして退路を断った決死の戦い――背山一戦」
『出草之歌』公式サイトはこちら。今後の上映日程も掲載されています。
http://headhunters.ddo.jp/default.files/frame.htm
2006年9月4日 (鈴)
○小泉靖国参拝違憲台湾訴訟と違憲判決の意義については以下を参照
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Movements/yasukuni050930.htm
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Movements/yasukuni051007.htm
○小泉靖国参拝に反対する闘いは以下を参照
[投稿]平和の灯を!ヤスクニの闇へ キャンドル行動
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Movements/yasukuni_no0608-2.htm
−−8月15日靖国参拝反対行動に参加して−−
ハルモニや台湾原住民らの怒りの強さと私たちの責任を改めて痛感
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Movements/yasukuni_no0608.htm
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