[紹介]『イラク戦争と地球温暖化』
膨大な温室効果ガスを排出し、環境を破壊し続ける
ここに紹介する『戦争の気候−−イラク戦争と地球温暖化(A climate of war−−The war in Iraq and global warming)』(“オイル・チェンジ・インターナショナル(Oil Change International)”2008年3月)は、イラク戦争による地球温暖化への影響を定量的に考察した貴重な報告書である。報告書は、イラク戦争5周年を弾劾して出された。イラク戦争は5年間で何十万もの命を奪い、何千億、何兆ドルともわからないコストを費やし、アメリカとイラクの安全と治安を破壊し続けている、だが私たちは戦争のもう一つの犠牲として気候を加えなければならない、としている。
オイル・チェンジ・インターナショナルは、イラク戦争の5年間のCO2換算の温室効果ガスの排出量が1億4100万トン(一年平均で2820万トン)と評価した。IPCC報告書によると、2004年一年間の化石燃料燃焼によるCO2排出量は全世界で約300億トン弱である(その他の要因等を考慮すれば、2004年の全CO2排出量は400億トン弱)。イラク戦争だけで全世界から排出される約0.1%相当の温室効果ガスを排出していることになる。
各国のCO2排出量と比較した場合、イラク戦争による年間排出量は、「キューバとニュージーランドの一国の年間排出量の間に位置する」。さらにイラク戦争でこれまで5年間で浪費されたCO2排出量は、実にイラクが一年間に排出する量(7700万トン)のほぼ2倍になり、世界最大の産油国・アラブ首長国連邦(1億3200万トン)や成長過程にある「中進国」アルゼンチン(1億3900万トン)、そしてヨーロッパの帝国主義ベルギー(1億4400万トン)といった国々に匹敵する(数字は2004年)。それは、146番目のセネガル以下約100ヶ国の排出量をすべて足しあわせた量とほぼ同じである。
また、イラク戦争にすでに投入された戦費は6000億ドル近くに上るが、この資金が「現在から2030年までに全世界で必要とされる、再生可能な発電への投資額のすべてをカバーできるほどの金額」に相当することを明らかにしている。米国は地球温暖化問題を大きく改善できる能力を有しているにもかかわらず、まったくの非生産的活動=戦争に大量の資金を投入しているのである。また米軍を維持するために投入される資金(国防予算)は2007年度で5000億ドルを超え、毎年支出される無駄な、莫大な金額の一部を環境対策に充当するだけで地球温暖化問題の解決に向けて大きな力を発揮できるのである。
報告書の要旨は、大きくCO2排出量関連部分と戦費関連部分に分けられる。巻末に詳細な参考文献目録が添付されており、研究のための材料が提供されている。
A.イラク戦争による膨大なCO2排出量
・2003年3月以来、この戦争により少なくとも1億4100万トンのCO2が排出された。
・今年度の米国における自動車2500万台分の増加に相当する量である。
・イラク戦争が年間排出量の観点から一つの国として順位付けされたとすると、世界の139ヶ国が一年間に放出するより多くの二酸化炭素を放出していることになる。ニュージーランドとキューバの間にあり、戦争は全世界の国の60%よりも多くのCO2を毎年放出している。
・イラク戦争による今日までの排出量は、2009〜2016年の期間においてカリフォルニア州が自動車排ガス規制の実施によって低減される量の2倍半近くに相当する。
“A Climate of War−−The war in Iraq and global warming”より
B.戦費と環境対策費用の比較。
・イラク戦争に投入された資金は、現在の温暖化傾向をとめるための、現在から2030年までに全世界で必要とされる、再生可能な発電への投資額のすべてをカバーできるほどの金額である。
・これまでに議会が承認してきた軍事作戦の支出分である6000億ドル(約60兆円)によって、50メガワットの風力発電施設9000基を設置できた。これによって、米国の現在の電力需要の4分の1をまかなうことができた。仮に、石炭でなく風力で25%分の電力をまかなったとしたら、米国の二酸化炭素放出量は毎年10億トン以上減らすことができた。これは、米国の2006年の排出量の6分の1に相当する。
・2006年において、米国は全世界が再生可能エネルギーに投資を超える資金をイラクでの戦争のために浪費した。
・大統領候補のオバマ氏は、“次世代の環境にやさしいエネルギー技術とインフラの整備を促進するために今後10年間で1500億ドル“を投資することを約束した。米国は、それとほぼ同等の資金をイラクにおいて10ヶ月で浪費している。
「戦争は最大の環境破壊」――この命題は、いついかなる時代においても変わることのない真実である。米ソ間の熱核戦争が現実的な可能性として存在していた時代には、核戦争による地球環境への破滅的な影響が懸念された。その一例が、1980年代はじめ、カール・セーガン博士らが提唱した核戦争後の新たな世界−−「核の冬」のシナリオである。「核の冬」は、今日の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の活動を先取りするがごとく、人類の活動(「核の冬」では核戦争による地球の冷却化だが)によるグローバルな地球環境全体への深刻な影響を考察するものであった。冷戦終焉とともに熱核戦争の懸念は大きく後退した。しかしながら、「戦争は最大の環境破壊」−この命題は今なお貫徹している。
本研究におけるCO2の排出量は、燃料を大量に消費する戦闘行動、油井からの火災、増大するガス燃焼、再建と安全確保にともなうセメントの消費、火薬と化学物質の大量使用等々から試算されている。この研究における諸数値は「たいへん控えめ」なものであり、考察されていない他の要因も多くあることが述べられている。石油をガブ飲みして動き続ける戦闘機や輸送機、戦車や輸送車両、軍艦、そして全世界に張り巡らせた広大な基地建設等々、これらは莫大なエネルギーとお金をただただ浪費し続けながら、殺戮を繰り返し、生活や自然環境の破壊を繰り広げるためだけのものなのである。批判はイラク戦争にとどまらず軍事帝国、覇権帝国としてのアメリカそのものに向かうだろう。
イラクの石油を略奪するために、膨大な石油を浪費して侵略戦争をし続ける−−全く人類と地球環境に対する犯罪と言う他ない。イラク戦争の長期化と泥沼化に伴い、私たちはますますこの側面での批判を強めることが必要となる。
※Oil Change International “A Climate of War”(要約)
http://priceofoil.org/climateofwar/
※A Climate of War−−The war in Iraq and global warming(全文)
http://priceofoil.org/wp-content/uploads/2008/03/A%20Climate%20of%20War%20FINAL%20%28March%2017%202008%29.pdf
※国別排出量順位(EXELファイル173KB) http://www.eia.doe.gov/iea/carbon.htmlより署名事務局で作成。
2008年4月13日(KS)